朝9時から夕方5時までという健康な時間に、毎日戦争を繰り広げている街を舞台にした作品。一見シュールな設定だが、社会を風刺的に描いているヒューマンドラマ。
映画『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』の作品情報
- タイトル
- きまじめ楽隊のぼんやり戦争
- 原題
- なし
- 製作年
- 2020年
- 日本公開日
- 2021年3月26日(金)
- 上映時間
- 105分
- ジャンル
- ヒューマンドラマ
- 監督
- 池田暁
- 脚本
- 池田暁
- 製作
- 市井三衛
槙田寿文
中西一雄
定井勇二 - 製作総指揮
- 松谷孝征
- キャスト
- 前原滉
今野浩喜
中島広稀
清水尚弥
木村知貴
友松栄
よこえとも子
熊倉一美 - 製作国
- 日本
- 配給
- ビターズ・エンド
映画『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』の作品概要
『東京フィルメックス』とは、2000年から日本で開催されている映画祭。この映画祭では、映画を通じて異文化交流を行うことを目的に、主にアジアの優秀な作品が多く選出されている。しかし、映画祭の名前に東京という文字が入っているにも関わらず、実はこれまで日本人が審査員特別賞を獲得したことは一度もないのである(最優秀作品賞は2005年に小林政広が獲得)。しかし、そんな由々しき事態に終止符を打ったのが本作。第21回東京フィルメックスにおいて、見事本作が史上初となる審査員特別賞を獲得したのである。
映画『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』の予告動画
映画『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』の登場人物(キャスト)
- 露木(前原滉)
- 川向いの村と、毎日なんの疑問を抱くこともなく戦争をしていた。ある日突然音楽隊に人事異動される。
- 藤間(今野浩喜)
- 露木の同僚。常に出世することばかりを考えている。
映画『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』のあらすじ(ネタバレなし)
架空の時代、架空の場所に存在するとある町。その町は、向かいの町と長年戦争を繰り広げていた。しかし、住人は誰一人として、向かいの町のことを知らない。それどころか、なぜ戦争をしているのかさえ、よく分かっていないのだ。ただ、長年の慣習として日々戦争を繰り広げている。戦争の時間は決まって朝9時から夕方5時まで。露木は、なんの疑問を抱くこともなく、まじめにその戦争に参加していた。しかし、ある日突然、音楽隊への人事異動を命じられる。仕方なく家に眠っていたトランペットを取り出した露木だが、途方に暮れる日々。そんな頃、向こう岸から偶然聞こえてきた音楽が露木の心を掴んだ。一方、「向こう岸から新しい兵器がやってくる」という噂が流れて…?
映画『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』の感想・評価
無知の恐怖
勿論、全てのことを知るなど到底不可能だ。しかし、やはり無知ということは恐ろしいことだということを、本作は教えてくれる。向こう岸に暮らしている人たちのことをよく知っていれば、なぜ戦争をしているのかという理由を正しく知っていれば、戦争などというふざけたことはすぐにでもやめるかもしれない。知らないからこそ、住民達は戦争を続けているのだ。私達も、知らないからこそ恐怖するということはあるのではないだろうか。初学者は知識や経験がないために新しいことを恐れ、経験を積むにつれ余裕が生まれてくる。知っていればなんてことないことも、知らないから強大なものに見えてしまうのだ。全てのことを知ることは不可能だが、なるべく色々なアンテナを張り巡らせようと思わせてくれる作品。
リアリティのある作品
毎日朝9時から17時まで、よく知らない相手とよく分からない理由で長年戦争をしている。そんな馬鹿らしい話、フィクションでしかありえない。そう笑い飛ばしている人はいないだろうか。しかし、この作品は実はかなりリアリティがある話のように思われる。村の住人が見たこともない向こう岸の村を恐れているのは、相手をよく知らないためだ。よく知らないが、恐ろしいということだけを昔から言い聞かされているため、どうしようもなく怖いのだ。それは、現実世界の私達にもよくある風景ではないだろうか。よく知らない相手だから怖い。性別も性格も人種も、自分と全く異なる未知の存在だと、どうしても後退りしてしまう。そんな人は多いのではないだろうか。この村は実は、毎日を生きる私達を風刺的に描いているのかもしれない。
個性豊かなキャスト陣
ゆったりとした日常の中にも、オフビートな笑いと独特の空気感を醸し出している本作。そんな作品に相応しく、本作は個性豊かなキャスト陣で固められている。竹中直人や片桐はいり、きたろうといった一癖も二癖もある俳優達がこぞって出演。さらには、今野浩喜や矢部太郎といった芸人も出演している。そんな俳優ばかりが演じる村の住人達が、普通のはずがない。一方で、主人公である露木は、村の決まりである戦争に何の疑問もなく従事する存在。感情表現も少なく、どちらかという無機質な人間だ。そんな主人公とこういった個性豊かなキャストが並ぶことで、露木のミステリアスさをより際立たせることだろう。映画ファンが愛する、個性派集団を拝める作品。
映画『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』の公開前に見ておきたい映画
山守クリップ工場の辺り
実は、最新作の監督を務めた池田暁は、過去にめざましい成績を残している。ロッテルダム国際映画祭とバンクーバー国際映画祭でグランプリを獲得しているのだ。日本のみならず世界で高く評価されたその作品こそが本作。舞台となるのは小さな工場。その工場では、日々手作業で針金からクリップを作り上げていた。そんな工場に就職した小暮だったが、その労働環境は決して良いものではなかった。上司の工場長は横暴、職場環境も劣悪。そんな毎日に辟易していた小暮だったが、ある日、部屋で1匹の蝶を助けたことで人生が大きく変わっていく。蝶を助けたその日、謎の女性が彼の元を訪れたのだ。さらにはその父親を名乗る男も住み着き、彼らの謎の共同生活が幕を開ける。
詳細 山守クリップ工場の辺り
キノの旅 何かをするために -life goes on.-
最新作の舞台となっている街は、架空の街だ。どこにあるかも分からない、どの時代にあるかも分からない街。そこではおかしな戦争を繰り広げていて、第三者が見ればそんな馬鹿なことを、と笑うかもしれない。そんな、側から見たら馬鹿馬鹿しい、けれどどこか自分達と共通する部分がある架空の街を舞台にしているのが本作。『キノの旅』とは、旅人のキノが相棒の二輪車と共に、様々な国を旅する様子を描いたシリーズ作品。多数決の国や自由報道の国、城壁のない国など、作中には様々な国が登場する。その国の独自文化は、一見側から見れば理解できない部分もあるが、その国に暮らす人たちにとってはそれが当然なのだ。心温まる、美しい作品。
詳細 キノの旅 何かをするために -life goes on.-
ぼくらの7日間戦争
戦争映画というジャンルは、根強い人気がある。勿論、戦争を好んでということではない。時には派手なアクションをフィクションとして楽しむため、時には戦争の悲惨さを改めて実感するため、人は戦争映画を見るのである。しかし、戦争映画が必ずしも、人が大勢亡くなる国家レベルの危機を描いているわけではない。最新作のように、まるで戦争を感じさせない戦争映画も存在する。本作も、タイトルに戦争と書いてあるものの、規模は決して大きくはない。抑圧された学生達が大人達に戦いをしかけるという、場所も人員も限られた戦争なのだ。学生達が大人達に仕掛ける、あのホーム・アローンを彷彿とさせる奇想天外なトラップの数々が痛快。
詳細 ぼくらの7日間戦争
映画『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』の評判・口コミ・レビュー
「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」試写。
となり町戦争をしている小さな町で楽隊に異動になった主人公。登場人物がみな人形のように抑揚なく話す。変えられない世界の不条理コメディ。向かいの町から聞こえる音楽。前原洸、今野浩喜、片桐はいりら俳優陣はよかったが、パワハラシーンは御免だった。 pic.twitter.com/m9S9DFC8DT— マサル☆ (@masarutak) March 26, 2021
きまじめ楽隊のぼんやり戦争
何と向かい何の為に戦争をするのか、多くの方々にとってぼんやりとした様な物なのかもしれない。
キャスト陣は台詞棒読みな感じで脱力感満載なのだがそれが面白い。
シュールなネタにクスッと笑いまくりました。
片桐はいり、嶋田久作、石橋蓮司のクセが強い感じが最高。 pic.twitter.com/5f5Hcw0OV7— ディーン・フクヤマ (@masuyou1005) March 26, 2021
きまじめ楽隊のぼんやり戦争。
な、なんだこれは……めちゃめちゃ面白かった………。石田哲也の絵画をどことなく思い出す雰囲気に最初からあ、これ好きかもと。終始NPCの様な動きをする人物に皮肉が効く台詞の滝。笑ってしまう。笑っていいのかな。めちゃめちゃよかった…。 pic.twitter.com/VLZnOng2qD— すなぎも (@sunagimoh) March 27, 2021
きまじめ楽隊のぼんやり戦争。去年のfilmex審査員特別賞。観終わっての印象は、風刺はわかるが頭でっかちで熟れてない。確かにロイアンダーソンやエリアスレイマンにも似た筆致だが、今の日本ならもっと卑近な作劇で良いと思った。とはいえこの作家性は今後益々必要とされるだろう。次も期待はしてる。 pic.twitter.com/mxjazgjlxi
— シネマダイアリー (@susan6662) March 27, 2021
映画『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』のまとめ
個人の『常識』は、育ってきた環境によって大きく左右される。例え第三者から見たら異端なことでも、そのことしか知らなければ、それが普通なのだ。本作に登場する村人達も、このパターンに当てはまる。朝9時から夕方5時まで、大した目的もなく姿も知らない相手と戦争をするなんて、一般の日本人からすれば異端な行為だ。しかし、小さい頃からそれが当然だと思って生きてきた村人達にとっては、それは常識なのだ。主人公の露木も、これまで何の疑問もなくその常識に馴染んでいた。しかし、音楽隊に異動になったことで、少しずつ彼の常識は覆されていく。果たして、より広い世界を知った露木は何を思うのか。
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