映画『インポッシブル』の概要:ナオミ・ワッツ、ユアン・マクレガー主演。監督スペインの俊英J・A・バヨナ。2004年に起きたスマトラ島沖地震に遭遇したスペイン人一家の実話に基づく、ヒューマン・パニック映画。壮絶な津波のシーンもさることながら、現地で被災した家族の絆や生命力に胸を打たれる感動大作。
映画『インポッシブル』 作品情報
- 製作年:2012年
- 上映時間:114分
- ジャンル:アクション、ヒューマンドラマ
- 監督:J・A・バヨナ
- キャスト:ユアン・マクレガー、ナオミ・ワッツ、トム・ホランド、ジェラルディン・チャップリン etc
映画『インポッシブル』 評価
- 点数:80点/100点
- オススメ度:★★★★☆
- ストーリー:★★★★★
- キャスト起用:★★★☆☆
- 映像技術:★★★★★
- 演出:★★★☆☆
- 設定:★★★★★
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映画『インポッシブル』 あらすじ(ストーリー解説)
映画『インポッシブル』のあらすじを紹介します。
長期休暇を利用して、インドネシアのスマトラ島を訪れたスペイン人一家。夫のヘンリー(ユアン・マクレガー)と、彼の妻マリア(ナオミ・ワッツ)。彼らには3人の男の子がいる。長男のルーカス(トム・ホランド)。下の男の子にはトマス(サミュエル・ジョスリン)とサイモン(オークリー・ペンターガスト)。その年は、クリスマスを海外で過ごそうと旅行で現地に訪れていた。思春期を迎えた長男は、母親に対し反抗期気味な態度を見せる。南国特有のトロピカルムードを味わいながら、休暇を満喫していた彼ら。クリスマスの翌日、予想もしない未曾有の災害に巻き込まれることに。
クリスマス翌日の朝。ホテルが運営するプールに遊びに出掛けた。母親のマリアは、木陰で読書。父親のヘンリーは長男のルーカスや幼い弟たちとプールでボール遊び。何気ない休暇の1日。周りの観光客もまた日焼け止めクリームを塗っていたり、プールに飛び込む子供たち。そんな有り触れた1日になるはずだった。最初の異変は、プールの片隅で運営する屋台のジュースミキサーの電源が、落ちた事だった。次に異変に気付いたのは、母親のマリア。そして少しずつ、周りの観光客も、その異変に気付き始めるのだった。見上げれば、上空では慌しく、どこかへ逃げる野性の鳥たち。まさに、その異変の恐怖は、彼らがいるプールにまで到達しようとしていた。ホテルの向こう側の木々たちが、次々に薙ぎ倒されてゆく。一体何が起きているのか把握しきれないまま、突然それは起きた。濁流となった海水が、何の前触れもなく観光客たちを襲う。それは大地震に伴った巨大津波だったのだ。逃げ惑う人々。ホテルが津波によって、破壊されてゆく。津波に飲み込まれてゆく人。津波が襲って来た時、一家はバラバラだった。プールで幼い弟たちを抱きかかえる父親ヘンリー。プールサイドに転がっていったボールを取りに行った長男のヘンリー。母親マリアは少し遠くの方にいた。津波に飲み込まれる家族たち。
意識が戻った時、そこには信じられない光景が広がっていた。大木に捕まって泣き叫ぶマリアに大量の濁流が、襲い掛かる。目の前には、流されてゆく自分の子供。まさに、地獄絵図の光景だ。マリアは流されている間に流木で負傷してしまう。親子2人が、流されている間にも、第2派となる津波が、彼らをまた襲う。濁流の中では、津波に流された物が彼らを容赦なく痛みつける。津波が引いた時には、そこにはもう違う光景が広がっていた。すべてが流され、残ったのは流されなった木々だけだった。津波で傷ついた身体。彼ら親子は、もうボロボロだった。そして、行方不明になった父親と2人の弟の安否は、分からないままだった。果たして、彼らは無事助かるのか?家族は再会できるのか?サバイバルの末に彼らに訪れのは、生なのか?死なのか?
映画『インポッシブル』 感想・評価・レビュー(ネタバレ)
映画『インポッシブル』について、感想・レビュー・解説・考察です。※ネタバレ含む
スペイン映画と監督フアン・アントニオ・バヨナ
監督J・A・バヨナは世界から注目を集める、スペイン出身の新進気鋭の監督の一人だ。デビュー作の『永遠のこどもたち』で脚光を浴びた彼が、次回作に選らんのが、映画のジャンルが180℃違う本作『インポッシブル』だ。前作ではホラー・ファンタジーと言う要素を前面に出し、恐怖と幻覚、そして母親の愛をテーマに作り上げた世界観が話題を読んだ。またこの作品の制作に携わったのは、世界で今最も活躍の場を広げているギレルモ・デル・トロ。彼は、メキシコ出身の監督。代表作には『ヘル・ボーイ』シリーズ『パンズ・ラビリンス』『パシフィック・リム』など、SFジャンルが強い監督だろう。近年ではピーター・ジャクソン監督による『ホビット』シリーズで脚本家として参加している。現在幅広い活躍を見せている。そんなヒットメーカーの制作の元でデビュー作を飾ったJ・A・バヨナのこれからの活躍に期待が持てる。
少し話が逸れてしまったが、ここでは主にスペイン映画について述べたいと思う。スペイン映画界は、フランコ独裁政権やスペイン内戦などがきっかけで、なかなか映画制作の基本の流れが確立されてなかった。たとえ制作、国内公開されても日本やアメリカへの輸出は難しかったのだ。特にフランコ政権やスペイン内戦並びに第2次世界大戦の影響で1930年から1950年頃のスペイン映画界は衰退の一歩を辿っていたが、中でも世界で注目を集めていたのが、監督ルイス・ブニュエルだろう。彼の代表作にはスペインの画家・ダリと共に制作した初期の作品『アンダルシアの犬』『ビリディアナ』『昼顔』『ブルジョワジーの密かな愉しみ』など、83年と言う長い生涯で遺した作品は30作品以上。スペイン映画では語られるべき代表監督の一人だろう。その後、フランコ独裁政権で映画への検閲が厳しくなり、批判要素の含む映画は上映禁止の憂き目を見た。1950年代、太平洋戦争の終結後、スペインにも“ヌエボ・シネ・エスパニョール”と言う新しい風がスペイン映画界に流れ込む。当時のヌーヴェル・ヴァーグを彷彿させるような大きな運動はなかったが、多くの新人監督がデビューしたと言われている。
続く60年代以降には、スペイン政権を握っていたフランコ総裁が死去し、民主主義の流れが産まれてくる。そういった中で1人の監督が、鮮烈にデビューを飾る。彼はビクトル・エリセ。前記事『ポルトガル、ここに誕生す ギマランイス歴史地区』でも軽く触れた監督だ。彼の処女作『ミツバチのささやき』はスペイン内戦末期の田舎で1人の少女と内戦で負傷した兵士の交流を描いた異色ドラマだ。この作品でビクトル・エリセだけでなく、スペイン映画そのものも世界で大きな脚光を浴びることに。80年代には一際、異彩を放つ監督ペドロ・アルモドバルが長編3作目の『バチ当たり修道院の最期』で注目を浴びている。彼の作品には同性愛、カトリック教会の堕落、麻薬など、当時の保守的なスペインでは到底受け入れられない題材ばかりを扱う作品が多く存在し、毎作品大きな賛否両論を巻き起こしている。その反面、原色を多く使い、ポップカルチャーのスタイルを前面に押し出し、ブラック・ユーモアを盛り込んだ複雑な脚本、男女の欲望や家族個人間のアイデンティティーと言ったテーマを扱うのも特徴的だ。特筆すべきはやはりアカデミー賞外国語映画賞を受賞した『オール・アバウト・マイ・マザー』から彼の作品が世間一般にも知られるようにもなったと言われている。
2000年以降にスペイン出身監督で注目を浴びているのは二コール・キッドマンを主演に迎えたゴシック・ホラー『アザーズ』でメガホンを取ったアレハンドロ・アメナーバルがいる。彼は『テシス 次に私が殺される』でデビューし、『オープン・ユア・アイズ』や『海を飛ぶ夢』などが有名だろう。他にも『死ぬまでにしたい10のこと』『あなたになら言える秘密のこと』『エレジー』などで有名な女流監督イザベル・コイシェなど、数多くの監督が活躍の場を広げている。
名立たる名監督を輩出するスペインから新たな期待の星としてデビューしたJ・A・バヨナは今スペインのみならず、海外からも熱い期待を送られている。本作『インポッシブル』の成功は、これからの彼の活躍に対し大きな後押しとなるでしょう。続く次回作にはブラッド・ピットを主演に迎えたサバイバル・アクション映画『ワールド・ウォーZ』の続編の監督に抜擢されたようだ。また19世紀のイギリスを舞台にしたゴシック・ホラー『ナイトメア 血塗られた秘密』と言う海外ドラマのエピソードの監督も担当しているようだ。今後の彼の活躍に期待が持てる新人監督の1人だろう。
津波のシーンは圧巻
本作『インポッシブル』の見所は、スマトラ沖地震と言うのが題材だけあって、やはり約10分を越える津波のシーンは圧巻だ。この映画を観る者に追体験させてくれる力のこもった驚愕のシーンに仕上がっている。ただ、この映画に対して、批判的な意見もある事は否定できない。特に多い否定的な意見と言えば、白人視点の物語の構成になっているので、家族達の苦悩は分るが、現地に住む被災者の視点が何ひとつ描かれていない。津波や地震の恐怖は伝わるが、津波のシーンに力を入れすぎて、震災後の苦しみと言ったものが、伝わってこない。
また、人災、災害と言ったパニックものの映画と言えば、多くの人間のドラマを交えながら、物語を進行させる群像劇を使用する作品が数多くあるが、本作はまったくその反対で、一家族の視点から物語が進んでゆく。その手法が逆に否定的に捉えられたのかも知れないが、私の意見としてはその反対である。物語を集中して、一家族の苦悩や葛藤に焦点を当てたからこそ、感動できる内容に昇華したと思うのです。一つの人間ドラマを集中して追い掛けることで、観る側に物語の中の人物が体験したすべての事柄を追体験できるのではないでしょうか?
その反面、この作品の演出には、少し無理矢理感が突出している。あんな大規模の地震、津波の中で、バラバラになった家族が本当に再開できるのだろうか?あんな状況下で、家族全員無事に助かるのだろうか?実際の体験に、脚色を加えたのは明らか手にとって分かる演出に、甚だ違和感を覚える。だがこの作品が伝えたい事はきっと、他にあると思うのだ。その根底にあるのは、災害時の環境下で生き抜くことでも、津波の恐怖を追体験することでもない、と私は思うのです。この作品で本当に伝えたかったことは、どんな状況でも“思いやり”の心を持つことへの大切さを、私たちに教えているのでしょう。物語の随所に垣間見える被災者同士の助け合いが、多くのシーンで語られます。
①映画の冒頭。津波の被害に怯える主人公親子の耳に飛び込んでくるか弱き男の子の親を呼ぶ声。そんな助けを求める声に耳を傾ける母とは別に、襲い掛かる津波に怯える息子は、母親を制止しようとするも、彼女は息子に諭します。もしこの助けを求める声が、幼い弟たちだとしたら、放って置けるかと…。津波で傷ついた彼女は、自身の身体の状態よりも優先してその声の主でもある幼児を救おうとする姿が克明に描かれます。
②また津波で家族がバラバラにった被災者たち。生きているのか、死んでいるのか、その安否さえも分からない。主人公の父親もまた、その中の1人だが、落胆する彼の前で1人の被災男性がそっと、充電が残り僅かとなった携帯電話を、彼に手渡します。安否の分からない家族からの連絡を待っていた男性は、泣き叫び落胆する彼を見兼ねて、故郷の父親に連絡するようにと、自身の犠牲を払ってまで、電話を手渡す姿が描かれています。
③避難場所では溢れ返る犠牲者たち。母と子は、そこに収容されることとなるが、母親は傷付いた身体で、また息子に諭すのです。あなたに出来る最大限の役に立つこと、周囲の困っている人を助けなさいと。母親の命を受けた息子は、避難所内を走り回ります。震災で離れ離れになった家族を引き合わせるために。でもそれは、途方もない行動。国も、言葉も、人種も異なる人間が集まるリゾート地。そう簡単に見つかるはずもなく。捜索する対象の人間が増えるばかり。それでもやっと、離れ離れになっていた一組の親子の再会を実現させた瞬間に与えられる感動は、その災害後の環境下を支える大きな希望にも捉えることが出来るのです。
監督は、物語で登場する人物を通して、観賞する私たちに“人を助けること”への重要性を伝えています。そのメッセージを伝えるための役者陣の名演技は、称賛できるでしょう。夫婦役には英国を代表する俳優と女優。ユアン。マクレガーとナオミ・ワッツ。英国出身のナオミ・ワッツはハリウッドでも活躍の場を広げ、過去に2回アカデミー賞でもノミネートされている。1度目は『21グラム』と言うアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督が制作した複雑な人間ドラマにショーン・ペンやベニチオ・デル・トロと共に主演。そして本作『インポッシブル』でも2度目の女優賞にノミネートをされた。次こそ受賞が出来そうな勢いに、今からでも期待が高まる大女優だろう。ただ今作で忘れてはいけないのが2人の子供、長男ルーカス役を演じた子役トム・ホランドだろう。彼は日本での知名度はもちろん低いわけだが、英国での知名度はある程度高いと判断できる。彼の最初のキャリアは90年代後半にヒットした『リトル・ダンサー』の舞台版で主人公のビリー・エリオットを好演。デビューでは実に恵まれた配役と言っていいだろう。またジブリの名作『借りぐらしのアリエッティ』ではUK版の声優に挑戦している。シアーシャ・ローナンとの共演作『わたしは生きていける』でもその存在感を発揮している。2015年に公開された『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』でも隅役ながら出演している。待機作には巨匠ロン・ハワード監督作『白鯨のいた海(原題:IN THE HEART OF THE SEA)』にも重要な役どころで出演予定だ。2012年にはスクリーン・インターナショナルで“明日のスター”にも選ばれている。今後の活躍に期待が持てるティーン・アクターの1人なのは、間違いないだろう。
大きな震災を何度も経験した国である日本に住む私たちにとってこの作品は他人事ではなく、大きな悲しみと共感、そして立ち上がる強さを感じられる作品でしょう。
何よりも怖いのが自然です。いつ何が起こるか分からないから備えることも出来ない、ましてや今作のようにバカンスに来ていた家族だったら見知らぬ土地で地獄のような経験をしなければならないのです。
過酷な状況でも生きることを諦めなかった人達は本当に強かったです。お互い様なんて言葉がありますが、辛い状況の時には支え合い、励まし合うことが何よりも強い力になるのだと感じました。(女性 30代)
津波の臨場感が物凄いです。水流や流れてくる瓦礫は実際の映像のように見えて、只々恐怖を感じました。さらには、怪我が非常に痛々しく、直視できないシーンが幾らかありました。実話ベースとのことで、まさかリゾートに遊びに来た途端にこんな目に遭うなんて、誰が予想できたでしょう。子供達の柔軟な対応力、逞しさに胸を打たれました。しかし、大人が子供を守っていかねばとも強く感じます。他人を助けることは、まさしく自分を助けることになるのでしょう。(女性 30代)
本作は、2004年に起こったスマトラ沖地震に遭遇したスペイン人一家を実話に基づいて描いたパニックヒューマンドラマ作品。
旅行に訪れていた一家が津波によってバラバラになるシーンは壮絶で胸が痛かった。
津波は日本人にとっても身近で、すぐに東日本大震災のことを連想したし、決して他人事ではない話だと痛感した。
こういった危機にさらされた時に、他人に手を差し伸べることができるということがどれだけ大事か、改めて考えさせられた。(女性 20代)
実話をもとにした作品です。クリスマス休暇で訪れたタイのリゾート地でスマトラ沖津波に遭い生き別れた家族が、あきらめずに再会を果たす物語です。実際の被災地は、映像以上に壮絶な空間だったのだろうと感じながら、避難場所で手当てを受ける人々や、その環境、助からなかった命が並ぶ水の引いた陸地の風景はとても悲しいものでした。その中でも、お互いを思いやり、できる限り助け合う姿には、人間の繋がりを感じることができました。
再会することができ、喜ぶ家族がいる一方で、そうではない人々もいました。自然の脅威には敵わないと感じた作品です。(女性 40代)
映画『インポッシブル』 まとめ
見せ場のためだけに制作された映画と批判的意見が多い本作『インポッシブル』。その見せ場と言うのが津波のシーンだろう。あのシーンは近年希にみる圧巻の名シーンだ。本当に実によく出来ている。役者の名演技と空撮、そして編集で作られたシーンは、観る者に津波を体験させる力を持っている。その反面、日本人にとってはこの映画は観るに忍びない作品だろう。なぜなら2011年に起きた東日本大震災のあの巨大津波を思い起こさせる。その自然災害を体験してきた人の心の傷を抉ることになるのではないかと、私は危惧します。あの震災を体験していない私でさえも、あの時の心の傷は癒えていません。そんな私が観ても、この映画の津波シーンは私たちに恐怖心を与えられる程の爆発力を持っています。未見の方にはオススメしたい作品ではあるが、震災の恐怖にまだ癒されていない方には、薦められない問題作であることもまた、事実なのです。
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