とにかく暑い夏がやってきた。どこを歩いてもクラクラするようなこの時期は、涼しい劇場で映画を楽しむのに最適の季節だ。夏休みデートを計画中の若いカップルには、ポップなコメディ「ロスト・イン・パリ」がおすすめ。ニューヨークを拠点に活躍する福永壮志監督の「リベリアの白い血」も、いよいよ日本で公開となる。
2017年8月公開のおすすめ注目映画
きっと、いい日が待っている
1967年のデンマーク・コペンハーゲン。13歳のエリックと10歳のエルマーは、病気の母親と引き裂かれ、養護施設に入れられる。そこはまるで刑務所のような場所で、自由に夢を語ることさえ許されない。しかし兄弟は明日を信じる力を失わない。
実話を基にして作られたこのドラマは、本国のデンマークで多くの賞を受賞し、北欧各地でも高い評価を得ている。デンマークを代表する俳優のラース・ミケルセンが、子供に容赦ない体罰を加える冷酷な教師役を熱演している。
貧困、母親の死、施設での虐待やいじめという厳しい現実の中で、この兄弟のように希望を捨てずに生きるということは、口で言うほど簡単ではない。現在の日本では、そういう現実に耐えきれず、自ら命を絶つ子供のニュースが後を絶たない。そんなニュースを目にするたびに、“生きていれば、そのうちいいことがあるのに…”と、非常に悔しい思いをする。夏休みを利用して、こういう映画を親子で鑑賞し、子供にたくましく生きることの大切さを教えてあげてほしい。おそらく体罰シーンの関係で、PG12指定になっているが、そういう現実を知ることも、大切なことではないだろうか。
夜明けの祈り
1945年のポーランド。若きフランス人医師のマチルドは、ある修道女の求めに応じて、遠方の修道院を訪れる。そこでマチルドを待っていたのは、ソ連兵にレイプされて子供を身ごもった7人の修道女だった。彼女たちは心身ともに傷ついたうえ、信仰の面でも苦しんでいた。マチルドは修道女たちと新しい命を守るために奔走し、傷ついた女性たちの希望の光になっていく。
実在した医師のマドレーヌ・ポーリアックの実話を題材にして、フランスの女性監督アンヌ・フォンテーヌが、女性の強さと命の尊さを、美しい映像で綴っている。アンヌ・フォンテーヌ監督は、フランスを代表する女性監督で、彼女の作品では、2009年に公開された「ココ・アヴァン・シャネル」が記憶に新しい。彼女はフランス人女性らしいセンスの持ち主で、洗練された映像には、凛とした美しさがある。
修道院という特殊な環境は、日本人の私たちには馴染みが薄いが、どんな経緯であれ、罪なき命を尊重するというマチルドの姿勢には、おそらく誰もが共感できる。地位や名誉やお金ではなく、本当に救いを求めている人々を救おうとする医師の姿は神々しい。こういう女性医師が実在したというだけで、人間であることに希望が持てる。
リベリアの白い血
リベリアのゴム農園で働く労働者たちの過酷な労働環境の実態と、より良い暮らしを求めてアメリカへ渡ったアフリカ系移民の現実を描き、現代社会が抱える問題を浮き彫りにしつつ、人間とは何かを問うていく。
この作品は2015年公開のアメリカ映画だが、監督と脚本を務めているのは34歳の日本人・福永壮志である。彼はニューヨークを拠点に活動する若き新鋭監督で、この作品で長編映画デビューを果たした。本作は映画賞も受賞しているが、注目したいのは、福永監督がインディペンデント・スピリットアワードで、ジョン・カサヴェテス賞にノミネートされたこと。ジョン・カサヴェテスといえば、インディペンデント映画というジャンルを定着させた最大の功労者であり、「グロリア」(80)や「ラヴ・ストリームス」(84)といった素晴らしい作品を残している。今後が期待される若手監督として福永がこの賞にノミネートされたことは、同じ日本人として誇らしい。
さらにこの作品の撮影監督としてクレジットされている村上涼も、福永と同じくニューヨークを拠点に活動してきた撮影監督で、本作は彼のドキュメンタリー作品から着想を得て作られた作品だ。村上はリベリアでの撮影後、重度のマラリアにより、33歳の若さでこの世を去った。まだまだこれからだったのに、本人も無念だったことだろう。彼が生前に残した写真や映像は、彼のホームページで公開されているので、興味がある方はぜひ彼の作品に触れてほしい。村上の魂を感じることができるはずだ。
ロスト・イン・パリ
カナダの田舎町で図書館司書をしているフィオナは、パリで暮らすマーサおばさんから“老人ホームに入れられそうなので助けて”という手紙をもらう。一念発起してパリへ向かったフィオナだったが、88歳になるマーサおばさんは行方知れずで、巨大なリュックに詰めた所持品を全て失ってしまう。怪しげなホームレスのドムまで出現し、フィオナの旅は予想外のハプニングの連続となる。
製作・監督・脚本・主演を務めるのが、フィオナ役のゴードンと、ドム役のアベルという道化師カップル。2人はアベル&ゴードンとして幅広い表現活動をしており、長編映画の製作は「アイスバーグ」(05)、「ルンバ!」(08)に続いて、本作で3本目となる。本業が道化師という独特のセンスを生かした2人の個性的な作品は、口コミで評判が広まり、今では世界中で絶賛されている。
予告編を見てもらえば一目瞭然なのだが、彼らの作風は非常にポップで可愛らしい。そして、色彩感覚のセンスが素晴らしい。おしゃれな雑貨屋さんやカフェが大好きな女子の皆さんは、映像の中の小物や登場人物のさりげないファッションを見ているだけでも楽しめるはず。さらに、エマニュエル・リヴァやビエール・リシャールといった実力派キャストがいい味を出しており、良質なコメディ映画に仕上がっていることは間違いない。カップルで鑑賞するのもおすすめだ。
少女ファニーと運命の旅
公開日:2017/8/11(金)
期待度:80%
ナチスドイツが台頭してきた1943年のフランスで、ユダヤ人の子供たちを保護する児童施設に身を寄せていたファニーは、8人の子供たちとともに、自分たちの力だけでスイスの国境を目指すことになる。ファニーは子供たちのリーダーとしてみんなを励まし、生きるための旅を続ける。
原作はファニー・ベン=アミの自伝小説で、彼女は第二次世界大戦時に、この映画のストーリー通りの経験をしている。リーダー役のファニーでもまだ13歳で、他の子供たちはもっと幼い。そんな子供たちが両親や信頼できる大人と引き離され、死の恐怖に怯えながら長い道のりを旅するのは、どんなに心細かったことだろう。ナチスのユダヤ人虐待の悲惨な歴史は、様々な形で映画化されているが、どの作品を見ても、胃がキリキリと痛むような怒りと恐怖を感じる。
現在イスラエルで暮らしている原作者のファニー・ベン=アミは、今の世界情勢にあの時代と同じような危機を感じ、自著の映画化を許可したという。あの時代を見てきた彼女の言葉はとても重い。なぜ彼女が現在進行形で危険を感じているのか、私たちはその意味をしっかりと考えなければならない。私たちは無力かもしれないが、過去から学び、同じ過ちを繰り返さないよう子供たちを導いていくことはできるはずだ。その小さな努力の積み重ねが、世界の平和を守ると信じたい。
パッション・フラメンコ
サラ・バラスというフラメンコ・ダンサーをご存知だろうか。彼女は現代最高峰のフラメンコ・ダンサーで、フラメンコ界の女王。そんな彼女に密着したドキュメンタリー映画が、この「パッション・フラメンコ」だ。
恥ずかしながら、フラメンコについてはなんの知識もないし、当然舞台を見たこともない。それなのになぜ本作が気になったかというと、このサラ・バラスという女性が、あまりにかっこいいからだ。フラメンコの良し悪しなど全くわからない私でも、彼女がすごいダンサーであることは感覚でわかる。そして彼女の舞台なら、少々値がはっても行ってみたいと思ってしまう。きっと一生モノの価値があるはずだ。しかしながら、彼女のような大物ダンサーが、あまりフラメンコの浸透していない日本で頻繁に公演するとは思えない。それを考えると、劇場のスクリーンで彼女のフラメンコが堪能できるこのチャンスは逃したくない。
彼女はインタビューで、“努力しない者には我慢できないの、さっさと消えて欲しいわ”と厳しいことを言っている。この言葉は、裏を返せば“私は誰よりも努力してきたのよ”という意味に取れる。そういうことをはっきり言えるプロフェッショナルな人の芸には、間違いなく魂がある。見ておいて損はない。
幼な子われらに生まれ
主人公の田中信には離婚歴があり、前妻との間に娘がいる。その娘とは定期的に会っており、田中は現在の妻・奈苗と再婚してからも、その時間を楽しみにしている。奈苗には元夫との間に2人の娘がいて、田中は血の繋がらない2人の娘の父親になった。しかし、再婚して4年が経っても奈苗の長女は田中に懐かず、田中はストレスを感じている。奈苗は田中の子供を身ごもっており、その子が生まれたらすべてうまくいくだろうと楽観的に考えていた。しかし、長女がDV男だった実の父親に会いたいと言い出し、事態はもっと複雑になっていく。
原作は重松清の同名小説で、複雑な親子関係を通して、他人同士が家族になることの難しさや苦悩の先にある希望とは何かを描いている。浅野忠信、田中麗奈、寺島しのぶ、宮藤官九郎といったキャスト陣が、どこにでもいるような人々をリアルに演じている。浅野忠信といえば、少々毒のあるキャラクターのイメージが強いが、本作では平凡なサラリーマンを違和感なく演じており、なかなか本音を言えない男のストレスをうまく表現している。
血の繋がりがあろうとなかろうと、家族というのは面倒臭いものである。しかし、面倒臭いことをいっぱい乗り越えていかないと、おそらく愛も育たない。いろいろと厄介ではあるが、だからこそ人間は愛おしい。
ボブという名の猫 幸せのハイタッチ
ロンドンで暮らすジェームズは、鳴かず飛ばずのストリート・ミュージシャン。彼は人生につまずき、薬物依存症となって家族にも見捨てられ、今ではジリ貧のホームレスだ。そんな彼のどん底人生が、1匹の野良猫を助けたことで少しずつ変化していく。ボブと名付けられたその野良猫は、ジェームズの人生の救世主となる。
原作はジェームズ・ボーエンの「ボブという名のストリート・キャット」で、この物語は実話である。この本は世界中で500万部という驚異的な販売部数を記録した大ベストセラーであり、本国のイギリスでは、ジェームズも猫のボブも超有名人。ボブ自身に自覚はないであろうが、まさに彼は究極の招き猫だ。こういう心温まるサクセス・ストーリーは、みんな大好物だろう。
ボブの偉いところは、本作でも主演猫を務めているという懐の深さとその賢さ。猫を飼ったことがある人にはわかると思うが、猫は犬のように従順ではない。猫をリードに繋いで散歩させたり、肩に乗せて連れ歩いたりすることは、ほぼ不可能だ。しかしボブは当たり前のようにそうしている。よほどジェームズのことを信頼しているか、心配しているか…。どちらにしても2人は最高の相棒だ。羨ましい。
これからもボブが大好きなジェームズと静かに暮らせることを願ってやまない。間違っても、映画のキャンペーンに連れ回されたりしませんように!ボブの可愛さは、劇場のスクリーンで楽しみましょう。
2017年8月公開映画一覧
公開日 | 作品タイトル |
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2017/8/1(火) | アメリカン・ヒーロー |
2017/8/1(火) | アンシーン 見えざる者 |
2017/8/2(水) | ZOOM ズーム |
2017/8/3(木) | ボーイ・ミッシング |
2017/8/4(金) | トランスフォーマー 最後の騎士王 |
2017/8/4(金) | ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 |
2017/8/4(金) | 静かなる復讐 |
2017/8/4(金) | STAR SAND 星砂物語 |
2017/8/5(土) | 宇宙戦隊キュウレンジャー THE MOVIE ゲース・インダベーの逆襲 |
2017/8/5(土) | 干支1/3 |
2017/8/5(土) | エブリシング |
2017/8/5(土) | 沖縄を変えた男 |
2017/8/5(土) | オラファー・エリアソン 視覚と知覚 |
2017/8/5(土) | 俺たちポップスター |
2017/8/5(土) | 怪物学抄 |
2017/8/5(土) | きっと、いい日が待っている 注目! |
2017/8/5(土) | 劇場版 仮面ライダーエグゼイド トゥルー・エンディング |
2017/8/5(土) | 古事記 日向篇 |
2017/8/5(土) | サイゴン・ボディガード |
2017/8/5(土) | サティの「パラード」 |
2017/8/5(土) | 鐘声色彩幻想 |
2017/8/5(土) | スターシップ9 |
2017/8/5(土) | すばらしき映画音楽たち |
2017/8/5(土) | 鶴下絵和歌巻 |
2017/8/5(土) | five fire fish |
2017/8/5(土) | ファンタズムV ザ・ファイナル |
2017/8/5(土) | Fig(無花果) |
2017/8/5(土) | 水の夢 |
2017/8/5(土) | 闇金ドッグス6 |
2017/8/5(土) | 夜明けの祈り 注目! |
2017/8/5(土) | リベリアの白い血 注目! |
2017/8/5(土) | ロスト・イン・パリ 注目! |
2017/8/7(月) | ウェズリー・スナイプス シールド・フォース 監獄要塞 |
2017/8/8(火) | アトラクション 制圧 |
2017/8/8(火) | グレースフィールド・インシデント |
2017/8/11(金) | スパイダーマン ホームカミング |
2017/8/11(金) | 少女ファニーと運命の旅 注目! |
2017/8/11(金) | ターミネーター2 3D |
2017/8/12(土) | フェリシーと夢のトウシューズ |
2017/8/12(土) | 海の彼方 |
2017/8/12(土) | 海底47m |
2017/8/12(土) | コスタリカの奇跡 積極的平和国家のつくり方 |
2017/8/12(土) | チャルカ 未来を紡ぐ糸車 |
2017/8/12(土) | デス・レース2000年 |
2017/8/12(土) | ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦 |
2017/8/12(土) | RE:BORN リボーン |
2017/8/12(土) | 隣人のゆくえ あの夏の歌声 |
2017/8/13(日) | ケージ・ダイブ |
2017/8/15(火) | クロージング・ナイト 地獄のゾンビ劇場 |
2017/8/18(金) | 打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか? |
2017/8/19(土) | ベイビー・ドライバー |
2017/8/19(土) | いつも心はジャイアント |
2017/8/19(土) | 怪談新耳袋Gメン 復活編 |
2017/8/19(土) | 隠された時間 |
2017/8/19(土) | キングス・オブ・サマー |
2017/8/19(土) | ギフト 僕がきみに残せるもの |
2017/8/19(土) | グレムリン2017 異種誕生 |
2017/8/19(土) | 蠱毒(こどく) ミートボールマシン |
2017/8/19(土) | 処刑遊戯 DEAD OR ALIVE |
2017/8/19(土) | 草原に黄色い花を見つける |
2017/8/19(土) | ZOMBEE(ゾンビー) 最凶ゾンビ蜂 襲来 |
2017/8/19(土) | ダイバージェントFINAL |
2017/8/19(土) | 「超」怖い話2 |
2017/8/19(土) | 血を吸う粘土 |
2017/8/19(土) | ドルフ・ラングレン ゾンビ・ハンター |
2017/8/19(土) | 日曜日の散歩者 わすれられた台湾詩人たち |
2017/8/19(土) | HiGH&LOW THE MOVIE 2 END OF SKY |
2017/8/19(土) | パッション・フラメンコ 注目! |
2017/8/19(土) | 魔法使いの嫁 星待つひと 後篇 |
2017/8/19(土) | LUCK-KEY ラッキー |
2017/8/25(金) | ワンダーウーマン |
2017/8/25(金) | 映画くまのがっこう パティシエ・ジャッキーとおひさまのスイーツ |
2017/8/25(金) | 映画ふうせんいぬティニー なんだかふしぎなきょうりゅうのくに! |
2017/8/25(金) | エル ELLE |
2017/8/25(金) | きみの声をとどけたい |
2017/8/26(土) | 関ヶ原 |
2017/8/26(土) | 阿修羅少女(アシュラガール) BLOOD-C 異聞 |
2017/8/26(土) | 米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー |
2017/8/26(土) | 幼な子われらに生まれ 注目! |
2017/8/26(土) | 関西ジャニーズJr.のお笑いスター誕生! |
2017/8/26(土) | カンフー・パンダ3 |
2017/8/26(土) | 劇場版 Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 雪下の誓い |
2017/8/26(土) | 此の岸のこと |
2017/8/26(土) | 戦争のはらわた |
2017/8/26(土) | 月子 |
2017/8/26(土) | ハイジ アルプスの物語 |
2017/8/26(土) | 春なれや |
2017/8/26(土) | パターソン |
2017/8/26(土) | 美男高校地球防衛部LOVE!LOVE!LOVE! |
2017/8/26(土) | ボブという名の猫 幸せのハイタッチ 注目! |
2017/8/26(土) | MOTHER FUCKER |
2017/8/26(土) | もうろうをいきる |
2017/8/26(土) | わさび |
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