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映画『存在のない子供たち』のあらすじ・感想・評判・口コミ(ネタバレなし)

僅か12歳の少年が、自らを生んだ罪で両親を告発する衝撃の話題作。貧困に喘ぐ中東移民に視線を向け、真実を抉り出した人間ドラマ。監督は、長編映画『キャラメル』でデビューし、高い評価を受けたナディーン・ラバキー。

映画『存在のない子供たち』の作品情報

存在のない子供たち

タイトル
存在のない子供たち
原題
Capharnaum
製作年
2018年
日本公開日
2019年7月20日(土)
上映時間
125分
ジャンル
ヒューマンドラマ
監督
ナディーン・ラバキー
脚本
ナディーン・ラバキー
製作
ミヒェル・メルクト
ハーレド・ムザンナル
製作総指揮
アンヌ=ドミニク・トゥーサン
ジェイソン・クリオット
キャスト
ゼイン・アル・ラフィーア
ヨルダノス・シフェラウ
ボルワティフ・トレジャー・バンコレ
カウサル・アル・ハッダード
ファーディー・カーメル・ユーセフ
シドラ・イザーム
アラーア・シュシュニーヤ
ナディーン・ラバキー
製作国
レバノン
配給
キノフィルムズ

映画『存在のない子供たち』の作品概要

2019年に開催された第91回アカデミー賞と第76回ゴールデングローブ賞の外国語映画部門に、衝撃的な映画が選抜される。2018年のカンヌ国際映画祭では、2部門を受賞した『存在のない子供たち』である。監督は、監督・脚本・主演を1人で仕上げ、好評化を得た『キャラメル』のナディーン・ラバキー。12歳の少年が、自らの両親を告発するというストーリーに、人々は激震する。だが、中東の国々では少年の生い立ちは決して珍しくない。ナディーン監督が目にし、経験した中東スラムの現実が慟哭の物語となって日本へ上陸する。

映画『存在のない子供たち』の予告動画

映画『存在のない子供たち』の登場人物(キャスト)

ゼイン(ゼイン・アル=ラフィーア)
12歳の少年。家族の貧困が理由で、両親が出生届けを出さなかったため誕生日も社会的な存在もしていない空虚な少年。
ラヒル・シファラ(ヨルダノス・シフェラウ)
遊園地で掃除婦として働いている女性。1人息子の幼いヨナスを隠しながら生活している。家出をしたゼインに、わずかな食料と部屋を与える。
ヨナス(ボルワティフ・トレジャー・バンコレ)
ラヒルの1人息子。まだ1歳に満たない赤子で、職場の人や貸してもらっている小屋の主人にばれないように隠されながら育てられる。
セリーム(ファーディー・カーメル・ユーセフ)
ゼインの父親で、定職に就かず貧困に喘ぎながら子供たちと生活する。気に入らないと激高する性格。
スアード(カウサル・アル=ハッダード)
ゼインの母親。ゼインを含めて7人の子供を持つ。違法ドラッグを売人から仕入れ、刑務所に差し入れる仕事をして生活をしている。

映画『存在のない子供たち』のあらすじ(ネタバレなし)

裁判長は、泣き叫びもせず、達観し淡々と正論を語る12歳の少年ゼインを見つめる。「どうして両親を訴えるのか」そうした裁判長の問いに、ゼインは「僕が生まれてきたから」と答える。

ゼインは、レバノンの小さなアパートに、家族でひっそりと暮らしている。12歳になるゼインは、スクールバスで学校へ向かう同じ年の子供たちを尻目に、今日もストリートでジュースを売る。満足に教育を受けることもできず、その日暮らすための日銭を稼ぐ毎日。

大好きな姉は、ある日突然親に売られてしまった。14歳になったばかりの姉が化粧をして男の前に座る。ゼインは烈火の如く怒るが、状況は変わらない。更に悪いことは続く。仲の良かった11歳の妹に、生理が訪れる。ゼインは両親に知られまいと必死に妹の生理を隠すが、マーケットの商店主に目をつけられ、妹は連れ去られてしまった。

絶望の淵に立たされたゼインは、1人寂しく家を出る。本当は、妹を連れて出ていきたかったが、それはもう叶わない。ゼインが行き着いた先は、遊園地であった。そこで仕事を探すが、誰1人としてゼインに目を向けてはくれなかった。お腹を空かせ、苦しむゼインに掃除婦のラヒルが手を差し伸べる。彼女もまた、エチオピアからの難民であったが、同じ境遇のゼインを放っておくことはできなかった。ゼインは、ラヒルとラヒルの1人息子ヨナスと一緒にラヒルの小屋に帰り、久しぶりに安堵の思いで眠りにつく。

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映画『存在のない子供たち』のネタバレあらすじ結末と感想
映画『存在のない子供たち』のネタバレあらすじと感想。ストーリーを結末まで起承転結で分かりやすく簡単に解説しています。映画ライターや読者による映画感想も数多く掲載。

映画『存在のない子供たち』の感想・評価

親を告発する少年

この映画が話題となったきっかけは、12歳の少年が親を告発したことにある。それも、「僕を生んだ罪で」という内容だから驚きである。少年ゼインは、育てられないなら産むべきではないとはっきり裁判官に告げる。日本でも、虐待の報道がされるたびにそうした声が上がる。

親を提訴する子供は、別に珍しいことではない。2019年6月のインドからは、27歳の男性が、両親を提訴したというのだ。その理由は、「自分の同意なく、僕を産んだから」だという。ここまで読めば今回のゼインと同じかと思うかもしれないが、この男性は、窃盗の罪で仕事を解雇されてから働かず、親の仕送りで生活をしていた。親が愛想を尽かして仕送りをストップしたことで、今回の裁判に踏み込んだのだ。

同じ親を提訴するにしても、天と地ほどの差があり、男性の提訴は何ともバカバカしい。成人した大人であれば努力次第で自分の現状は変えられるし、仕事もできる。だが12歳の少年に同じことをしろと言っても、社会が認めない。こんなバカげた話がニュースになるのだったら、ゼインのような子供たちの声が、もっと社会に広まればいいのにと願わずにはいられない。

集められた、登場人物たちと同じ境遇の人々

今回の映画に登場する主人公ゼインは、本人の名前もゼインである。そして、ゼイン本人も、映画の登場人物と似た境遇の持ち主でもある。ゼインの母親は、16人の子供を産み、そのうちの6人は成長できずに死んでしまった。そしてそのうち、子供を育てられないからと孤児院に預けてしまう。日本で子を持つ親だったら、そんな数の子供を産むこと自体考えられないが、育てられないから施設に預けてしまうという人も少数派である。

もちろん、10歳そこらの子供たちが親や兄弟を養うために働きに出ることなどあり得ない。ゼインの母親役のハッダードも、子供たちに与えていた食事は砂糖と氷であったという。ゼインたちの住んでいる境遇は、日本とは何もかもが違う。だからこそ、ラバキー監督は、本物の役者ではなく素人の彼らをキャスティングした。この地獄のような場所で、あらゆるものから理不尽な待遇を受け、それでも自分を守り生きている人たちのことを伝えようと思ったら、“偽物”ではいけないのだ。

ラバキー監督自身も、ゼインの弁護士役で登場しているが、この映画で本物の自分以外を演じているのは監督だけである。裁判官ですら、役者ではなく本物の裁判官を起用したという徹底ぶりに、ラバキー監督がこの映画にかける信念のようなものが伝わってくる。

3年間のリサーチの集大成

ラバキー監督が不法移民や人種差別、不当な扱いをされている子供たちをテーマに掲げたとき、子供たちを中心とした物語を思い付いた。映画を見ていればとても不思議で、印象に残るだろうシーンがいくつかある。その中の1つが、1歳にも満たないヨナスが、泣きも騒ぎもせず母親が仕事を終えてくるのを待っていたり、夜小屋で眠っている様子だったり、ゼインの横にぴったり寄り添っていたりする場面である。

子供を育てたことのある人や、関わりのある人なら、誰しも感心するか異様であると感じるはずだ。赤ん坊がそんなに長時間大人しくできるわけがないと。だが、映画に登場するヨナスは、ジッと母を待ち、ゼインのあやしに素直に応じ、母を困らせないように配慮する。胸の打たれる場面である。

ラバキー監督は、映画製作のために3年のリサーチを要した。その間に、映画に登場するシーンと同じような場面に出くわしたというのだ。夜中の1時ごろ、母親が路上で物乞いをしている。その腕には、まだ幼い赤子が抱かれていた。2歳になるかならないかの幼い子供は、外で母親に抱かれながら少しもぐずりもせずジッとして、眠たいのを我慢していた。長い人生を生きている中で、必ず人は、自分の価値観が崩壊する場面に出くわす。ラバキー監督にとっては、その出来事がまさにそれであったのだろう。それから貧困地域や少年院、拘置所を回り、彼らの経験をつぶさに記録した。ラバキー監督は、放置された子供が血を守ってくれる仕組みの基礎ができることを祈って、これからも発信し続ける。

映画『存在のない子供たち』の公開前に見ておきたい映画

映画『存在のない子供たち』の公開前に見ておきたい映画をピックアップして解説しています。映画『存在のない子供たち』をより楽しむために、事前に見ておくことをおすすめします。

キャラメル

ラバキー監督が主演を務め、脚本を執筆し、監督もこなした初の長編映画である。2007年のカンヌ国際映画祭で監督週間にて初上映され、ユース審査員賞を受賞する。60か国以上の国々で上映され、その後、2008年にはフランスの文化・通信省より芸術文化勲章を授与されるまでに至った。

ラバキー監督は、30歳のヘアエステサロンオーナー・ラヤールの役を演じる。ラヤールの恋人は実は妻子持ちで、仕事が手につかない状態。他にも婚約者に隠し事のある女性や、俳優オーディションに明け暮れる常連客や、姉の世話に思い悩む近所の住人など。登場人物はみんな明るく、世間話をして楽しそうにふるまっているのに、それぞれの秘密を抱えながら懸命に生きている。

題名の「キャラメル」は、中東ではムダ毛処理の際に砂糖やレモン汁などと一緒に煮詰めて肌に塗り、ムダ毛と一緒にはがすために使われる。甘みと塩気と酸味のあるキャラメルは、その他にも「やけどする」といった意味も込められている。人生には酸いも甘いもあるとは昔からの日本の格言であるが、そうしたことを人には悟らせずみんな生きている。サロンで働いている人たちの姿が、まるで自分たちのことを映した鏡のようで、とてもリアルな映画に仕上がった。

詳細 キャラメル

万引き家族

2018年に公開された堤枝裕和監督の作品。『存在のない子供たち』と同じく、第71回カンヌ国際映画祭で上映され、この映画は最高賞のパルム・ドール賞を受賞した。映画の構想には、10年の歳月が費やされ、脚本も堤枝監督自身が書き下ろしている。内容は、親の年金を不正に受給していた、実際にある家族の事件である。

この映画の内容は、6人の家族の物語である。東京の下町で暮らす柴田家には、日雇いの治、治の妻・信代、信代の妹・亜紀、治の母・初枝、そして治と信代の息子の祥太。最初はこの5人で、初枝の年金と治・祥太が行う万引きで生計を立てていた。そこへ両親から虐待を受けていて逃げてきたゆりが加わり、6人は犯罪をし、社会の底辺で暮らしながらも幸せそうに過ごす。

ところが、治が怪我により仕事ができなくなり、初枝は急逝し、信代も仕事をクビになる。柴田家は初枝の年金を不正に受給し始め、万引き車上荒らしなどへ変化していく。ゆりも万引きに積極的に関わるようになり、やがて警察にばれて柴田家は捕まる。

先進国と言われている日本ですら、こうした現状の中で生きている家族は数えきれないほど存在している。カンヌ国際映画祭で、『存在のない子供たち』と同時に上映された『万引き家族』は、世界に衝撃を与え、第91回アカデミー賞の外国語映画賞にノミネートされる。貧困がもたらす多くの問題を、国内外で考える機会となる映画である。

詳細 万引き家族

Where Do We Go Now(原題)

『キャラメル』で華々しいデビューを飾ったラバキー監督の2作品目である。2011年に公開されたが、日本では未公開の作品である。『キャラメル』がレバノンの女性の甘酸っぱい恋模様を描いたほのぼの作品だとしたら、今回の『Where Do We Go Now』はレバノンの宗教対立を描いた社会風刺作品となっている。

この映画には、『存在のない子供たち』のプロデューサー兼音楽担当のハーレド・ムザンナルも関わっている。実は、ムザンナルとラバキー監督は、『キャラメル』の後に結婚しており、ラバキー監督は一時の母にもなっていた。この映画では、そうしたラバキー監督自身の変化や母になったことで知った社会情勢なども盛り込まれている。

内容は、男性の持つ暴力性や対立性を女性の柔らかさで防ぐといったもの。レバノンではイスラム教とキリスト教が共存しているが、初めから共存できていたわけではない。多くの対立があり、戦争があり、多くの人たちの命が失われた歴史がある。映画に登場する女性たちは、そうした男性たちの暴力性を他に向けるためにダンサーを呼んでみんなで踊って歌ったり、面白おかしな話を延々と続けたりとあらゆる手を使う。そして、映画の終盤には、映画を締めくくるために更にどたばたと男たちから武器を取り上げ、戦意を喪失させ、誰も死なないように仕向けていく。戦争から戻ってきた男たちを埋葬するのは、いつも女たちなのよと皮肉が込められた、コメディ・ミュージカル映画である。

詳細 Where Do We Go Now(原題)

映画『存在のない子供たち』の評判・口コミ・レビュー

映画『存在のない子供たち』のまとめ

親は子供の幸せを願ってやまない。そんな当たり前のような、常識が通じない国が、世界には存在している。口減らしのために娘を強制的に結婚させ、稼ぎのない子供を罵倒する。教育を受けさせる機会を与えず、幼い兄弟は栄養失調で餓死していく日々。「僕は地獄で生きている」と語る少年ゼインの言葉は重く、映画を見るには心臓を強く保たなければ耐えられない。日本で生活している限り、こうした世界の現状は真実や現実であっても日本人にとってはフィクションである。遠い場所で起こった出来事は、他人ごとにしか過ぎないのだ。だが、映画を見ることで作品を発表する人たちの力になれるなら、そう悲観せず映画館に足を運んでほしいと感じる。

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