映画『ビジランテ』の概要:政治家だった父が死んだ後、幼少期に家を出ていた長男の一郎が実家に戻ってきて弟の二郎と三郎は困惑する。一郎は遺言公正証書を持っており、遺産は全て自分が相続すると言いだした。
映画『ビジランテ』の作品情報
上映時間:125分
ジャンル:サスペンス、ヒューマンドラマ
監督:入江悠
キャスト:大森南朋、鈴木浩介、桐谷健太、篠田麻里子 etc
映画『ビジランテ』の登場人物(キャスト)
- 神藤一郎(大森南朋)
- 神藤家の長男。幼少期に家を飛び出したきり音信不通だったが、父の死後、30年ぶりに実家に戻ってきた。横浜で4憶近い借金を作っている。
- 神藤二郎(鈴木浩介)
- 神藤家の次男。市会議員となり、町のために奮闘している。アウトレットモール建設を指示する側であり、父が残した下橋の土地は建設予定地に入っている。
- 神藤三郎(桐谷健太)
- 神藤家の三男。暴力的だった父に反抗してデリヘルの社長となった。女性従業員のことは大切に思っており、危険な目に合わせたくない。
- 神藤美希(篠田麻里子)
- 二郎の妻。頼りない二郎を献身的に支えるが、人を利用して悪事を働かせることにためらいがない。
映画『ビジランテ』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『ビジランテ』のあらすじ【起】
地方の片田舎に住む神藤一郎、二郎、三郎の三兄弟は暴力的な父親に恐怖する日々を送っていた。母親が死亡した後、それは更に過酷なものとなり、耐え切れなくなった一郎は遂に家を飛び出していった。
30年後、父が他界。地元では有名な政治家だったため、葬儀には大勢が参列した。二郎は父の後を追うように政治家になり、妻の美希と幼い息子がいた。対して三郎は父への当てつけのようにデリヘルの社長となっていた。彼は幼い頃に父にされたことを恨んでおり、葬儀にも参列しなかった。
地元ではアウトレットモールを建設する計画が立ち上がっており、二郎は建設推進派の一人でもあった。また、父が保有していた下橋の土地の一部が建設予定地となっていたため、遺産相続で解決してくれと先輩から言われていた。
ある日、三郎は一郎らしき男が町を歩いているのを目撃する。後日、二郎と実家を訪ねてみると一人の男が女連れで住み込んでいた。彼は名乗らなかったが男の額には大きな傷跡が残っていた。一郎は幼少期に父から暴力を受け、左の額を傷つけられていたのだ。
男が一郎だという確証は無かったが、彼は自分が遺産を相続すると言って公正証書を二人に差し出した。そこには父の名前も書かれていたため、二郎は困惑する。
映画『ビジランテ』のあらすじ【承】
一郎は幼い時とはすっかり変わっていた。父のように暴力的で乱暴に女を抱き、クスリにも手を出していた。連れてきた女は暴力に耐えられず出て行き、代わりに呼んだデリヘル嬢にも暴力を振るった。出張した女性が三郎の店に勤務していたため、三郎は大慌てで実家に駆けつけたが、今までのイメージとは全く違う一郎の姿に呆然とするばかりだった。
二郎は下橋の町内の見回りに参加していた。若い新人の見回りを連れて警備に出た二郎たちは、外で食事をする大勢の中国人団体に遭遇する。夜に騒いでいるという苦情もあったことから注意をしたが彼らは言うことを聞かない。そのうち、外国人に偏見を持つ新人が殴りかかり辺りは騒然となってしまう。
モールの土地の相続で揉めていることを知った二郎の先輩は、繋がりのあるヤクザを使って一郎に脅しをかける方法を取り始める。そのヤクザは三郎の会社の元締めで、土地だけでいいから一郎から奪ってこいと三郎は指示されてしまう。仕方なく一郎との交渉に出向いたが、彼は頑として首を縦に振らない。一郎は横浜で高額な借金を作っており、横浜のヤクザも取り立てに来ていた。
母が死んだ日、一郎はナイフで父の首を刺していた。三人はそのナイフを隠すために川を渡ったが、渡りきれたのは一郎だけで、二郎と三郎は怖がって川の途中で止まってしまった。三郎は、一郎が帰ってこなければ何も変わらなかったのにとこぼしたが、それは関係ない、帰ってきても来なくてもお前らは何も変えられないと一郎は反論した。二人は殴り合いを始め、それを偶然見かけた二郎は大急ぎで止めに入った。だが一郎は、お前らも川を渡ってみろと叫び、二人を川に突き落とした。
再び見回りにやってきた二郎たち。この間の仕返しをしようと中国人たちは暗闇からパチンコを使って石を飛ばしてきた。その石は新人の右目に当たり、失明してしまう。中国人が起こした騒動は大々的に報道された。
アウトレットモール建設の案が議会で可決されたが二郎への周りの態度は冷たく、土地ひとつ相続できないのかと先輩から強く言われてしまう。落ち込む二郎に、私がなんとかするからと美希は声を掛けた。
映画『ビジランテ』のあらすじ【転】
再度、下橋の土地の話をしに来た三郎。だが、一郎は、あそこは祖父が満州から帰ってきて買った土地なので売れないと言う。三郎は土地の話をするのはやめ、兄弟三人で食事でもしようと切り出した。
三郎は元締めのヤクザに土地を諦めてくれと話しに行く。店も辞めると言ったがヤクザは激怒し、デリヘル店の女性従業員たちを人質に一郎に下橋の土地の相続を放棄する念書を書かせて持ってこいと命令した。
右目を失明して入院していた新人のところに美希がお見舞いにやってきた。彼女に上手く言いくるめられた新人は、夜にこっそりと病院を抜け出し、中国人たちの宿舎に火を放った。更に、目に怪我を負わせた中国人の居所を突き止めると、友人と二人で襲いかかるという暴挙に出る。
女性従業員を助け出したい三郎は二郎の家を訪れ、一郎と三人で話をしようと持ちかけた。その際、幼少期に一郎が父の首を刺した話を持ちだしたのだが、二郎から、それはお前がやったのだと真実を告げられ驚いてしまう。その夜、川を渡った先で土を掘り返した三郎は、缶のペンケースに入った小さなナイフを見つけた。
実家にやってきた三郎はそのまま寝てしまったが、目を覚ますと一郎が最初に連れてきた女が舞い戻ってきていた。三郎は一郎に下橋の土地を放棄してくれて再三願い出たが、一郎の気持ちは変わらない。そこに元締めのヤクザがやってきた。一郎に放棄の念書を書けと強要するが彼は無視を決め込む。
しばらくすると、横浜のヤクザも取り立てにやってきた。ヤクザ同士が顔を合わし、一触即発の状態となったが話し合った結果、三郎は女性たちの居所を教えられ消えろと言われる。横浜のヤクザは家探しして必要な物を手に入れると早々に退散しようとした。だが、地方をバカにする発言が気に入らなかった元締めヤクザたちと口論になる。
その時、一郎はペンケースに入っていたナイフを掴むと、元締めヤクザの首を刺して殺してしまった。驚いたヤクザたちは互いに襲い掛かり、横浜のヤクザが銃を抜いたことで辺りは死体の山と化した。その死体の中には一郎の姿もあった。
映画『ビジランテ』の結末・ラスト(ネタバレ)
床に転がったナイフを掴み、泣き叫ぶ女を連れてその場を離れた三郎は、女性たちが閉じ込められているというコンテナの場所まで車を走らせた。女性たちは衰弱していたがまだ生きていた。三郎は彼女たちを救出して車に乗せたが、そのわずかな時間で一郎の女が姿をくらませていた。
アウトレットモールの誘致決定を祝う祝賀会に参列していた二郎は、モール建設委員会の副委員長に任命される。壇上に上がろうとした時、先輩から土地の件は解決したと耳打ちされた。そして、彼は一郎が再びいなくなったようだと言いながらメール写真を見せてきた。そこには血に染まった公正証書が写っていた。状況を理解した二郎は壇上で涙を流しながら挨拶をしたが、今までに起きたことなどは何も言わず、政治家として神藤家の名に恥じぬように頑張っていくと決意表明した。
女性たちを連れて遠くへ逃げようと考えた三郎だったが、ガソリンスタンドを横切った時に横浜のヤクザが給油しているのを目撃する。車を停めた三郎は考えた末、彼らの車に歩み寄って行った。トランクから一郎の服の切れ端がはみ出ていたのを目撃した三郎は、ヤクザに向かって兄をどうしたと尋ね、持ってきていたナイフでヤクザを刺した。驚いたヤクザたちは三郎を撃つと逃走していった。
三郎の車の中では女性たちが眠たそうに彼の帰りを待っていたが、三郎が彼女たちの所に戻ることはできなかった。
映画『ビジランテ』の感想・評価・レビュー
『ミスティック・リバー』や『ブラック・スキャンダル』『追憶』のような三者三様の生き方、考え方を描いている。昔にいなくなった人物が戻ってきて状況を狂わせていく展開はよくあるものだし、兄弟という設定も珍しくない。ただ、三兄弟を演じた三人の演技はとても良かった。ベタだが小雪のちらつく川に飛び込んで掴み合うシーンは役者魂を感じさせる。終盤、ヤクザ同士がかち合うシーンは『トゥルー・ロマンス』を彷彿とさせて面白い。(MIHOシネマ編集部)
ストーリーがどうのとか設定がどうのとか、細かいところを語る作品ではない。他の入江監督の作品がそうであるように、観ていて心のどこかがヒリヒリしてくるような感覚を味わう作品だ。
都会でも田舎でもない郊外の街の空気感の中、3兄弟を演じる3人の役者の迫力もたまらない。小雪ちらつく中で川の中に入っての長回しのシーンには痺れた。
それにしても「ビジランテ」。恥ずかしながら怪獣の名前みたいな音の響きだなぁと思ってたら英単語で驚いた。その意味を調べるとさらに作品の奥行きが広がる感じがした。(男性 40代)
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