映画『ROOM237』の概要:スタンリー・キューブリック監督の『シャイニング』を多角的な視点で紐解く解説ドキュメンタリー。5人の専門家がキューブリックの全作品を参照し、映画に秘められた謎やキューブリックの脳内に迫る。
映画『ROOM237』の作品情報
上映時間:103分
ジャンル:ドキュメンタリー
監督:ロドニー・アッシャー
キャスト:ビル・ブレイクモア、ジュリ・カーンズ、ジェイ・ウェイドナー、ジェフリー・コックス etc
映画『ROOM237』の登場人物(キャスト)
- ビル・ブレイクモア
- 出演当時、ABCニュースの録音を担当していた人物。ジャーナリスト。ロンドンで初めて『シャイニング』を観て「あれは一体なんだったんだ」という感想を抱いた。
- ジュリ・カーンズ
- 作家。登場人物の動きやカメラワークに疑問を抱き、ホテルの構造を図面におこした。1980年の公開時に『シャイニング』を鑑賞。
- ジェイ・ウェイドナー
- 作家であり神秘学者。映画は低俗だと思っていだが、『シャイニング』に多大な影響を受けて以来映画製作に携わっている。
- ジェフリー・コックス
- 主にドイツ史を専門に扱う歴史学者。キューブリック作品の研究者でもある。
- ジョン・フェル・ライアン
- ミュージシャン。『シャイニング』の通常再生と逆再生を同時にスクリーンに映すという実験的なイベントを開催した。
映画『ROOM237』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『ROOM237』のあらすじ【起】
ビル・ブレイクモアは、この映画にインディアンを追いやった白人を連想した。『シャイニング』の中で、インディアンが描かれた缶詰、カルメットが度々登場している。ジャックとグレイディが倉庫で対話するシーンでは、カルメットのパッケージがバラバラの向きで置かれており、これは和平の破綻を表していると言う。
ジェフリー・コックスは、この作品の底に潜んでいるのはホロコーストだと推測する。ダニーの服にプリントされた42という数字は、1942年にナチスがユダヤ人の殲滅を決めた年を表している。作中ジャックが使用しているタイプライターはドイツ製で、組織的殺人は『シンドラーのリスト』よろしくタイプライターを連想させる。
ジョン・フェル・ライアンは、キューブリックは、人間が目で見た情報を受け入れたり無視したりする無意識の原理を利用していると考える。よく見るとロビーに置かれたジャック達の荷物は、まるで自動車の高さに達する程多く、ダニーが見入っているテレビは、映像こそ流れているがコードが繋がっていなかったりする。
ジェイ・ウェイドナーは、『シャイニング』で用いられたサブリミナル効果について言及する。ジェイ自身は原作の方のファンだったため映画を観て落ち込んだが、何故か何度も繰り返し観てしまうと言う。作中に散りばめられた、性的欲求を搔き乱す目的のサブリミナルを幾つも発見している。
映画『ROOM237』のあらすじ【承】
ジュリ・カーンズは、事務室の窓に違和感を覚え、ホテルの見取り図を作成した。映画の冒頭でジャックが事務室に入ると、正面の窓からは外が覗ける。しかし、話が進むに連れて全貌が明らかになる。事務室の窓の位置は、倉庫や厨房に繋がる長い廊下になっているのだ。
ジャックがタイプライターを打っている後ろに椅子があるが、カメラが再び同じ位置を映すと椅子は消えている。これは、ただのホラー映画ではないことを認識させるためだという見解がある。同じような仕掛けとして、子供部屋の入り口に張られた『七人のこびと』に出てくる“おとぼけ”のシールが、ダニーが血の幻影を見た後に消えている。これは、ダニーが世界を知ることで“おとぼけ”でなくなったことを示している。
観客は、セットであるが故の矛盾点を無意識に見ている。移動した先が同じ地点であったり、ウェンディが外から締めた鍵が次のカットで開いていたりする。
キューブリックは、『シャイニング』の撮影にあたりコロラドの歴史をつぶさに調べていたという。彼に派遣されたリサーチ隊は、主にゴールドラッシュについての情報を根こそぎ集めて帰った。キューブリックは、コロラドの歴史の真の歴史を世界に見せたのだ。T・S・エリオットが言うように「いかにして歴史の悪夢から覚めるか」ということが、人類の成長に繋がる。夢を見る構造に似た『シャイニング』は、過去についての映画だ。経験を脳内で煮詰めて「予測」を得るための作りになっている。家族が崩壊する『シャイニング』と対になるのは、『アイズ ワイド シャット』だ。
映画『ROOM237』のあらすじ【転】
ダニーが三輪車で館内を走るシーンは3回ある。1回目はホテルの構造を見せるもので、2回目と3回目には仕掛けがある。三輪車で走ることは、すなわち両親の頭の中を行き来することで、ダニーは父親の妄想の部屋である237号室から、母親の願望を示す双子に行き着く。
アポロ11号による月面探査映像は捏造されたもので、製作したのはキューブリックだとする意見がある。『シャイニング』に捏造加担の手掛かりがないか探したところ、ダニーが廊下で遊んでいるシーンに答えがあった。独りでに転がってきたボールに釣られてダニーが立ち上がると、彼のセーターに刺繍されたアポロ11号が発射するように見える。
さらに、キューブリックは「撮影を行ったロッヂには217号室が実際にあり、客が怖がると言われたので設定を237号室に変更した」と語っているが、オレゴン州のティンバーライン・ロッヂへ確認したところ、そもそも217号室は存在していないという。これは、偽の映像を撮ったスタジオが237号室であることを示しており、地球から月までの大まかな距離が23万7千マイルだということも関係している。
映画『ROOM237』の結末・ラスト(ネタバレ)
原作を大幅に変えられたスティーブン・キングは、キューブリックに激怒したという。ハロランがジャック達を助けるため車で雪道を走るシーンでは、途中で赤いワーゲンがクラッシュし大破している。原作で主人公が乗っている車こそ赤いワーゲンであり、『シャイニング』では黄色いワーゲンになっている。キューブリックは「これはもう俺の車だ。お前のは壊してやった」と喧嘩を売ったのだ。さらには、この作品を撮ること自体がまやかしで、真の目的はアポロの秘密を暴露することだった。
血の幻影は最も重要だ。このホテルは1907年に着工し1909年に建てられたものであり、なんと先住民の墓の上にある。血の濁流が溢れ出るエレベーターシャフトは、彼らの死体の中を通って来るのだ。エレベーターの扉が閉まっているのは認めたくないことを抑圧する表現だが、血が溢れることで、どんなに抑えつけても悪事は露見するということを表している。
作中には42という数字が散りばめられている。コードの繋がっていないテレビに流れているのは『summer of 42(おもいでの夏)』である。さらに、車のナンバーや駐車場に停まっている車の台数も42だ。2×3×7=42でもある。
同様に、7の倍数も多く用いられている。ラックに置かれた飲み物は7upで、ホテルは1907年着工、最後のパーティの写真は1921年7月の日付になっている。これは、キューブリックがトーマス・マンの『魔の山』を重要視していたからだろう。キューブリックは、恐怖の歴史を隈なく見ることを示唆している。発見はまだまだあるだろう。
映画『ROOM237』の感想・評価・レビュー
非常に見応えのある映画だった。副題は「『シャイニング』を巡る9の考察」である。
ドキュメンタリー映画とカテゴライズはしたものの、出演者は役者ではなく『シャイニング』の熱烈なファン達で音声のみの収録、映像は全て許可を得ていない借り物なので、正確な分類は不明だ。
中にはこじ付けとも取れる仮説が沢山登場したが、突飛な見解も含めて面白かった。たった一つの映画に思考を揺さぶられ続ける大人達がいるというのも愉快だが、何より、我々はキューブリックの用いた手法のどこに魅せられていたのか、各々が納得できる答えに近付けるというのが気持ちいい。
ロジックから見える心象風景をはじめ都市伝説まで、『シャイニング』に関わる逸話に触れられる良作であった。(MIHOシネマ編集部)
みんなの感想・レビュー