映画『私をくいとめて』の概要:「おひとりさま」を堪能しつつ、脳内の相談役「A」との会話で生活を満たす30歳の独身女性を中心に、不器用な人間関係や恋への葛藤を紡ぐ一作。原作は綿矢りさ、主演にのんを迎え大九明子がメガホンを取っている。
映画『私をくいとめて』の作品情報
上映時間:133分
ジャンル:コメディ、ラブストーリー、ヒューマンドラマ
監督:大九明子
キャスト:のん、林遣都、臼田あさ美、若林拓也 etc
映画『私をくいとめて』の登場人物(キャスト)
- 黒田みつ子(のん)
- 31歳、独身のOL。おひとりさまに慣れきってしまい、恋や深い人間関係に苦手意識がある。時折、手料理を「取りに来る」ご近所の多田くんとの距離感を悩んでいる。
- 多田くん(林遣都)
- みつ子が務める会社の取引先相手。みつ子とは2つ年下の男性で近所に住んでいる。器用なタイプではないが、誠実にみつ子に対して接してくれる。
- ノゾミさん(臼田あさ美)
- みつ子が唯一会社で腹を割って話せる存在。カーターという社内の若手男性社員を目の保養として楽しんでいる。
- 皐月(橋本愛)
- みつ子の大学時代の親友。みつ子と共に就職や仕事に悩んでいる時期に、イタリア人男性と出会い結婚した。その後、イタリアに住んでいる。
- A(中村倫也)
- みつ子の脳内にいる相談相手であり「もう一人の自分」。みつ子の話し相手でもある。迷った時には必ず正しい方向に導いてくれる存在として、みつ子は頼り切っている。
映画『私をくいとめて』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『私をくいとめて』のあらすじ【起】
「ナイスなサタデーであった」と一人で動き回った休日を振り返るみつ子。話し相手は頭の中に住んでいる相談役のAだけである。
夜更かしをするみつ子は、「親しみやすい人になりたい」とAに問いかける。Aの名前の由来はAnswerなのだ。あまりに寂しすぎる相談をするみつ子だが、平日はOLとして心の声を殺しながら暮らしている。
そんなみつ子には名前のない関係の相手がいる。取引先の営業マン・多田くんである。偶然近所のコロッケ屋で遭遇した1年前から、手料理を振る舞う“だけ”の関係が続いている。
実はみつ子は自炊を頻繁にするわけではない。多田くんを前にいい恰好をしてしまったみつ子。それ以来、お皿を持って訪ねてくる多田くんはみつ子の手料理を「持って帰る」ようになったのだった。
みつ子は会社の先輩・ノゾミを尊敬している。ノゾミは会社の営業マン・カーターを観察するのが好きである。若く見た目の良いカーターだが、自分勝手でナルシストな性格から会社ではあまりいい評判ではない。問題児のカーターを見守るノゾミを、みつ子は微笑ましく思うのだった。
映画『私をくいとめて』のあらすじ【承】
「おひとりさま」ぶっている人が多いとぼやくみつ子だが、さすがにディズニーランドには行く勇気がなかった。Aは多田くんを誘うようにアドバイスをするが、みつ子は多田くんに恋人がいる想定や悪い想像ばかり働かせてしまい行動には起こせなかった。
「掃除の日」という目標を達成した日曜日。夕飯の買い出しに行ったみつ子は偶然多田くんと鉢合わせた。思い切って多田くんを夕飯に誘ったみつ子。多田くんは二つ返事で誘いに乗った。
「人が家に来る休日」に変わり、みつ子は浮足立って帰宅する。テーブルを「二人仕様」に広くして、予定より豪華なメニューを準備して多田くんを待つ。バイクでやってきた多田くんは鉢植えのお花を手土産に持ってきた。
会話も弾み、楽しかった夕食だがみつ子は多田くんが帰った後、不思議な安堵感に苛まれた。そのことをノゾミに相談したみつ子。イタリアで暮らす大学時代の親友・皐月に会いに行こうと思い立ったことも話すと、ノゾミは初めての一人旅行の予行演習として日帰り温泉のチケットを譲ってくれた。
一人温泉の楽しみ方を模索するみつ子。大広間でお笑いのイベントが開催されていた。場を盛り上げていた女性のピン芸人が、終焉後に酔っ払った男性客たちに悪絡みされているのを見てしまったみつ子は、過去のトラウマに苛まれる。
心の中が悪意でいっぱいになってしまったみつ子。温泉にも入らずに、「優秀ではない自分」が会社に居座っていることへの嫌悪感や男性上司のセクハラ、お局の嫌味を思い返し鬱憤を言葉にしてAにぶつけるのだった。
映画『私をくいとめて』のあらすじ【転】
皐月に会うためにイタリアへ向かうみつ子。しかしみつ子は飛行機が大の苦手である。拷問のような12時間のフライトはAにさせられながらなんとか乗り越えた。
皐月の自宅に到着すると、クリスマス休暇のため親戚が集まっていた。おなかが大きくなった妊婦の皐月が旦那さんと手を取り笑いあう様子を見ていたみつ子は、どこか物寂しくなる。
多田くんからの連絡に少し安堵するみつ子。翌日、向かい合って絵を描いていると、皐月は「懐かしいね」とほほ笑むが、みつ子にとってはまだ「過去」になっていなかった。海外で一人暮らす孤独を打ち明けられた皐月と、環境を変えて進んでいく親友への嫉妬を明かしたみつ子。互いに本音をぶつけ二人は学生時代の関係に戻っていくのだった。
帰国したみつ子は、一人に戻りAと再び会話を始める。皐月と再会したことで、2年前の苦い記憶がよみがえったのだ。それは皐月を見送った後、恋をしようとAに勧められるがまま行きつけの歯医者の担当医とデートに出掛けたときである。
めかしこんで向かったみつ子だが、担当医には下心しかなかった。ホテルを取っていた担当医の誘いを必死に断り帰宅したみつ子。Aは意気消沈しながら、みつ子を慰めるがしばらくみつ子の脳内から消えてしまった。
帰国後、初めて多田くんから連絡をもらったみつ子。料理のお礼として食事に誘ってくれたのである。みつ子は喜んで返事をする。
翌日、年明け初めての出社日。そわそわした様子でみつ子を待っていたノゾミは、カーターと初詣に行ったことをひそひそと報告する。そして東京タワーを階段で登りきるイベントに多田くんを誘い一緒に行ってほしいとみつ子に頼むのだった。
映画『私をくいとめて』の結末・ラスト(ネタバレ)
多田くんと近所のフランス料理店で食事をしたみつ子。とても楽しい時間を過ごし、ノゾミの頼みを伝える。多田くんは嬉しそうに快諾した。
4人で出かける日、ノゾミはカーターに告白するつもりでいた。惚れたものの弱みで、尽くし続けるノゾミの様子を見て微笑ましく思うみつ子。ノゾミの告白は成功し、期間限定であったが付き合うことになった。その報告をしたみつ子に対して、多田くんは「俺たちも付き合ってみますか?」と告白するのだった。
お互いに彼氏ができて浮かれていたみつ子とノゾミ。しかし、Aはみつ子の前から再び消えてしまった。
みつ子は多田くんと沖縄旅行に行く約束をする。飛行機が苦手なことを伝えると、多田くんはAと同じようにみつ子の気持ちをなだめてくれるのだった。
沖縄旅行前に初めて多田くんと泊まりで出かけたみつ子。最初は楽しかったが、天候も崩れ多田くんの初めて見る表情にみつ子は少し怖くなった。ホテルに着くと多田くんはみつ子を抱きしめるが、みつ子は思わず拒絶してしまう。
多田くんとの距離の取り方がわかないみつ子は、部屋から逃げ出しAに助けを求め続ける。「誰でもいい、だれか私をくいとめて」とみつ子は叫びふさぎ込んでしまった。
みつ子が顔を上げると、そこは常夏の海辺だった。Aが自分の世界に引き込んだのである。聞きなれた声の男性が目の前に現れた。思わず「ちょうどいい」と口にしたみつ子。色白で小太りの男性は、みつ子にとって安堵感のある見た目だったのだ。
Aと話したことで冷静に戻ったみつ子は、部屋に戻り多田くんに本音を伝えた。「黒田さんとはゆっくりでいい」と言う多田くんは、みつ子の手を取り眠りについた。Aへ感謝を伝えみつ子も眠りにつく。そして翌朝、Aはみつ子の脳内から消えていた。
夏を迎え、みつ子は多田くんと沖縄旅行へ行くことになる。当日の朝、出発時間ギリギリになって、玄関の鍵が見つからずみつ子は慌てていた。思わずAに助けを求めたみつ子。突然部屋が揺れだし、天井から鍵が落ちてきたのである。「Aは私なんだ」と思い返し、前を向いて部屋を出るのだった。
映画『私をくいとめて』の感想・評価・レビュー
原作・綿矢りさ、監督&脚本・大九明子というタッグは東京国際映画祭をにぎわす存在である。前作『勝手にふるえてろ』でも言葉にしがたかった日常の共感で空前のブームを巻き起こしたが、今作も実に主演女優の活かし方が上手いのだ。透明感溢れるのんだが、「呑気を装ったお局」の一面もしっかり魅せてくれた。爆走しすぎているようにも思えるシーンも、コミカルに展開してくれるおかげでくどくはない。濃い味だが、鑑賞後の余韻までいい塩梅の一作である。(MIHOシネマ編集部)
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