忘れられない昔の恋人・麦(ばく)と瓜二つの亮平と出会った朝子は、戸惑いながらも、どうしようもなく亮平に惹かれていく。第71回カンヌ交際映画祭コンペンション部門正式出品作品。東出昌大が、全くタイプの違う2人の男を1人2役で演じている。
映画『寝ても覚めても』の作品情報
- タイトル
- 寝ても覚めても
- 原題
- なし
- 製作年
- 2018年
- 日本公開日
- 2018年9月1日(土)
- 上映時間
- 119分
- ジャンル
- ラブストーリー
ヒューマンドラマ - 監督
- 濱口竜介
- 脚本
- 田中幸子
濱口竜介 - 製作
- 不明
- 製作総指揮
- 不明
- キャスト
- 東出昌大
唐田えりか
瀬戸康史
山下リオ
伊藤沙莉
渡辺大知
仲本工事
田中美佐子 - 製作国
- 日本
- 配給
- ビターズ・エンド
エレファントハウス
映画『寝ても覚めても』の作品概要
原作は第32回野間文芸新人賞を受賞した柴崎友香の同名恋愛小説。神戸を舞台にした自主制作映画『ハッピーアワー』(15)で世界中の注目を集めた濱口竜介監督の商業映画監督デビュー作であり、第71回カンヌ国際映画祭コンペンション部門正式出品作品。主演を務めるのは東出昌大とオーディションで朝子役を勝ち取った若手注目株の唐田えりか。東出昌大は、初めて1人2役に挑戦し、顔はそっくりだが全く性格の違う2人の男を熱演している。
映画『寝ても覚めても』の予告動画
映画『寝ても覚めても』の登場人物(キャスト)
- 丸子亮平 / 鳥居麦(東出昌大)
- 丸子亮平は、東京でサラリーマンをしている男性。朝子に運命的なものを感じ、愛を告白する。鳥居麦(ばく)は、音信不通になってしまった朝子の前の恋人。亮平と麦は顔がそっくり。
- 泉谷朝子(唐田えりか)
- 東京のカフェで働いている大阪出身の女性。東京で麦にそっくりの亮平と出会い、付き合うようになるが、麦との過去は告げられずにいる。
映画『寝ても覚めても』のあらすじ(ネタバレなし)
大阪から東京へ引っ越し、カフェで働き始めた泉谷朝子は、コーヒーを出前した会社で丸子亮平という男性と出会い、驚きのあまり言葉を失う。なぜなら、亮平と昔の恋人の鳥居麦があまりに似ていたからだ。
8年前、大阪で暮らしていた朝子は麦と恋に落ち、熱烈に愛し合うようになる。朝子は麦を運命の人だと信じていたが、麦は突然、朝子の前から姿を消してしまう。
そして今、朝子は麦と顔がそっくりの亮平と出会い、どうしようもなく彼に惹かれていく。亮平も朝子に運命的なものを感じ、自分の気持ちを彼女に伝える。朝子は戸惑いながらも亮平と付き合い始め、2人は親密な関係になっていく。しかし、朝子は亮平を好きになればなるほど、麦のことを秘密にしている自分に罪悪感を感じるようになる。果たして、朝子は素直に亮平の胸に飛び込むことができるのだろうか。
映画『寝ても覚めても』の感想・評価
朝子はなぜ亮平を好きになった理由を考えてしまうのか
人は人のどこに惹かれ、なぜ「この人でなければいけない」と思うほど好きになるのか。これはなかなかの難問だ。例えば「あなたは今のパートナーのどこを好きになったのですか?」と質問されて、即答できる人は少ないだろう。ただ、この質問の答えに正解はないし、理由を突き詰めて考える必要もない。人を好きになった理由なんて、「何となく」でいいではないか。
しかし、朝子は好きになった2人の男の顔がそっくりだったため、「麦にそっくりな顔だから亮平を好きになったのかな」と悩んでしまう。このシチュエーションはややこしい。なぜなら、根本的な問題は、麦と亮平がそっくりな顔をしていることではなく、朝子の気持ちがはっきりしていないことにあるからだ。つまり、朝子は麦に未練があるから、亮平に対して罪悪感を感じてしまうのだろう。朝子は亮平そのものを好きなのか、それとも亮平を通して麦の面影を追っているだけなのか。今の自分にとって誰が1番大切なのかがわかれば、自然と答えは出るはずなのだが、朝子はそれに気づくだろうか?
濱口竜介監督
現在39歳の濱口竜介監督は、東京大学文学部を卒業後、映画やテレビの現場でしばらく働き、その後、東京芸術大学大学院映像研究科で専門的に映像の勉強をし直したという異色の経歴の持ち主だ。東京芸術大学大学院に入学する前から、短編や長編映画を自主制作していたので、監督としてのキャリアはすでに15年を数える。
濱口監督の名前は、2015年に自主制作した『ハッピーアワー』が、ロカルノ国際映画祭などの世界的な映画祭で様々な賞を受賞して、一気に注目を集めた。この作品は、317分もの長尺で30代後半の4人の女性の人生模様をリアルに描いており、世界中の批評家や観客から絶賛された。驚くべきことに、第68回ロカルノ映画祭で最優秀女優賞を受賞した4人の女優たちは、濱口監督のワークショップに参加していた無名の素人なのだ。このエピソードだけでも、濱口監督の非凡な才能を感じる。
そんな濱口監督が商業映画監督デビューするに当たり、どうしても映画化したいと熱望したのが柴崎友香の恋愛小説『寝ても覚めても』だった。商業映画デビュー作が、いきなりカンヌ国際映画祭のコンペンション部門に正式出品されるというのは大変な快挙で、本作は、すでに世界20カ国での配給が決定している。本国の日本でも、大ヒットは間違いないだろう。
ファンには嬉しい東出昌大の挑戦
189センチの長身と端正なルックスを活かしてモデルをしていた東出昌大は、2012年公開の『桐島、部活やめるってよ』に出演してから俳優活動に専念し、あっという間に人気俳優の仲間入りを果たした。東出は地道な努力家として知られており、その誠実な人柄も、人気の秘密と言えるだろう。
2017年に羽生善治役で出演した『聖の青春』では、真剣勝負に挑むプロ棋士の姿を忠実に再現し、第40回日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞している。もともと将棋好きなこともあって、東出の手つきや仕草は非常に美しかった。
常に出演作の絶えない東出ではあるが、2018年度は今までにも増して精力的に活動しており、すでに出演作が4本(『OVER DRAVE』、『パンク侍、斬られて候』、『菊とギロチン』、『ピース・ニッポン』)も公開されている。そんな東出が、本作では1人2役という難題に挑戦していて、その演技が大いに注目を集めている。麦と亮平は、顔はそっくりだが性格は全く正反対という設定なので、この役作りはかなり難しかったと思われる。しかし、ファン目線で見ると、1本の作品で映画2本分の東出を堪能できるので、これほど嬉しいことはない。「どっちの東出君が好きだった?」などという会話も弾みそうだ。
映画『寝ても覚めても』の公開前に見ておきたい映画
愛しのローズマリー
有名なセラピストの催眠効果で、心の美しい女性が絶世の美女に見えるようになったハル(ジャック・ブラック)は、超肥満体だが心の美しいローズマリー(グウィネス・パルトロー)と恋に落ち、幸せな日々を過ごす。しかし、お節介な友人のせいで催眠効果が切れてしまい、ハルとローズマリーは危機を迎える。
『寝ても覚めても』とは全く趣の違うロマンチックコメディだが、“人は人のどこを好きになるのか”というテーマは同じだ。催眠術にかかる前、ハルは「女性は若くて美しいことが全て!」と言い切るような外見至上主義者だった。ところが、不思議な催眠術をかけられ、ハルだけが「心の美しさ=外見の美しさ」という世界で生きることになる。他の人から見たら、ローズマリーは相撲取り級の肥満女性なのだが、非常に美しい心を持っているため、ハルには世界一の美女に見えてしまう。しかし、催眠術が解けてしまい、ハルは実物のローズマリーを見るのが怖くなる。ここから先の展開が素晴らしい。
監督のファレリー兄弟は、このコミカルな恋愛映画で、人を外見で判断することのバカバカしさを説いている。笑いながらいろいろと考えさられる奥の深い作品。
詳細 愛しのローズマリー
蒲田行進曲
スター俳優の倉岡銀四郎(風間杜夫)は、自分の子供を身ごもった女優の小雪(松坂慶子)を大部屋俳優のヤス(平田満)に押し付け、保身に走る。小雪のファンだった心優しいヤスは、献身的に彼女に尽くし、傷ついた小雪の心を癒していく。そんなヤスに小雪が惹かれ始めた矢先、俳優としてピンチを迎えた銀四郎を救うため、ヤスは危険な階段落ちを引き受けてしまう。
つかこうへいの戯曲を深作欣二監督が映画化した作品で、映画用の脚本もつかこうへい自身が手がけている。こちらも『寝ても覚めても』とは随分と趣の異なる作品だが、銀四郎に未練たっぷりだった小雪が、少しずつヤスの優しさに惹かれていく姿に“本物の愛”を見ることができる。落ち目になった銀四郎に復縁を迫られた時、小雪が泣きながら「だって、銀ちゃん一緒にいてくれないじゃない!」と訴えるシーンは印象的だ。かっこいいけど身勝手な銀四郎より、かっこ悪くても一途に自分を愛してくれるヤスと一緒にいる方が安らげるということに、小雪は時間をかけて気づいていく。恋愛要素のみならず、熱気溢れる邦画の名作なので、1度は見ておきたい。
詳細 蒲田行進曲
さんかく
同棲して2年になる30歳の百瀬(高岡蒼甫)と29歳の佳代(田畑智子)は、なんとなく倦怠期を迎えている。そんなある日、夏休みを利用して佳代の妹で中学3年生の桃(小野恵令奈)が田舎から東京へ出てきて、2人の部屋で寝泊まりし始める。何かと佳代に対抗意識を燃やすタイプの桃は、気まぐれに百瀬を誘惑して、お姉ちゃんの彼氏をその気にさせてしまうのだが…。
オリジナル脚本に定評のある吉田恵輔監督が、うだつのあがらない30男と対照的な姉妹の奇妙な三角関係を描いたシニカルな恋愛映画。百瀬を演じた高岡蒼甫は、中学生女子に振り回されるイタイ男をリアルに演じており、観客の笑いを誘う。田畑智子の演じる佳代は、百瀬に捨てられて自分を見失い、恐怖のストーカー女と化していく姿が痛々しい。小野恵令奈も無責任な女子中学生を好演しており、“こんな女いるわ!”感をしっかりと出している。吉田監督は、リアルな人間の心の機微を描くのが非常にうまいのだが、この作品でも大いにその本領を発揮している。この3人のカオスな三角関係を見ていると、「人を好きになるって、自己暗示の要素が強いのではないだろうか‥」と思えてくるのが面白い。
詳細 さんかく
映画『寝ても覚めても』の評判・口コミ・レビュー
映画『寝ても覚めても』(濱口竜介監督)。まだ咀嚼しきれていないけれど、私はすごく好き。日常と非日常は曖昧にあり、非日常が現れたとき、今の自分にとっての真実に気づかされる。絶妙に語りきらない脚本に、ラストのtofubeatsさんが最高に最高によかった…#寝ても覚めてもhttps://t.co/PdQsHOjTzu
— nono🐹 (@nonox365) 2018年9月2日
寝ても覚めても鑑賞。気まぐれな猫のように移り変わる気持ちがせめぎ合いながら2人の愛は続く…その思いがけない衝動の連続から目が離せない。そして笑ってはいけないと思いつつも笑ってしまうあの居心地の悪さはクセになる。恐怖と笑いは紙一重とよく言うが今作がまさにそれだ。最高に面白かった。
— マリオン (@marion_eigazuke) 2018年9月2日
「寝ても覚めても」観た。大傑作。現時点で今年の邦画ベスト。形容する言葉がそう簡単に出てこないほど心を揺さぶられてしまったのは久々。
恋愛は川だ。汚い川だ。今まで見たことのない東出昌大や、捉えどころのない唐田えりか、存在感のある脇役たちがそんなことを教えてくれる。
半端ない映画です。 pic.twitter.com/f38Fl41kPr— 砂漠 (@moviewatchboy) 2018年9月2日
『寝ても覚めても』
この赦されぬ女心の破壊力!愛は次第に澱み、流れに逆らえぬ川の如く、汚いようで綺麗で、綺麗なようで汚く儚い夢。愛とは“澱み”の赦し。過去の愛に囚われず、前を向こうにも後ろ髪を引かれ、結局人はそう簡単には変われない。残酷な愛も現実、ラストの着地と2人の表情はお見事! pic.twitter.com/LwJteGHQIX— じょび (@moviejovi0116) 2018年9月2日
【寝ても覚めても】
外見に惚れたのか、中身に惚れたのか、“その人”という概念に惚れたのか。過激な描写無しで此処までセンシティブで殺伐とした空気を醸し出すとは。北野映画的空気を感じた。恋は暴力より暴力的。耳を塞ぎたくなった、目を閉じたくなった。気持ち悪い映画だった。言わずもがな傑作。 pic.twitter.com/rqyZom5TFH— 地獄の助次郎 (@zigoku_sukejiro) 2018年9月2日
映画『寝ても覚めても』のまとめ
「昔の恋人にそっくりな男性とめぐり逢い、その男性と恋に落ちる」という設定は、現実にはなかなかなさそうなシチュエーションで、リアルに想像するのは難しい。しかし、本作は甘ったるいだけの恋愛映画とは違い、きっとどこかに共感できるリアルさがあるはずだ。恋愛は人生の一大事であり、これほど人の感情を揺さぶるものは他にない。その分、うまくいかない時の苦しさや切なさは筆舌に尽し難く、恋愛映画の大半は、その時の葛藤を描いている。濱口監督が、どんな演出で朝子と亮平の葛藤を見せてくれるのか、ぜひ楽しみにしていて欲しい。
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