映画『死にゆく妻との旅路』の概要:52歳無職の清水久典。多額の借金と末期がんの妻を抱え、なけなしの50万円を持ってワゴン車で日本中を旅する。絶望的な日々の中でも、幸せな毎日を送っていた2人だったが、久典は保護責任者遺棄致死罪で逮捕されることに。実際に逮捕された男性の手記を元に映画化された、夫婦の純愛の物語。
映画『死にゆく妻との旅路』の作品情報
上映時間:113分
ジャンル:ラブストーリー、ヒューマンドラマ、ドキュメンタリー
監督:塙幸成
キャスト:三浦友和、石田ゆり子、西原亜希、掛田誠 etc
映画『死にゆく妻との旅路』の登場人物(キャスト)
- 清水久典(三浦友和)
- バブル崩壊で事業が傾き、4000万円の借金を負う。仕事を探しながら、妻のひとみを連れてワゴン車で日本各地を旅する。
- 清水ひとみ(石田ゆり子)
- 久典の妻。末期の大腸がんを患っている。久典と離れ離れになることを極端に嫌う。
- 清水沙織(西原亜希)
- 久典の娘。子供が生まれたばかりで、旦那と3人でアパートに暮らす。
映画『死にゆく妻との旅路』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『死にゆく妻との旅路』のあらすじ【起】
石川県七尾市、清水久典は総額4000万円の借金から逃げていた。青いワゴン車に乗って、海沿いの防波堤で寝てみたり、浮気をしていたフィリピン人女性のシェアハウスに居候してみたり。なけなしの50万円を持って、当てもなく生きていた。
清水ひとみは、大腸がんの手術を終え退院を迎えていた。娘の沙織が荷物をまとめ、沙織の住む家に連れていく。沙織には赤ん坊が生まれたばかりだった。赤ん坊の世話で慌ただしい娘を眺め、ひとみは窓際に座り外に視線を向ける。ひとみはずっと行方を晦ましてしまった夫の帰りを待っていた。
3ヶ月が経ち、ひとみは深夜に目を覚ます。布団から抜け出しリビングへ向かうと、そこには待ち焦がれていた久典がいた。涙を浮かべてお帰りなさいとほほ笑む。久典が姉に連絡を取り詫びると、姉は久典に自己破産をするようにと勧める。川辺で1日中考え込んだ久典は、ひとみに自己破産はしないと告げる。
ひとみは沙織の家に帰ることを拒否し、久典と一緒にいることを選択する。2人の旅が始まる。車中泊をし、海を見に行き、ハローワークへ仕事を探しに行く。ランチに寄ったレストランで、ひとみはこれが初めてのデートなのよと久典に笑いかけた。田んぼのはずれで久典はひとみの髪の毛を切ってあげる。ひとみは、いつも自分のことを「お母さん」と呼ぶ久典に、これからは名前で呼んでくださいと微笑みかけた。
映画『死にゆく妻との旅路』のあらすじ【承】
兵庫県姫路市で姫路城を訪れ、ハローワークへ行き職を探す。50歳を超える久典に仕事はなかった。土砂降りの雨が降る夜、車内で2人は出会った日のことを思い出す。久典が初めて自分のことを名前で呼んでくれたと、ひとみは喜んでいた。
車を走らせ、七尾市にもあるショッピングセンターSTAYを見つけると、ひとみは嬉しそうに店内を歩き回った。久典にねだり、スカートを1枚だけ買ってもらう。久典の仕事が決まったら履くねと大事に袋に入れておいた。
美濃加茂市、豊田市、掛川市。あらゆる市のハローワークを訪れるが、久典の仕事は見つからない。袋から出されることなく、スカートは座席の下へしまい込まれる。この頃から、ひとみの具合は段々と悪くなっていく。
海辺で車中泊をしていると、駐在の警察官が車内を覗き込み、久典に免許証の提示を求める。無職の久典に、変なことは考えないようにと、近くで老夫婦が車内で餓死していた話をする。
山道を走っていると、ひとみは老夫婦の話を持ち出す。そして、私はいいよと呟いた。久典は車のスピードを上げていく。カーブに差し掛かったところで我に返った久典は急ブレーキを踏む。間一髪のところで車は止まり、2人は事無きを得る。そのとき、ひとみが木々の隙間から富士山が見えることに気付く。久典は運が良かったねとひとみに笑いかけた。
映画『死にゆく妻との旅路』のあらすじ【転】
2人は石川県まで戻ってくる。度々腹部の痛みを堪えているひとみに、病院へ行くことを提案するが、ひとみは決して「うん」とは言わなかった。
夏の暑い日差しの中、2人は公園で檻の中にいるサルを眺めている。ひとみの表情には元気がなく、車で休むと言い、久典は檻の前のゴミを掃除し始めた。夕方、銭湯へ行こうとひとみを誘うが、ひとみはふらふらすると気怠そうに返事をする。夏だからなと久典はごまかした。
海沿いの堤防に腰かけていた久典は、東京まで自転車で旅をしていると言う老人に話しかけられた。老人はコンビニの廃棄でもらったパンを久典に分ける。久典は老人に、仕事がないんですとこぼし始めた。一緒に商売をやりますかと老人が久典の肩を叩くと、久典は機会があればと返事をした。
ひとみの具合は日に日に悪くなっていく。ショッピングセンターへ出かけても、ひとみは体調不良を訴え、久典はベンチにひとみを座らせる。ひとみを1人ベンチに残して、2階の吹き抜けからひとみの様子を眺めていた久典は、堪えきれずその場に蹲り、声を殺して泣いた。
やがてひとみは1人で歩けなくなり、食べ物を食べてもすぐに吐くようになっていく。深夜、ひとみが苦しそうに呻き声を上げると、久典はひとみを救急病院へ連れていく。しかし、病院へ行くことを頑なに拒むひとみは、検査を抜け出して久典の元へ戻ってくる。泣き喚き、久典に嘘つきと罵り縋りつくと、久典は何度もひとみに謝罪をし、ひとみを連れて病院を後にした。
映画『死にゆく妻との旅路』の結末・ラスト(ネタバレ)
海沿いの堤防で久典は捨てられた釣竿を発見する。釣竿の1つを改良し、釣りをしている間何かあったら糸を引っ張って鈴を鳴らすようにとひとみに渡す。最初は遠慮がちだったひとみは、段々と何度も久典を呼び付けるようになる。そして、久典に暴言を吐くようになり、痛みを堪える呻き声が1日に何度も聞こえるようになった。
清水は、海沿いの資材置き場の中でロープを発見し、ぎゅっと握りしめた。
秋口になると、ひとみは紙おむつをするようになる。動けないひとみの体を丁寧にタオルで拭き、ひとみが好きなアイスクリームを口に含ませる。けれど、ひとみはアイスを飲み込むこともできなくなっていた。
ひとみは泣きながらカミソリで手首を切り自殺を図る。しかし、久典を1人にはできないと泣き、久典はそんなひとみの頭をそっと撫でた。
雪の降る寒い日の朝、気分が良いと微笑むひとみに、久典は薬が効いたんだねと喜んでみせた。ひとみの髪の毛を整えてあげると、ひとみは初めてデートをした東尋坊へ行きたいと言う。久典は車を走らせた。
口笛を吹き、あと少しで着くよとひとみに話しかける。後部座席で寝ているひとみ。久典は車を道路脇に停め、ひとみの手を握る。その後、ひとみの鼻と口へ手を翳す。久典は肩を震わせ、ひとみの手を強く握りしめると、自分の額に押し付けた。ひとみの体は、冷たくなっていた。
久典は兄の家を訪ねる。兄は、もうすぐ警察が来ると力なく言い項垂れた。取調室で、警察官がなぜこんなことになるまで放っておいたのかと久典を問い詰める。ひとみを病院へ連れていかなかったことを非難し、久典の両手に手錠を掛けた。
罪状、保護責任者遺棄致死罪。
現実味が湧かないまま、久典は拘置所で20日間を過ごす。沙織が迎えに現れ、帰宅しようとした久典は、自分の青いワゴン車に気付き近寄っていく。車内は、ひとみと過ごした日のままになっていた。久典は、初めて声を上げて涙を流す。止める沙織を突き飛ばしてワゴン車に籠り、ひとみが使っていた布団を握りしめ泣き続ける。沙織はコンクリートブロックで窓ガラスを割り、強引に車内に入ると父親を無理やり外へ連れ出し、頬を何度も叩いた。呆気に取られている父親に、沙織も泣きながら帰ろうと呼びかける。
映画『死にゆく妻との旅路』の感想・評価・レビュー
病気を患ったひとみの、夫と共に生涯生きていくと誓った思いや、何とかひとみを生かそうと病院へ連れていく久典の気持ちがぶつかり合い、それぞれの葛藤を描きながら、旅をしていくストーリーであり、何度も心が苦しく愛情の深さが身に染みた。長くは生きられないと感じたひとみが、久典と二人だけの旅をし、今まで夫婦として出来なかったことや、やりたかったことを実行する場面が感動的であった。また、久典の生きて欲しいと望む気持ちと、何もしてやれなかった事を少ない時間でしてあげようと、一緒に行動する気持ちが揺るぎ、苦しみながら共に生活する場面も見所であった。(女性 20代)
本作は、無職の夫がなけなしの50万円とワゴン車で末期がんの妻と共に日本中を旅する様子を描いたヒューマンラブストーリー作品。
保護責任者遺棄致死罪で逮捕された実在した夫の手記を基に映像化されたもの。
それぞれの葛藤がありながらも共に生活することに重きを置いて、それまでの夢を叶えていく場面は涙なしには観れなかった。
妻を尊重したがゆえに罪に問われた夫を思うと心が痛み、切ない気持ちになった。
深い夫婦愛に生きる意味を感じられる作品。(女性 20代)
とある罪人の手記から製作された作品。借金の取り立てから車で逃げる夫婦が描かれている。癌が再発し命の終わりに覚悟を決め、夫と最後まで一緒に暮らすことを願う妻。妻の願いを尊重するも、精神的には追い詰められていく夫。どうしようもなく救えないラストであることは明白。少しずつ身なりがボロボロに汚れる演出には、画面から何度も目を反らしたくなってしまう。落ち込んでいる時には観るべきでない物語であるが、夫婦の深い愛の形には心を打たれる。(男性 20代)
久典とひとみの気持ちは誰にも理解してあげられないのだろうと思いました。お互いを愛していたからこそ、ひとみは病院に行かず、久典はひとみに寄り添った。観客である私たちはそれを見て夫婦の愛に浸り、共感したような「気」になりますが実際の幸せや苦しみ、悲しみは他人である私たちには到底理解できないものだし、2人だけが知っていれば良い事なのだと思います。
こういった実話をほじくり返して映像化するというのはあまり好きではありませんが、一つの映画としては物凄く心に残る作品でした。(女性 30代)
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