映画『黄金のアデーレ 名画の帰還』の概要:82歳の女性と駆け出しの弁護士が国を訴えた。オーストラリアのモナリザと言われていた『黄金のアデーレ』返してほしいと要求した。無謀ともいえる要求の影には彼女の哀しい過去が隠されていた…。
映画『黄金のアデーレ 名画の帰還』 作品情報
- 製作年:2015年
- 上映時間:109分
- ジャンル:ヒューマンドラマ、歴史
- 監督:サイモン・カーティス
- キャスト:ヘレン・ミレン、ライアン・レイノルズ、ダニエル・ブリュール、ケイティ・ホームズ etc
映画『黄金のアデーレ 名画の帰還』 評価
- 点数:80点/100点
- オススメ度:★★★★☆
- ストーリー:★★★★☆
- キャスト起用:★★★★☆
- 映像技術:★★★★☆
- 演出:★★★★☆
- 設定:★★★★☆
[miho21]
映画『黄金のアデーレ 名画の帰還』 あらすじ(ストーリー解説)
映画『黄金のアデーレ 名画の帰還』のあらすじを紹介します。
時は20世紀の終わり。
オーストリアから亡命し、米国でブティックを切り盛りするユダヤ人の未亡人のマリア(ヘレン・ミレン)は、姉のルイーズが亡くなった後、遺品整理をする事になる。
その時に、見つかったのが叔母アデーレの肖像画に関する書類だった。
マリアは、ルイーゼの残した遺品から、祖国オーストリアの法律が改定され、政府がナチスの手により国民から不当に没収した美術品を持ち主に返還する姿勢をみせている事を知る。
祖国に対する思いを捨て、家族を捨ててきたマリアにとって、叔母は唯一、故郷と自分をつなぐ絆だった。
彼女は友人の息子で新人弁護士のランディ(ライアン・レイノルズ)を遺品整理がてら呼び、書類に価値があるかどうか見させる。
彼は独立したものの、仕事が上手くいかず、妻パム(ケイティ・ホームズ)が妊娠した為、キャリアをつけ稼ぐ為に、大手法律事務所に入り直し働かなくてはいけなかった。
その為には、仕事を選ぶ事は許されず渋々ながら、マリアの依頼を受ける。
ランディは、マリアの叔母の肖像画がクリムトによって描かれたもの、現在価値にして1億ドル以上するものだと知り目を丸くする。
彼は所属したての大手法律事務所から、この案件がいかに魅力的かを説得し、一週間という猶予を貰い、渋るマリアを説得しオーストリアへ渡る。
なかなか国宝である美術品を手放そうとしない国を相手に戦う彼らの前に現れたのは、ジャーナリストというフベルトゥス(ダニエル・ブリュール)だった。
フベルトゥースの手助けを得て、彼らはアデーレの肖像画の返還に動き出すのだが…。
映画『黄金のアデーレ 名画の帰還』 感想・評価・レビュー(ネタバレ)
映画『黄金のアデーレ 名画の帰還』について、感想・レビュー・解説・考察です。※ネタバレ含む
回想シーンと、現実のシーンを交互に入れることでマリアの心境が判りやすい
映画は8年に及ぶ裁判の年月と、故郷オーストリアで過ごした思い出の日々、戦争、亡命までの苦難の時を交互に織り交ぜ展開していく。
その為、マリアの視点で描かれている内容ながら、彼女が何故頑なに故郷に戻るのを拒みつつ、戻ると逆に懐かしむという矛盾した行動に出るのか、理解できるようになっている。
正当な理由があっても、返還に応じなかった政府
マリアの叔母アデーレは、オーストリアが華やかなりし頃に裕福な富豪の一族に囲まれ、戦争を知る事無く亡くなった。
その為、彼女の遺言が物議を醸しだす事となる。
アデーレは自らの肖像画を、死後美術館に寄贈すると遺言を書いたが、それは夫の死後という条件付きだった。
マリアの叔父は1945年、アデーレの死後20年後に亡くなっている上、叔父は自分の財産や権限は全てマリアに譲るとしていたのだ。
これでアデーレの遺言状が無効であることを突き止めたランディとフベルトゥスだったが
ありとあらゆる方法で裁判を国に阻まれ、マリアは肖像画を取り返すのを諦めてしまう。
紆余曲折を経た絵画の行方は
ランディは、帰国寸前、慰霊碑に音楽家だったという曾祖父母の名が刻まれているのを見て、自らのルーツもまたオーストリアにある事を発見する。
彼は、長期化する裁判で事務所からも見捨てられ、借金まみれになりながらも、このままマリアが高齢で死ぬのを待つのを見ていられなかった。
最後の手段として彼は、オーストリアの調停裁判に持ち込み、マリアの元に肖像画を返す事に成功する。
マリアは肖像画が自分の手元に帰ってきた後、むせび泣く。
それは、ここまで裁判が長引いただけではない。戦争や国家という権力に振り回された肖像画に対する申し訳なさから来たものだった。
彼女は裁判の最中に、話を持ち掛けてきた化粧品業界の大物エスティ・ローダーの息子ロナルドに絵の保存を任せる。
自分自身の手で、しかるべき人間の手に渡したい、それが彼女の目的だったと思う。
本作は、ナチスによって略奪された画家グスタフ・クリムトの名画『アデーレの肖像』を巡って、女性と弁護士がオーストラリア政府を訴え奮闘する姿を描いた法廷ヒューマンドラマ作品。
当初はあまり気の乗らなかった若手弁護士のランディが、徐々にのめり込んでいく熱い姿がかっこよかった。
そして、悲しい過去を持つ女性マリアと彼女の唯一の形見である名画に秘められた物語に胸が痛んだ。
紆余曲折を経て所有者の元に帰還したアデーレの肖像はより一層輝いて見えた。(女性 20代)
自分にとっての大切なものを取り戻したいだけなのに、政府や国家に阻まれ、借金まみれになり、次から次へと降りかかる災難に、この件に関わる全ての人が心折れ途中で諦めしまってもおかしくなかったと思います。しかし、最後まで諦めなかったのは、マリアの心にある悲しみと希望を何とかして繋ぎ止めたかったからでは無いでしょうか。
特にフベルトゥスはそれによって自分の親が犯した罪も、少し許されるのではないかと感じているような気がしました。(女性 30代)
回想シーンは、非常に胸が痛みました。金輪際、人類はホロコーストを繰り返してはいけないと思います。老婆が恨むのも無理はありません。ナチスは美術品のみならず、人々の大切な日常や尊厳を非情にも奪ったのですから。さらに、まだ返還されない美術品が多く存在するそうで罪の根深さを感じます。ライアン・レイノルズの好演に胸を打たれました。序盤は頼りないですが、ラストには信念を貫く立派な弁護士へと成長していました。トイレでこっそり涙を流すシーンが秀逸です。(女性 30代)
不当に奪い去られたクリムトの絵画を奪還するため、国に対して裁判を起こすという実話を基にした作品。
ナチス統治下だったオーストリアでの、悲しく辛い出来事に目を背けたくなるシーンも多い。しかしこの作品のテーマは絵画の奪還であるため、重苦しくなりすぎず当時のホロコーストの実態を知ることができる。
バラバラになった家族がまた一つになるラストシーンの描写は感動だ。
マリアが返してほしかったものは絵画ではなく、彼女の故郷だったのだ。(女性 20代)
映画『黄金のアデーレ 名画の帰還』 まとめ
映画の最後で、ダニエル・ブリュール演じるフベルトゥスは、何故自分はマリアに協力したのか、この案件が解決したからこそ明かすという。
それは自分の父親がナチスだったから、と彼はマリアに言う。
自分の父親世代は、貴方に謝りもしないだろうし、そういう感情も持たない人も多いだろう。息子世代の僕たちから変わっていかなければいけないと述べる。
その姿は、彼のデビュー作となった『グッバイ・レーニン』を彷彿とさせる。
この映画で名画の返還に関わったランディは以降、美術返還の専門の弁護を引き受ける様になったというのだから、驚きだと思う。
ちなみに、クランクインの前に映画の題材となったクリムトの『黄金のアデーレ』をNYのノイエギャラリーで観た事があったのは、マリアの夫フリッツ役のマックス・アイアンズだけだったそうだ。
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