1969年、映画監督・若松孝二が創設した“若松プロダクション”の門を叩き、ピンク映画の助監督になった21歳のめぐみは、映画作りの面白さに目覚めながらも、自分が何を表現したいのかわからずにいた。白石和彌監督が描く、若松プロを舞台にしたエネルギッシュな青春群像劇。
映画『止められるか、俺たちを』の作品情報
- タイトル
- 止められるか、俺たちを
- 原題
- なし
- 製作年
- 2018年
- 日本公開日
- 2018年10月13日(土)
- 上映時間
- 119分
- ジャンル
- ヒューマンドラマ
青春 - 監督
- 白石和彌
- 脚本
- 井上淳一
- 製作
- 尾崎宗子
大日方教史
大友麻子 - 製作総指揮
- なし
- キャスト
- 門脇麦
井浦新
山本浩司
タモト清嵐
毎熊克哉
奥田瑛二
寺島しのぶ
高岡蒼佑 - 製作国
- 日本
- 配給
- 若松プロダクション
スコーレ
映画『止められるか、俺たちを』の作品概要
「ピンク映画の黒澤明」と言われた日本映画界の鬼才・若松孝二監督が創設した“若松プロ”を舞台に、何者かになろうともがく若者たちの姿を描いた青春群像劇。2012年に事故で急逝した若松監督の愛弟子・白石和彌がメガホンをとり、若松プロの再始動第一弾となるギラギラした青春映画を完成させた。ヒロインには門脇麦が抜擢され、若松プロに新たな風を吹き込む。若松監督に扮する井浦新をはじめとして、若松組の常連キャストやスタッフも顔を揃え、若松プロの再スタートを盛り上げている。
映画『止められるか、俺たちを』の予告動画
映画『止められるか、俺たちを』の登場人物(キャスト)
- 吉積めぐみ(門脇麦)
- 新宿のフーテン仲間に誘われ、21歳の時に若松プロダクションへ入り、助監督の仕事を始める。自分が何をしたいのか、何になりたいのか、見つけられずにいる。
- 若松孝二(井浦新)
- 若松プロダクションを立ち上げた映画監督。1969年当時はピンク映画の旗手として知られており、才能ある若者たちのリーダー的存在だった。
映画『止められるか、俺たちを』のあらすじ(ネタバレなし)
1969年春。新宿でフーテンをしていた21歳の吉積めぐみは、仲間の秋山道男(通称オバケ)に誘われ、若松プロダクションの門を叩く。若松プロを創設した映画監督の若松孝二は、斬新なピンク映画を次々と発表し、時代に敏感な若者たちを熱狂させていた。好奇心旺盛なめぐみは、新進気鋭の若者たちが集う若松プロの雰囲気を気に入り、若松の下で助監督の仕事を始める。
助監督の仕事というのは、男でも逃げ出すほどの過酷な労働だったが、めぐみは若松の人間性と映画作りの面白さに魅了され、助監督を続ける。一方で、めぐみは自分自身がどんな映画を作りたいのか、何になりたくてここにいるのかがわからず、漠然とした不安と焦りを感じていた。そんな中、若松が映画『赤軍-PFLP 世界戦争宣言』を作ったのをきっかけに、若松プロには政治活動家の若者たちが頻繁に出入りするようになり、めぐみは居心地の悪さを感じ始める。そして、「やがては、監督…若松孝二にヤイバを突き付けないと…」と思うようになるのだが…。
映画『止められるか、俺たちを』の感想・評価
若松孝二監督
1963年にピンク映画『甘い罠』で映画監督デビューを果たした若松孝二は、問題作を次々と発表し、時代に敏感な若者たちから熱狂的に支持された。若松監督は、低予算のピンク映画でも常に本物であることを目指し、「映画を武器に世界と闘う」という志を持って映画作りを続ける。1965年に創設された“若松プロダクション”には、そんな若松を慕う若者たちが数多く集まり、若松と共に映画漬けの日々を送っていた。
若松の映画に対する情熱は、70歳を過ぎても全く衰えない。2008年(若松は72歳)に全国公開された『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』は、第58回ベルリン国際映画祭最優秀アジア映画賞や第18回日本映画批評家大賞作品賞など、国内外で数多くの映画賞を受賞している。その後も『キャタピラー』(10)、『海燕ホテル・ブルー』(12)、『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』(12)、『千年の愉楽』(12)と精力的に新作を発表していたが、2012年10月17日、不運な交通事故により還らぬ人となる。享年76歳。事故直前まで映画の話をしていた若松監督の告別式には、監督を慕う多くの映画人が参列し、大きな拍手で監督を送り出した。まるで映画のワンシーンのような、若松監督らしい最後である。
若松監督の愛弟子・白石和彌、そして若松監督になった井浦新
若松監督は、多くの才能を育てた名伯楽としても知られている。本作の監督・白石和彌も若い頃に若松プロで助監督をして、映画作りを学んだ。つまり、若松孝二は白石監督の師匠なのだ。白石監督は「若松さんの声をもう一度聞きたい」という想いで、この映画を企画した。白石監督と同じく、若松プロで助監督経験のある井上淳一(脚本)と大日方孝史(プロデューサー)、『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』で若松監督とタッグを組んだ辻智彦(撮影)と大久保礼司(照明)もこの企画に乗り、若松プロ映画製作再始動第一弾となる本作を支えている。
また、若かりし日の若松孝二を演じる井浦新も、若松監督に愛された俳優であり、晩年の若松作品の常連だった。井浦にとっても、若松監督は人生の師匠と呼べる存在であったはずだ。ただ、若松監督を演じるには、井浦が男前すぎるのではないかと心配する声もあったようだ。しかし、白石監督は、井浦以外にこの役を任せるなんてあり得ないと思っていた。白石監督以上に、井浦自身がそう思っていたようで、それは予告編を見ただけでわかる。ほんの数秒のシーンなのに、若松監督に扮した井浦のパワーに圧倒されてしまう。
主人公を吉積めぐみにした理由
1970年前後の若松プロを舞台にした映画と聞けば、当然、若松孝二が主人公になるのかと思いきや、白石監督は、あえて無名の助監督・吉積めぐみを主人公にした。本作の登場人物は、みんな実在の人物であり、めぐみも実在した女性だ。彼女について詳しく書くと、物語のネタバレになるのでそこは避けるが、当時の若松プロには吉積めぐみという若い女性の助監督がいた。女性が助監督をしているだけでも珍しい時代だったのに、めぐみは自ら志願して、ピンク映画の助監督になっている。めぐみは新しい世界に飛び込むことで、自分という人間が何者なのか、何を表現したいのか、そして、何者になれるのか、見極めようとしたのだろう。それは彼女だけでなく、若松プロに出入りしていた若者すべての共通点であり、白石監督も「これは自分自身の話でもある」と語っている。白石監督は、爆発的なエネルギーと脆さを併せ持っためぐみを主人公にすることで、この作品を普遍的な青春映画に仕上げている。そして、めぐみ目線の物語にすることで、若松監督の弱者への眼差しや無頼の優しさを描こうとしている。その視点には「表現者は権力の側から描かない」「底辺からものを見る」という、若松監督の教えが生きているのだろう。
映画『止められるか、俺たちを』の公開前に見ておきたい映画
実録・連合赤軍 あさま山荘への道程
60年安保闘争を経て、全国に広がった学生運動の高まりは、過激な暴力へと激化していく。警察の取り締まりが厳しくなる中、永田洋子(並木愛枝)と坂口弘(ARATA)を中心とした革命左派と森恒夫(地曵豪)をリーダーとする赤軍派が手を組み、「連合赤軍」を結成する。彼らは山岳地帯に身を隠し、軍事訓練を開始するのだが、森と永田は「総括」と称して仲間に暴力を強要し、目障りなメンバーを次々と殺害していく。その後、山を下りた森と永田は逮捕され、坂口ら5人のメンバーはあさま山荘へ逃げ込み、管理人の妻を人質にして、前代未聞の立てこもり事件を起こす。
若松監督が、連合赤軍の側から一連の事件の詳細を描いた傑作で、いかにして連合赤軍が生まれ、彼らがあさま山荘に立てこもることになったのかが、よくわかる。特に、山岳ベースで「総括」と称された暴力がどうやって始まり、12名もの犠牲者を出すリンチ殺人事件へと発展していったのかは入念に描かれており、強い怒りと恐怖を感じる。不条理な理由で総括を強要され、絶望の中で死んでいく若者たちの姿は、あまりにも哀れだ。若松監督の容赦ない演出とキャスト陣の迫真の演技が、山小屋の重苦しい空気をリアルに再現しており、圧倒的な絶望感で観客を支配する。作品内では、最後に最年少の少年が「俺たちは勇気がなかったんだ!」と何度も叫ぶ。このセリフに、若松監督の怒りと無念さが込められているような気がする。
詳細 実録・連合赤軍 あさま山荘への道程
日本で一番悪い奴ら
北海道県警に就職した諸星要一(綾野剛)は、得意の柔道で柔道部を日本一に導くが、不器用な性格のため、刑事としては活躍できずにいた。先輩刑事の村井(ピエール瀧)から「点数稼ぎしたければ、裏社会に飛び込め」と教えられた諸星は、バカ正直にそれを実行する。そのおかげで数々の功績をあげるが、諸星は裏社会の深みにはまり、後戻りできなくなっていく。
白石和彌監督の3作目となる長編作品で、元北海道警察警部・稲葉圭昭の『恥さらし 北海道警察 悪徳刑事』を原作とした犯罪映画。『ロストパラダイス・イン・トーキョー』(10)でセンセーショナルな長編映画監督デビューを果たした白石監督は、2作目の『凶悪』(13)で数え切れないほどの映画賞を受賞し、知名度を確立した。人間の体温や体臭まで伝わってくるような本物の映画が作れる白石監督の出現は、妙におとなしくなってしまった日本の映画界に衝撃を与え、観客を興奮させた。『日本で一番悪い奴ら』も、映画全体がギラギラとした熱を持っていて、その世界観に引き込まれる。2018年5月に公開された『孤狼の血』も絶好調であり、白石和彌監督作品への信頼度は確固たるものになったと言えるだろう。
詳細 日本で一番悪い奴ら
愛の渦
見知らぬ男女が集まり、乱行パーティを行う裏風俗があると知った根暗なニートの男(池松壮亮)は、参加費2万円を払って、とあるマンションの一室に入る。シャワーを浴び、バスタオル1枚の姿になった8名の男女の中に、場違いな雰囲気の地味な女子大生(門脇麦)がいた。ニートの男と女子大生は合意して行為に及ぶのだが、行為が始まると女子大生はすごい喘ぎ声を上げ始め、他の参加者を唖然とさせる。ニートの男はそんな女子大生に、運命的なものを感じるのだが…。
三浦大輔の戯曲を三浦本人が監督を務めて映画化した作品で、123分の上映時間中、出演者が服を着ている時間が18分程度しかないという問題作。乱行パーティの話なので当然なのだが、濡れ場は多い。そのため、R18指定になっているが、ネチネチとしたエロさはなく、密室の群像劇として楽しめる。門脇麦は見事な脱ぎっぷりで極端な二面性を持つ女子大生を演じ切り、強烈な印象を残した。
門脇麦というのは不思議な女優で、その正体はつかみにくい。パッと見は静かなのだが、内側にはフツフツと煮えたぎるマグマの塊を抱えていて、何かのきっかけでそれが爆発すると、ものすごいエネルギーを放出しそうな女優とでも言おうか。『止められるか、俺たちを』では、ついにそのマグマを爆発させた門脇麦が見られそうだ。
詳細 愛の渦
映画『止められるか、俺たちを』の評判・口コミ・レビュー
『止められるか、俺たちを』めっちゃ良かった…早速友達に勧めた。
最近のキラキラ青春映画より青春してた。ほんとに。こんな時代もあったんだなぁ。
どっちかというと、こういうタイプの青春映画の方が好み。
気付いたら食い入るように観てたくらい、久々に最初から引き込まれる映画だった。最高。— のすけ☻ (@yu_meno_suke) 2018年10月14日
夜は映画『止められるか、俺たちを』。もう、これは、もう、たまらん… 鳥肌が立つほど大興奮でした。あの人の役をこの人が!という楽しみも。既にもう一度観たくなっている。さっきの夢の中にまで出てきた。そして若松映画を観直したくなること請け合い。どこかで特集上映、やってくれないかなー! pic.twitter.com/auuQR6EX3e
— kuma (@kuma19690618) 2018年10月13日
『止められるか、俺たちを』を観た。若松孝二を愛するスタッフとキャストたちによる、かつての若松プロダクションを舞台にした青春映画。
若松プロ「復活」の一作目が、弔いをめぐるものであったのは象徴的である。
タイトルは、映画の内容自体より、映画の作り手たちの魂の叫びを表すものなのだろう。 pic.twitter.com/lb3oMgtfEV— toshia mizuochi (@toshia_mizuochi) 2018年10月13日
『止められるか、俺たちを』止められない程の勢いがあまり感じられなかった。めぐみの表現したいものがないという苦悩の描き方も弱かった。一番良かったのはめぐみの監督作品試写後の喫煙所場面。緊張感が漂い言葉ではなく映像でダメだったことがひしひしと伝わり居たたまれなかった。役者さんは皆良 pic.twitter.com/WTDAtgzbaE
— 里奈 (@goekunchan) 2018年10月13日
「止められるか、俺たちを」
初日舞台挨拶inテアトル新宿。皆さんの映画(若松監督)への愛が、ひしひしと伝わってくる。エログロな映画をイメージしてたけど、否!これは青春映画だ!馬鹿と罵倒されようが、言い方が軽妙で小気味良い。若松プロを知ってる人も知らない人も観るべき映画。 #止め俺 pic.twitter.com/3uTIqCMSbH— nachi18 (@nachi1861763) 2018年10月13日
映画『止められるか、俺たちを』のまとめ
“本物の映画”とは何なのか、言葉で説明するのは難しい。ひとつだけ確かなことは、その映画に関わった人たちが、どれだけ本気でその映画と向き合い、どれほどの愛を込めて作ったのかは、目に見えないけれど、熱量として伝わってくるということだ。そこは理屈ではなく、何かオーラのようなものになって、作品の中に宿る。そのオーラを感じ取れる作品と出会えた時、無性に胸が熱くなり、自然と涙がこみ上げてくる。若松監督は、その目には見えない熱量のようなものを大事にしていて、それがある作品だけを“本物の映画”と認めたのではないだろうか。本作は、そんな本物の映画作りの現場を、私たちに見せてくれる。
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