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映画『メトロ42』あらすじとネタバレ感想

映画『メトロ42』の概要:ロシア当局も協力の元、ロシア映画史上、巨額の制作費用を投じて制作されたロシア発地下鉄パニック映画。監督、役者、スタッフ共にロシア人だからか、日本には馴染みがまったくない。2014年の映画祭カリテ・シネマ・コレクションの中で上映された1本。ハリウッドのパニック物にも引けを取らないパニックシーンに誰もが息を呑むこと間違いなしの完成度。

映画『メトロ42』 作品情報

メトロ42

  • 製作年:2012年
  • ジャンル:アクション、ラブストーリー、サスペンス
  • 監督:アントン・メゲルディチェフ
  • キャスト:セルゲイ・プスケパリス、アナトリー・ビェリー、スヴェトラーナ・コドチェンコワ、アンフィサ・ヴィスティンガウゼン etc

映画『メトロ42』 評価

  • 点数:80点/100点
  • オススメ度:★★★★☆
  • ストーリー:★★★★★
  • キャスト起用:★★★☆☆
  • 映像技術:★★★★★
  • 演出:★★★☆☆
  • 設定:★★★★★

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映画『メトロ42』 あらすじ(ストーリー解説)

映画『メトロ42』のあらすじを紹介します。

ロシアの心臓部、大都会モスクワ。今日も平和な1日が幕を開けようとする早朝。美人妻のイリーナ(スヴェトラーナ・コドチェンコワ)は外科医の夫アンドレイ(セルゲイ・プスケパリス)に黙って、不倫相手のヴラト(アナトーリー・ベリィ)と深い関係になっていた。アンドレイとイリーナの間には一人娘のクシューシャ(アンフィサ・ヴィスティンガウゼン)がいる。そんなどこにでもありそうな日常の中で潜む恐怖は、誰の目にも留まらない地下で起きていた。地下鉄のベテラン職員セルゲイは、上司の職員に地下鉄のトンネル内で水漏れが起きていると報告するも、酒飲みのたわ言とまったく相手にされなかった。ちょうどモスクワで大規模な道路工事が、至る所で行われており、その工事が起因して、地下トンネルが決壊し、川の濁流が少しずつ漏れ出していたのだ。

そうとは知らないモスクワ市民たち。地下鉄職員もいつものように電車を走らせ始める。一方、アンドレイの朝食の席では妻イリーナの姿が見えない。娘クシューシャと2人だけの食事。彼女は母親が、いつも帰ってこないとぼやく。アンドレイは妻の不貞を知りながらも、何も言わない。父娘は、朝から母親の不在でケンカをしてしまう。いつもは学校まで車で送り届けているが、この日に限って車が出せないと分かると、地下鉄で学校に向う事に。この選択が、後に大惨事に巻き込まれることに。不倫帰りのヴラトは、大事な用事で車を走らせるも、工事の影響でどこも渋滞。痺れを切らした彼は、車を乗り捨て地下鉄へと直行する。この選択もまた、後に大惨事に巻き込まれることに。

地下鉄はちょうど、朝の通勤ラッシュ時。そこには多くのモスクワ市民が昇降している。その列車に居合わせた多くの人間は、その後未曾有の事故に巻き込まれる。その列車にはアンドレイ、クシューシャ、ヴラトの他に大学を退学して間もない青年デニス(アレクセイ・バルドゥコフ)とその彼にナンパをされる女性アリーサ(カテリーナ・シュピツァ)。元看護士で酒飲みのガリーナ(エレナ・パナーヴァ)。そして巨漢で冴えないサラリーマン・ミハイル(スタニラフ・ドゥジニコフ)が居合わせていた。この後彼らに起きる予想もしない列車事故は、国をも動かす大惨事に発展してゆくのだった。

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映画『メトロ42』 感想・評価・レビュー(ネタバレ)

映画『メトロ42』について、感想・レビュー・解説・考察です。※ネタバレ含む

ソ連・ロシア映画の成り立ち

近年、ロシア映画は日本でも注目を浴びる作品が数多く輸入されるようになりました。そんな作品群に加わるように本作『メトロ42』が日本でも公開された。ロシア映画の歴史は実に長く、映画の創世記、サイレン時、ソビエト時代を含め、そして今に至ります。現在は、期待の映像作家がロシアを支え、米国並みの大作映画を制作するほどになりましたが、ロシアと言えば映画理論・モンタージュ理論を思いついた国でもあり、芸術性の高い作品が数多く存在します。

ロシア映画と言えば、まず何を思い浮かべますか?私はなんと言っても、最初に思い出すのはやはりモンタージュ理論を発明したロシア帝国・ソビエト連邦時代の映像作家セルゲイ・M・エイゼンシュテインだろう。彼の代表作は1925年の『戦艦ポチョムキン』。これはモンタージュ理論の先駆的作品で、映画制作の礎、そして映画の教科書として今でもこの作品の人気度、認知度は高く、アメリカ映画の父、D・W・グリフィスの『國民の創生』やオーソン・ウェルズの『市民ケーン』と並ぶ映画芸術に革命を起こした画期的作品とされています。エイゼンシュテインの代表作には他に『ストライキ』『十月』『全線』『アレクサンドル・ネフスキー』3部作構成の『イワン雷帝』(3三作目は未完)『メキシコ万歳』等がある。現代の映画制作の流れを作った最高の映像作家の一人だ。

その後、ソビエト連邦に変わり、あまりパッとしなかったソ連映画界。頻繁に映画は制作されていても、日本には入ってこなかった。その理由は第2次世界大戦やスターリン政権が大いに関係しているのだろう。エイゼンシュテインの活躍から長い時間が経ち、1950年代から1960年代初めはソ連映画の黄金期。その中でも特に注目を浴びたのが『僕の村は戦場だった』を制作した監督アンドレイ・タルコフスキーだろう。この作品が監督自身にとっての長編2作目にして、1962年のベネツィア国際映画祭でサン・マルコ金獅子賞を受賞。その後の彼の活躍は1986年に亡くなるまでに、全世界に影響を与える作品を世に送り出している。代表作は『惑星ソラリス』『鏡』『ストーカー』『ノスタルジア』『サクリファイス』がある。次にタルコフスキーと同時期に活動した監督アンドレイ・ミハルコフ=コンチャロフスキーを忘れてはいけない。両者は20世紀を代表する偉大な監督達だ。コンチャロフスキーは今なお現役で、60年代にはタルコフスキーと『ローラとバイオリン』『僕の村は戦場だった』『アンドレイ・ルブリョフ』を共同脚本で執筆し、脚光を浴びる。70年代以降は単独で映像制作をし、近年までコンスタントに制作し続けている。

コンチャロフスキーと切っても切れない縁で結ばれているのは、弟の二キータ・ミハルコフだろう。彼もまた現役のソ連、ロシアを代表する映画監督。デビュー当時は役者として活躍してきたが、途中で映画監督に転進。転進後、数多くの名作を世に送り出したが、彼の忘れてはならない代表作は戦争映画の3部作『太陽に灼かれて(1994年)』『戦火のナージャ(2010年)』そして最終章の『遥かなる勝利へ(2011年)』のこの3作でしょう。

2000年以降に注目を浴びているのは、過去の芸術的要素を含みながら、斬新な切り口でロシア映画を表現した『父、帰る』のアンドレイ・ペトローヴィチ・ズビャギンツェフ監督でしょう。常に芸術性と社会性を盛り込みながら、コンスタントに作品を発表する彼のこれからの活躍に目が離せない。他にはロシア発ダーク・ファンタジー『ナイト・ウォッチ』『デイ・ウォッチ』を制作したティムール・ベクマンベトフだ。両2作はSF映画『マトリックス』の映像世界を髣髴とさせる映像革命を見事に起こした。その後彼はアメリカに渡りアンジェリーナ・ジョリーを主演に迎えた『ウォンテッド』を発表。数作の映画に製作総指揮として加わった後に、斬新な切り口でリンカーン大統領とヴァパイアを融合させて描いたアクション映画『リンカーン/秘密の書』を発表した。2012年以降、目立った活動はしていないが、次の新作が待ち遠しい監督だ。

このように時代と共に形を変えてきたロシア映画は、近年超大作とも言える娯楽作を制作、発表している。本作『メトロ42』の監督アントン・メゲルディチェフの活躍にも今、期待が集まっている。

パニック映画と群像劇

本稿で次に述べたいのは、パニック映画の定義についてだ。パニック映画でも、細かく分けるとジャンルは多岐に渡る。動物系、昆虫系、ウィルス系、テロリスト系等だ。その中でも、今回は特に強調したいのが人災や災害を扱ったパニック映画だ。70年代あたりからパニック映画のブームが起きた。災害パニック物では『タワーリング・インフェルノ(1974年)』や『ポセイドン・アドベンチャー(1972年)』や動物パニック物ではヒッチコックの『鳥(1963年)』スピルバーグの『ジョーズ(1975年)』等が代表格だろう。

本作『メトロ42』を他の映画で表現するなら、どんな映画が思い付くでしょうか?私は3つ作品を挙げられると思います。まず一つ目はシルベスター・スタローン主演のトンネル脱出映画『デイライト』2つ目は市の地下鉄職員の不手際で火山の被害が起きるロサンゼルスの火山を想定した『ボルケーノ』3つ目は映画の趣旨は違えど同じ地下鉄パニック映画と言えば70年代の『サブウェイ・パニック』。分かりやすく3つ程度の作品と比較してみましたが、本作のパニック映画の要素は、過去に公開されたパニック映画の要素をたくさん盛り込んでいる。まるで、パニック映画のオマージュ的な位置であろうが、この映画の宣伝文句は“ハリウッドへの挑戦状”と題されるほど、パニックシーンがより本格的に強調されている。地下鉄の電車が濁流に飲み込まれて、急ブレーキを踏むと、電車の中の乗客が将棋倒しのように倒れていく様子をスローモーションで表現していたり、洪水をアピールしているからこそ、2000トンの水を撮影に使用したり、本格的に地下鉄を模するために112mの地下鉄の美術セットを作ってしまうなど、映像表現に凝った演出が施されている。国家を上げての映像は、類を見ないパニック映画に仕上がっている。

次にパニック映画で忘れてはならないのが、群像劇(グランドホテル方式)だろう。ここではこの映画手法を簡単に紹介したい。

群像劇(グランドホテル方式)とは「ホテルのような一つの大きな場所に様々な人間模様を持った人々が集まって、そこから物語が展開する」という方式のことである。映画『グランドホテル』によって効果的にしようされたため、この名前が付いている。またアメリカ、英語圏では、アンサンブル・キャストと呼ばれる。主人公を1人や2人に限定せず、数人のキャラクターのストーリーラインを並行して進行させたり、エピソード毎に異なるキャラクターに焦点を当てるという手法である。

群像劇をより細かく分けるとするなら3つの定義に分けることが出来る。

密室劇

「グランドホテル方式」では、ある一定の場所(空間)にやって来た者たちが、それぞれ複数の場所(部屋など)で物語が展開する様相になるが、それを一つの空間に「限定」したものが「密室劇」であり、映画『十二人の怒れる男』などで有名だ。

駅馬車方式

密室化した乗り物に乗り合わせた人物間の人間関係と、乗り物そのものに襲いかかる障害を同時並行で描く物語のことを、映画『駅馬車』にちなんで、「駅馬車方式」と呼ぶこともある。この駅馬車を現代の乗り物に置換して映画化したのが『空港』や『ポセイドン・アドベンチャー』とも言える。

メリーゴーランド方式

ある関わり合いを持った複数の同格の登場人物が、それぞれあまり絡み合うことなく、交互に並行的にストーリーが進んでいく構成のこと。

本作『メトロ42』もまた、先ほど述べた群像劇が、活用されている。分類で考えると、密室劇だろうか。トンネルないしは地下鉄と言う密室で行われる脱出劇に加え、個々が背負った状況を物語に反映させているが、鑑賞していて思うことは、人物描写やキャラクター設定が少し甘すぎないかと言うことが言える。特に不貞妻のイリーナを挟んで展開される男2人の恋模様はいささか、お粗末過ぎる。観ているこっちが、イライラさせられる。特に2人の男を振り回すイリーナの言動には、大人の男女って、こうも胸糞悪いことばかりをしてしまいがちだ。その反面、青年と若い女性の恋の駆け引きは、十二分に出来ていた。物語の感情に起伏をもたらす演出に、私も緊張と感動が入り混じった。また、キャラクター設定の説明が不足しているのか、酒飲みのガリーナは映画の冒頭にてチェルノブイリで働いていた元看護士のはずが、物語の中盤でハンドボールのゴールキーパーとしてロシア代表に選ばれたと豪語しているが、冷静に考えると設定に難があるのではないか?看護士からハンドボール選手への転身も、その逆も職種が違うだけに転身も難しいのではないか?

いずれにせよ、人物描写に重きを置くか、映像表現に重きを置くかで、作品の内容は変わってくるが、本作は映像側に重きを置いたに違いないが、視覚効果は十分見応えある傑作だ。これを短館系の映画館で上映するよりも、巨大スクリーンのあるシネコンの映画館で上映した方が、人気は出たのではないかと、私は思います。

映画『メトロ42』 まとめ

私は、基本パニック映画が好きだ。極限の状態で何とか力を合わせて、一つの目標、例えば密室なら脱出、飛行機や船なら緊急着陸など、に向けて大人も子どもも、男も女も関係なしに、協力し合ってそれに立ち向かう姿が勇ましく映る。

ただ『メトロ42』を観ていると、2005年4月に起きた福知山脱線事故を思い出してならない。そんな衝撃的な映画なのだ。地下鉄内での脱線事故は地獄絵図さながらの光景だ。人がなぎ倒しになる瞬間、阿鼻叫喚だ。そのシーンをわざわざスローモーションで見せるのも、私たちにより恐怖心を煽るような制作意図を汲んでいる。

アクション映画が好き。パニックものが好き。時には、ハラハラしてみたい。と言う方には、まさりぴったりのオススメの1本だ。閉所恐怖症の方には、難しいかも知れませんが、ラストまで目が離せないスピーディな物語構成と演出には、一目置きたい作品です。未見の方は、ぜひ一度鑑賞をオススメします。

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