1949年、共産主義政権下のポーランド。冷戦時代に運命の出会いを果たした男女の美しくも切ない恋の物語。第91回アカデミー賞3部門ノミネートの話題作が、2019年6月28日スクリーンに登場する。
映画『COLD WAR あの歌、2つの心』の作品情報
- タイトル
- COLD WAR あの歌、2つの心
- 原題
- Zimna wojna
- 製作年
- 2018年
- 日本公開日
- 2019年6月28日(金)
- 上映時間
- 88分
- ジャンル
- ラブストーリー
ヒューマンドラマ - 監督
- パベウ・パブリコフスキ
- 脚本
- パベウ・パブリコフスキ
ヤヌシュ・グロワツキ
ピヨトル・バルコフスキ - 製作
- ターニャ・セガッチアン
エバ・プシュチンスカ - 製作総指揮
- ナタナエル・カルミッツ
リジー・フランク
ロヒット・カタール
ジョン・ウッドワード
ダニエル・バトセック - キャスト
- ヨアンナ・クーリグ
トマシュ・コット
ボリス・シィツ
アガタ・クレシャ
セドリック・カーン
ジャンヌ・バリバール
アダム・フェレンツィ
アダム・ボロノビチ - 製作国
- ポーランド
イギリス
フランス - 配給
- キノフィルム
映画『COLD WAR あの歌、2つの心』の作品概要
ポーランド映画『イーダ』を初のアカデミー賞外国語映画賞に導いた監督・パベウ・パブリコフスキが次に描くのは、冷戦によって東側と西側が対立している激動の時代に翻弄される恋人たち。モノクロ映画独特の美しさと名歌が響き渡る切ない恋物語。歌手を目指して音楽舞踏学校でレッスンに励む少女・ズーラを、パブリコフスキ監督と3度目の競演となるヨアンナ・クーリグが熱演する。ズーラが恋をする音楽学校のピアニスト・ヴィクトルには、舞台でもTVシリーズでも人気の俳優トマシュ・コットが登場。
映画『COLD WAR あの歌、2つの心』の予告動画
映画『COLD WAR あの歌、2つの心』の登場人物(キャスト)
- ズーラ(ヨアンナ・クーリグ)
- ポーランドで歌手になる夢を叶えるべく、音楽舞踏団の養成所に通う熱心な生徒。他の生徒とは異色を放つ才能を秘めている。
- ヴィクトル(トマシュ・コット)
- ズーラの通っている音楽舞踏団の養成所でピアニストを務め、生徒の育成をしている音楽家。古い時代のポーランド音楽の復興を目指している。
映画『COLD WAR あの歌、2つの心』のあらすじ(ネタバレなし)
1949年、ポーランドは東側と西側の対立が続き長い冷戦状態にあった。共産主義政権に対して、アメリカが主導を握る資本主義グループと対立する日々。歌うことを愛し、将来は歌手になることを夢見ていたズーラは、そんな苦しい時代でも希望を持って音楽舞踏団の養成所に入団する。
そこでは、ズーラと同じような志を持つ少女たちで溢れ、日々ダンスや歌のレッスンに励んでいた。その養成所で、ヴィクトルは美しいピアノを奏で、生徒たちを熱心に指導する。ヴィクトルと好きな音楽を通じてズーラはいつしか彼に惹かれていた。そして、ヴィクトルもまた、歌を愛し、熱心にレッスンを重ねるズーラに思いを寄せる。2人は生徒と先生の立場を超え、激しく愛し合い、抱擁を交わす。
だが、ヴィクトルは自身の活動が政府の目に触れ、次第に政府から監視されることになる。愛し合っていたズーラとヴィクトルだが、ヴィクトルは亡命のためにパリへの亡命を試みる。離れ離れになってしまったズーラとヴィクトル。だが、思いは変わらず、歌手として成功したズーラが公演のために訪れた先でヴィクトルと再会し、再び2人は情熱を取り戻し、一緒に暮らすようになったのだった。
映画『COLD WAR あの歌、2つの心』の感想・評価
愛する父と母に捧ぐ
『COLD WAR あの歌、2つの心』に登場する主人公ズーラと、その恋人ヴィクトルには、実在のモデルが存在する。それは、パブロフスキ監督の父と母である。監督の父親と母親は、この映画そのもののように、ポーランドで生活したり、イギリスで生活したりといろいろな国を行き来し暮らしていた。
そして、パブロフスキ監督を見たら納得するが、監督の父と母は実に整った顔立ちをしており、それはそれは大層モテていた。そんな2人だからか、父と母について監督は「いつも違う人と付き合っていた」と語る。幼いながらに、同じところにとどまらず転々と住むところを変えることや、夫婦でありながらも異なる異性と関係を持っては離れてと繰り返していることに、パブロフスキ監督は思うところがあったようだ。
破天荒な2人に付き合わされた周りはさぞや大変だったことだろうと、容易に想像がつく。しかし、本人たちの愛は、人からは決して理解されなくともお互いが死ぬまで愛し続け貫き続けている。『COLD WAR』とは直訳すると冷戦という意味だが、監督はこの冷戦を単純に共産主義と資本主義の戦争というようには捉えていない。時代は確かに冷戦時であった、だが、その時代をものともせず自分たちの生きたいように生きている男と女の意地にも似た愛を表現しているのだ。
主人公ズーラの計り知れない魅力
先述で、ズーラがパブロフスキ監督の母親であることは紹介したが、彼女は本当に魅力的な女性であった。顔の造形もさることながら、歌唱力も申し分なく、多くのファンが集い、彼女の魅力の虜となった。だが、ズーラが本当に愛していたのはヴィクトルだけ。
共産主義の政府に目をつけられ、パリに亡命したヴィクトルを思いながらも自分は共産主義に沿った穏やかな歌を歌うズーラ。しかし、彼女が名声を手に入れると同時に、徐々に政府高官や権力を持つ男たちをも魅了し、力をつけていく。ズーラが歌えば、男たちは誰もが彼女の歌声に惚れ惚れとした表情で聞き入り、ズーラの音楽にかける情熱は政治や時代にも負けない勢いをつけていく。
そんな強い女性に愛されたヴィクトル。2人の関係は一言では表現しきれない複雑さを持っていた。結婚届の紙切れ1枚の関係では、ズーラを留めておくことはできないのだ。ヴィクトル自身は、共産主義政権に埋没していく古き良き時代のポーランド音楽の復興に心血を注ぐ熱心な男であった。ヴィクトルはズーラの才能に早くから気づき、一緒に良き時代の音楽を模索する。だが、ズーラはそんなヴィクトルの思惑を遥かに超えて、ジャズやタンゴやロックンロールへと自身を進化させていく。
ズーラを演じるヨアンナ・クーリグは、そんなズーラの魅力を余すところなく表現しつくした最高の女優である。彼女が歌う「2つの心」は、ぜひ劇場の素晴らしい音響設備で聞き惚れたい。
白と黒の世界を彩る音楽
この映画は、パッと見ればモノクロのなんだか政治的な要素の詰まったつまらなさそうな映画である。はっきりと言えば、概要や監督や女優を知らなければ、「地味な映画」で終わってしまいそうなのである。
だが、パブロフスキ監督を知っている人なら、この映画を見逃す手はない。一見、当時の時代を表現するためだけの手法と思われがちなモノクロ画像が、映画を見続けていくと自然とスクリーンに彩りが見えてくるのだ。これこそ、パブロフスキ監督の得意としているこだわりの成果だろう。白と黒のシンプルな映像に、美しい音楽を付け加えたことで、映画が単調にならず、感動さえ覚えるのである。
また、冷戦と銘打ってはいるが実際に政治的な要素はほとんど登場しない。それよりも、ズーラのあまりの強さや激しさに圧倒され、『ラ・ラ・ランド』のようなミュージカル映画を彷彿とさせるところさえある。
映画『COLD WAR あの歌、2つの心』の公開前に見ておきたい映画
イーダ
2013年に公開された、パベウ・パブロフスキ監督作品。自国のポーランドだけでなく、アメリカやヨーロッパでも高い評価を受け、日本では2013年8月に公開された。2015年の第87回アカデミー賞外国語映画賞を受賞し、ポーランド映画界初の快挙を成し遂げた作品でもある。
舞台は1960年代初頭のポーランドで、修道院で育った孤児のアンナが、自分の出生や両親のことを知るために旅に出る。その間でアンナが様々なことを感じ、自分なりに受け止め、幼い少女だったアンナが1人の意思を持った女性へと変貌していく様を鮮やかに描き出す。その様子は、さながら美しい詩を読んでいるようで、リアリズム溢れるパブリコフスキ監督ならではの作品に仕上がった。
『COLD WAR あの歌、2つの心』が、パブリコフスキ監督の両親を描いた作品ではあるが、実はこの『イーダ』は、パブリコフスキ監督の祖母がモデルとなっている。祖母の出自を監督が知ったとき、監督は宗教、とりわけキリスト教徒であることの意義や意味について考えるようになった。カトリックの教えが自身にもたらす影響や、成長過程においての影響など、日本人はあまり馴染みがないかもしれないが、多感な時期に自分と向き合い自分について考えることは、人生を豊かにしてくれる要素の1つとなり得る。
白黒の静かな映画ではあるが、そうした味わい深い、心に温かみを残してくれる抱擁感で満たされる。
詳細 イーダ
夜明けの祈り
『COLD WAR あの歌、2つの心』で主演を務めたヨアンナ・クーリグの出演している映画。2016年にフランスとポーランドの合作で制作された作品で、第2次世界大戦超後のポーランドを舞台にした、実話を基にしたドラマ映画である。
サンダンス映画祭で上映された後、フランス映画祭やヴァチカンでも上映された作品で、セザール賞にもノミネートされた。
作品は、実在したフランス人女医が遺した第2次世界大戦直後のポーランドの修道院で起きた悲劇的な事件を描いている。女医のマチルドは、ある日修道院から抜け出してきた修道女の献身的な頼みを聞き、修道院へと赴く。そこでは、修道女が妊娠をしており、今にも生まれそうであった。緊急手術の帝王切開で赤子を助けるマチルドだが、それは序章に過ぎなかった。
そこでは、ソ連軍の兵士たちが無力な修道女たちに淫行を繰り返していた。そして、実に7人もの修道女たちが妊娠をさせられていたのだった。男たちの蛮行に、1人立ち向かうマチルドは、次第に修道女たちの信頼を得、マチルドは「信仰とは何か」を自身に問うようになる。ヨアンナ・クーリグは、この映画でシスター・イレーナを演じ、無力な修道女を演じきった。日本人は無宗教だと言われており、信仰に熱心な国民ではないが、「信じる心」が強さとなり、力となってくれる希望の映画である。
詳細 夜明けの祈り
イリュージョン
2011年にイーサン・ホーク主演で制作された、フランス・ポーランド・イギリス合作のサスペンス映画。パベウ・パブリコフスキ監督がメガホンをとり、ヨアンナ・クーリグも出演している作品である。日本では、DVDが発売されているが映画は未公開の作品である。
イーサン・ホークは売れない作家トムを演じており、家庭内暴力を繰り返す最低な男であった。裁判所から家族への接近禁止令が下されていたものの、人生をやり直すために家族のいるパリへ向かうトム。だがそこで、荷物を盗まれてしまい、行き着いた宿屋で警備員として働きなんとかその日暮らしをする。
ところが、警備中の建物で遺体を発見したことからトムの状況は一変する。容疑者として疑われ、取り調べを受け散々な目に。そして、その取り調べの最中に、自分が身を寄せている宿屋の女主人は、実はもう何年も前に亡くなっていることが判明する。自分が出会ったのは誰だったのか、自分が身を寄せていたのは誰の家だったのか。トムの娘が事件に密接に関わり、トムは混乱の中に落ちていく。
詳細 イリュージョン
映画『COLD WAR あの歌、2つの心』の評判・口コミ・レビュー
パヴェウ・パヴリコフスキ監督『COLD WAR』を観た、ピアニストのヴィクトルと舞踊団員ズーラの15年に渡る断続的な愛の物語、変遷する言語・音楽・衣装に、2人の感情と関係性を無駄の少ないシンプルなモノクロ映像で表現、内省的なヴィクトルの表情が印象的で、全編を通して素晴らしかった! pic.twitter.com/NbwlwRLkUN
— キシダ・ユーマ (@YoumaKishida) 2019年6月29日
『COLD WAR』観てきたよ。とっても美しい恋愛映画。傑作。今年観た映画の中で一番好きかも。ズーラ役の女優さんがすごく魅力的だった。
「オーヨーヨイ」の歌が好きになりすぎて、エンドロールで「最後にもう一度オーヨーヨイ聴かせてー」って気持ちになっちゃったよ。#COLDWAR #オーヨーヨイ— マサル (@kiarostami_san) 2019年6月29日
『COLD WAR あの歌、2つの心』冷戦時代に翻弄される男女の15年間を、呆れるほど巧い省略で描ききった88分の壮大なラブストーリー。余計な説明が徹頭徹尾削ぎ落とされたシンプルな物語だが、スタンダードサイズを用いた完璧なフレーミングと照明が、二人の内面の揺らぎを雄弁に語る。凄まじい映画を観た pic.twitter.com/YXKXqS9GXn
— 頭巾 (@zukin_8) 2019年6月29日
映画「COLD WAR あの歌、2つの心」を観る。不器用な二人のラブストーリー。シアターイメージフォーラムで観た「イーダ」の監督というのと、時代背景が、第二次世界大戦後だというのが、観賞の決め手に。寝不足の頭には難しかったが、概ね理解できて良かった。結末が切ない。15年間の軌跡。
— ひかる (@uLD2iK4iYPbLZNu) 2019年6月28日
ポーランド語映画『COLD WAR あの歌、2つの心』を観たんですが、人間同士の恋愛のままならぬ2人の…機微的なやつになるとからきしなのでそこらへんの繊細さをゴッソリ受け取れないまま観たため↑のような浅い感想になる。己が残念。白黒画面と音楽は美しかった。
— 峠 (@touge_88) 2019年6月29日
『イーダ』試写会で観たCOLD WARが良くて今回の限定上映で劇場初鑑賞。やっぱり素晴らしい。完璧な感情トレース。研ぎ澄まされた音楽演出。無駄を省いた濃厚な80分。戦後ポーランドの政治と宗教を二人の女性に仮託し不都合な歴史を直視する。イーダとは誰なのか?ラストカットからのタイトルに痺れた。 pic.twitter.com/7c3iID0uHj
— シネマダイアリー (@susan6662) 2019年6月22日
映画『COLD WAR あの歌、2つの心』のまとめ
映画の予告で、ヨアンナ・クーリグことズーラが歌っている歌は、パブリコフスキ監督が映画の制作のためにジャズにアレンジした実在する楽曲である。この歌は、ポーランドに実在する伝統音楽と舞踏を継承する由緒正しき歴史ある楽団“マゾフシェ”のスタンダードナンバーで、楽団が長く歌い続けてきたものである。パブリコフスキ監督は、この曲を聴いたとき「この曲の変遷自体が、ポーランド社会で起きた内容を示す重要な存在である」と直感。そして、この歌を見事にアレンジしポーランドや世界中で起きた出来事を映画内で見事に描き切って見せた。
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