映画『ヴェラ・ドレイク』の概要:1950年代のロンドンを舞台に違法である堕胎行為を手伝っていた心優しい主婦の姿を描いた人間ドラマ。『秘密と嘘』のマイク・リー監督作で、第61回ベネチア国際映画祭で金獅子賞と主演女優賞を受賞した。
映画『ヴェラ・ドレイク』の作品情報
上映時間:125分
ジャンル:ヒューマンドラマ
監督:マイク・リー
キャスト:イメルダ・スタウントン、フィル・デイヴィス、ピーター・ワイト、エイドリアン・スカーボロー etc
映画『ヴェラ・ドレイク』の登場人物(キャスト)
- ヴェラ・ドレイク(イメルダ・スタウントン)
- 近所の人の面倒を見る心優しい主婦。家政婦として働き、夫と娘、息子の4人で暮らしている。望まぬ妊娠をした女性の堕胎を手助けしている。
- レジー(エディ・マーセン)
- 家族を失った孤独な青年。第2次世界大戦にも従軍していた。ヴェラに声を掛けられて、家に出入りするようになり、ヴェラの娘と婚約する。
- リリー(ルース・シーン)
- ヴェラの幼馴染みで、堕胎を希望する女性をヴェラに紹介している。実は依頼主から金銭を受け取っているが、ヴェラには秘密にしている。
- スーザン(サリー・ホーキンス)
- ヴェラが働く裕福な家庭の娘。好いていた男から乱暴されて妊娠してしまう。そこでお金を持った人たちだけに可能な手段で堕胎する。
映画『ヴェラ・ドレイク』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『ヴェラ・ドレイク』のあらすじ【起】
ヴェラは車椅子の要介護者の自宅に行き、お茶を用意してあげる。そして階段ですれ違ったレジーを食事に招待する。自宅に戻ったヴェラは家族のために食事の準備を始める。娘と息子、そして夫も次々と帰宅し、夕食を食べながら家族の会話に花を咲かせる。ヴェラは金持ちの家で家政婦として働いていた。翌日、レジーと共に家族で夕食を楽しみ、戦前や戦後の暮らしについて語り合う。ヴェラは娘をレジーの近くに座らせるが、娘は緊張してしまう。
スーザンは好いていた男に乱暴に扱われる。仕事を終えたヴェラは寝たきりの母親の元を訪ねて、母親の世話をする。ヴェラの夫は自動車整備工場、息子は服の仕立屋、娘はランプ工場で働いていた。ヴェラは若い娘がいる家を訪問し、お湯を沸かし、石鹸水を用意する。そして、緊張している娘を宥めながらベッドに横にさせ、娘の子宮を石鹸水で満たす。ヴェラは堕胎の手助けをしていたのだ。ヴェラはその後の処置について説明した上で、娘を安心させて家を去る。リリーがヴェラの元を訪ねて来て、娘がどうだったかを訪ねる。そして次の依頼主の連絡先を手渡す。
映画『ヴェラ・ドレイク』のあらすじ【承】
レジーが再び夕食に招かれ、娘はレジーと親しげに話す。そして、レジーと娘は一緒に外出をするようになる。一方、スーザンは知人と会い、泣きながら助けを求める。事情を察した知人は連絡先をスーザンに渡す。スーザンは婦人科医で診察を受け、堕胎の意向を伝える。そのためには精神科医の診断も受けなければならなかった。スーザンは叔母が自殺したと偽り、自分の精神状態も不安定だと説明する。そしてスーザンは立派な病院で週末だけ入院する。
ヴェラは要介護者や母親の世話をしながら、堕胎の手助けを続ける。リリーは不倫をしていた女性から依頼を受け、事前の支払いを要求する。そしてリリーは相手にヴェラにお金のことを内密にするように要求する。レジーはヴェラの娘に結婚について口にし、娘はその申し出を受ける。ヴェラと夫は婚約の知らせに大喜びする。ヴェラは若い娘の堕胎を手伝うが、付き添っていた母親が知人であることに気付く。しかし、その娘はその後に体調を崩し、病院に運ばれてしまう。事情を把握した医者は母親に堕胎の件を問い質す。そして医者は警察に告訴する。
映画『ヴェラ・ドレイク』のあらすじ【転】
警部補が病院にやって来て、医者と面会する。夫は戦争中の思い出をヴェラに語り、幸せを噛みしめる。そして父親が誰か分からないまま育ったヴェラが心優しい女性になったことに感謝する。警部補は母親にも尋問し、誰が堕胎を行ったかを聞き出そうとする。そして母親はヴェラの名前を明らかにする。一方、ヴェラはレジーと娘の婚約のお祝いの準備をし、親戚で集う。警部補はリリーの元に行き、尋問を始める。
レジーもヴェラの家にやって来て、皆でお祝いを始めるが、そこに警部補が現れる。ヴェラは警察が来たことを聞き、凍り付いてしまう。警部補はヴェラとだけ話し始め、ヴェラは若い娘達を助けていたと認める。しかし、ヴェラは堕胎という言葉を使わずに手助けだと主張する。事情を知らない家族は何事かと心配を始める。警部補は堕胎を行った娘が死にかけたことを説明し、ヴェラを逮捕する。そして警部補はヴェラの堕胎の道具を証拠として押収し、ヴェラを警察署まで連行する。夫も急いで駆け付ける。一方、ヴェラは所持品を預けるために結婚指輪を涙ながらに外す。
映画『ヴェラ・ドレイク』の結末・ラスト(ネタバレ)
警部補は改めて取調室でヴェラへの尋問を始めるが。動揺したヴェラはまともに質問に答えることができない。警部補が過去にヴェラの身にも同じことがあったのかと聞くと、ヴェラは泣き崩れてしまう。警部補はリリーがお金を取っていたことを説明すると、ヴェラは衝撃を受ける。ヴェラはあくまで善意から手助けしていたのだ。警部補は夫に説明してあげた方が良いと助言し、ヴェラは自らの口で夫に事情を打ち明ける。帰宅した夫は息子と娘に状況を説明するが、息子は母親の行為を非難する。
保釈が認められ、ヴェラは自宅に戻るものの、息子はヴェラとまともに顔を会わせることを拒む。息子はヴェラのことを責めるが、夫夫は息子に母親を許すように諭す。息子はヴェラに愛していると告げる。クリスマスの祝いに家族が集うが、家の中はお通夜のような雰囲気になる。裁判が始まり、弁護士はヴェラの優しい心が今回の行為につながったと弁論する。そして裁判長は、2年6か月の実刑判決を受ける。ヴェラは収監され、同じ罪で刑に服している女性達と出会う。一方、残された家族は光を失った家で寂しく過ごす。
映画『ヴェラ・ドレイク』の感想・評価・レビュー
マイク・リー監督の最高傑作。他者への思いやりに満ちたヴェラの姿に胸を打たれずにはいられない。警察の取り調べのシーンではいたたまれなくなる。イメルダ・スタウントンはヴェラを体現しており、演技であることを忘れてしまう程に真に迫っている。ヴェラによってもたらされた明るくて楽しい家庭と、ヴェラが不在になってからの冷たい雰囲気の対比が象徴的だ、これはリー監督作で繰り返し表現されるテーマにもなっている。(MIHOシネマ編集部)
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