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映画『飢えたライオン』のあらすじ・感想・評判・口コミ(ネタバレなし)

2017年第30回東京国際映画祭「日本映画スプラッシュ」部門上映作品。報道やインターネットなどの情報がもたらす加虐性について深く切り込んだ作品。噂話はやがて真実よりも真実味を増して広がり、当人を苦しめる。高校生の瞳は、学校の先生の淫行の被害者と言う根も葉もないウソに踊らされる周囲の目によって、段々と居場所を無くし追い詰められていく。

映画『飢えたライオン』の作品情報

飢えたライオン

タイトル
飢えたライオン
原題
なし
製作年
2017年
日本公開日
2018年9月15日(土)
上映時間
78分
ジャンル
ヒューマンドラマ
監督
緒方貴臣
脚本
緒方貴臣
池田英樹
製作
緒方貴臣
製作総指揮
不明
キャスト
松林うらら
水石亜飛夢
筒井真理子
菅井知美
日高七海
加藤才紀子
上原実矩
菅原大吉
製作国
日本
配給
キャットパワー

映画『飢えたライオン』の作品概要

報道の在り方について、ニュースやSNSなどでその実態を疑問視する声が上がる昨今。犯罪だけでなく、旬な話題について当人のプライバシーや人権などを無視したものや、SNSで被害者・加害者の個人情報が多くの人の目に晒されてしまうなど、段々と情報の提供の仕方がエスカレートしている。これまで作品を通じて社会に問題提起をしてきたことで知られる緒方貴臣の4作品目となる今作は、人々からの悪意のないうわさ話しによって追い込まれる少女に視点を向ける。主演は、期待の若手女優松林うららが務める。

映画『飢えたライオン』の予告動画

映画『飢えたライオン』の登場人物(キャスト)

杉本瞳(松林うらら)
平凡な女子高校生だが、担任の先生が未成年に対しての淫行で逮捕されて以来、勝手にその被害者にされる。
藤川ヒロキ(水石亜飛夢)
瞳の彼氏で、フリーターをしている。瞳と担任の先生との関係のうわさ話を聞き、瞳に真実を問い詰める。

映画『飢えたライオン』のあらすじ(ネタバレなし)

特別に勉強ができるわけでもない、特別に運動ができるわけでもない、年上の彼氏はいても、他のクラスメイトと何ら変わらない。杉本瞳は、そんなどこにでもいる平凡な女子高校生。だがある日、瞳の生活はとある事件をきっかけに一変することになる。

クラスの担任の先生の逮捕。衝撃的なニュースが瞳の身に降りかかる。瞳の担任の先生は、未成年へのポルノ法違反で逮捕されてしまう。そして、あろうことか先生とその被害者の性行為の動画がインターネット上で流されてしまう。更に、その動画に映っている被害者が杉本瞳ではないかと言う「うわさ」が学校中に流れ始めた。

身に覚えのないことが、まるで本当のことかのように生活の中に入り込み、瞳はどんどんと孤立していく。事件をきっかけにマスコミは瞳のプライバシーを侵害し始め、SNSでは瞳に対しての根も葉もないデマが飛び交う。中学生の妹、年上の彼氏、多感な時期のクラスメイト。周りの人間全てが瞳に対して奇異の目を向ける。受験を控えた瞳だったが、クラスの中で居場所を無くし、家でも居場所を無くし、恋人にも疑われてしまい、とうとうある決断を下す。

映画『飢えたライオン』の感想・評価

情報社会の中に潜む「悪」

テレビ・新聞・ラジオ・インターネット、現代ではありとあらゆる情報を様々なメディアから簡単に入手することができる。しかし、私たちが入手している情報は、本当に真実だけを映し出しているだろうか。いや、真実を映し出しているという前提でなければならない。

しかし、昨今ではインターネットの普及とそれに追随するSNS等によって、記者ではない素人が勝手に被害者・加害者の個人情報を晒してしまい、勝手に憶測が飛び交い、勝手に人間像が作り上げられてしまう事件が多発している。もちろんこれらは、個人情報保護法違反という立派な犯罪であるにも関わらず、警察が事実を知り、事件として扱い、犯人を探し始めるよりも早く爆発的に全世界に広がり、真実の代わりに「真実」面をする。

自分の知らないところで自分のことが話題に上がり、更に勝手に脚色を付けられ、自分ではない自分が世間から認知される。しかしそこには誰からの悪意も感じられない、なのに自分ばかりが追い詰められていく。多量の情報に踊らされ、面白半分で便乗する人々から受ける屈辱と恐怖が、スクリーンの中で辛辣に語られる。

社会問題に切り込むメッセージ性映画

この映画は、この現代社会の訪れによって作られるべくして制作された映画でもある。ハリウッド映画のような過激なアクションシーンもなければ、愛する人とのハッピーエンドを迎えることもない。この映画は、ただじっと座席に座りスクリーンを見つめ、そこから流れてくる映像を見ているだけではダメなのだ。

今や中高生の9割以上が携帯電話を持ち歩き、スマートフォンを巧みに利用し、地球の反対側の人とさえリアルタイムでやり取りができる。だが、便利さが必ずしも善意ばかりで使用されるとは限らない。知らないうちに悪意なく誰かを傷つけているかもしれない。そうなると厄介だ。本人にその自覚はないのだから、仲間内やネット上の友人と楽しんでいるうちにタガが外れ、この程度ならいいやとほくそ笑む。

悪意のない害がいかに凶暴性を孕んでいるか、この映画を通じて自己を振り返ることができれば、緒方貴臣監督の意図するところが見えてくるかもしれない。

少女は何度も殺される

凶悪な事件が、数年・数十年後にふとしたきっかけで再び話題に上り、被害者の遺族の方々にスポットが当てられ、傷を抉られるような事態が起きてしまうことがある。遺族側からしたら迷惑以外の何物でもない。

主人公の瞳は、担任の先生の淫行の被害者と言う勝手なレッテルを張られたおかげで、追い詰められ居場所を無くす。そして瞳は、17歳と言う若さで自らの命を絶つ決断を下してしまう。しかし映画は、瞳の死だけでは終わらない。

死人に口なしとは、昔からのことわざでもあるが、本人がいなくなってしまったことで世間は「やっぱり先生とそういう関係だったんだ」と受け止める。瞳の葛藤や苦しみは、死を以て終了となってしまう。そして社会は、瞳と言う勝手な人物像を再び作り上げ、瞳の虚像がインターネットの中で生き続ける。情報がもたらす恐怖、瞳は死んでも決して安寧を迎えられない。

被害者は何度、映画内で殺されるだろう。

映画『飢えたライオン』の公開前に見ておきたい映画

映画『飢えたライオン』の公開前に見ておきたい映画をピックアップして解説しています。映画『飢えたライオン』をより楽しむために、事前に見ておくことをおすすめします。

子宮に沈める

緒方貴臣監督の第3作品目で、2013年に劇場公開されている。過去に大阪で起きた凄惨な事件、2児放置死事件を元に制作された、都会で暮らすシングルマザーと2人の子供の物語。

ある日突然、幸せは形を変えてしまう。幼い姉弟のサチとソラは、母親がいなくなってしまった状況を上手に理解できない。しかし、母親は自らの幸せだけを追い求める生活を選択する。置いていった子供の声が外へ漏れないようにドアをガムテープで目張りし、母は最期の晩餐を用意して姿を消す。

映画の結末がどうなるか、観る前から結果が分かっている映画も珍しいが、見ないではいられない。しかし、生半可な思いで見るにはあまりに過激すぎる。この作品はあくまでフィクションだが、実際にこの日本で起きている現状でもある。この映画の被害者は誰だろうか。2人の幼い子供か、それとも社会から切り離され子供と共に孤立して自分を壊してしまった母親か。先に伝えておくと、映画の後味はすこぶる悪い。しかしそれは、緒方監督の社会に問題提起するその姿勢や覚悟が、結晶となった結果のように思えてならない。

詳細 子宮に沈める

1+1=11

18歳でスカウトされ、モデルとして活躍をしていた松林うららのスクリーンデビュー作品。2012年6月に公開された映画で、映画24区と言う有名・無名問わず映画人を集めた映画製作や育成、マネジメントなどを行う映画の総合プロデュース企業の第2回制作作品。

残念ながら、この作品に関してのデータはほとんどなく、公開された劇場も少ない上にメディア化もされていない。企業制作作品なので、この映画を観た人は本当に希少であると言える。映画の内容も、「人」に焦点を充てたものだが、ストーリーなどの細かなことも不明。しかし、松林うららが主演を務めている映画は、今作の『飢えたライオン』以外では、この映画のみとなる。

全国6か所のみで上映された希少な松林うららのデビュー作品、気になるファンは松林うららの前身ともいえる作品を探してみてはいかがだろうか。

詳細 1+1=11

青夏 きみに恋した30日

『飢えたライオン』で、主演・松林うららが演じる瞳の彼氏役、ヒロキを演じている期待の若手俳優・水石亜飛夢の出演作品。『飢えたライオン』が2018年9月に劇場公開されるが、『青夏 きみに恋した30日は』2018年8月1日に劇場公開されている。

水石の役どころとしては、ヒロインが惚れた男子高校生のクラスメイトと言う立ち位置。突出して出番があるわけでもないが、2012年に舞台『テニスの王子様』に出演依頼、2015年には『ハムレット』で主演を務め、2016年には一人芝居『二十歳の暗殺者』などもこなしテレビドラマでも準主役作品やメインキャスト作品があるため、演技力には定評がある。

期待の若手俳優名だけあり、2018年は水石亜飛夢の活躍が、上手くすれば同日2作品同時鑑賞も可能になる。8月公開の『青夏 きみに恋した30日』でクラスメイトの恋を応援する男子高校生を演じる水石亜飛夢と、9月公開の『飢えたライオン』で恋人を自殺に追い込むフリーターを演じる水石亜飛夢、一度に体験してみるのも乙かもしれない。

詳細 青夏 きみに恋した30日

映画『飢えたライオン』の評判・口コミ・レビュー

映画『飢えたライオン』のまとめ

「映画製作を通じて、自分のわからない問題を知っていく」スタンスを持つ監督・緒方貴臣は、3つの実際に起きた事件から着想を得たと話す。まさにその言葉の通り膨大な量の情報を分析・考察した中から、この映画は産声を上げ、生まれてきた。緒方監督は、インターネットなどの情報に惑わされる前に、「想像力」を働かせ、自分の頭で考えて欲しいと語る。この映画の中に潜む誘惑や欲望・凶暴性・暴力性を垣間見たとき、鑑賞後はどのような感想を持ち得るだろうか。そんなときは、ぜひ自分の価値観と向き合ってみたい。

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