ヌーベルバーグの巨匠として知られるジャン=リュック・ゴダールと若干19歳で恋に落ち、2番目の妻となったアンヌ・ヴィアゼムスキー。彼女の自伝的小説を原作として、2人の刺激的な愛の日々を描いたスタイリッシュなラブストーリー。
映画『グッバイ・ゴダール!』の作品情報
- タイトル
- グッバイ・ゴダール!
- 原題
- Le Redoutable
- 製作年
- 2017年
- 日本公開日
- 2018年7月13日(金)
- 上映時間
- 108分
- ジャンル
- コメディ
ラブストーリー
ヒューマンドラマ - 監督
- ミシェル・アザナビシウス
- 脚本
- ミシェル・アザナビシウス
- 製作
- ミシェル・アザナビシウス
フローレンス・ガスト
リア・サトゥーフ - 製作総指揮
- ダニエル・ドゥリューム
- キャスト
- ルイ・ガレル
ステイシー・マーティン
ベレニス・ベジョ
ミーシャ・レスコ
グレゴリー・ガドゥボワ
フェリックス・キシル - 製作国
- フランス
- 配給
- ギャガ
映画『グッバイ・ゴダール!』の作品概要
1960年に『勝手にしやがれ』で鮮烈な長編映画監督デビューを果たし、ヌーベルバーグの旗手と呼ばれた天才映画監督のジャン=リュック・ゴダール。そんなゴダールと若干20歳で結婚した2番目の妻アンヌ・ヴィゼアムスキーの自伝的小説が、『アーティスト』(11)のミシェル・アザナビシウス監督によって映画化された。ゴダールを演じるのは自身の父親も映画監督のルイ・ガレル。そして、ヒロインのアンヌを期待の若手女優ステイシー・マーティンが魅力的に演じている。
映画『グッバイ・ゴダール!』の予告動画
映画『グッバイ・ゴダール!』の登場人物(キャスト)
- ジャン=リュック・ゴダール(ルイ・ガレル)
- 1960年のデビュー作『勝手にしやがれ』を発表し、その後もヌーベルバーグの名作と呼ばれる作品を次々と撮った天才肌の映画監督。1960年代後半から毛沢東主義に傾倒していき、ジガ・ヴェルトフ集団に加わって、従来の商業映画に反発する作品を撮り始める。本作はその時期のゴダールを描いている。
- アンヌ・ヴィアゼムスキー(ステイシー・マーティン)
- まだ19歳の学生だった時期にゴダールと出会い、彼の映画『中国女』で主演女優を務める。その後、ほどなくしてゴダールと結婚し、パリで新婚生活を送り始める。母方の祖父がノーベル賞作家のフランソワ・モーリアックというセレブな家庭で育った。
- ミシェル・ロジエ(ベレニス・ベジョ)
- ゴダールの友人の映画プロデューサー。ジャーナリストやスタイリストの仕事もこなす自立した女性で、アンヌは彼女の生き方に憧れるようになる。
映画『グッバイ・ゴダール!』のあらすじ(ネタバレなし)
1960年代後半のパリ。大学で哲学を学んでいた19歳のアンヌは、ヌーベルバーグの旗手として世界中から注目を集めていた映画監督のジャン=リュック・ゴダールと出会い、彼と恋に落ちる。アンヌはゴダールの新作映画『中国女』に主演女優として出演することになり、映画作りの面白さに目覚めていく。
アンヌの瑞々しい魅力に惹かれたゴダールは、あっさりと彼女にプロポーズして、2人は結婚する。新進気鋭の映画監督と著名な作家の孫娘であるアンヌの結婚は大きな話題となり、マスコミの取材が殺到する。若いアンヌは、天才肌のゴダールとの刺激的な新婚生活の中で多くのことを学びながら、この新しい環境を楽しむ。
ところが、1968年のパリ5月革命前後からゴダールは政治活動に傾倒していき、現政権下での商業映画製作を否定するようになっていく。一方、映画プロデューサーのミシェルと親しくなっていたアンヌは、ゴダールの反対を押し切ってカンヌ映画祭へ向かう。しかし、その年のカンヌ映画祭はゴダールと友人たちの手によって中止に追い込まれてしまう。その頃から、アンヌはゴダールに従う生活に疑問を持ち始め、彼からの自立を考えるようになる。
映画『グッバイ・ゴダール!』の感想・評価
ジャン=リュック・ゴダールという天才の迷走期
本作は「ヌーベルバーグの旗手」と呼ばれたジャン=リュック・ゴダールと彼の2番目の妻のアンヌ・ヴィゼムスキーとの出会いから別れまでを描いた物語だ。2人は1967年7月に結婚したが、翌年にはパリで5月革命が起こり、その前後からゴダールも毛沢東主義に傾倒していく。この時期はゴダールの「政治の時代」と呼ばれ、彼の作風は一変する。『勝手にしやがれ』(60)、『女と男のいる舗道』(62)、『軽蔑』(63)、『はなればなれに』(64)、『アルファヴィル』(65)、『気狂いピエロ』(65)、『ウィークエンド』(67)など、ヌーベルバーグの名作と呼ばれる作品を立て続けに発表していたゴダールが、突如として商業映画との決別を宣言し、政治色の強い作品ばかりを作り始めたのだ。
活気に溢れるアメリカのB級映画を支持し、『勝手にしやがれ』でヌーベルバーグの典型的なカップルを描いて世界中の若者を熱狂させたゴダールが、なぜそんなことになってしまったのか。そこらあたりが描かれているだけでも、映画ファンとしては嬉しい。
ゴダールを知らなくても大丈夫!
今の日本で「私は古いフランス映画に造詣が深くて、特にゴダールやトリュフォーなんかのヌーベルバーグを代表する映画監督の作品は大好き!」という人はそう多くないだろう。ゴダールの作品なんて1本も見たことがないという人もたくさんいるかもしれない。しかし、そんな人でもこの『グッバイ・ゴダール!』は楽しめるはず。
予告編を見てもらえばわかると思うが、本作の印象はカラッと明るい。ルイ・ガレルの演じるゴダールは個性的な魅力に溢れているし、ステイシー・マーティンの演じるアンヌは実にキュート!2人が暮らすパリのアパルトメントのインテリアも登場人物のファッションもスタイリッシュで、それを見ているだけでもワクワクしてくる。しかも、物語の主軸はゴダールとアンヌのラブストーリーなので、若い世代にもすんなりと受け入れられる。テレビの仕事をしていたミシェル・アザナビシウス監督は、自分のセンスを大切にしながらも、観客の心情を理解して、バランス感覚に優れた作品を作る。そんな彼のことなので、ゴダールに関する知識がない人は楽しめないような偏屈な作品は作らない。その点は信用してもらっていい。
これからきそうな若手女優ステイシー・マーティン
アンヌ役に抜擢されたステイシー・マーティンは、フランス人の父親とイギリス人の母親を持つフランスの若手女優。女優活動を始める前からファッションモデルをしているので、スタイルは抜群だ。大きな瞳と豊かな表情が魅力的で、これから若い女性を中心に人気が出そうな期待の若手女優だ。
ステイシーの長編映画デビュー作は、2013年公開の『ニンフォマニアック』。この作品でステイシーは若かりし頃の主人公ジョー(色情狂という設定の女性)を体当たりで演じている。その後も『シークレット・オブ・モンスター』(15)や『五日物語 3つの王国と3人の女』(15)などの話題作に出演しているが、この『グッバイ・ゴダール!』でのアンヌ役でステイシーが飛躍的に成長したことは間違いないので、今後の彼女の活躍にも注目していきたい。
映画『グッバイ・ゴダール!』の公開前に見ておきたい映画
アーティスト
2011年公開のフランス映画『アーティスト』は、第84回アカデミー賞で作品賞、監督賞を含む5部門を受賞し、ミシェル・アザナビシウス監督の名前を世界中に知らしめた。この作品が登場するまで、モノクロのサイレント映画が現代の観客にここまで支持されるなんて、誰が想像しただろう?「この時代にモノクロのサイレント映画」というだけで多少は話題になるかもしれないが、作り方が下手ならば、通常の作品以上に大コケすること間違いなしだ。しかし、アザナビシウス監督はサイレント映画の長所を最大限に活かし、普遍的なメロドラマの名作を作り上げた。
ジャン・デュジャルダンの演じるサイレント映画の大スター・ジョージと、ベレニス・ベジョの演じる新人女優・ペピーの恋物語は、セリフがなくても2人の心情が手に取るように伝わってきて、観客を魅了する。むしろセリフがないことで、観客は2人の表情の変化やちょっとした動きを見逃すまいとして、映画の世界に集中できる。これは新鮮な驚きだった。鑑賞後、映画の余韻に浸りつつ、女性ならば「ジャン・デュジャルダン、ステキ…」、男性ならば「ベレニス・ベジョ、カワイイ…」と思わずため息をついた人も多いのでは?これを見れば、アザナビシウス監督のセンスの良さが一発でわかるので、未鑑賞の方にはぜひ見ておいて欲しい作品。
詳細 アーティスト
勝手にしやがれ
ジャン=リュック・ゴダールは、彼だけの映画史が1冊の本になるほどの巨匠なので、彼の作品や映画哲学について手短かに語るのは難しい。マニアックにゴダール作品を見ている人はさておき、まだ1作も彼の作品を見たことがないという人は、ひとまずこの『勝手にしやがれ』を見てみよう。1960年公開の古い映画だが、普遍的に愛されているヌーベルバーグの名作なので、映像も入手しやすい。
登場人物は、B級アメリカ映画の悪党にかぶれたパリのチンピラ・ミシェルとクールなアメリカ娘のパトリシア。ミシェルは警察に追われているのだが、その辺りのストーリー展開はあまり重視されておらず、断片的につながれたスタイリッシュな映像のかっこよさと雰囲気を味わうのがこの作品の醍醐味。もちろん、その中にゴダールらしい映画哲学が盛りだくさんに詰まっているのだが、あまり難しいことは考えずに「これがヌーベルバーグなのね」という気楽な気持ちで楽しんで欲しい。とにかく、セシルカットのジーン・セバーグと、この作品でヌーベルバーグの寵児となったジャン=ポール・ベルモンドはかっこいいので。
詳細 勝手にしやがれ
ドリーマーズ
この作品は2003年公開のイギリス・フランス・イタリアの合作映画で、監督はゴダールに多大な影響を受けたと公言しているイタリアの巨匠ベルナルド・ベルトリッチ。『グッバイ・ゴダール!』と同じ1960年代後半、5月革命前夜のパリが物語の舞台となっており、『グッバイ・ゴダール!』でゴダールを演じるルイ・ガレルの出世作でもある。作品のニュアンスは全く違うが、『グッバイ・ゴダール!』と何かと共通点が多いので選んでみた。また、『グッバイ・ゴダール!』の中にはゴダールとベルトリッチの大激論シーンがあるそうなので、そちらも楽しみにして欲しい。
ゴダールやトリュフォーの作ったヌーベルバーグの作品に影響を受けたベルナルド・ベルトリッチは、1970年公開の『暗殺の森』で世界的に高い評価を得て、次の『ラストタンゴ・イン・パリ』(72)では、驚きの性描写で世界中に衝撃を与えたという面白い監督だ。坂本龍一がアカデミー作曲賞を受賞したこともあって、日本では『ラストエンペラー』(87)の監督として有名なのかもしれない。ちなみに、ベルトリッチ監督が2012年に発表した『孤独な天使たち』もなかなかの良い作品なので、興味がある方はぜひ鑑賞してみて欲しい。
詳細 ドリーマーズ
映画『グッバイ・ゴダール!』の評判・口コミ・レビュー
昨日は『グッバイ・ゴダール!』を観た。同行者が終わるなり「ゴダール、モのつく人みたい…」って言うから「確信の有り無しがちがう。この映画でのゴダールには自信がない。あと人(女)に頼りすぎ」って即答する自分ヤバい。でもゴダールの葛藤ギザギザハート観れて面白い。愛の始まりと、終わりも。 pic.twitter.com/ZcVQm4H7de
— かいなってぃー (@KAINA0912) 2018年8月2日
『グッバイ・ゴダール!』これが実話だとしたら、ゴダールは天才かもしれないけど、自己中心的で、どうにもいけ好かない奴。傑作と言われる自身の過去作すら否定していたとは。しかし、コメディとして観るなら、これはまた、一級の題材かもしれない。 https://t.co/NEd4ke3Ol8
— いたろう (@h_itaba) 2018年8月1日
グッバイ・ゴダールはなにがダメなのか教えてください。。
私は女性視点の喜劇として楽しめました。
普遍的なラブストーリーであって、むしろゴダール自体がオマケで、パロディもギャグなので、実際と異なるとかゴダールうんぬんの批判はそもそもこの映画に言うことではないと思う。— Takuya (@taktaktaktakuya) 2018年8月1日
「グッバイ、ゴダール」つまんなかったー。これ、わざわざゴダールを題材にする必要あった?出てくる人もなんだか無駄に多いし。
これ、ゴダール関係なく夫婦ものとしてウディ・アレンが撮ったら面白かっただろうと思う。— は■みボカン (@hayamit) 2018年8月1日
『グッバイ・ゴダール!』ミニスカ姿もモデルのようで実際のアンヌの不貞腐れたようなアンニュイな感じは全然ないんだけど可愛いから許せる。ゴダールと会う前のブレッソンとの出会いと『バルタザールどこへ行く』の撮影秘話の映画も制作してもらいたかった。もう無理だろうな。
— aoyadokari (@aoyadokari) 2018年7月29日
映画『グッバイ・ゴダール!』のまとめ
「ヌーベルバーグ」「フレンチカルチャー」「ジャン=リュック・ゴダール」なんていうキーワードはすごくおしゃれでかっこいいと思うけど、なぜかフランス映画って眠くなるのよね…。そんな風に感じている人は実は多い。スカッとわかりやすいハリウッド映画や、予告編に「絶対、泣けます!」というテロップが入るような恋愛映画を見慣れている人には、拷問のように退屈なのがヌーベルバーグ作品なのかもしれない。しかし、本作を見たらきっとゴダールという人間に親しみが湧き、彼の作品世界を覗いてみたくなるはず。日本の観客にそう思ってもらえたら、ミシェル・アザナビシウス監督も本望だろう。
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