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時代劇映画のおすすめランキング10選

時代劇というのは、そもそもの設定が古い時代なので、いつまでたっても古臭くならないという大変貴重なジャンルである。海外の偉大な映画監督たちは、黒澤明監督のアクション時代劇を見て感動し、それを研究して自らの映画作りのお手本にした。そんな数多くの名作を生み出した日本の映画文化を、日本人として大事にしていきたいものである。

時代劇映画のおすすめランキング10選

第1位 七人の侍


野武士の殺戮や略奪行為に悩まされ続けている貧しい農村を救うため、七人の侍が立ち上がり、命がけの戦いに挑む。

1954年に公開された黒澤明監督の「七人の侍」は、あらゆる点において映画史に残る傑作であり、フランシス・フォード・コッポラ、ジョージ・ルーカス、ジョン・フォードなど、世界の名だたる巨匠たちに愛され、後世の映画人に多大な影響を与えてきた。特に、コッポラ監督のクロサワ映画好きは有名で、“自分もジョージ・ルーカスもクロサワ監督の芸術的な息子だ”と語っている。

本作最大の魅力は、そのスケールの大きさにある。数多く残されている撮影秘話を読むと、面白い映画を作るのには、ここまでする必要があるのかと、黒澤監督の徹底的なこだわりぶりに驚かされる。時間やお金ばかり浪費して、作品がつまらないのではどうしようもないが(そういう映画も山ほどある)この作品やコッポラ監督の「ゴッドファーザー パート2」などを見ると、“なるほど、お金と時間をかけただけのことはある”と、思わざるをえない。

207分の上映時間の中で、何度かアクションシーンはあるが、やはり圧巻はクライマックスにある。叩きつけるような雨の中、五人の侍(それまでの戦いですでに平八と五郎兵衛は死亡している)と村人たちは、突撃してくる野武士の一群を迎え撃ち、死闘を繰り広げる。地面はひどくぬかるんでおり、馬も人間も泥まみれだ。

このシーンが撮影されたのは2月であり、撮影予定日前に大雪が降ったため、消防車まで動員して地面の雪が溶かされた。黒澤監督は本番中にぬかるみの中へ沈んでしまうため、本番が終わるたびにスタッフ数名で監督を引き抜いたという逸話がある。黒澤監督の足の爪は、この雨の合戦の撮影で全部死んでしまったらしい。監督もキャストもスタッフも、まさに死にものぐるいで挑んだのがこのクライマックスの雨の合戦であり、そういう現場の気迫は、確かに画面に出ている。これは理屈ではなく、意図的に創造できるものでもない。多くの条件が複雑に絡み合って化学変化を起こし、その結果生み出される奇跡のようなものかもしれない。

もちろん、アクションが優れているだけで名作とは言えない。この作品は、物語そのものが非常に面白い。登場人物もそれぞれに魅力があり、207分なんてあっという間に過ぎる。

日本人でこの作品を見たことがないという人は意外にも多く、そういう話を聞くたびに、ただただ“もったいないなあ”と思うのである。

詳細 七人の侍

第2位 赤ひげ


幕府が作った石川養生所には、治療費を払えない貧しい人々が集まってくる。エリート教育を受けてきた新米医師の保本は、不本意ながらこの養生所で働くことになり、「赤ひげ先生」と呼ばれるここの名物医師のもとで、多くのことを学んでいく。

1965年に公開された黒澤明監督作品。原作は山本周五郎の小説「赤ひげ診療譚」。赤ひげ先生を三船敏郎、青年医師を加山雄三が演じており、三船敏郎はこの作品で、ヴェンネツィア国際映画祭男優賞を受賞した。

この作品は、養生所で預かる何人かの患者の人生にスポットを当てることで物語が進行していく。赤ひげは一貫して貧しい人々に寄り添うという自分の信念を貫いており、大きく変化していくのは青年医師の保本だ。

オランダ帰りの保本は、幕府で働くエリート医師を目指していたので、貧困者を治療する養生所で見習いをすることに強い不満を抱いている。保本は、現代でいうと、裕福な家庭で育った高学歴のエリートだが、貧しい人々の苦しみや不条理な現実を見たことがない、世間知らずのお坊ちゃんといったところだ。赤ひげは保本の父親に頼まれて彼を預かり、保本が自分自身で変わろうとするのをじっと待つ。

保本は嫌々ながら養生所で過ごすうち、自分がいかに無力な人間かを思い知っていく。自己嫌悪に陥る保本に対して、赤ひげは“お前もやっとわかったか”などという、上から目線の下品な物言いは決してしない。赤ひげもまた自分の無力さを知り、不条理な世の中にはらわたの煮え繰り返るような思いをしながら、貧しい人々と向き合っているのだ。

本作で描かれるヒューマニズムには、時代を超えた普遍性がある。泥臭いまでに「人間」を演じたキャスト陣の熱演に注目しながら、様々な人々の人生と向き合ってほしい。

詳細 赤ひげ

第3位 用心棒


ヤクザの抗争が続く宿場町へふらりとやってきた浪人の桑畑三十郎は、用心棒を装ってヤクザに近づき、町から悪者を一掃しようと試みる。

1961年公開の黒澤明監督作品。娯楽性の強いアクション時代劇。

立て続けに3本も黒澤明監督作品が続いて申し訳ないのだが、面白いのだから仕方がない。主演の三船敏郎が演じるのは、桑畑三十郎と名乗る浪人者で、その素性や本名は不明である。桑畑三十郎という名前は、名を尋ねられた際に、たまたま目の前に桑畑が広がっており、浪人が即興で考えた名前という設定になっている。

三十郎が宿場町に入ってすぐ、人間の手首をくわえた野良犬が通りを横切っていく。このワンカットで、この宿場町の荒み具合が即座に伝わる。よほど考えて生まれたアイデアなのかと思いきや、たまたまオープンセットに落ちていた手袋を見て、黒澤監督がその場で思いついたというのだから面白い。

三十郎は凄腕の使い手で、刀を抜くと素早い。三船敏郎の殺陣には華があり、惚れ惚れするようなかっこよさだ。もし自分がこの作品を子供時代に見ていたら、間違いなく三十郎に憧れ、チャンバラごっこを始めるだろう。

三十郎の最大の敵となる新田の卯之助は、若き日の仲代達矢が演じている。卯之助の武器はなんと回転拳銃で、着物姿にスカーフを巻いているという洒落者だ。時代考証としてはおかしいのだろうが、娯楽映画としては、卯之助のような際立ったキャラクターがいてくれるとやはり楽しい。例えば、新田の丑寅の子分には、ジャイアント馬場のような大男がいて、その男がぬんと立っているだけで、画面が一気におもしろくなる。そういう遊び心のようなものが、この作品には随所に見られる。

三十郎のキャラクターにも愛嬌があり、東野英治郎の演じる権爺に叱られてばかりいるところなど、とても可愛らしい。魅力のある主人公というのは、強いだけでなく、三十郎のように滲み出てくるような愛嬌がないとダメなのだ。この作品を見ると、三船敏郎は天性のスターであることがということがよくわかる。背中を向けて去っていく後ろ姿にオーラを感じる役者など、そういるものではない。

詳細 用心棒

第4位 幕末太陽傳


品川の遊郭に居残ることになった佐平次を中心に、遊郭に集まる様々な人々の人間模様を描いた群像劇。

物語の舞台は「相模屋」という遊郭で、佐平次というやたらと器用な男が、次から次へと起こるトラブルを解決していく。相模屋には、強欲な女将とその婿養子、女将の不良息子、ライバル関係にある女郎のこはるとおそめ、住込み女中のおひさ、ハーフ顔の使用人喜助など、ここで生活している大勢の人々がいる。客として長逗留しているのは、高杉晋作を中心とした長州の志士たちで、そこに、女郎を買いに来る客も出入りする。

中心となる一カ所の建物を舞台に描かれる群像劇は、1932年公開の「グランド・ホテル」が由来となり、「グランド・ホテル形式」と呼ばれている。この形式の醍醐味は、同じ空間に出入りする人の動きにある。空間がずっと同じなので、ある程度の数の登場人物が出入りして、話に変化をつけないと、観客は退屈してしまう。その代わり、人物の出入りや事件がテンポよく描かれ、バラバラだった話が綺麗につながっていくような脚本ならば、場所があちこち変わるよりも、こちらの形式の方が何倍もおもしろくなる。

45歳という若さで早世してしまった川島雄三監督は、今村昌平と田中啓一と共同執筆でこの作品の脚本を書き、自身の最高傑作を作り上げた。1957年公開の作品だが、いつ見てもその見事な出来栄えに感服する。三谷幸喜がこの形式で、「ラヂオの時間」(97)や「THE 有頂天ホテル」(06)を製作した影響もあってか、最近は邦画でもこの形式の作品を時々見かける。しかし、なかなかこの「幕末太陽傳」の領域にまで達した作品には出会えない。

この作品の特徴は、非常に動きがあることで、左幸子の演じるおそめと南田洋子の演じるこはるが取っ組み合いの大喧嘩をするシーンなどは、まさに大迫力。女特有の気の強さが炸裂しており、2人の女優が本気で殴り合っているようにしか見えない。このシーンは必見だ。

フランキー堺の芸達者ぶりも堪能できる、日本映画史に残る名作なので、まずは見るべし。ジャンルとしてはコメディなので、時代劇に馴染みのない世代でも、十分楽しめるはず。

詳細 幕末太陽傳

第5位 椿三十郎(1962)


1961年に公開された「用心棒」のヒットを受けて、1962年に製作された前作の続編的な作品。監督は当たり前だが黒澤明。

「用心棒」で桑畑三十郎と名乗っていた本名不明の浪人が、今度は椿の花を見て、自らを椿三十郎と名乗る。もちろん三十郎を演じるのは三船敏郎。今回は、三十郎が世間知らずの若侍のために一肌脱いでやる。

前作の「用心棒」も娯楽性の高いアクション時代劇だったが、本作の方がもっとわかりやすい娯楽映画となっている。三十郎が、あまりの頼りなさに放っておけなくなった若侍たちはどこか滑稽で、はっきり言って間抜けだ。リーダー格の若侍を演じるのは加山雄三で、三十郎に腹を立てている若侍は、若き日の田中邦衛が演じている。この時、田中邦衛はまだ20代後半で、それはもう若い。若い役者が多いせいか、作品全体の空気も妙に明るい。

話もいたって単純で、お家を乗っ取ろうとしている黒幕たちが、城代家老を誘拐し、理由をでっち上げて腹を切らせようとしている。三十郎はその黒幕の正体を突き止め、城代家老の監禁場所を探し出し、悪者をやっつけて城代家老を救出しようと奔走する。せっかく三十郎がうまくやっているのに、若侍たちが余計なことをして、計画を台無しにしてしまう。この時、加山雄三と田中邦衛は、三船敏郎に殴られるのだが、撮影現場での2人のある行動に腹を立てていた三船は、本気で2人を殴り飛ばしたらしく、確かに殴られた2人は気の毒なほどしょんぼりしている。

今回も三十郎と敵対する悪役を仲代達矢が演じており、ラストに2人の決闘シーンがある。三十郎は、この室戸という男に、自分と似たようなものを感じており、できれば斬りたくない。しかし室戸がどうしてもというので、仕方なく刀を抜く。長い睨み合いの末に、一瞬の差で三十郎が室戸を斬るのだが、この時仲代の体から、ものすごい勢いで血が噴き出す。擬音にすると“ブッシャ〜!”という言葉がぴったりの噴出具合で、“おお〜!”となる。様々な見解があるようだが、妙にリアルな描写より、エンターテイメント性があっていいじゃないかと思う。「椿三十郎」は、娯楽映画なのだから。

詳細 椿三十郎(1962)

第6位 座頭市物語


盲目でありながら、研ぎ澄まされた技で見事な居合いを見せる座頭の市が大活躍する。

全部で26作品が製作された人気シリーズの記念すべき第1作目。この「座頭市物語」は1962年4月に公開され、同じ年の10月には2作目となる「続・座頭市物語」が公開されている。さらにそれから5ヶ月後の1963年3月には3作目の「新・座頭市物語」が公開されており、このシリーズの人気ぶりがうかがえる。

座頭の市を演じるのは、勝新太郎。この役はまぎれもない勝新太郎の当たり役であり、“座頭市といえば勝新、勝新といえば座頭市”で、インプットされている人も多いだろう。勝新が義理人情に厚い八尾の朝吉親分を演じて人気を博した「悪名」シリーズの第1作目は1961年に公開されており、全部で16作品が製作されている。つまり、1960年代の初めから、勝新は座頭市シリーズと悪名シリーズという2本の人気シリーズを抱えていたわけだ。加えて、1965年からはこれまた全部で9作品が製作された「兵隊やくざ」シリーズもスタートしている。今では信じられないような話だが、当時の大スターの人気ぶりというのは、それだけ凄まじかったということなのだろう。

映画に話を戻そう。繁造一家と抗争中の飯岡一家の助五郎親分を訪ねた市は、一家の用心棒に雇われる。しかし繁造一家の用心棒である平手造酒と親しくなり、市は用心棒を辞める。市と平手は、互いに深い友情を感じていたが、結局2人は刀を抜き合うことになってしまう。

第1作目ということもあってか、それほど派手な立ち回りもまだない。ずっと孤独に生きてきた市が、自分を対等な存在として見てくれる平手と出会い、心を通わせていくという男の友情が物語の肝になる。一応おたねという女性と小さなロマンスはあるが、そこはおまけのような話である。

クライマックスは市と平手の真剣勝負で、ここがこの作品一番の見せ場となる。どちらも凄腕なので、勝負は大激戦となるわけだが、大勢の雑魚キャラをスパスパ斬りまくるより、こういう真剣勝負の方が張りつめた迫力がある。そこが座頭の市のキャラクターにぴったりとはまっており、勝新の殺陣も美しい。この作品から人気シリーズが始まったのもうなずける、非常に渋い立ち回りだ。

詳細 座頭市物語

第7位 たそがれ清兵衛


2002年に公開された山田洋次監督による本格時代劇。山田洋次監督は2002年までに80本近い映画を作っているが、時代劇はこの作品が初挑戦となった。藤沢周平の同名短編小説と他2編の短編を原作とし、山田監督と長年の相棒である朝間義隆が共同執筆で脚本を仕上げた。

舞台は幕末の庄内地方で、妻に先立たれ、老いた母親と幼子2人を抱えて貧乏暮らしを続けている井口清兵衛が、友人の妹で幼馴染の朋江と再会し、2人は愛し合うようになる。清兵衛は、自分の身分の低さを理由に朋江との結婚を躊躇していたが、藩の命令で一刀流の使い手と決闘することになり、“これに勝ったら嫁に来て欲しい”と、朋江にプロポーズする。

清兵衛を演じるのは日本を代表するアクション俳優の真田広之。朋江を演じるのは、これまたすっかりベテラン女優の領域に達してきた宮沢りえ。真田広之は、非常に目の綺麗な役者で、かなりの目力がある。それに加えて、若い頃から鍛え上げてきたアクションという強みがあるのだから、もっともっと活躍して欲しい。

真田広之も宮沢りえも、第26回日本アカデミー賞で最優秀主演男優賞と最優秀主演女優賞をそれぞれ受賞している。この映画は、作品賞、監督賞、脚本賞、音楽賞、撮影賞、照明賞、美術賞、録音賞、編集賞でも最優秀賞を受賞しており、清兵衛の敵役を演じた田中泯は、最優秀助演男優賞と新人俳優賞も受賞。つまり、助演女優賞以外の全ての最優秀賞を独占してしまったということだ。

見どころは、やはり清兵衛と余吾善右衛門の薄暗い屋敷での決闘シーンということになるだろう。驚いたのは、善右衛門を演じた舞踏家田中泯のハマりっぷり。真田広之が食われてしまうのではないかと思うほどの迫力と強烈なインパクトがあり、画面に釘付けになってしまった。

21世紀に入っても、映画への飽くなき情熱があれば、昔の名作に負けない時代劇を作れるのだということを、山田洋次監督はこの作品で証明してくれた。

詳細 たそがれ清兵衛

第8位 幕末青春グラフィティ Ronin 坂本竜馬


数多くいる歴史上の人物の中で、坂本竜馬の人気は根強い。歴史にはそれほど興味はないが、幕末は好きという人も多い。坂本竜馬がこれほどの人気を得たのは、おそらく司馬遼太郎の長編時代小説「竜馬がゆく」の影響だろう。この小説で描かれる竜馬という男は、たまらなく魅力的だ。

そして、“武田鉄矢は竜馬が好き”という話もあまりに有名。誰かが誰かを好きという話が、ここまでメジャーになるというのも珍しい。それは、武田自身が“僕は竜馬が好きです!”と、積極的にアピールしてきたからに他ならない。そんな武田鉄矢が憧れの坂本竜馬を演じたのが、この「幕末青春グラフティ Ronin 坂本竜馬」である。

この作品は1986年公開の映画で監督は河合義隆。河合義隆監督は、この作品が映画監督デビュー作であり、遺作にもなってしまった。

DVDとなって発売されたのが2010年なので、公開当時に劇場やテレビ放送で見た人以外、なかなか目にすることができなかった作品でもある。そのため知名度もおそらく低い。さらに時代考証もかなりめちゃくちゃで、高杉晋作の率いる長州藩の奇兵隊は、幕府のガトリング砲(大きな機関銃のようなもの)でバンバン撃たれてひまわり畑で全滅してしまう。

高杉晋作を演じているのは、まだソフトなアフロ時代の吉田拓郎で、作品の中でもそのままのヘアスタイルで通している。しかしこの吉田拓郎が演じる高杉晋作が、退廃的なエネルギーに満ち溢れており、なんだかとてもいいのである。他にも、今は亡き川谷拓三が薄汚いホームレスのような桂小五郎を演じていたり、菊池桃子がアイドルのように歌を歌って(実際にこの頃はアイドルだった)ギラギラした男たちを喜ばせたりするという、面白い演出が山積みだ。

この作品を見て歴史を勉強しようと思ったらとんでもないことになるが、フツフツと腹の中で煮えたぎっているマグマを爆発させ、花火のように消えていった幕末の志士たちのエネルギーはビンビン伝わってくる。まさに「幕末青春グラフティ」というタイトル通り、これは猛烈に泥臭くて熱い青春ドラマでもある。福山雅治の「龍馬伝」がインプットされた世代は、“竜馬は武田鉄也みたいに短足じゃない!”と思うかもしれないが、武田鉄也の坂本竜馬は、“あり”です。

詳細 幕末青春グラフィティ Ronin 坂本竜馬

第9位 里見八犬伝(1983)


1983年公開の深作欣二監督作品。脚本はテレビドラマの「金曜日の妻たちへ」や「男女7人秋物語」などのヒット作で知られる鎌田敏夫(深作欣二と共同執筆)が担当し、特撮を盛り込んだ新しいスタイルの大型時代劇映画として話題になった。

ヒロインの静姫は、この当時人気絶頂だった薬師丸ひろ子が務め、「光の軍団」と呼ばれる八剣士には、真田広之、志保美悦子、寺田農、京本政樹、そして大御所千葉真一などが名を連ねる。彼らと敵対する「闇の軍団」の大ボス玉梓には夏木マリがキャスティングされている。

物語を簡単に説明すると、自分を滅ぼした里見家への呪いをかけて姿を消した玉梓が、100年の時を経て妖怪となって蘇り、里見家への復讐を果たす。しかし同家の静姫だけは密かに逃げ延びており、玉梓を退治する宿命を背負った八剣士は、静姫を守りながら、玉梓の立てこもる館山城へと向かう。

言うなれば、ファンタジーアドベンチャー時代劇といった内容で、これまで紹介してきた時代劇とは一線を化す。特撮を使っていると言っても30年以上前の作品なので、どこまでも進化を続けるCG映像に慣れてしまった今見ると、笑ってしまうほど陳腐ではある。しかし、闇の軍団の底知れぬ不気味さや、千葉真一の率いるジャパン・アクション・クラブ(JAC)のメンバーのアクションが存分に楽しめるなど、現在のCG映像にはない魅力があるのも確かだ。

印象的なのは、唯一の女剣士を演じた志保美悦子の存在。今思えば、本格的にアクションを学び、ルックスも良く、演技もできるアクション女優として、志保美悦子は貴重な存在だった。蛇の化身の萩原流行とのロマンス的な部分は少々謎だったが、“誰からも愛されず、誰も愛さず”という志保美悦子のセリフがやたらと耳に残る。

そして妖怪玉梓を演じた夏木マリの妖艶な悪役ぶりが素晴らしい。玉梓は、若い娘の生き血を集めた血の池に入ると若さを取り戻すので、夏木マリは豪快に全裸となって血の池に浸かっている。真っ赤な血の池に夏木マリの白い肌が映え、艶かしいエロティシズムがすごい。夏木マリの玉梓を見るだけでも、この作品はわりと満足できるかもしれない。ある意味、現在では絶対に作れない空気感を持った作品なので、逆に新鮮なのではないだろうか。

詳細 里見八犬伝(1983)

第10位 超高速!参勤交代


最後に紹介するのは、10作品の中で最も新しい作品。2014年公開の「超高速!参勤交代」だ。この作品は、2011年の城戸賞を受賞した土橋章宏の脚本を、本木克英監督が映像化したもの。

城戸賞というのは、1975年にスタートした老舗のシナリオ・コンクールのことで、いきなり長編映画の脚本を応募できる。入選作でも著作権は本人にあるというシステムを取っており、これは他のテレビドラマのシナリオ・コンクールと違い、映像化が約束されていないという理由によるものだ。そのため、入選作がストレートに映像化された例は数えるほどしかない。そういう意味でも、土橋の脚本がいかに優れていたかがわかる。土橋はこの作品で、第38回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞した。

そして映画である。現在の福島県いわき市に位置する湯長谷藩という小さな藩が、悪徳老中に金山があると疑われ、“5日で江戸まで来い!来なければ藩を取り潰す!”と無茶苦茶なことを言われてしまう。藩主の内藤は家臣や民のことを考え、最小限の家来を連れ、超高速で参勤を開始する。

湯長谷藩藩主は佐々木蔵之介、藩主とともに旅立つ家臣には、西村雅彦、寺脇康文、上地雄輔、知念侑李、柄本時生、六角精児といった個性的なメンバーが顔を揃えている。ヒロインには、深田恭子が起用され、物語に華を添えている。悪徳老中は陣内孝則で、これはなかなかのはまり役だった。

話の設定からしてコメディなので、笑いどころは満載だ。佐々木の演じる藩主が閉所恐怖症だったり、西村雅彦が井戸に落ちたり。それから旅には菊千代という子猿が同行している。この子猿が、わりと重要な役割を担う。

ユルユルのコメディなのかと思いきや、中盤からクライマックスにかけて、かなり長尺のアクションシーンが入ってくる。「時代劇は娯楽映画」という観点から見ると、話も勧善懲悪になっており、程よくアクションも盛り込まれ、たいていの人が楽しめる作品に仕上がっている。2016年に続編となる「超高速!参勤交代!リターンズ」が公開されたことから考えても、近年稀に見る、漫画原作ではない時代劇映画の成功例と言えるのではないだろうか。

詳細 超高速!参勤交代

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