映画『よこがお』の概要:人に恵まれた職場で厚い信頼を得て、婚約も控えるヘルパーの女性。甥が起こした事件を機に、当たり前の日常は一変する。筒井真理子を主演に迎え、深田晃司監督が手がけた一作。
映画『よこがお』の作品情報
上映時間:111分
ジャンル:ヒューマンドラマ、ミステリー
監督:深田晃司
キャスト:筒井真理子、市川実日子、池松壮亮、川隅奈保子 etc
映画『よこがお』の登場人物(キャスト)
- 白川市子 / リサ(筒井真理子)
- 仕事もプライベートも順調に思えたある日、甥が犯罪者となる。身内が起こした事件を機に、生活は徐々に闇へ蝕まれていく。
- 大石基子(市川実日子)
- 市子が通う家の長女。フリーターをしながら、ヘルパーの資格取得を目指している。優しい市子に勉強を教えてもらううちに、尊敬とは違う感情を抱き始める。
- 米田和道(池松壮亮)
- 美容師である基子の恋人。リサと名乗る市子を担当し出会う。近所に住むリサと何度か会う中で気持ちを寄せていく。
- 戸塚健二(吹越満)
- 医師として市子と働く同僚であり、婚約者。妻に先立たれ男手一つで幼い息子を育てている。辰男の事件後も、市子を支える存在。
映画『よこがお』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『よこがお』のあらすじ【起】
美容師の米田は、新規の指名客・内田リサとどこかであったことがある感覚に陥る。以前勤めていた店舗の客かと思いきや、「よくいる顔だから」とリサは言う。ヘルパーの仕事を辞めたばかりのリサは綺麗な黒髪を明るくしようと美容室を訪ねていた。後日、二人は再会する。近所に知り合いがいないというリサは、米田に連絡先を聞くのだった。リサは一つだけ嘘をついていた。米田に教えた綺麗なマンションに住んではおらず、寂れたアパートに住み窓から米田の住まいを覗いていたのであった。
リサと名乗っていた女性の本名は市子。以前、大石塔子という女性の介護のため、基子とサキが住む家に出入りしている。介護福祉士を目指す基子と女子高校生のサキは市子を慕い、時折勉強を教えてもらっていた。
ある日、いつもの喫茶店で基子・サキに勉強を教える市子の元に、甥・辰男が本を届けにやって来た。北海道に行くという辰男は大きな荷物を抱えている。サキは塾があると一人店を出た。辰男を紹介したその日、サキは塾から帰宅せず行方不明になってしまうのだった。
米田の家を監視するリサは、部屋に出入りする女の姿を確認し嫉妬する。吠える野犬の真似をして、気を引こうとするなど奇行を繰り返していた。
映画『よこがお』のあらすじ【承】
サキは8日後見つかった。誘拐の容疑で逮捕されたのは辰男。市子と基子はニュースを見て戸惑うのだった。しかしサキの母親に正直に伝えようとする市子を、基子は止めるのだった。仄暗い部屋で一人考え事をする基子の携帯には「和道」という男性から連絡が来ていた。画面に映し出された写真は米田である。
辰男の逮捕に関することを聞こうと妹に連絡をするも、自宅前にはマスコミが張り込み精神的に追い込まれた状況にあった。幸いにもサキは辰男の存在には気づいていなかった。市子を手放したくない基子は、事件との関係を隠すべきだと助言するのだった。
市子には医師の戸塚という恋人がいた。戸塚は妻に先立たれ小さな息子を一人で育てている。婚約を控えた二人は、週末に息子と3人で住む家を探しに行く予定だった。サキはマスコミや周りの視線に耐え切れずにいた。そんな様子を見て市子も気を落とすのだった。
リサは米田と頻繁に出かけるようになった。美術館で大石塔子の描いた絵のポストカードを買ったリサ。米田は恋人の祖母だと話す。動物園に行ったときには、写真を撮ろうとした米田の携帯を確認し、基子の写真が待ち受けになっていることを確認するのだった。
映画『よこがお』のあらすじ【転】
米田と行った動物園には、一度基子とも行ったことがあった。辰男の犯行がまだ信じられないという市子。しかし、市子は辰男が小さい時に股間が大きくなっているところを見てしまったと話す。誰もが「男」なのであるという話をしながら、基子は市子の手を取るのだった。
動物園を出た市子を迎えに来ていた戸塚。二人が婚約していることを初めて知らされた基子は「決定なのか?」と不自然な問いかけをした。その夜、市子の携帯に見知らぬ番号から連絡がある。相手は週刊誌の記者であった。何も話すことはない市子だったが、翌日には週刊誌に根も葉もない記事が掲載されてしまった。
週刊誌のことを知らずに今まで通りサキと話をする市子。リビングには米田が手配したという犯罪被害者家族を支援するNPO法人のパンフレットが置かれていた。突如、サキの母親から追い出されてしまった市子。自宅にも記者がしつこく訪れ、もちろん職場にも影響は出始めていた。しかし戸塚は引っ越しも結婚も諦める気はないと前向きに支えてくれるのだった。
今まで通り基子に勉強を教える市子。マスコミの影響で家に帰ることができないという市子に、基子は一緒に住もうと提案する。すぐにでも同居を始めようとする基子に、戸塚と引っ越しの計画がることを正直に話すのだった。すると基子は態度を変え「加害者に幸せになる資格はない」と言い切るのだった。
映画『よこがお』の結末・ラスト(ネタバレ)
連日マスコミに追い回される市子。さらに基子がインタビューを受けている映像が流れ落胆する。それは動物園の時に話したことを誇張し、市子は辰男に性的イタズラをしたというものだった。職場を辞めることになり、家も出なければならなくなった市子。謝罪しに来た基子のことを拒否し、マスコミから逃げながら生活するのだった。
戸塚と別れることになった市子。サキと話している時に見つけたNPO法人のパンフレットを思い出し尋ねてみるが、「被害者」の支援しかできないと対応はしてもらえなかった。救いのない状況に気分がすぐれない市子。偶然通りかかった米田は声をかけ心配する。市子は基子の恋人だと確信し、復讐を思いつくのだった。
ついにリサは米田と一晩を共にした。基子への復讐として自分の裸の写真を送り悦に浸るが、実は米田と基子は別れていた。基子にはずっと好きな人がいるというのだ。目標としていた復讐はあっけなく終わってしまった。
白髪交じりの黒髪の市子は、辰男の身元引受人として東京で一緒に暮らし始める。サキに謝りたいという辰男の希望で久しぶりに基子たちが住んでいた家を訪ねるが、すでに空き家となっていた。諦めて帰ろうと車を走らせると、市子は横断歩道を渡る基子の姿を見つけた。ずっと勉強していたヘルパーの資格を取ったのか、車いすを押している。市子は無意識に車を寄せ、気付かせようとするが基子は前を通り過ぎていった。存在を認識させるかのように、大きくクラクションを鳴らし続けた市子は、基子の視界に入ったのを確認し再び車を走らせるのだった。
映画『よこがお』の感想・評価・レビュー
静かに崩壊する日常。煽るBGMもなく、主演女優の表情と間合いが全てを左右する。見ることができない反対側の “よこがお”。市子とリサという二つの顔を持つ女性を堪能しつつ、基子の歪んだ憧れを見るうちにこちらの感情も行き場をなくしていくようだった。
安定した日々の光と、雲行きを変えた日々の影を行き来する時間。マスコミのもたらす被害を誇張しつつ、人の脆さや秘密を共有することで育まれる依存心をちらつかせる。ファンタジーにも思えるような復讐劇であった。(MIHOシネマ編集部)
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