映画『この国の空』の概要:谷崎潤一郎賞を受賞した高井有一による同名小説を映画化。終戦間近の東京で、ヒロインが、妻子を疎開させた隣人の男の世話をしていくうちに、女として目覚めていく姿を描く。
映画『この国の空』の作品情報
上映時間:130分
ジャンル:ラブストーリー、青春、戦争
監督:荒井晴彦
キャスト:二階堂ふみ、長谷川博己、工藤夕貴、富田靖子 etc
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映画『この国の空』の登場人物(キャスト)
- 里子(二階堂ふみ)
- 父を病気で亡くし、母と二人で東京の杉並で健気に生きている。日中は、役所の事務を手伝っている。疎開をするための書類の書き方を隣人に教えてあげる優しさを持っている。
- 市毛(長谷川博己)
- 里子たちの隣に住む男。丙種で兵役に取られず、妻子を疎開させ、一人銀行に勤めている。深夜、バイオリンを弾く趣味も持つ。世話をしてくれる里子に次第に惹かれていく。
- 里子の母(工藤夕貴)
- 夫を亡くし、里子と二人で生きている。市毛に惹かれていく里子に、気を許してはダメと言いながらも、男を知らずに空襲で死んでしまうよりは良いのかも知れないと、矛盾した感情を持ちながら見守っている。
- 里子の伯母(富田靖子)
- 里子の母の姉。空襲により横浜の家を焼け出され、里子の母を頼ってくる。他の家族は死んでしまったと本人は思っている。里子の身体の変化に気がつき、母にそのことを話す。
映画『この国の空』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『この国の空』のあらすじ【起】
昭和20年、東京杉並。里子の家では、庭に掘った防空壕が雨で埋まってしまう。それを聞いた隣の市毛は、「ウチのを使えば良い」と言ってくれる。代わりに里子は、市毛の家の窓ガラスに爆風対策の紙を貼るのを手伝うのだった。
里子は、田舎から送られて来た干し餅のお裾分けを持って、市毛の家に行く。そこで、今の自分の人生がツマラナイと愚痴をこぼすのだった。
里子と母は、従姉妹の結婚披露宴に出席する。いとこは軍事産業成金の男性と結婚したのだった。その席で、お嬢さんもそろそろと言われ、里子の心は揺れるのだった。夜、雨戸をあけ空気を入れ替える里子。そろそろと言われたことが気になっていた。ふと、隣の市毛の家をのぞいてみると、以前空襲の日に聞いたバイオリンの音が聞こえてくるのだった。そしてまた空襲警報がなるのだった。
横浜の伯母が、家を焼け出されて、里子たちの所に転がり込んで来る。焼け出された恐怖からか、伯母は空襲警報が鳴っても防空壕に入ろうとしないのだった。この時期、東京への転入は認められていなかったため伯母は、配給が貰えないのだった。配給のない伯母を受け入れる余裕は里子たちの家にはなかった。それでも伯母は、食事は別々で、家賃も払うと言い、里子の家に居候することになる。
映画『この国の空』のあらすじ【承】
里子は、近所のおじさんの疎開手続きを手伝ったお礼に、当時貴重品だったブドウ糖をもらう。家に戻ると、久しぶりに市毛が帰って来ていた。里子は、預かっていた配給を持っていく。市毛は里子に、勤め先に行く途中の空襲のあとの悲惨な状況の話をする。そんな話を市毛としていると、又、空襲警報がなるのだった。
数日後、里子は、家庭菜園で採れたカボチャをどう料理するか母と相談していた。そこへ居候の伯母が、こそこそと米を取りにくる。その姿を見て里子は、母と伯母に有無を言わせない剣幕で、「今夜から3人一緒に食事をすることにしましょう」と言う。
里子は市毛から勝手口の鍵を預かり、彼が勤め先から帰れない時に家の空気の入れ替えて欲しいと頼まれる。町の人たちは、疎開して行く人、ここに留まる人、それぞれだった。里子はこの町にいる。疎開の書類を世話したおじさんは、この町に残っていた。娘から断られてしまったらしい。里子は、自分の家にも諍いはある、母と伯母の確執は大きいと話すのだった。
映画『この国の空』のあらすじ【転】
いつものように、市毛の家の空気を入れ替える里子。里子はふと気になり、市毛の寝室の扉を開ける。万年床に脱ぎっぱなしの浴衣を見て、里子はそれを整える。布団の側には、バイオリンのケースがあり、それを里子はこっそり開けてみるのだった。しかし、里子が洗い庭に干した寝具などは、深夜雨が降り、濡れてしまう。
里子と母は、物々交換をするため、着物を持って田舎のお百姓のところへ行く。お百姓が、交換品を準備している間、川辺に行き、持ってきたお弁当のおにぎりを頰張る二人。やがて服を脱ぎ川で沐浴を始める母。里子には恥ずかしくて、そんなことはできない。里子の身体は大人になって来ていた。母は、「市毛に気を許すんじゃない」と忠告する。平時なら、娘が男の家に一人で入るなんて絶対許さないが、いまはこんな時代だから仕方がない。それでも、気を許して損をするのは女だからと母は言うのだった。
市毛が、比較的良心的な値段の闇米を調達できるところがあると紹介してくれる。市毛と一緒にそれを取りに行く里子。帰り道、焼け野原の向こうに見える海をみる。神社でお弁当を食べる二人。食べながら市毛は里子に、「女の人は何をやっても美しく見えるときがある、今その時だね」と言う。立ち上がり、里子にゆっくりと迫る市毛。里子は後退っていたが、自ら市毛に抱きつきにいくのだった。
映画『この国の空』の結末・ラスト(ネタバレ)
夜、ラジオをつけっぱなしにして、昼間の市毛との抱擁を思い出す里子。身体が熱い。服を脱ぎ、下着姿で廊下に寝転がる。裸足のまま庭に出て、トマトを取り洗い、もう一度服を着て市毛の部屋の窓を叩く。窓を開けた市毛にトマトを渡し、今食べてと言う。里子から渡されたトマトにかぶりつく市毛。食べ終わると、里子を部屋に招き入れるのだった。
毎日の空襲、明日死ぬかもしれない恐怖に、不安になる二人。そして二人は、愛し合うのだった。ことの後、畳についた血の跡を拭う市毛。里子は、井戸の水で身体を洗うのだった。
翌日、ソ連の参戦が伝えられ、里子は役場を早引けをして帰る。隣の家に市毛の気配はなかった。町では、13日に東京に新型爆弾が落ちるという噂が流れていた。1日中、空襲警報に怯えるが、新型爆弾は落ちてこなかった。
14日の夜、市毛が帰って来る。市毛は、里子の家に入り、母や叔母に戦争が終わると言うのだった。雨の中、家の前で里子に口づけする市毛。里子は「戦争が終わると奥さんが戻って来るわね」と言いながら、もう一度唇を重ねる。里子は「私の戦争がこれから始まる」と思うのだった。
映画『この国の空』の感想・評価・レビュー
太平洋戦争末期の日本。里子が一番綺麗だった時の話。
男を知らないまま死にたくないという気持ちから、母からの忠告を受けながらも市毛への想いを抑えられなくなる、という里子の素直な気持ちが素敵だと思った。
戦争への恐怖や母と伯母の確執、家庭を持つ男性との愛を通して里子が成長する姿が描かれている。
戦争は終わりを告げるが、それは市毛の妻が戻ってくることを意味していて、「これから私の戦争が始まるのだ」と決意する里子の眼差しには、一人の女の強い意志が見て取れる。(女性 20代)
戦時下という命の危険に常々晒され続ける中、大きな不安を抱え誰かに支えを求めることもあったと思う。だが、ヒロインは19歳と若く隣人は妻子ある歳の離れた大人の男性。互いの価値観の違いには大きな隔たりがあるように感じた。ヒロインのひたむきさはある意味、若さ故のように思える。少女から女へ成長する姿を演じた二階堂ふみの演技も素晴らしく、ラストシーンでは女の激しさが垣間見え少しばかり背筋が寒くなった。(女性 40代)
生きていくことさえも苦しく大変な時代に、異性に恋をするという事はどれほど危険で儚いものかを知りました。
里子の気持ちを思うと、いくら母に言われても市毛に対しての気持ちは抑えられず、また妻や子が居ることを知っていても身体を重ねずにはいられなかったのだと思います。
里子の芯の強さを感じるシーンがいくつかありましたが、「これから私の戦争が始まる」というセリフは里子の決意が表れた衝撃的な言葉でした。(女性 30代)
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