2017年カンヌ国際映画祭批評家週間のオープニング作品に選出された、少年少女の美しく切ないラブストーリー。1993年、シチリアで実際に起きた凄惨な誘拐事件を元に、子供たちの純粋な心強さをファビオ・グラッサドニア監督とアントニオ・ピアッツァが描く。
映画『シシリアン・ゴースト・ストーリー』の作品情報
- タイトル
- シシリアン・ゴースト・ストーリー
- 原題
- Sicilian Ghost Story
- 製作年
- 2017年
- 日本公開日
- 2018年12月22日(土)
- 上映時間
- 123分
- ジャンル
- ラブストーリー
- 監督
- アントニオ・ピアッツァ
ファミオ・グラッサドニア - 脚本
- アントニオ・ピアッツァ
ファミオ・グラッサドニア - 製作
- ニコラ・ジュリアーノ
フランチェスカ・シーマ
カルロッタ・カローリ
マッシモ・クリスタルディ - 製作総指揮
- 不明
- キャスト
- ユリア・イェドリコブスカ
ガエターノ・フェルナンデス
ビンチェンツォ・アマート
サビーネ・ティモテオ - 製作国
- イタリア
フランス
スイス - 配給
- ミモザフィルムズ
映画『シシリアン・ゴースト・ストーリー』の作品概要
1993年、イタリアの美しい島シチリアで実際に起きた凄惨な誘拐事件を元に、魔法にかけられたような幻想的な世界の中で、少年少女の美しく切ないラブストーリーが誕生する。2013年カンヌ国際映画祭批評家週間で、デビュー作『狼は暗闇の天使』がグランプリに輝いたファビオ・グラッサドニアとアントニオ・ピアッツァのコンビが送る、純粋な心の強さをもった少年少女の物語。主人公の2人を演じるのは、今作で映画デビューとなるユリア・イェドリコブスカと美少年ガエターノ・フェルナンデス。
映画『シシリアン・ゴースト・ストーリー』の予告動画
映画『シシリアン・ゴースト・ストーリー』の登場人物(キャスト)
- ルナ(ユリア・イェドリコブスカ)
- 13歳の少女。同級生の美少年ジュゼッペに恋をしているが、まだ進展はしていない。
- ジュゼッペ(ガエターノ・フェルナンデス)
- 13歳の美少年。ルカと同級生で、ルナのことを少なからず思っている。ある日突然行方不明になる。
映画『シシリアン・ゴースト・ストーリー』のあらすじ(ネタバレなし)
芸術の街、青く美しい海が広がる、地中海の麗しき島、イタリアの南に位置するシチリア島で豊かな自然に囲まれながら2人の少年と少女が暮らしている。小さな村の中に、少年ジュゼッペの美しさは際立ち、同級生でクラスメイトのルナは、ジュゼッペに恋心を寄せていた。
ジュゼッペために思いを書いた手紙を、ある日ジュゼッペに見られてしまい、2人はお互いの思いを知る。ルナはジュゼッペに、ジュゼッペはルナに恋心を抱いていた。一緒に学校から帰り、豊かな森の中を歩き、ジュゼッペの得意な乗馬を眺めて、2人は甘いひと時を過ごす。
ところが、ジュゼッペはある日を境に学校を欠席するようになる。ジュゼッペが一向に姿を見せないので、気になったルナはジュゼッペの家を訪ね、ジュゼッペが学校に来ない理由を両親に尋ねる。だが、ジュゼッペの親は口を閉ざし、ルナを追い返してしまうのだった。
ジュゼッペはどこに行ってしまったのか、ルナはジュゼッペを探すために親に尋ね、先生に尋ね、警察に尋ねる。だが、大人たちは誰しもが口を閉ざし、ジュゼッペの行方は分からなかった。大人たちが頼りないならと、ルナは1人でジュゼッペを探す決意をする。
映画『シシリアン・ゴースト・ストーリー』の感想・評価
ともに映画デビューを飾った少年少女
15歳のユリア・イェドリコブスカを、監督のファミオ・グラッサドニアとアントニオ・ピアッツァが初めて見たのは、ユリアの中学校でのビデオインタビューの映像だった。2人は、ユリアの歩いている姿を見て、まるでルナの出現を見たかのような、待ちに待った発見の瞬間を感じていた。ユリアの歩き方や仕草、知的で年齢よりも大人びている様、媚びず群れず孤独を恐れない姿は、まさにルナそのものだったと2人はコメントしている。
一方の行方不明になるジュゼッペ役を演じるガエターノ・フェルナンデスは、ファミオ・グラッサドニアとアントニオ・ピアッツァの事務所に、突然やって来た来訪者。フェルナンデスは、フェイスブックでオーディションがあることを知ると、申し込みをするのではなく直接事務所を訪れたというツワモノであった。
2人の監督は、フェルナンデスをもてなしそのまま返したが、フェルナンデスの美貌とその度胸から、彼のジュゼッペ役は確信していたという。
そうしてユリアとフェルナンデスは、2人の映画監督に見初められ、映画の初主演を獲得したのだ。
1993年に実際に起きた誘拐事件
2017年、イタリアのシチリア島を根城としていた“野獣”の異名を持つ、イタリアマフィア「ボス中のボス」と呼ばれた男サルバトーレ・トト・リーナががんとの闘病の末に死亡した。サルバトーレは、1970年代にシチリア島の有名なマフィアの組織の実験を握り、その後約20年に渡って、構想と暗殺の時代を牛耳っていた。
サルバトーレの関与している事件の中で、今でもずっと語り継がれている事件がある。サルバトーレの秘密を明かそうとした男性の13歳の息子を誘拐し、絞殺し、その遺体を酸で溶かして処理した事件である。誘拐された少年の名はジュゼッペ・ディ・マッテオ、この作品の主人公の名と同じである。ジュゼッペは、父親がマフィアの仲間だったが改心し、警察に情報を渡したことでサルバトーレと相対することになる。
そして、息子のジュゼッペは、父親が改心したことで警察の保護下にあったため“父親に会わせてあげる”とのサルバトーレの言葉に乗せられ、約25か月間、狭い牢獄のような密室に閉じ込められた挙句、殺され硝酸に放り込まれてしまう。この凄惨な事件が、今回の映画のモチーフとして使われている。
竪琴を奏でる吟遊詩人オルフェウス
ギリシア神話に登場する、竪琴で類稀な音楽を奏で、多くの人々の心をつかむ吟遊詩人オルフェウス。彼が奏でる竪琴は、森の動物たちばかりでなく木々や岩までも周りに集まり、耳を傾けたといわれている。
太陽神アポロンの息子とされ、竪琴を授けられたオルフェウスは、森の木の精霊であるエウリュディケと結婚する。だが、新婚早々でエウリュディケは毒蛇に足を噛まれて死んでしまった。あまりにも深い悲しみがオルフェウスを襲い、彼の奏でる悲壮感溢れる竪琴の音色は、冥界の番犬ケルベロスもおとなしくさせたといわれている。
そして、冥界の王ハデスとその妃ペルセポネーは、オルフェウスの悲しみをくみ取り、エウリュディケを冥界から元の世界に戻すことを許した。だが、ハデスはオルフェウスに「地上に戻るまで振り返ってはならない」と条件を付けた。そして、オルフェウスはエウリュディケの手を握り地上に戻るが、太陽の光が見えたとき、オルフェウスは不安に駆られ振り返ってしまい、それが妻を見た最後だったといわれている。
『シシリアン・ゴースト・ストーリー』では、このオルフェウスとエウリュディケの神話も、映画の中に盛り込まれている。ただひたむきに愛する気持ちと、手元にいるのか不安になってしまう気持ち。そして、試される2人の愛。それらが13歳の2人に試練として与えられるのだ。
映画『シシリアン・ゴースト・ストーリー』の公開前に見ておきたい映画
狼は暗闇の天使
ファミオ・グラッサドニアとアントニオ・ピアッツァが初めてコンビを組み、2013年に発表されたマフィア映画。セリフを最小限に抑え、カメラワークや照明で映画を表現している。
主人公のサルヴォは殺し屋であり、ボスとの移動中に敵対組織に襲撃される。黒幕を突き止めたサルヴォは、レナートという黒幕のいる屋敷に忍び込んだ。そこには、盲目の少女リタがいた。サルヴォと出会い、光を取り戻しつつあるリタをサルヴォは攫い、廃墟に幽閉した。
全体的にそんなに大きな起伏のない映画で、静かな物語の進み具合を、つまらないと感じる人もいるかもしれない。だが、主人公のサルヴォの静かなる慈愛が、見る人には心地よいと感じられる映画である。
映画の注釈には、孤独な殺し屋と盲目の少女が心を通わせるラブストーリーとあるが、これは盲目だった少女リタと言うに等しい映画である。更に、映画ではリタが自分を幽閉した殺し屋の男サルヴォに、唐突に心を許しているが、これはストックホルム症候群だからであるとの見解もある。どちらも、映画を見た人にしか分からない感想であるが、見た人には多くの見解を与え、考えさせてくれる映画であることは間違いない。
詳細 狼は暗闇の天使
グレート・ビューティー 追憶のローマ
『シシリアン・ゴースト・ストーリー』の美しいシチリア島を、幻想的な映像美で映し出す撮影担当ルカ・ビガッツィ。ルカは、2013年パオロ・ソレンティーノ監督とタッグを組み、65歳の男とローマの街を、美しく描き出す。
第86回アカデミー賞では外国語映画賞に輝き、第66回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門と、第38回トロント国際映画祭で上映された映画的魅力の詰まった一作。主人公の初老の男ジェップ・ガンバルデッラの追憶を辿るドラマ。
映画には物語もなく、着地点もなく、初恋の人の訃報を思い出しローマの街を巡る主人公の姿があるだけ。この映画の意味がありそうで全くない余白が、映画を見ている人々に「考える」時間と「思い出す」時間を与える。きっと、誰しもがこうした思い出を持ち合わせていて、思い出の場所を知っている。
美しいローマの街を歩きながら、そうした個人の人生について思いを馳せる映画の手法は、とても珍しい。何も考えずに物語を追い、ひたすらに自分と向き合う映画を探している人は、ぜひこの映画を鑑賞してみて欲しい。
シェイプ・オブ・ウォーター
メキシコ人に、ギレルモ・デル・トロの名を知らない人はいない。若いころから映画に興味があり、その夢を叶え映画監督となり、多くの作品の脚本も手掛けたメキシコの名監督である。親日でも知られているギレルモは、尊敬している人に押井守の名を上げており、日本アニメもとても気に入っていると言う。
2017年、ギレルモ・デル・トロが監督としてメガホンを取った作品『シェイプ・オブ・ウォーター』は、第90回アカデミー賞の作品賞・監督賞などの4部門に輝いた。1962年冷戦時代のアメリカを舞台に、発話障害の女性を主人公イライザが、アマゾンの奥地で神として崇拝されている生物(彼)を、研究施設から逃がす物語。
研究施設の清掃員として働くイライザは、言葉が話せないため手話を使って生物と意思疎通を図る。やがて彼もイライザに心を許し始め、彼が実験対象となっていることを知ったイライザは一緒に働いている仲間と共に彼を逃がす計画を企てる。日本では暴力的なシーンや過激な自慰などの性表現があるため、R18指定となっている映画だが、その映像の美しさはアカデミー賞が認める珠玉の一作。美しい映像と決して諦めない切ない恋心は、『シシリアン・ゴースト・ストーリー』に通ずるところがある。
映画『シシリアン・ゴースト・ストーリー』の評判・口コミ・レビュー
『シシリアン・ゴースト・ストーリー』鑑賞。マフィアに誘拐された同級生を探す少女を描いたファビオ・グラッサドニア&アントニオ・ピアッツァ監督作品。ロメールを彷彿させる繊細な感性に彩られた一本。時代考証の正確性には欠けるが、『ドラゴンボール』のフィギュアを使った演出にグッときた。 pic.twitter.com/sa9WDt7MUS
— だよしぃ (@purity_hair) 2018年12月23日
「シシリアン・ゴースト・ストーリー」を観てきましたが、これは驚きです。予備知識なく観たほうがその驚きを味わえますけど、必ずしもネタバレがどうとかって話でもありません。とにかく、この題材をこのような映画に仕立てた発想の心根が尊いです。
— kennnyd (@kennnyd) 2018年12月23日
シシリアン・ゴースト・ストーリー 観終わり。
美しくも儚く、儚くも美しい、凄惨な青春の、ある風景。不安定なうつつと夢の合間で、もがいて、もがいて、もがいて…。誰にでもある10代半ばの不安定な時期と、誰にでもあるわけではない不条理な出来事とが重なって紡がれる昏迷の恋物語。— じぇまん (@susan0smith1985) 2018年12月23日
『シシリアン・ゴースト・ストーリー』
Sicilian Ghost Story at @cinema_qualite
映画も実際にあった痛ましい事件のことも忘れられなくなる。切なくて悲しくて苦しいのだけれど、あまりに美しい映像が不思議な世界に迷い込んだような感覚。もう一度、観たい。@sicilianfilm https://t.co/tVFt671z63 pic.twitter.com/wzrVPIHRIY— Kie Pinoko (@kiepinoko) 2018年12月23日
『シシリアン・ゴースト・ストーリー』、再び観たら何気なく観ていたシーンもだいぶ印象が変わって、より一層この映画の虜になるだろうな。決して胸キュン要素なんてなく、あまりにも残酷な物語なんだけど、『ぼくのエリ』に通じる”今まで観たことない少年少女のラブストーリー”としてオススメの一本。
— 飯間 (@iima1115) 2018年12月22日
映画『シシリアン・ゴースト・ストーリー』のまとめ
ジュゼッペ役のフェルナンデスは、美しく端正な顔立ちで物語の中に静かに佇み、少女ルナ役のユリアは、意志の強さを感じさせる強く印象的な瞳で事件の真相を追う。この対照的な2人が紡ぐ物語は、シチリア島の美しい自然と相まって作品に深みを増していく。共に今作が映画デビュー作品となった2人は、みずみずしい演技をカメラの前で披露し、観客は13歳の少年少女が織りなす、甘酸っぱく苦しく、そして夢と希望に溢れた2人だけのラブストーリーに引き込まれるのだ。
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