映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』の概要:光州で起きている軍部独裁による虐殺を報道しようと韓国へやってきたピーターは、キムというタクシー運転手と共に現地へと向かった。キムは金が目的でピーターを運んだだけだったが、現地の有り様を見て心を動かされていく。
映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』の作品情報
上映時間:137分
ジャンル:歴史、ヒューマンドラマ
監督:チャン・フン
キャスト:ソン・ガンホ、トーマス・クレッチマン、ユ・ヘジン、リュ・ジュンヨル etc
映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』の登場人物(キャスト)
- キム・マンソプ(ソン・ガンホ)
- タクシー運転手。妻は病気で亡くなっており、11歳の娘と二人で暮らしている。人が良く、ただで客を乗せてしまうこともあり、支払いに困っている。光州へ行くまでは、テレビで報道されることを信じる一般人と変わらなかったが、軍部独裁の実態を知って考えを変えていく。
- ピーター(トーマス・クレッチマン)
- 日本で長年報道に携わるジャーナリスト。光州のことを耳にし、現地を取材しに行く。韓国は喋れず、理解もできない。
- テスル(ユ・ヘジン)
- 光州のタクシー運転手。人が良く、世話焼き。キムが窮地に陥った時に力を貸してくれる。
- ジェシク(リュ・ジュンヨル)
- 活動家の学生。ピーターと出会った後は、彼の通訳として同行する。
映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』のあらすじ【起】
1980年、チョン・ドゥファン大統領の独裁政権により、韓国では大学生たちのデモが頻繁に発生していた。個人タクシーの運転手キム・マンソプは、好き勝手に暴れまわる学生たちを好ましく思っていなかった。キムは幼い娘と暮らしていたが生活は苦しく、家賃も滞納していた。
日本に住むドイツ人ジャーナリストのピーターは、韓国の光州で異変が起きていることを知ると、現状を取材したいと行動を起こす。韓国へと渡った彼は、光州へ向かうため知人からタクシーを手配してもらった。
運転手仲間が集まる食堂でピーターの話をしている運転手がいた。ピーターが高額な料金を払ってくれることを知ったキムは、その運転手を出し抜き、自分がピーターを迎えに行く。キムはサウジアラビアで仕事をしたことがあり、少しだけ英語が喋れた。ピーターを乗せて一路、光州へと高速を飛ばしていく。
だが、光州への道は封鎖されていた。道には軍人が立ち、戻れと言われる。キムはソウルへ引き返したかったが、光州に行かなければ金は払わないとピーターに言われ、しぶしぶ光州へと入る道を探し始める。
現地の人に裏道を教えてもらったが、そこにも軍人がいた。だが、キムとピーターは相手をうまく言いくるめて光州への進入を許可してもらう。光州は荒れ放題で人の姿も無かった。そのとき、学生運動をしている若者たちのトラックが通りかかる。ピーターは彼らを取材しようとトラックに乗り込んだが、キムは巻き込まれてタクシーを壊されては大変と、こっそりと引き返していった。
映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』のあらすじ【承】
息子を探している母親に助けを求められたキムは、仕方なく病院へと彼女を運んだ。息子は無事だったが、そこにピーターが激怒して追いかけてきた。タクシーに彼の荷物が載せたままになっており、キムはそれに気がつかずに走り去ってしまったのだ。同業者の運転手たちはキムを責め始めた。ピーターはここまででいいと言って金を払ったが、その高額な料金も非難されてしまう。怒ったキムは金を返してしまった。
ピーターと彼の通訳として同行することになった学生ジェシクを乗せ、広場へと向かったキムは、そこでデモに参加する沢山の光州市民の姿を目にする。彼らは皆、親切でキムにおにぎりをくれる人もいた。
現地のジャーナリスト・チェと合流したピーター。その時、軍人と市民が衝突して暴動が発生する。彼らはその様子をカメラに収めるため、暴動の中へと突入していく。無理やり連れて行かれたキムは、そこで今まで知らなかった現実をまざまざと体験した。
ソウルに戻ることになったがタクシーがエンコして動かなくなってしまった。そこに、先ほどいざこざのあった運転手たちが現れる。タクシーを直すには部品を変えなくてはいけなかったが、それには夜明けまでかかるし、キムには金が無い。ピーターは金を渡そうとしたが、その態度に腹を立てたキムは断固として受け取らなかった。金のことよりも、ひとり残してきた娘の安否のほうがキムは心配だった。
光州のタクシー運転手テスルの家に泊まることになったキムたち。テスルの人の良さが幸いし、ギクシャクしていたキムとピーターは仲直りして打ち解けあう。ジェシクとテスルは光州で起きていることを多くの人に知ってもらいたかったが、テレビでは政府に都合よく情報が改ざんされていた。ピーターは日本に戻って報道すれば状況は変わると説明。キムはピーターを空港まで送り届けることを約束した。
その時、彼らの耳に突然の爆発音が響き渡る。音はどうやら、光州の放送局のほうから発生したようだ。見ると、夜の空を赤い炎と煙が染めていた。
映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』のあらすじ【転】
放送局前にやってきたキムたちは、私服軍人たちに発見されてしまった。追跡を逃れようと必死に走ったが、ジェシクが捕まってしまう。キムも捕まりそうになるがピーターの助けでなんとかテスルの家まで逃げかえってきた。
軍人たちの非道な行いや自らの命が危険にさらされたことで、改めて娘を大切に感じたキムは、翌朝、静かに家を出ると光州を去ろうとした。だが、それに気がついたテスルが追いかけてくる。彼はソウルナンバーでは怪しまれると光州のナンバープレートを持ってきてくれた。そして、ピーターから預かったという運賃を手渡す。
光州を離れたキムは近くの整備工場にタクシーを預け、メンテナンスをしてもらった。娘に電話すると大家さんが預かってくれていた。寂しい思いをした娘のために、可愛らしい靴を買うキム。食堂に入った時、人々が光州の実態について何も知らず、捏造された情報を鵜呑みにしているのを聞いて複雑な気分になる。
このまま帰ってよいのか悩んだキムだったが、決心してタクシーを再び光州へと向けた。だが、戻ったキムを待っていたのは、ひどい死に方をしたジェシクの遺体だった。キムは失意の中に落ちるが自分を奮い立たせ、呆然とするピーターに全てを撮ってくれとカメラを回させる。
広場で暴動が起きていると知って駆けつけたキムたちは、そこで市民が軍人に射殺される姿を目撃する。軍人たちは警告も無く発砲し、何人もの市民が路上に倒れこんでいた。タクシーで彼らを救出したキムたち。テスルたちは、このことを世界に知らせてくれとキムとピーターに頼んだ。二人は彼らが心配だったが、彼らから託された思いを胸にタクシーを走らせていった。
映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』の結末・ラスト(ネタバレ)
光州を出るため、山道の裏ルートを辿っていったが、どこも封鎖されていた。いくつかの道を辿るうちに、軍人で警備された検問に出る。どこへ行くのか問われた二人は、危険な光州を離れてソウルに向かうのだと説明。車内を調べられた際、トランクからソウルナンバーを発見されてしまうが、その軍人は二人を見逃して検問を通してくれた。
しかし、外国人は通すなという連絡があり、二人はあっという間に軍人の車に追いつかれてしまう。そこへテスル率いるタクシー運転手の軍団が手助けにやってきてくれた。彼らは自らの命と引き換えにキムとピーターを逃がしてくれた。
空港に到着したピーターは、一番早い日本行きの便に予約を入れる。フィルムは没収されないようにクッキーの缶の中に隠した。ピーターは運賃と修理費を払いたいからとキムに連絡先を書かせたが、キムが書いたのは偽名だった。別れ際、あなたはいい人だと言ったピーターに、また韓国で会おうと返したキム。二人は抱き合い、ピーターは日本へと飛び立っていった。自宅へと戻ったキムは、無事に娘と再会して涙を流す。
光州での軍部独裁が世界に向けて報道された。これにより、韓国は大きく変わっていくこととなった。ピーターはキムとの再会を望んだが、偽名だったために探し出すことはできなかった。
2003年、今までの功労を称えられ賞をもらうことになったピーターは韓国を訪れた。会見の際、キムとの再会を望んでいると発言し、それは新聞記事になった。キムは今でもタクシー運転手を続けていた。ピーターの記事を見て、元気そうな様子に笑みを浮かべる。あの頃からすっかり様変わりしたが、キムは今も韓国の道を走り続けていた。
映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』の感想・評価・レビュー
実話がベースだが、多くの部分でフィクションとなっている気がする。だが、それがダメだという訳ではなく、フィクション部分はあくまでも物語を面白くするための要素にすぎない。キムが心を動かされるまでの過程が丁寧に描かれており、ソン・ガンホがそれを見事に演じている。プロットは大昔からある古典的なものだが、すっきりと纏められ、万人が楽しめる感動作に仕上がっている。ラストのピーター氏の映像も心にずっしりくる。(MIHOシネマ編集部)
事実を元にしたお話ということだが、一部設定が変えられているという。そのおかげで韓国の歴史に明るくない人にとってもエンターテイメントとして観やすく、事の本質もより伝わるのかもしれない。細かく何があったのかよりも、そこにどんな心の動きがあったのか、そこを観るのも映画の楽しみ方だと思う。
もちろん最大の功労者は主演のソン・ガンホだ。言葉が分からなくても彼の演じる役柄や熱量、面白みが伝わってくる。本当に素敵な役者さんだと思う。
タクシー仲間が助けに集まるシーンが泣けた。(男性 40代)
初めはコミカルでくすっと笑える要素が多かったのだが、どんどん不穏な気配が漂ってきて、衝撃的なストーリーだった。学生運動に対して、最初は他人事だった主人公のキムの気持ちはよく分かる。実際に騒動を目の当たりにしないと、やはり分からないことは多いと思うし、自分のことのように真剣には考えられないと思う。でも、ピーターや光州に暮らす人々との出会いを通して、考え方も行動も変わっていったキムは素晴らしい人だなと思った。自分がキムの立場なら、恐ろしくて逃げ出しているかもしれない。(女性 30代)
タクシー運転手の爽やかな日常が描かれている作品だと思いきや、蓋を開けてみると、1980年5月に韓国で起こった「光州事件」を背景に描かれた社会風刺映画だった。
なんとこの作品は、当時「光州事件」に巻き込まれたタクシー運転手の実話を基に制作されたのである。
脚本もキャストの演技も素晴らしい作品。おかげで当時の韓国軍の残酷さと、市民たちの緊迫感がひしひしと伝わってくる。
たった40年前に起こったこの悲劇を、映画を通して知ることができて本当に良かった。(女性 20代)
『パラサイト 半地下の家族』以降ソン・ガンホの演技が気になって、見てみたが意外に面白かった。しかも、比較的最近の韓国の歴史に基づいているというから驚きだ。特に、屋上に集まった群衆をヘリの機銃で掃射するシーンは衝撃だった。
ソン・ガンホは、なんでもないおっさんを演じるのが本当に上手い。彼のお陰でヒーローではない等身大のキャラクターに、イライラしながらも感情移入出来てしまう。
最後の方にとってつけたような山道でのカーチェイスがあったが、あれはいらなかったように思える。あれのせいで、リアリティが一気に薄まってしまった。(男性 30代)
ごく普通の、どこにでも居るような特徴のないタクシー運転手を演じたソン・ガンホ。彼の演技が本当に素晴らしく、彼の表情や気迫、熱量が全てを物語っているような気がしました。
自分の国のことでも知らないことは沢山あります。それは知らなくていいことだと隠蔽されているのかも知れません。しかし、まあいいかと思うのではなく、少しでも知ろうと足を踏み入れる勇気がこの作品にはありました。
韓国語の分からないピーターとの心のやりとりも物凄くグッときました。実話ベースだとは知りませんでしたが、満足度の高い作品でした。(女性 30代)
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