映画『戦場のピアニスト』の概要:第二次世界大戦時、ユダヤ人への強制収容が実施されるポーランドを舞台とした戦争ドラマ。実在のユダヤ人ピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマンの壮絶な体験をつづり、アカデミー監督賞など3部門を受賞した。
映画『戦場のピアニスト』の作品情報
上映時間:148分
ジャンル:ヒューマンドラマ、戦争
監督:ロマン・ポランスキー
キャスト:エイドリアン・ブロディ、トーマス・クレッチマン、エミリア・フォックス、ミハウ・ジェブロフスキー etc
映画『戦場のピアニスト』の登場人物(キャスト)
- ウワディスワフ・シュピルマン (エイドリアン・ブロディ)
- ユダヤ系ポーランド人のピアニスト。ポーランドでは名の通ったピアニストだったが、ユダヤ系であるがゆえに、一家共々強制収容の危機にさらされる。穏やかで繊細。
- ヴィルム・ホーゼンフェルト大尉(トーマス・クレッチマン)
- ドイツ陸軍の大尉。拠点にした家で、シュピルマンが隠れているのを発見するが、そのたぐいまれなピアノの才能に心を動かされ、彼をかくまう。
- ドロタ(エミリア・フォックス)
- シュピルマンの友人ユーレクの妹。ユダヤ系ではない。シュピルマンとはつかず離れずの関係だったが、戦争によりその人生は大きく分かれることとなる。のちにシュピルマンに隠れ家をあっせんすることとなる。
- ユーレク(ミハウ・ジェブロフスキー)
- シュピルマンの友人。ドロタの兄。
- ヘンリク(エド・ストッパード)
- シュピルマンの弟。気の短い方で、ドイツ軍のユダヤ人差別に人一倍怒りを募らせている。他の家族と共に、強制収容所に送られる。
- ヤニナ(ルース・プラット)
- シュピルマンの知り合いのポーランド人歌手。シュピルマンに最初の隠れ家を提供する。
映画『戦場のピアニスト』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『戦場のピアニスト』のあらすじ【起】
第二次世界大戦中のポーランド。ユダヤ系ポーランド人のピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマンは、ラジオ局で演奏を録音していた。しかしその途中で爆撃が建物を襲う。シュピルマンは逃げる途中で、友人ユーレクの妹ドロタと知りあう。
イギリスとフランスがドイツに宣戦布告し、シュピルマンと家族は、もうポーランドは安泰だと喜ぶ。しかしその希望も空しく、ポーランドはドイツ軍に占領されてしまう。
シュピルマンの家には金がなくなってきており、シュピルマンはピアノを売らざるを得なくなる。また、ドイツ軍の勅令により、ポーランドでユダヤ人に対する差別が広がってきていた。ユダヤ人にダビデの星の腕章をつけることなどが義務化され、ユダヤ人への圧政はどんどんひどくなっていく。ついにワルシャワ市内のすべてのユダヤ人が、狭いユダヤ人居住区(ゲットー)に移住しなければならなくなってしまう。
ユダヤ人達がゲットーに移動していく列を、ドロタが眺めていた。シュピルマンに一目逢えればと思ったのだ。2人は別れを告げ、ユダヤ人居住区には壁が築かれた。
映画『戦場のピアニスト』のあらすじ【承】
シュピルマンは非ユダヤ人向けのレストランでピアノを弾く仕事を得る。一方シュピルマンの弟ヘンリクは、今の状態に怒りを募らせていた。毎日大した理由もなくユダヤ人が殺されていく。ついにヘンリクは、反政府活動で逮捕されてしまった。シュピルマンはユダヤ人警察のへラーに頼み込んで、弟を解放してもらった。ヘンリクは情報を得てきていた。ドイツ人のために働いているという証明書がなければ即強制収容所送りだと言うのだ。シュピルマンは父の雇用証明書を得るために奔走する。
家族全員の証明書が取れ、ほっとしたのも束の間、またしても移動の命令が出された。皆強制収容所送りになるのだ。ユダヤ人達が強制収容所行きの列車へ乗せられる中、ユダヤ人警察のヘラーがシュピルマンを助け出す。家族はみな列車に乗せられ、シュピルマンだけが取り残されてしまった。
シュピルマンはゲットー内で、力のいらない仕事を回してもらいながら生き延びていた。やがてゲットー内で武装蜂起のムードが漂い始め、シュピルマンはゲットーを脱出する。
映画『戦場のピアニスト』のあらすじ【転】
シュピルマンは知り合いのポーランド人歌手のヤニナに手引きしてもらい、ゲットーのそばにあるアパートの1室に隠れ住む。しかし隣人にばれてしまい、逃げざるを得なくなる。緊急時用にと渡されていた連絡先を訪ねると、なんとその相手はドロタだった。ドロタは別の男性と結婚し、夫と共に反政府活動を行っていた。ドロタと夫はシュピルマンに隠れ家を用意する。
ゲットーで武装蜂起がおこった。しかしドイツ軍に制圧され、多くのユダヤ人が殺される。
シュピルマンは隠れ家で生き延びていたが、だんだん食料の供給が滞ってくる。食料を届けてくれるはずだった人物が、ドロタ達から受け取った金を着服していたのだ。栄養失調で黄疸になったシュピルマンだったが、ドロタ達のおかげで一命をとりとめる。
ワルシャワ蜂起がおこり、ドイツ軍がワルシャワを攻撃。シュピルマンの隠れ家もドイツ軍に爆破されてしまう。廃墟となった街で、シュピルマンは無人となったある家に忍び込む。空腹の中缶詰を発見するが、缶切りがなく開けることができない。その音に気づき、ドイツ軍の将校・ホーゼンフェルト大尉に見つかってしまう。この家は、ドイツ軍が拠点として使うことになったのだ。
シュピルマンがピアニストだと知ったホーゼンフェルト大尉は、近くにあったピアノで彼に1曲弾かせてみる。シュピルマンの演奏に心を動かされたホーゼンフェルト大尉は、シュピルマンを屋根裏にかくまい、食料を差し入れるようになる。
映画『戦場のピアニスト』の結末・ラスト(ネタバレ)
ホーゼンフェルト大尉とドイツ軍は、街から撤退することになった。ホーゼンフェルト大尉はシュピルマンに最後の食料と自分のコートを渡し、去って行った。
街にソ連軍がやってきた。シュピルマンはドイツ軍のコートを着ていたため銃を向けられる。しかしポーランド人であることがわかり事なきを得る。ドイツが敗れ、戦争は終わったのだ。
ユダヤ人達は強制収容所から解放された。シュピルマンの友人のユダヤ人バイオリニストが、捕えられたドイツ軍の集団を見かけ、罵声を浴びせる。すると彼が音楽家だと知ったホーゼンフェルト大尉が声をかけてきた。「自分はシュピルマンというピアニストの命を救った。彼に自分を助けてほしいと伝言してくれ」と。しかし立ち話をしているのが見つかってしまい、友人は彼の名までは聞くことができなかった。
シュピルマンはその話を聞く。しかしシュピルマンにも彼の名はわからず、ホーゼンフェルト大尉はそのまま戦犯捕虜収容所で亡くなった。戦後、シュピルマンは再びピアニストとして活動を再開する。
映画『戦場のピアニスト』の感想・評価・レビュー
時代の中に居るような感情と、リアルな描写にのめり込んでいた。ピアニストとして戦争を生き抜いてきたシュピルマンの運の良さや、演奏者としての高い実力が目立っており、彼を助けかくまったホーゼンフェルト大尉の言動にも理解できる程だった。また、ドロタとの再会のおかげで生き延びることができたり、ソ連軍が襲ってきた時にドイツ軍のコートを着ていたシュピルマンだったが、顔を見せた瞬間違うと判断され、命を落とすことはなかったシーンなど、終始はらはらしながら見た映画である。(女性 20代)
音楽家という立場で、戦争真っ只中の日々を必死に生き抜いていくユダヤ系ポーランド人のシュピルマンに焦点を当てた映画である。第二次世界大戦中の時代であり、まさしく明日は我が身という状況をリアルに描いており、つねに死と隣合わせのまま、物語が進んでいくので一瞬も気を抜く事が出来ない程の緊張感がある。ユダヤ人差別や、強制収監、大量虐殺などが行われている最中、本当にギリギリの所で生き抜いていくシュピルマンに目が離せない。当時の戦争の内情もしっかりと描かれているので、過去人間が行ってきた行為についても知る事が出来る作品である。(男性 30代)
実話というのはとても重い。
シュピルマンという人は収容所に行くことなく、生きて戦後を迎えたけれど、ラッキーだったなんて思えない。
毎日が地獄、生きた心地もないと想像される生活が描かれていた。
シュピルマンを助けたホーゼンフェルト大尉が、反対にシュピルマンに助けを求めも伝わらないという真実もまた重い。
悪いヤツだから死んでいいなんて思えない。それではユダヤ人だから死んでもいいと思われた戦争と同じだから。
そんなふうに思わせてくれる映画でした。(女性 40代)
ピアニストの主人公シュピルマン役のエイドリアン・ブロディの好演に感動した。
シュピルマンを通して描かれたユダヤ人の虐殺や救済は、涙なくして観れない。
虐殺が淡々と描かれていてショッキングなシーンが多い。
ドイツ人にも善人がいて、ユダヤ人に中にも悪人がいる。そういったことがより一層戦争の残酷さを表しているように感じた。
しかし、シュピルマンが兵隊に見つかった際、「私はピアニストです」と言い、ピアノを弾いた時の音色の美しさに、ほんの一瞬戦争を忘れそうになった。
芸術は人を救済する力があると感じた。(女性 20代)
舞台は第二次世界大戦当時のワルシャワ。ユダヤ人、ポーランド人が次々に捕らえられ、収容所に入れられていった。捕らえられてしまったピアニストのシュピルマンは、たくさんの偶然や人々の助けから、収容所を脱出することに成功した。それでも、逃げまといながら過酷な生活を強いられる。この時代に生きた人々の過酷な生活は、たくさんの作品に残されているが、収容所からの脱出に成功したストーリーは珍しいかもしれない。重たい空気がつきまとう、忘れられない歴史の一つだ。(女性 30代)
エイドリアン・ブロディ主演、イギリス・フランス・ドイツ・ポーランドの合作映画。ユダヤ系ポーランド人のピアニストであるウワディスワフ・シュピルマンの体験記を映像化したものである。
ナチスドイツのポーランド侵攻。ユダヤ人迫害により、強制収容所へ送られた主人公のピアニストが、ピアノを弾くことで自らの人生を切り開き、戦火を逃れるというストーリー。まさに「芸は身を助ける」というわけだ。
別の意味で言えば、侵略する側もされる側も同じ人間であり、音楽に感動するという共通の感覚を持っている、人間はみんな同じなのだ、ということ。
戦争はとても醜いことだと改めて感じさせてくれる映画である。(男性 40代)
シュピルマンがピアノを演奏している最中に爆撃に遭うなど、衝撃的なシーンが多々あった。この作品を見る多くの人が、きっと戦争を憎み、戦争に巻き込まれる市民達の姿に心を痛めると思う。実際にこういう出来事が起きたのだという事実が、なかなか受け止めきれなかった。周囲の助けを借りながら生き延びたシュピルマンだが、心の傷は一生消えなかったのではないかと思う。亡くなった人や傷ついた人のことを考えると、戦争がなければと思わずにいられなかった。(女性 30代)
ホロコースト時代を生き抜いた一人のピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマンの半生を描いた作品。あまりの残酷さに目を背けたくなるシーンが多々あるが、二度とこのような歴史が繰り返されることのないように、全人類が見るべき作品だと思う。躊躇なく、理不尽に人の命を奪うドイツ兵の姿に恐怖と怒りを感じる。ロマン・ポランスキー監督自身も、幼少期にナチスドイツに迫害された経験があるからこそ、説得力のあるリアルな映像に仕上がっている。(女性 20代)
戦争や人種差別を経験したことがない私が涙が出そうになるほど苦しくて、胸が痛くなって、衝撃を受けた今作。
これまでロマン・ポランスキー監督の人間的な部分が好きになれず彼の作品を避けてきましたが、この作品はもっと早く見ればよかった、本当に見て良かったと感じました。
主人公が感じた痛み、人の優しさがまるで自分の事のように伝わってきて、こんなにも感情移入した作品は初めてでした。
悲しみや理不尽さだけでなく、優しさが誰かの人生を変えることになるのかもしれないと感じる作品でした。(女性 30代)
みんなの感想・レビュー
これが実話をベースにした話だというから驚いた。これが壮絶でなければ何が壮絶だろうか。しかしこのピアニストは生き残れたから話が残った、そうでなかった人達の語られなかった人生もまた壮絶なものであったのだろう。○○人というだけで差別や分断を煽り迫害をするという政治手法は今この瞬間も行われている。いつ自分がその対象になるかも分からない。その時自分はこのピアニストのように生き残れるだろうか。その自信がないからまずは、あらゆる差別に反対をしていくしかないだろう。
ユダヤ系ポーランド人のピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマンの体験記は、ポランスキー監督の人生とも重なるかも知れない。本作は彼にとって使命とも言える映画化だったのだろう。同じような内容のスピルバーグ監督映画「シンドラーのリスト」でも、ポランスキーは監督候補に挙がっていたという。スピルバーグ監督自身もユダヤ系アメリカ人であり、彼は血に染まった金は貰えないとして、監督料の受け取りを拒否しているという話がある。思えば自らがメガホンを取ることになったかも知れない、「シンドラーのリスト」で描きたかったものを、ポランスキー監督は本作にぶつけたのではないだろうか。奇しくも同じポーランドのゲットーが舞台という設定にもその背景が見えてくるが、本作はユダヤ人視点で描かれ、シンドラーの方はドイツ人視点での映画である。音楽家を主人公に捉えた本作の方が物語としては描きやすかったというところはあったのかも知れないが、収容所での描写などは避けて通れない部分なのだろう。それゆえにテーマに直結するピアノ曲が染み渡るように響き、音楽という国境のない人間の創作物が、敵味方という垣根を越えて心に響くという場面は、多くの映画でも採り上げられている。古い映画ではあるが、ナチス政権下の音楽家を描いた作品として、チャールトン・ヘストン主演の「誇り高き戦場」を思い出してしまった。ベートーヴェンやシューベルトなどドイツは多くの有名な作曲家を輩出しながら、ヒトラーという怪物も生み出してしまったのも皮肉な話である。
セリフや映像の端々に重厚さが漂い、ナチスの虐殺行為に目を覆いたくなるが、人が作り上げた文化までを含め、戦争が壊してしまうものは計り知れないほど大きい。本作ではドイツ人とユダヤ人の間に発生する善悪という固定概念は押さえられており、ポランスキー監督の人間描写の深さを描いた部分が秀逸である。ナチス将校が弾く「月光」に導かれ、シュピルマンが弾いたショパンの旋律。一人の音楽家が戦禍に巻き込まれながらも表現する事を忘れずにいる、”尊厳”というものを見事に描いた作品である。実話に基づいた作品であるという背景があるからこそ、同じ体験をしたポランスキー監督に描かれるべき作品ではなかったかと感じる。
ホロコーストを題材にした映画は確かに重いが、そこから目を背けるというのではなく、その事実の背景にこのような人間ドラマが介在していたという事を忘れてはならない。ナチスが起こしたこのような集団殺戮は確かに人としてあるまじき行為であるが、どこの戦争でもそういった事実は存在しているのである。情報というものが過剰に溢れた現代では、そういった資料も簡単に閲覧することはできるが、それを鵜呑みにするばかりでなく、映画を通してそこに置かれてしまった人の苦悩を共有するということも、人の思考を知るという点では重要なのである。エンターテインメントとして娯楽の役割も果たす反面、本作のような危機的状況でのドラマが繰り返されないように考えるのが、ホロコーストの映画に接する姿勢ではないだろうか。音楽に感動するという体験は、本来このような戦火の中で経験するに値するものではない筈だ。