2017年6月の劇場はなかなかの充実ぶりだ。ダントツのイチオシ作品である「ありがとう、トニ・エルドマン」も公開されるし、「花戦さ」や「武曲 MUKOKU」といった期待の邦画も顔を揃えている。雨が多くなる季節なので、デート先に困ったカップルには、フレンチ・ラブコメの「おとなの恋の測り方」もおすすめだ。
2017年6月公開のおすすめ注目映画
20センチュリー・ウーマン
公開日:2017/6/3(土)
期待度:80%
2010年に公開された「人生はビギナーズ」は、ゲイであることをカミングアウトした高齢の父親と恋愛に奥手な独身息子の物語だった。この作品は世界中で高く評価され、父親役を演じたクリストファー・プラマーは、第84回アカデミー賞助演男優賞を受賞している。この作品で監督と脚本を務めたのが、本作でも監督と脚本を務めるマイク・ミルズ。前作では父親(モデルは監督のお父さん)を描き、本作では思春期の息子を持つシングルマザーを描く。
物語の舞台は1979年のサンタバーバラ。15歳のジェイミーは、独自の生き方を貫いている母親のドロシアに何かと反発する思春期を迎えている。息子の子育てに行き詰まったドロシアは、かなり個性的な2人の女性に、“子育てを手伝って欲しい”とお願いする。
思春期の子供と向き合うのは、どんな親でも骨が折れる。大人になろうともがいている15歳頃の少年少女は、不安定で怒りっぽい。親に構われるのも嫌だし、完全に放って置かれるのも寂しいし…とにかく面倒臭いのがこの時期の子供の特徴だ。親も子供も苦しいのだが、主人公のドロシアのように、“ねえ、ちょっと子育てを手伝ってよ”と他人を頼るのは意外に難しい。ドロシア流の子育てから、学ぶことは多そうだ。
ドロシアのモデルは、またまたマイク・ミルズ監督のお母さんだそうで、前作に引き続き、等身大のユニークな母親像が期待できる。思春期の子供を連れて、親子で鑑賞するのも面白い。
花戦さ
この物語の主人公は、戦国時代末期を生きた花僧の池坊専好。専好の天才的ないけばなは、織田信長や豊臣秀吉、千利休といった大物たちを魅了し、大評判になる。特に、茶の道を極める利休とは互いを認め合う友人となり、親交を深めていく。ところが、秀吉の暴挙により利休は命を落とし、専好は利休や民のために立ち上がる。しかし専好が秀吉と戦うために用意した武器は、彼が心から愛する“花”だった!
この作品の面白いところは、豊臣秀吉、織田信長、前田利家、千利休といった歴史上の超有名人を脇役にして、ほぼ無名の池坊専好という花僧を主人公に置いたことだろう。専好を描くということは、いけばなの世界を描くということでもあり、その着眼点も斬新だ。
本作には、由緒ある池坊が監修したいけばなが200瓶以上登場するので、映像美へのこだわりにも期待できる。大きなスクリーンで、一流のいけばなを愛でる機会はそうない。加えて、野村萬斎、市川猿之助、中井貴一、佐々木蔵之介、そして佐藤浩市という豪華キャストの共演も見逃せない。いけばなという日本の伝統文化が、新しい感覚の時代劇で映像化されるのは、いけばな界を守ってきた人たちにとっても嬉しいことだろう。
武曲 MUKOKU
剣豪の父親に剣道の英才教育を受けた主人公の研吾は、剣道の達人へと成長。しかし、あることがあって剣を捨て、退廃的な日々を送るようになる。そんな研吾が、天才的な少年剣士と出会い、命がけの決闘をすることになる。
タイトルと剣道というテーマから、この作品を時代劇だと勘違いする人も多いのではないだろうか。しかし物語の舞台は現代の日本で、木刀を持って戦う2人の男も今風の若者だ。特に研吾のライバルとなる羽田は、ラップ好きの今時の高校生であり、とても天才剣士には見えない。ところがこの作品、1番の見どころが豪雨の中の決闘シーンだというのだから、なかなか強気ではないか。
時代劇が主流だった昔の役者と違って、現代の役者で本格的な殺陣の特訓をしたという人は少ないだろう。さらに本作は血飛沫が飛びまくる派手なアクション映画ではなく、木刀を使用した1対1の勝負が見せ場なのだから、演じる2人は大変だ。CGや数でのごまかしが効かないので、2人の殺陣がしっかりしていないとどうにもならない。
剣道の真剣勝負というものは、非常に張り詰めた迫力がある。さらにとても美しい。主人公の研吾は剣道五段の腕前であり、対する羽田は類稀なる才能を持った天才剣士という設定だ。果たして、綾野剛と村上虹郎はどこまで観客をうならせる決闘シーンを見せてくれるのか。6分間にも及ぶという2人の死闘を見届けるだけでも、この作品を見る価値があるかもしれない。
セールスマン
2011年公開の「別離」で数え切れないほどの映画賞を受賞し、世界中の評論家から大絶賛されたイランのアスガー・ファルハディ監督が、2013年公開の「ある過去の行方」に続いて、2016年に製作したのがこの作品だ。アスガー・ファルハディ監督は、この作品で第89回アカデミー賞外国語映画賞を受賞している。
本作は、引越し先の自宅で妻を襲われた主人公が、事件を表沙汰にしたくないという妻の思惑に反して、自ら犯人探しをするというサスペンスであり、脚本もファルハディ監督が手がけている。
犯人探しのみならず、微妙にすれ違っていく夫婦の感情が随所に描き出され、物語を複雑にしていく。さらに、この夫婦と関係の深い戯曲として、アーサー・ミラーの「セールスマンの死」が象徴的に使われ、物語に奥行きを与えている。“そんなサスペンスの意外な結末とは?”と言われると、見たくなるのが人情というものだ。
作品の完成度の高さはすでにお墨付きなので、安心して劇場に足を運んで欲しい。
おとなの恋の測り方
携帯電話を忘れたことがきっかけで出会った男性は、知的で話し上手なお金持ちの建築家であり、性格も最高。しかも自分のことを気に入ってくれ、一緒にいるととにかく楽しい。何もかもがほぼ完璧なのに、背だけが極端に低い。そんな男性が目の前に現れたら、あなたならどうしますか?
2011年公開の「アーティスト」で主人公のハリウッドスターを演じ、見事オスカーを手にしたジャン・デュジャルダンが、いろいろと最高なのに背が低い男アレクサンドルを演じている。
アレクサンドルの身長は、おそらく140センチほどで、ヴィルジニー・エフィラの演じるヒロインのディアーヌとの身長差は、30センチ近いだろう。シルエットだけ見ると、大人と小学生くらいの子供に見えてしまう。ここまで身長差があると、“全く気にならない!”とすんなり思える人は少ないはずだ。実際、ディアーヌも周囲の人たちも、彼の身長が気になって仕方がない。しかし、アレクサンドル自身は、“それも自分の個性だ”と言い切っており、そういうところも魅力的。
南フランスのマルセイユを舞台にしたユニークな発想のフレンチ・ラブコメは、大人の恋愛模様をコミカルに描きつつ、“人間の魅力とは何か”を私たちに教えてくれる。
TAP THE LAST SHOW
水谷豊といえば、1978年から81年にかけてテレビ放送された大人気ドラマ「熱中時代」の北野先生役や、現在も続く「相棒シリーズ」の杉下右京役のイメージが強い。北野先生には、くせの強い訛りがあり、杉下右京も独特の立ち振る舞いや喋り方が印象的な役だ。多くの視聴者を魅了する水谷豊の役作りは素晴らしいのだが、意外にも水谷豊の役者としての幅の広さは、知らないままきているような気がする。
そんな水谷が、40年間も温めてきた企画を映画化したのがこの作品だ。水谷は監督と主演を務めており、この作品への並々ならぬ意気込みが感じられる。役者としてのキャリアは長い水谷だが、監督はこれが初めてであり、その点でも注目度は高い。
作品のテーマはタップダンス。怪我によりダンサー生命を絶たれた元天才タップダンサーが、長年の友人である劇場支配人に、劇場最後となるショウの演出を頼まれ、厳しいオーディションで選んだ若手ダンサーを育てていくという物語。
見どころは何と言っても24分間もあるというクライマックスのラスト・ショウだろう。133分の上映時間で、24分間もタップダンスのショウが続くというのは大変なことだ。果たして水谷豊は、この長いクライマックスをどんな演出で見せてくれるのか。成功していれば、かなり熱い。
ありがとう、トニ・エルドマン
コンサルタント会社で働くイネスは、バリバリのキャリアウーマン。彼女の父親のヴィンフリートは、仕事のことしか頭にない娘の人生を心配している。しかし、なかなかその想いは伝わらず、娘には疎ましがられるばかり。悪ふざけの得意なヴィンフリートは、自らを“トニ・エルドマン”と名乗り、奇妙な変装をしてあらゆる場所に出現し始める。イネスはイラつきながらも、いつしか父の深い愛情と笑いに救われていく。
この作品、短い予告編だけで笑えてしまうのだからすごい。6月に公開される映画の中では間違いなくイチオシ作品であり、絶対に見逃したくない作品だ。数え切れないほどの映画賞を受賞し、世界各国の評論家に大絶賛され、すでに大勢の観客を幸せにしてきた傑作コメディは、私たちにも多くの笑いと心の潤いを与えてくれることだろう。
2010年公開の「幸せの始まりは」を最後に映画出演がなく、その後引退を表明していたあの名優ジャック・ニコルソンが、この作品に感動し、引退を撤回したというのだからただ事ではない。ジャック・ニコルソン自身が熱望し、ハリウッド・リメイク版で父親役を演じるとの情報が入っている。それが実現したら、映画ファンとして、これほど嬉しいことはない。
ジーサンズ はじめての強盗
80歳を超える3人組のジーサンズが、搾取された年金を奪い返すため、人生初の銀行強盗を企てるという痛快コメディ。
最近は世界中で高齢化社会が進んでいるらしく、ハリウッドを中心に、年寄りが老体に鞭打ってひと暴れする高齢者ムービー(そんなジャンルは多分ないがあえて命名)が数多く製作されている。2013年公開の「ラストベガス」は、本作にも出演しているモーガン・フリーマンや、ロバート・デ・ニーロ、マイケル・ダグラスといった名優たちが共演して話題を呼んだ。日本でも2014年に北野武監督が「龍三と七人の子分たち」で、藤竜也や近藤正臣を起用し、高齢者が大活躍するコメディ映画を製作した。それだけ、高齢になってもまだまだ現役で活躍できるベテラン俳優が増えてきたということかもしれない。
本作で3人組を演じるのも、6月1日で80歳になるモーガン・フリーマン、84歳のマイケル・ケイン、83歳のアラン・アーキンというすごいメンバーだ。3人ともがオスカー俳優であり、彼らが出演した数々の名作を見てきた映画ファンにとっては、彼らが並ぶ絵面を見ているだけで感慨深いものがある。
このタイプの高齢者ムービーも、少々ワンパターン化してきた感はあるが、今後も似たような作品は増えるだろう。キャストの豪華さだけでなく、内容の良さで勝負できる作品が生まれることを祈る。
2017年6月公開映画一覧
公開日 | 作品タイトル |
---|---|
2017/6/1(木) | LOGAN ローガン |
2017/6/1(木) | ゴールド 金塊の行方 |
2017/6/2(金) | 英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2016/17 ロイヤル・バレエ「ジュエルズ」 |
2017/6/3(土) | 花戦さ 注目! |
2017/6/3(土) | トモダチゲーム 劇場版 |
2017/6/3(土) | 20センチュリー・ウーマン 注目! |
2017/6/3(土) | 生きとし生けるもの |
2017/6/3(土) | 海辺のリア |
2017/6/3(土) | 劇場版 屍囚獄 起ノ篇 |
2017/6/3(土) | ザ・ダンサー |
2017/6/3(土) | シネマ歌舞伎 東海道中膝栗毛 やじきた |
2017/6/3(土) | 女流闘牌伝 aki アキ |
2017/6/3(土) | 素敵な遺産相続 |
2017/6/3(土) | ダブルミンツ |
2017/6/3(土) | 蜷川幸雄シアター「ヴェニスの商人」 |
2017/6/3(土) | 光と血 |
2017/6/3(土) | ブラッド・ファーザー |
2017/6/3(土) | ボブ・ディラン 我が道は変る 1961-1965 フォークの時代 |
2017/6/3(土) | 武曲 MUKOKU 注目! |
2017/6/3(土) | ラプチャー 破裂 |
2017/6/3(土) | ローマ法王になる日まで |
2017/6/3(土) | 笑う101歳×2 笹本恒子 むのたけじ |
2017/6/9(金) | 怪物はささやく |
2017/6/9(金) | パトリオット・デイ |
2017/6/10(土) | 昼顔 |
2017/6/10(土) | 22年目の告白 私が殺人犯です |
2017/6/10(土) | アイム・ノット・シリアルキラー |
2017/6/10(土) | ある決闘 セントヘレナの掟 |
2017/6/10(土) | 教科書にないッ!3 |
2017/6/10(土) | きらめく拍手の音 |
2017/6/10(土) | KING OF PRISM PRIDE the HERO |
2017/6/10(土) | 劇場版 屍囚獄 結ノ篇 |
2017/6/10(土) | コール・オブ・ヒーローズ 武勇伝 |
2017/6/10(土) | コールド・ウォー 香港警察 堕ちた正義 |
2017/6/10(土) | 残像 |
2017/6/10(土) | セールスマン 注目! |
2017/6/10(土) | パパのお弁当は世界一 |
2017/6/10(土) | マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白 |
2017/6/10(土) | めがみさま |
2017/6/10(土) | METライブビューイング2016-17 R・シュトラウス「ばらの騎士」 |
2017/6/10(土) | 吉田類の「今宵、ほろ酔い酒場で」 |
2017/6/16(金) | 映画 山田孝之3D |
2017/6/16(金) | ナショナル・シアター・ライヴ 2017 「三文オペラ」 |
2017/6/16(金) | レイルロード・タイガー |
2017/6/17(土) | こどもつかい |
2017/6/17(土) | おとなの恋の測り方 注目! |
2017/6/17(土) | ガールズ・イン・トラブル スペース・スクワッド エピソードゼロ |
2017/6/17(土) | 教科書にないッ!4 |
2017/6/17(土) | キング・アーサー |
2017/6/17(土) | 劇場版 魔法科高校の劣等生 星を呼ぶ少女 |
2017/6/17(土) | 心に吹く風 |
2017/6/17(土) | スペース・スクワッド ギャバンVSデカレンジャー |
2017/6/17(土) | 世界にひとつの金メダル |
2017/6/17(土) | TAP THE LAST SHOW 注目! |
2017/6/17(土) | ドッグ・イート・ドッグ |
2017/6/17(土) | 嘆きの王冠 ホロウ・クラウン ヘンリー五世 |
2017/6/17(土) | 嘆きの王冠 ホロウ・クラウン ヘンリー四世 PART1 |
2017/6/17(土) | 嘆きの王冠 ホロウ・クラウン ヘンリー四世 PART2 |
2017/6/17(土) | 嘆きの王冠 ホロウ・クラウン リチャード二世 |
2017/6/17(土) | 箱入娘面屋人魚 |
2017/6/17(土) | ハーフネルソン |
2017/6/17(土) | メサイア外伝 極夜 Polar night |
2017/6/17(土) | 約束の地、メンフィス テイク・ミー・トゥー・ザ・リバー |
2017/6/17(土) | リベンジ・リスト |
2017/6/17(土) | 霊眼探偵カルテット |
2017/6/23(金) | フィフティ・シェイズ・ダーカー |
2017/6/24(土) | ありがとう、トニ・エルドマン 注目! |
2017/6/24(土) | イイネ!イイネ!イイネ! |
2017/6/24(土) | いつまた、君と 何日君再来(ホーリージュンザイライ) |
2017/6/24(土) | いのちのはじまり 子育てが未来をつくる |
2017/6/24(土) | ウィンター・ウォー 厳寒の攻防戦 オリジナル完全版 |
2017/6/24(土) | 宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち 第二章「発進篇」 |
2017/6/24(土) | 結婚 |
2017/6/24(土) | ジーサンズ はじめての強盗 注目! |
2017/6/24(土) | 嘆きの王冠 ホロウ・クラウン リチャード三世 |
2017/6/24(土) | ハイヒール こだわりが生んだおとぎ話 |
2017/6/24(土) | ハクソー・リッジ |
2017/6/24(土) | BUCK-TICK CLIMAX TOGETHER ON SCREEN 1992-2016 |
2017/6/24(土) | ひだまりが聴こえる |
2017/6/24(土) | ふたりの旅路 |
2017/6/24(土) | 便利屋エレジー |
2017/6/24(土) | ぼくらの亡命 |
2017/6/24(土) | マローダーズ 襲撃者 |
2017/6/24(土) | ラオス 竜の奇跡 |
2017/6/24(土) | ラスト・プリンセス 大韓帝国最後の皇女 |
2017/6/30(金) | 兄に愛されすぎて困ってます |
みんなの感想・レビュー