映画『タレンタイム 優しい歌』の概要:家庭環境も、言語も宗教も異なる4人の高校生。タレンタイムという学校の音楽コンクールを機に交流と心を交わす様子を紡ぐ。マレーシアの女性監督ヤスミン・アフマドの長編映画としての遺作。
映画『タレンタイム 優しい歌』の作品情報
上映時間:115分
ジャンル:ラブストーリー、ヒューマンドラマ、青春
監督:ヤスミン・アフマド
キャスト:パメラ・チョン、マヘシュ・ジュガル・キショール、モハマド・シャフィー・ナスウィップ、ハワード・ホン・カーホウ etc
映画『タレンタイム 優しい歌』の登場人物(キャスト)
- ムルー(パメラ・チョン)
- 裕福な家庭で暮らす、3姉妹の長女。厳しい母とユーモア溢れる父に育てられながら、信仰の違いにより初恋を受け入れられない苦悩を経験する。
- マヘシュ(マヘシュ・ジュガル・キショール)
- 父親を早くに亡くし、母親と姉と暮らしている。耳が聞こえず話せないため、口元を呼んで生活している。叔父を亡くしたショックから、異教徒との恋を母親に禁じられてしまう。
- ハフィズ(モハマド・シャフィー・ナスウィップ)
- 難病を抱えた母親を看病しながら学校に通う転校生。厳しい家庭環境ながら、成績優秀なことでカーホウに嫉妬されてしまう。
- カーホウ(ハワード・ホン・カーホウ)
- ずっと学年トップの成績を誇っていた優秀性。厳格な父親の元で育ち、どんなにいい成績でも褒めてはもらえずに過ごしてきた。陰ながらムルーに恋心を抱いている。
映画『タレンタイム 優しい歌』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『タレンタイム 優しい歌』のあらすじ【起】
マレーシアにある高校では、多様な人種と言語が共存している。ある日校長の声掛けで芸能コンテスト「タレンタイム」の開催が決まった。7回目の開催にかけて、出場者は学生から7名、教師から7名である。そして、学生のファイナリストをバイクで送迎する係の学生を7名選出する必要があった。
ムルーは使用人のいる裕福な家庭で両親と妹2人と一緒に暮らしている。しかし母親は3人の娘に自立して欲しいと、少し厳しい教育方針を取り入れていた。タレンタイムの選抜オーディションに参加しようとしていたムルーは、母親には言い出せずにいるのだった。
父親を亡くし、母親と姉と暮らしているマヘシュ。母親の一存で送迎係に立候補することになっている。いつも家族を気遣ってくれる叔父の婚礼の儀式に参加するため、母親に急かされながらマヘシュは準備を始めた。晩婚の叔父は、早めに結婚相手を探すよう、マヘシュに諭すのだった。
タレンタイムの準備は着々と進んでいる。校長自ら生徒のオーディション審査を開始。生徒達は得意な歌や楽器、ダンスを次々と披露する。ムルーも保護者と勘違いされるほど安定した、ピアノの弾き語りを披露するのだった。
一人だけ、校長が絶賛する生徒がいた。それは自作の歌を、ギターの弾き語りで聞かせた転校生のハフィズである。音程は関係ないという校長の言葉に、ハフィズは喜ぶのだった。
映画『タレンタイム 優しい歌』のあらすじ【承】
送迎係の最初の仕事は、オーディション合格者に通知を渡すことである。マヘシュの担当はムルーであった。家族団らんの夕食時に、合格通知を届けに行ったマヘシュ。ムルーは母親に黙ってオーディションを受けたため、怒られてしまう。しかし両親の恋の歌を歌ったと報告すると、母親は喜ぶのだった。
翌日、リハーサルに向かうムルーを迎えに来たのは、教師だった。マヘシュは合格通知を渡し帰宅した頃、自宅では残忍な事件が起こっていた。実はマヘシュの叔父の婚礼の儀式の最中、隣の家は喪中であった。隣人トラブルに巻き込まれ、叔父は命を落としてしまったというのだ。
リハーサル後、ハフィズはムルーに声をかけた。互いにファイナリストに選ばれたことを喜ぶ二人。ムルーを迎えに来たマヘシュに、「安全運転で」とハフィズは声をかけた。さらにもう一人、ファイナリストとなったカーホウにも声をかけるが、無視されてしまうのだった。ムルーもまた、お礼を言ってもリアクションをしないマヘシュを無礼だと思っていた。
テスト後、ハフィズは担任に声をかけられた。カンニングの容疑がかかったのである。それはずっと成績トップだったカーホウの仕組んだ罠であった。さらに難しいテストを担任の前で解いたハフィズは無実を証明。脳に腫瘍を患う母親の看病をしながら、勉強にも手を抜かないハフィズに教師たちは感心していた。しかし、厳しい父親の監視下にいるカーホウにとって、成績トップの座を奪われるのは死活問題だったのだ。
映画『タレンタイム 優しい歌』のあらすじ【転】
ある日の練習前、ムルーはしびれを切らして怒鳴ってしまった。その様子を見ていたハフィズから、マヘシュは耳が聞こえないことを知らされたムルー。練習後にきちんと謝り、自宅へと招待する。ムルーが初めて同級生を紹介してくれることを喜ぶ祖母。しかし、母親は身分の違いを察し、少しバカにするような態度を取った。その頃、マヘシュの母親は弟の死を受け止めきれず、自分を責め続けていた。
ハフィズの母親は自分の看病が負担になっているのではないかと心配していた。まずは目標の「タレンタイム優勝」に向かって努力するのを最優先にして欲しいと願い出るのだった。
初めての気持ちに戸惑うマヘシュは「恋」について姉に相談した。とっくに夢中になっていると姉の言葉で気付いたマヘシュは、翌日から少しだけ早くムルーを迎えに行くようになる。練習前の数時間、二人は一緒に過ごし、たくさん会話を交わしたのである。そのことを知らないハフィズは、ムルーの練習風景に惚れ惚れしている。そんなハフィズは、母の見舞いに行きづらく、練習後校庭で本を読んで帰宅するのが習慣になっていた。
映画『タレンタイム 優しい歌』の結末・ラスト(ネタバレ)
タレンタイムの前日、マヘシュとムルーは夜市に出向き一緒に過ごしていた。ムルーの家族はお祈りで出かけてしまうが、ムルーは生理中で参加できないためマヘシュに付き合ってもらっていたのだ。多くの差別を経験した使用人は、二人を家に呼び一緒に夕食を食べた。ムルーの部屋で過ごしていたマヘシュはそのまま一緒にうたたねをしてしまうのだった。
翌朝、心配した姉がムルーの家を訪ねてきた。異教徒との恋愛を認めたくない母親が狂ったように怒っていたのである。実は、叔父も異教徒との恋人がいたことがあった。その時も猛反対した過去があり、後悔を募らせていたという。しかし息子の恋愛を受け止めきれない母親は、マヘシュが跪こうとも二人を引き離した。
受け入れられないショックから、本番では歌えなくなってしまったムルー。陰ながら見守るマヘシュの姿を見つけ、逃げ出してしまった。追おうとする母親を、父親は制し子供たちの時間を作ってあげた。二人は会うことを許されない哀しみよりも、互いに惹かれ合ったところを伝えあい、気持ちを再確認するのだった。
カーホウがタレンタイムで披露する予定の「茉莉花」はマレー語では「ムルー」である。実は恋を寄せていたカーホウ。その時、ハフィズの母親が亡くなったことを知るのだった。一方でハフィズは母親との約束を果たすために学校に向かう。辛い状況でもベストを尽くすハフィズの姿に感化されたカーホウは、寄り添うように二胡を奏で応援した。わだかまりを超えた二人は、ステージで抱き合うのだった。
映画『タレンタイム 優しい歌』の感想・評価・レビュー
朝露したる葉のように鮮度の溢れる青春の時間を見た。多民族国家マレーシアを映しだしたこの作品で描かれる愛情は、恋愛にとどまらず、親子愛も友情も深い。惜しまれながらもこの世を去ったヤスミン・アフマド監督が遺した作品には、多様な人種が混在する世界を肯定した柔らかな時間が流れる。この世界観は自分の引き出しにずっと残しておきたいと思えるほど優しい。ふと日常に疲れたときは心の洗浄にまた鑑賞したくなる一作である。(MIHOシネマ編集部)
日本の青春映画と言うと、ピュアで可愛らしくて観客がにやにやしてしまうような「あの頃に戻りたい」と思わせる作品が多いですが、今作の場合は純粋だからこそ壁にぶつかり、まだ子供の心が残っているから理解できない問題もあり、羨ましいと言うよりももどかしくて見ていられなくなってしまうような作品でした。
楽しいだけじゃないのは皆一緒ですが、過酷すぎる環境に置かれていたり、愛を感じられていなかったりと可哀想になってしまうシーンが多かったです。それでも踏ん張って生きていく彼らの強さを感じました。(女性 30代)
みんなの感想・レビュー