数ある主演級黒人俳優の中で、常にベスト3に入るのがデンゼル・ワシントン。デビューから40代までをしめていた真摯な役柄と、40代以降から増えてきた悪役とも正義ともつかぬグレーゾーンの役も含め、おすすめ映画のベスト5を紹介いたします。
デンゼル・ワシントンが出演するおすすめ映画5選
デンゼル・ワシントンは、’54年12月、ニューヨーク生まれ。
厳格なペンコステ派の牧師の父に厳しく育てられる。
意外にも反抗期に粗野だったというデンゼルを心配した職業婦人の母・レニースは、彼が思春期の時に映画を全く観せていなかったらしい。
彼が演技や役作りの基本を学んだのは、フォートハム大学在学中に演劇を志した時だった。
この時にベビーシッターを含む様々なバイトを体験し、それが後々、『どんな役をやっても育ちがよく芯のある男性』に見える彼の役作りに貢献したものと思われる。
その後、巡業劇団を経て、’81『ハロー・ダディ『日本未公開)』の端役でデビュー。
本格的に彼のキャリアが脚光を浴びたのは『グローリー(’89)』の軍人役や、『マルコムX(’92)』、『フィラデルフィア(’93年)』以降。
アフリカン・アメリカンで初のオスカー俳優となったシドニー・ポワチエ以降の、主役級の人気黒人俳優として、キスシーンをはじめとしたラブシーンは極力避けていた。
有名なのが『ペリカン白書(’83)』でのラストシーン。
恋人を亡くした依頼人を演じたジュリア・ロバーツに、キスシーンが無いと言われた時に、『君の役は恋人を亡くした依頼人の役だ』と諭した話は有名である。
オンとオフが完全に切り替わる俳優としても知られていて、トレーラーハウスから出ると、撮影外でも役者になりきってしまうという。
アメリカン・ギャングスター
注目ポイント&見所
70年代にNYハーレムに実在した麻薬ビジネスマフィアと、彼を捕まえる事に執念を燃やした麻薬取締刑事の波乱万丈の半生を追う。
地元マフィアのボス付け運転手からベトナム戦争の混乱を利用し、麻薬ビジネスに手を出すマフィアのボス・フランクをデンゼル・ワシントンが演じる。
汚職は当たり前の警察内で正義を貫こうとする麻薬取締班に居ながら、いつか辞めようと司法書士の勉強をし、試験の結果待ちというロバーツをラッセル・クロウが演じる。
自分のビジネスで、見ず知らずの人間が路上で死んでいくのに対し、教会の日曜礼拝には親族を伴い参列するファミリーマンを貫くフランクと、仕事では正義を貫き悪を許さないものの、私生活は乱れ妻からは離婚を突きつけられているロバーツとでは、同じような矛盾を感じる所が見所。
この話は、そんな彼らのビジネスや人生観の大きな分岐点でもあり、別れを描く10年間が凝縮されている。
ロバーツの側から描くと、職場の汚職が、彼のキャリアチェンジへと駆り立て、相棒ジェイ(ジョン・オーティス)の死が麻薬取締班への配属となる。
そこでトルーポ(ジョッシュ・ブローリン)ら汚職警官らを目の当たりにした彼は、警察内部から変えていく事の限界を感じる。
フランクは、麻薬ビジネスに手を出すものの、戦争を利用したビジネスに終焉を感じる。
ビジネスの終焉を察知した彼が、自分の減刑の為に仕事を依頼した弁護人というのが、自分を逮捕したはずのロバーツというのが皮肉な話でもある。
フランクは逮捕されるまで、自分の全てを家族を重点において来た、ロバーツは警察に全てを注いできた。
それがガラリと変わった瞬間何が生まれるかという所も見所であり、男向けの映画だと思う。
映像美としては、トーンを抑えた感じで作られており、長丁場であるにも関わらず、見やすい。
ザ・ハリケーン(1999)
注目ポイント&見所
63年、ウェルター級チャンピオンに輝いたハリケーン(デンゼル・ワシントン)の人生は、人種差別の偏見を持つ刑事ペスカ(ダン・ヘダヤ)によって塗り替えられてしまう。
ニュージャージー州パターソンで起きた殺人事件の容疑者にされ終身刑を言い渡されてしまった。
無罪を信じ’74年に自伝を出版したハリケーン。
当時はボブ・ディランやモハメド・アリら有名人が彼の背中を押してくれたが2年後に有罪判決が出ると、ハリケーンの存在は世間から忘れられていく。
それから20年の歳月が経ち、環境保護の団体に引取られた少年レズラ(ヴィラセラス・レオン・シャノン)は古本屋でハリケーンの自伝を見つける。
生い立ちに共通点を見つけ、逆境の中にあっても気高さを失わないハリケーンに心を打たされたレズラはハリケーンと文通し、彼を救う事を決めるのだが・・・。
自分を終身刑に陥れようとした偏見を持つ白人警官に対する憎しみと、本気で救ってくれようとする人々に寄せる信頼。
二つの狭間で揺れるハリケーンの葛藤を的確に捉え表現するデンゼルの演技力と名作『レイジング・ブル』に劣らぬ冒頭のファイティング・シーンが見所。
当時45歳のデンゼルは一年かかって27キロの減量にチャレンジしたという。
カーターから人生を学ぶレズラと、彼に心の自由を与えられるハリケーンの対比もまた見所である。
トレーニング デイ
注目ポイント&見所
新人刑事ジェイク(イーサン・ホーク)LAPBの麻薬取締課で、退職前日というベテラン刑事アロンソ(デンゼル・ワシントン)と組まされる。
たかが1日2我慢すればいいと思っていたジェイクにとって、その2日は、命を削るかの様な修羅場だった。
金も権力も、それ程もたない、勢力の弱いストリート・ギャングたちには当たりが悪く、少々のレイプ事件であれば見て見ぬフリをするアロンソの合理的過ぎるモラルに、ジェイクは1日もたたないうちに反目していく。
しかしアロンソは、そんなジェイクに、ここまでしなければ生きて生けない理由をこう言った。
『か弱い子羊でいるか、獰猛な狼でいるのか、どちらかを選べ』
そしてジェイクはアロンソが定年間近で最大のヤマにしくじり消されそうになる運命にある事を知る・・・。
デンゼルにオスカーをもたらしたのは、彼の今までのイメージを覆す悪役だった。
退職前にロシアンマフィアと取引し、100万ドルを用意しないと消される麻薬取締官の役であり、金を納める期日の1日前に、やってきたのがジェイクという、アロンソにとってバツの悪いシナリオだったという。
こんな役をデンゼルが引き受けたのか、という事だけでも話題になったのだが、オスカーを受賞した事がさらに話題になった。
この作品以降、彼の作品選びの選択肢が広がったとも言える。
この作品以降、ジェイク役のイーサン・ホークは、同じ様な役が続いているが、2人とも演技派といわれているだけあり、その点大きな違いが見られるところがポイント。
ラストは、アロンソがあれだげ威張り散らしていた黒人のストリート・ギャングたちに蜂の巣にされ、ジェイクに100万ドルも奪われる。
だが、彼の顔には何かから解き放たれた自由と同時に歪みもあるという、複雑さが感じられる。
詳細 トレーニング デイ
デンジャラス・ラン
注目ポイント&見所
南アフリカにあるCIAのセーフハウスに1人の男が連行されてくる。
36カ国で指名手配されている犯罪者にして今のCIAの尋問方式を変えた男であり元CIA最強エージェント・トビン・フロスト(デンゼル・ワシントン)。
管理人マット(ライアン・レイノルズ)はフロストの言われるがままに脱出を試みるが、隠れ家の外は武装した未知の敵まみれだった。
上司に報告する度に漏れる情報、しかもフロストには、こう言われる。
『お前は上司から、君はよくやった、後は任せろ、そういわれて組織から消される。』
その直後マットは任務解任されを本部副長官のホイットフォード(サム・シェパード)から
『後は任せろ』と告げられた・・・。
マットはあえてCIAの命令に背きフロストを追うと敵はCIAの中に入る事が判るのだが・・・。
映画の冒頭部分、フロストは、ある諜報部員からマイクロチップを受取り、その男は何者かにより殺される。
その中には汚職職員のリストが入っていた事が判明する。
世界中の諜報機関が、そのリストの入手及び揉み消しに躍起になっている事、そしてデンゼル演じるフロストは、自分よりも優れた人間に、このリストの受け渡し先を、密かにさがしている事が判る。
映画のラスト、マットは命がけでフロストから逃げる事が出来るのだが、彼がフロストより優秀かどうかは判らない。
だが、それ以上に見ごたえはある映画だと思う。
詳細 デンジャラス・ラン
ジョンQ 最後の決断
注目ポイント&見所
野球の試合中に倒れた息子マイク(ダニエル・E・スミス)に心臓手術が必要だと聞かされた、父親のジョン(デンゼル・ワシントン)は、医師ターナー(ジェームス・ウッズ)から移植手術の費用の高額さに驚く。
会社の医療保険で賄えるはずが工場側が補助上限額を勝手に変更していたのだ。
『何年間も払い続けてきて息子は死ななくてはいけないのか・・・』
ジョンは僅かでも治療費に充てるため、家財用具一式を売りに出すがそれでも足らない。
友人たちが心配し、教会が地域住民にカンパを呼びかけても足らず、院長のレベッカ(アン・ヘッシュ)は冷酷にも退院勧告を突きつけてきた。
ジョンは決断し、ターナーに銃をつきつけ通用口をロックし、救急病棟に12人を人質に取り立てこもる・・・。
市場原理の為に7人もしくは6人に1人が無保険者状態の米国の実情が招く、的確な医療を受けられない残酷さを、これほど物語っている映画はない。
監督のジョン・カサベテスの娘は実際に心臓病で、映画の中と同じように保険会社のランク外の為に娘の心臓手術が出来ないのだという。
映画の中で描かれている、ジョンQの様な人間は’90年代後半で5000万人、10年後ならばもっと増えている。
この映画に描かれている病院篭城事件がもっと起きても不思議ではなく、報道されても可笑しくはなないのに、富めるものだけが医療費を払うべきだという観念から、だれも何も言わない米国。
その概念に釘をさすという意味でも、この映画をこの監督が作る事に意味はあるだろう。
詳細 ジョンQ 最後の決断
まとめ
どの作品も、公開第一週にして興行No.1を達成した人気作品ばかりである。
デンゼルには、信頼出来るお抱えのエージェントが何人か居るらしいが、ある特定のエージェントが持ってきた作品は、作風が男らしく、必ず売れるという定説があるらしい。
そんな彼の選んだという作品を中心に選んでみたのだが、彼の遺作となったのが『デンジャラス・ラン』及び『イコライザー』となってしまった。
そろそろ還暦を迎えるデンゼルだが、彼には、まだチャレンジしていない役柄もあるはずである。
そういった面もこれから銀幕で見てみたい。
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