自らの従軍経験を活かし、戦争によって運命を大きく変えられたとある家族の苦悩を描いた物語。家族の複雑に絡み合う心情を見事描ききり、第74回ベネチア国際映画祭審査員グランプリを受賞した。
映画『運命は踊る』の作品情報
- タイトル
- 運命は踊る
- 原題
- Foxtrot
- 製作年
- 2017年
- 日本公開日
- 2018年9月29日(土)
- 上映時間
- 113分
- ジャンル
- 戦争
サスペンス - 監督
- サミュエル・マオス
- 脚本
- サミュエル・マオス
- 製作
- ミヒャエル・ベバー
ビオラ・フーゲン
チェドミール・コラール
マルク・バシェ - 製作総指揮
- 不明
- キャスト
- リオル・アシュケナージ
サラ・アドラー
ヨナタン・シライ - 製作国
- イスラエル、ドイツ、フランス、スイス合作
- 配給
- ビターズ・エンド
映画『運命は踊る』の作品概要
第74回ベネチア国際映画祭で審査員グランプリ獲得、さらにはイスラエル・アカデミー賞において8部門受賞という圧倒的な功績を残した作品。監督自身も戦争を経験した過去があり、本作はそんな監督自身の実体験をベースに作られている。実体験がベースということもあり、そのリアリティは圧巻。戦争の過酷さや、戦争に巻き込まれた人々の複雑に揺れ動く心境を見事に描き出している。同監督にとって長編2作目とは思えないほどのクオリティ。
映画『運命は踊る』の予告動画
映画『運命は踊る』の登場人物(キャスト)
- ミハエル(リオル・アシュケナージ)
- ヨタナンの父。ヨタナンの死が誤報であったことに怒りを露わにし、息子を即刻連れ戻すように政府に要求する。
- ダフナ(サラ・アドラー)
- ヨタナンの母。ヨタナンのことを深く愛しており、彼の死が通告された時には気を失った。
- ヨタナン・シライ
- 戦争のため戦地へと赴いていた青年。検問所勤務となり、戦いのない日々を送っていた。
映画『運命は踊る』のあらすじ(ネタバレなし)
戦争とは、人々の人生を大きく狂わせるものである。そして、イスラエルのテルアビブという場所でもまた、戦争によって大きな混乱に陥った家族がいた。その家では、息子ヨナタンが戦争へと駆り出され、父親であるミハエル、母親のダフナはヨナタンが無事に帰ってくることを日々祈り続けていた。しかし、ある日軍の役人が二人の元を訪れ、ヨナタンの戦死を告げるのだった。悲しみに暮れる二人。しかし、しばらくしてから、なんとヨナタンの戦死が誤報であったことが判明する。ミハエルは怒り、ヨナタンをすぐに呼び戻すように要求する。一方、生き延びていたヨナタンは前哨基地の検問所にいた。そして、この誤報が彼らの運命を大きく左右することになるのだった。
映画『運命は踊る』の感想・評価
戦争の本当の恐ろしさとは
日本におけるこの映画の視聴者のほとんどは、実際に戦争を経験したことがない人だろう。そんな私達にとって、戦争の恐怖とはあくまでも想像することしかできない。そして、私たちが戦争に対してイメージする恐怖は、まず何より人が殺し殺されることではないだろうか。勿論、それも戦争の持つ恐怖ではある。しかし、戦争が持つ恐怖には、あらゆる側面があるのである。事実、今作では戦場に赴いた青年は戦地に配属されることはなく、検問所で戦いのない日々を送っていた。しかし、確かにこの映画は戦争の持つ恐怖を視聴者に伝えているのである。それがどんな恐怖なのかは実際に見て確認して欲しいところではあるが、この映画を見終わった後、視聴者がより戦争を恐ろしいものだと認識することは間違いない。
どの戦争映画より濃いリアリティ
『プライベート・ライアン』や『プラトーン』、『ダンケルク』など、映画史に名を残す戦争映画は多数ある。しかし、本作はそのどの名作にも勝る点がある。それが、リアリティである。そのリアリティは、本作の監督および脚本を務めたサミュエル・マオスからきている。サミュエル・マオスは、自身が20歳の時、実際に兵士としてレバノン戦争に参加していたのである。戦車の砲撃手を担当していたサミュエル・マオスは、実際に戦争を経験した数少ない映画監督。そんな監督だからこそ、前作、『レバノン』で金獅子賞を獲得することができたのである。実体験をベースとしているのだから、本作のリアリティが他の映画とは比較にならないことも頷ける。本物の戦争映画を見たい人には、是非オススメな一本。
人間にはどうすることもできない「運命」
この映画のテーマは、タイトルからもわかるように「運命」である。戦争を通して、残酷な運命に翻弄されることとなる一家。原作のタイトルであるFoxtrotとは社交ダンスの一つ。Foxtrotは最終的に元の位置に戻るようにステップを踏んでいく踊り方で、人間がどう足掻いても結局は運命通りの結末に落ち着いてしまう様子とリンクさせている。今作も、監督の前作である『レバノン』と同様に実体験をベースとしたストーリー。ある日、とあるバスがテロにあった。そして、監督の娘も元々はそのバスに乗る予定だったのである。しかし、偶然そのバスを逃したことで、娘は命拾いをすることとなった。こういった偶然は神が仕組んだ運命なのではないか、この事件を通して思い至った監督の思考が推敲された結果生み出された映画である。
映画『運命は踊る』の公開前に見ておきたい映画
レバノン
『運命は踊る』の監督である、サミュエル・マオスが2009年に発表した映画。これまでカメラマンやテレビ番組制作など様々な仕事を経験してきた監督にとっての初めての長編映画。処女作であるにも関わらず、第66回ベネチア国際映画祭で最高賞にあたる金獅子賞を受賞するなど、監督の才能を端々から感じることができる一本。1982年勃発したレバノン内戦に身を投じることとなったイスラエル軍の新人兵4人が主人公。彼らは戦地で、次々と仲間や一般人が犠牲になる様子を目にし、とある決心を固めるのだが…。上映時間は90分と短いが、非常に内容が濃い映画であり、見終わった後の満足感は格別。戦争が持つ独特の恐怖をスクリーン越しにひしひしと感じることができる。
詳細 レバノン
キャタピラー
戦争は、巻き込まれた多くの人々の人生を大きく変えてしまうものである。最新作、『運命は踊る』も、戦争に息子が徴兵されたことで、運命が大きく変わってしまった家族の様子を描いている。そういったテーマで共通しているのが、本作『キャタピラー』である。戦争から帰還した青年、久蔵。しかし、彼は全身に火傷を負い、四肢を全て失うという変わり果てた姿になっていた。そんな彼は「不死身の兵士」として世間から讃えられたが、家族はそんな彼を怖がり、世話を全て妻のシゲ子に押し付けてしまう。そして、戦争によって狂わされた久蔵は、シゲ子にあらゆる要求を突きつけていく。ショッキングな映像も多く、見る際には覚悟が必要な一作。しかし、ベルリン国際映画祭で寺島しのぶが最優秀女優賞を獲得した日本が誇る一作である。
詳細 キャタピラー
郊遊 <ピクニック>
ベネチア国際映画祭、それは毎年夏に開催され、なんと初回開催が1932年という映画祭の中でもトップレベルに古い歴史を持つ映画祭である。そんなベネチア国際映画祭は、カンヌ国際映画祭、ベルリン国際映画祭に並び世界三大映画祭と称されている。そんな名誉ある映画祭で審査員グランプリを獲得したのが最新作『運命は踊る』である。そんな『運命は踊る』と同様に、同映画祭において3年前に審査員グランプリを獲得したのが本作、『郊遊 <ピクニック>』。現代の台湾で、貧しい暮らしを送るとある家族の様子を描く。人間に常につきまとう孤独を巧みに表現した作品で、台湾の巨匠と称された蔡明亮の引退作でもある。賞を受賞するだけあり、高い完成度を誇る。
詳細 郊遊 <ピクニック>
映画『運命は踊る』の評判・口コミ・レビュー
この作品を信仰心や宗教色の眼鏡で見ることもできなくもなさそうだが。心配していた字幕翻訳の問題もなく、純粋にリピートして隅々まで深く味わいたいと思わせる作品だった。リピート割引に納得。『運命は踊る』
— いち麦 (@ichiwheat) 2018年9月30日
【運命は踊る】糾える縄の如く、何度となく織り返すミハエルの禍福。それでも尚、温かい着地には、人生の出来事の一つ一つを因果応報と考えたくないと思った。深く重いテーマを、ユーモアと凝った映像演出、センス抜群の音楽で魅せた秀作。 #映画 https://t.co/gJbcP6nOPu
— いち麦 (@ichiwheat) 2018年9月30日
『運命は踊る』両親側の描写は常に重苦しいが、息子側にカメラが映るとスタイリッシュな映像に引き込まれる。しかしそこにも倦怠と鬱蒼とした雰囲気が漂い、そして常に戦争と隣り合わせというイスラエルの現状が強く意識づけされる事件でその不毛さが深く心に沁みる。そして正にタイトル通りの展開。
— べし_酒(東京) (@besi_sake) 2018年9月30日
『運命は踊る』画面やテンポ、映画としての見せ方がすごかった。因果は巡り人は踊り続けるしかない。犬蹴飛ばすのは厳禁。兵士のパートに印象的な場面が続くが、若者を徴兵し荒野に送り、あのように教育して事が起きれば強引に「解決」するイスラエル軍が最恐だった。 #映画
— サリー (@garancear) 2018年9月30日
『運命は踊る』
夫婦のもとに、軍の役人が息子の戦死を知らせるためにやってくる。だが、やがてそれは誤報だったことが分かるが、夫婦にはある変化が訪れていた。ヒューマンドラマ作。それぞれの人生模様、変化を描いた物語で、家族の運命が翻弄する様は印象的。#映画館 pic.twitter.com/5Oddfe3dPa— 伊ト直 (@itonao70) 2018年9月30日
映画『運命は踊る』のまとめ
戦争をテーマにした映画は毎年数多く発表されているが、実際に従軍経験のある監督が脚本まで手がけた作品はそう多くない。実際に経験があるからこそ、本作はより現実感があり見ていて緊張感の伝わる一作となっている。時代が流れ、戦争を知らない世代が増える日本において、戦争の恐ろしさや悲しみを知るには映画という手段が一番である。戦争は戦場にいる人間だけでなく、国民全体を混乱の渦に陥れる。今作を見て、戦争というものを見つめ直す機会にしよう。
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