映画『坂道のアポロン』の概要:転校してきたおとなしい少年と乱暴者で有名な少年がジャズという音楽で繋がり、友情に恋にと、青春を謳歌していく。西見薫はピアノを嗜み、クラシックばかりを聞いていたが、ある時、ジャズに触れて、その魅力に引き込まれていく。
映画『坂道のアポロン』の作品情報
上映時間:120分
ジャンル:ヒューマンドラマ、青春、ラブストーリー
監督:三木孝浩
キャスト:知念侑李、中川大志、小松菜奈、真野恵里菜 etc
映画『坂道のアポロン』の登場人物(キャスト)
- 西見薫(知念侑李)
- 佐世保に転校してきた高校生。父親が死亡、母親は幼少期の頃に家を出ていき戻ってきていない。そのため、伯母のところに居候することになった。代々、医者の家系のため、将来は医者になるという道が決まっている。ピアノを嗜み、クラシックが好み。周りから注目を浴びるのが苦手で、どちらかというとネクラなおとなしい少年。だが、自分の意見ははっきりと口にする気丈な性格でもある。
- 川渕千太郎(中川大志)
- 外国人とのハーフで、赤ん坊の時に教会の前に捨てられていた。その時に持たされていたのはロザリオだけ。そのロザリオは千太郎にとって命よりも大切なもの。幼少期は髪が赤かったため、周りからイジメられた。そのせいで、今ではすっかり乱暴者になってしまっている。ジャズドラムを好んでおり、その体育会系の身体から、パワフルなプレイを生み出す。
- 迎律子(小松菜奈)
- 薫、千太郎の同級生でクラス委員長。実家はレコード屋。父親の趣味で、地下室には自作のセッションルームがある。千太郎を好いていたが、のちに気持ちは薫へと揺れ動く。
- 桂木淳一(ディーン・フジオカ)
- 東京の大学に通う青年。学生運動に参加しており、一時的に佐世保に戻ってくる。トランペットの腕は見事で、千太郎からは淳兄と呼ばれ、信頼されている。東京から追ってきた深堀百合香とは、のちに結婚し、子供も授かる。
- 深堀百合香(真野恵里菜)
- 東京の美大に通う女子大生。淳一を追って佐世保に戻ってきた。その美貌から千太郎に一目惚れされてしまう。
映画『坂道のアポロン』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『坂道のアポロン』のあらすじ【起】
医師の西見薫は高校生だった1966年のことを思い出していた。当時、彼は父が亡くなったことで伯母に引き取られ、横須賀から佐世保に転校することになった。東京からの転校生、尚且つ、金持ちの子供ということで、同級生からは距離を置かれていた。しかし、クラス委員長の迎律子だけは、気さくに声をかけてきてくれた。薫は一目で律子に好意を抱く。
周りからの好奇の目に耐えられなくなり、気分が悪くなった薫は屋上へと逃げてくる。だが、そこには先客がいた。首からロザリオを下げた学校で一番のワルと言われる川渕千太郎だった。生徒はおろか、教師も関わり合いたくないほどの悪評の持ち主だったが、千太郎は薫を気に入ったようで、ボンと呼んで何かとちょっかいを出してきた。
薫がクラシックレコードを探していると知った律子は、彼を実家のムカエレコードへと連れて行く。そして、薫がピアノを弾けると分かると、彼を地下室へと案内した。そこには自作のセッションルームが広がっていた。
地下室には千太郎がいた。律子と千太郎は幼馴染だったのだ。薫の登場に驚くが、千太郎は気にせずに見事なジャズドラムを披露。薫は思わず聞き惚れてしまう。
お坊ちゃんにジャズは弾けないと言われ、悔しくなった薫は、アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーの“モーニン”のレコードを買って帰ると、千太郎を見返そうと必死で練習したのだった。
映画『坂道のアポロン』のあらすじ【承】
薫が“モーニン”を練習していることを知り、嬉しくなった千太郎はセッションしようと言いだす。律子と共に三人で地下室を訪れると、先客がいた。それは千太郎が淳兄と慕う桂木淳一だった。
淳一のトランペット、律子の父・勉のウッドベース、千太郎のドラムでジャズセッションが始まる。入ってこいと合図された薫は戸惑うが、何も考えずに飛び込めばいいという千太郎の言葉に勇気づけられる。音を合わせていくうちに、セッションの気持ちよさに包まれていった薫は、自然と笑みを浮かべていた。
夏休みがやってきた。薫、千太郎、律子の三人は海に遊びに行く。そこで強引にナンパされる美女・深堀百合香を助けた千太郎は、彼女に一目惚れしてしまう。
美大生の百合香と親しくなろうと策を練るが妙案は生まれない。淳一にアドバイスを求めようと、彼に会いに外国人がたむろするバーへとやってきた薫と千太郎は、店で演奏してみないかと誘われて大喜び。しかし、それを聞いていた外国人が茶々を入れてきた。怒った千太郎は掴みかかったが、淳一はそれを制し、トランペットを吹き鳴らした。三人は即興で“バット・ノット・フォー・ミー”を演奏し、客たちの心を一瞬で掴むことに成功する。
店に百合香が現れて、千太郎は舞い上がってしまう。だが、百合香の淳一への態度を見た薫は、二人の関係に気がつき、複雑な気分になった。後日、千太郎は百合香の絵のモデルを務めた。百合香から、ギリシア神話のアポロンみたいだと言われた千太郎は幸せいっぱいだった。
薫は律子が千太郎を好いていることにも気がついていたので、悩んでいた。そんな時、律子からドラムスティックを一緒にプレゼントしようと提案される。プレゼントを渡そうと地下室で待っていると、千太郎が百合香を連れて現れた。自分たちだけの秘密の場所に百合香を連れてきたことにショックを受けた律子は飛び出していってしまう。
雨が降る中、律子の後を追った薫は神社で律子を見つけ出す。寂しそうな顔をする律子に、薫は自分の感情を抑えきれず、思わず口づけしてしまった。突然のことに驚いた律子は、再びその場から走り去っていった。
夜、千太郎にプレゼントを渡しに行った薫は、彼が兄弟たちと仲良く過ごす姿に嫉妬を覚えてしまう。伯母の家で肩身も狭く、独りぼっちの自分とは大違いだと。そのことを告げると、千太郎は教会へと薫と連れて行った。そこで古いアルバムを開いた千太郎は、自分が外国人との混血で、ロザリオと共に教会の前に捨てられていたこと、今の家族に引き取られたことを告白した。お互いに独りぼっちだという共通点を感じた薫は涙し、二人の友情は強く結ばれていった。
律子と話した薫は、あのキスが律子のファーストキスだったこと、薫の気持ちに対してどうしたらいいのか分からないという気持ちを知らされる。二人の間には、相手を意識した少し気まずい空気が流れるようになっていた。
映画『坂道のアポロン』のあらすじ【転】
ひょんなことから淳一と百合香の関係に気がついた千太郎。二人は学生運動に参加するため、東京へと去って行った。苛立ちを感じた千太郎は、やみくもにケンカに明け暮れてしまう。止めに入った薫は、二人の関係を知っていたのかと訪ねられ、知っていたが君を思って伝えられなかったと答えた。だが、千太郎は薫を責め、二人の仲はこじれ始めていく。
学園祭が近くなってきた。薫と律子は、半ば押しつけられるかたちで実行委員に選ばれてしまった。そんな時、別クラスの松岡という生徒がやってきて、文化祭でロックコンサートをやるので、千太郎にドラムで参加してほしいと言いだす。薫は、千太郎はジャズしかやらないと言い切るが、自暴自棄の千太郎は申し出を了承してしまう。
学園祭当日、ロックライブが始まり、評判は上々だった。しかし、演奏の途中で電源が落ち、ステージは真っ暗になってしまう。電気が無ければエレキギターから音は出ない。配線を調べに行った薫は、ステージ裏で千太郎と律子の会話を耳にする。そして、千太郎が自分と不仲になってしまったことを、とても後悔していると知るのだった。
生徒たちが退屈しだした頃、薫はバンドメンバーに、電力が復旧するまで繋ぐと言い、ひとりピアノの前に座った。そして、静かに“マイ・フェイバリット・シングス”を弾き始めた。それは律子の好きな曲だった。それを聞いた千太郎は、そっとドラムを叩きだす。次第に二人は以前のように息のあったセッションを繰り広げた。会場は拍手喝采となり、二人は学校を飛び出していく。友情を取り戻した二人は、坂道を気持ちよさそうに駆け下りていった。
映画『坂道のアポロン』の結末・ラスト(ネタバレ)
クリスマスに教会で演奏会をすることになった薫と千太郎は、律子に歌ってくれないかと誘いをかけた。律子は喜んでOKしてくれた。薫と律子は以前のような関係に戻っただけでなく、律子は薫に好意を抱き始めていた。だが、クリスマス当日、千太郎は律子を乗せたまま、バイクで事故を起こしてしまう。千太郎は腕を怪我し、律子は意識不明に陥ってしまった。当然、演奏会は中止となる。
人気のない教会で自分を責める千太郎を見つけた薫は、彼を抱きしめた。千太郎は静かに泣き崩れた。翌朝、律子は意識を取り戻したが、千太郎の姿はどこにもない。代わりに、命よりも大事と言っていたロザリオだけが残されていた。それ以来、二人が千太郎を目にすることはなかったのだった。
あれから10年、医者となった薫の元に淳一と百合香が訪ねてきた。百合香は薫に一枚の写真を見せてくれた。映っていたのは友人が結婚式を挙げたという教会だったが、なんとそこには、神父になった千太郎の姿も映っていた。
久しぶりに佐世保を訪れた薫は母校に足を運んだ。そこで、教師となった律子と再会する。薫は千太郎の写真を見せると、一緒に会いに行こうと律子に告げた。写真の教会へとやってきた二人。教会に近づくと、ドラムの音が聞こえてきた。中では千太郎が子供たちにドラムを披露していた。
二人の姿に千太郎は驚くが、すぐにドラムを叩きだした。それに合わせて薫がピアノを弾き始める。“マイ・フェイバリット・シングス”が響き渡る中、律子は感動の涙を滲ませていた。そんな律子に千太郎が合図を送る。律子は頷くと、大きく息を吸い込んで歌いだし、三人のセッションが始まったのだった。
映画『坂道のアポロン』の感想・評価・レビュー
日本での漫画の実写映画化は、もううんざりするほどされており、その出来もピンキリなのだが、本作は成功していると思う。原作をベースにしながらも二時間に収まるように改変し、薫、千太郎、律子の三人を焦点に話が構築されている。60年代の再現も見事だ。見せ場は文化祭でのジャズセッションだが、やりすぎない演奏レベルにしてあるのがリアルで心地よかった。最後に律子に歌わせず、エンドロールもタイアップ曲だったのは、とても残念に感じた部分だ。(MIHOシネマ編集部)
真面目で大人しい薫とヤンチャな千太郎、そしてまとめ役の律子。ジャズを通して3人が繋がり、曲だけでなく心もセッションさせて行く様子が物凄くかっこよかったです。青春ドラマは苦手ですが、今作の3人の演技はとても自然体で、短い時間の中に青春時代の様々な感情が盛り込まれていたと思います。
教会でのラストシーンは秀逸でした。このままもっと余韻に浸っていたくなるような素敵な作品です。(女性 30代)
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