大作からインディ系まで、主役から脇役まで、珠玉のドラマから、クセモノ映画まで。様々な役をソツなくこなし、なおかつ印象に残る俳優といえば、ポール・ジアマッティ。彼のおすすめの映画を見ていきます。
ポール・ジアマッティが出演するおすすめ映画5選
ジアマッティは、’67年米・コネチカット州生まれ。
父親はイェール大の学長で、本人もイェール大出身のインテリである。
大学卒業後に役者を志したものの、’90年代中盤までは『言わなければ判らない様なカメオ出演』的な役しか回ってこなかった。
ジョニー・デップ主演の『フェイク』ではFBIの無線連絡係、ハリソン・フォード主演の『サブリナ』でも、やはりどこに出ているのか判らないという具合だったのである。
そんな彼の人気に火がついたのが『サイドウェイ』。
腐れ縁の結婚を祝うフリをしながら、独身最後の旅行を自分色に染めようとして、とんでもない目に遭う自己中な男を、ジアマティが演じた事で、男性から共感を得た事が人気に火が付いた。
また、ジアマッティの魅力といえば、フィリップ・シーモア・ホフマン同様、脇に回ったとしても、主役を喰ってしまう程の存在感を見せつける事である。
その存在感は、『白人男性が演じたがらない格好悪い男性』という役柄にもなれば、『スーパーチューズデイ~正義を売った日~』の様に、ライアン・ゴスリング演じる若手政治家を利用し、のし上がる中堅政治家の役にも反映される。
実在の人物1人を演じても、千差万別に演じ分け出来る所は、彼の演技力の賜物といっても過言ではない。
『パークランド』で演じた、市井の生地屋の主人・ザブルーダーが、JFK暗殺の瞬間により、人生を狂わされていく瞬間を演じた静かなる哀しさも見事だった。
そうかと思えば、『ラブ&マーシー』で演じた、ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンから搾取しようとする悪徳精神科医・ユージンを演じる様や、『ストレイト・アウタ・コンプトン』で演じた、イージー・Eだけを依怙贔屓し、N.W.Aの分裂の原因を作った白人マネージャー・ジェリー・ヘラーの役も鬼気迫るものがある。
主役を引き立て、映画に味を加える中堅俳優として、重要な立ち位置を得ている俳優ともいえる。
WIN WIN ダメ男とダメ少年の最高の日々
注目ポイント&見所
町医者や会計士から生活に困っている高齢者の情報を横流しして貰い、御用聞きに応じるフリをして、ヤバそうな高齢者を、さっさと老人ホームに入居させ、後見人になる事で、手数料をくすねていたセコい弁護士マイク。
そんな生き方をしているものだがら、他にやり甲斐のあるサイドビジネスを見つけようにも巧くいかない。
ニュージャージー州の片田舎の学校のレスリング部のコーチを引き受けたものの、マイクにやる気がないので、チームは惨敗続き。
ある日、マイクの顧客で、認知症気味のレオが孫のカイルという少年を連れてやってくる。
レオの娘で、カイルの母親はドラッグ中毒で私設に入居しているが、母親と同居したくないカイルの意向を聞いたマイクは、レオを老人ホームにブチこみ、後見人になり、カイルにレスリングを教える事にする。
するとカイルにはレスリングの才能がある事が判り、2人は、ウィンウィンの関係となるが、息子が金になると判ったカイルの母親が慌てて出所してきて、マイクを訴えようとしだした…。
マイクもマイクでたいがいな仕事をしているが、その上をいくのがカイルの母親で、親族が集まると1人は居る『常識は通用しない上に守銭奴』というキャラクターである。
マイクは、カイルの母親に後見人詐欺だと訴えられそうになるが、妙な訴えを起こされる前に、はたと我に返り、自分はカイルの母親程ではないが、結構お金に汚かったと反省し、職業を変える所が見どころ。
マイクが、面倒なカイルの母親に口封じ目的で、レオの後見人費用を毎月送金し、お前は本当はこれが目当てだったんだろ、俺はもういらないからとイヤミな行動に出る所も面白い。
シンデレラマン
注目ポイント&見所
米国の大恐慌時代に不遇の中から不死鳥の様によみがえった復活劇から『シンデレラ・マン』と呼ばれた、奇跡のボクサー・ジム・ブラドックについての映画。
時は、1929年。
米国で株価が暴落し世界恐慌が勃発。
このままいけばタイトル奪取も夢ではないと言われていたボクサー・ブラドックは、試合の最中に右手を負傷。
家族を養う為に、怪我を隠して試合に臨んだ彼は、惨敗してしまい、コミッショナーからボクサーラインセンスを取り上げられてしまう。
ブラドックは、最初は日雇い労働に行くものの、家族の将来の為につまらないプライドを捨て、生活保護の列に並び、彼を見捨てたコミッショナーの元へ頭を下げに行く。
ブラドックの努力が、ジョーの耳に届き、ブラドックは試合が出来る様になるシーンは見どころだ。
ジアマッティの役は、ラッセル・クロウが信頼を寄せるマネージャーのジョー。
彼は家財道具を売り払い、昼間は違う仕事をしながら、マネージャーとしての仕事をつなぎ、いつかブラドックをリングに立たせるべく尽力をつくしていた、という役になっている。
家財用具をすべて売り払ったジョーの家をみて、驚くブラドックの妻・メイの表情が全てを語っている場面でもある。
ジョーはコミッショナーが、ブラドックの存在すら認めようともしない中で、戦歴を残して認めさせようとするところは見どころでもある。
そしてついにヘビー級チャンピオン・マックス・ベアへの挑戦権を勝ち取り、戦った末に、ブラドックが何の為にリングに立ち続けてきたかが映画を観ている人間が判る所も素晴らしい。
詳細 シンデレラマン
パークランド ケネディ暗殺、真実の4日間
注目ポイント&見所
JFKが、テキサス州ダラスの凱旋パレードに訪れた’63年11月22日から4日の間、JFKの死を看取った医師、看護婦、この日を心待ちにしていたはずの市井の人々、運命を狂わされたオズワルド家の人々、シークレットサービス、FBIの人間に焦点をまんべんなくあて、描かれるドラマ。
JFKやジャクリーン、ニクソンなどには、全くの無名の俳優を起用し、周囲の人間に有名なベテラン俳優を起用した事で、JFK暗殺事件を今までと違う角度から見る事が出来るのが最大の見どころ。
オズワルドが、JFKを暗殺した後、何者かにより狙撃され、JFKと同じパークランド・メモリアル病院に搬送されたという事実や、JFKとオズワルドの葬儀が同じ日だった事は、この映画公開と同時に知った人も多いだろう。
華やかに表舞台で世界中の人々に葬(おく)られるJFKと、記憶の片隅に強制的に見捨てられていくオズワルドの対比の描き方にも工夫が施されている。
ジアマッティが演じるのは、JFKの凱旋パレードを、この時代の最新式コダック8mmに収めようとした生地屋の店主・ザブルーダーだ。
ダラスの良心的な市民の代表でもあり、この事件により人生を狂わされた人を代弁している。
彼が撮影したフィルムは、後に『ザプルーダー・フィルム』と呼ばれ、国家機密扱いとなったが、このフィルムを撮影したザブルーダーは、この事件をきっかけに8mmを手に取る事がなくなった、という事まで描いている虚しさが伝わってくる。
サイドウェイ
注目ポイント&見所
小説家になる夢を捨てきれないバツイチの国語教師のマイルズは、友人で三流俳優のジャックが金持ちのお嬢様と結婚すると聞き仰天する。
そして独身最後の旅行をしようと、勝手に旅行プランを立て、旅費は自分の母親のへそくりをネコババし、自分の趣味で目的地はカリフォルニアのワインの産地・ナパバレーにしようとマイルズは提案した。
現地でワインの蘊蓄ばかり話すマイルズと、適当に相槌をうって聞き流すジャック。
どちらも勝手な男だが、ジャックが結婚出来てマイルズが何故結婚に向かない男かは、女性の目からみれば一目瞭然だと思う映画だ。
旅先で出会ったワイン愛好家のマヤに対しマイルズは真剣すぎて余裕がない。
ジャックは結婚する予定の金持ちのお嬢様クリスティンが居ながら、全く好みでない、マヤの友人ステファニーと体目当てで遊んでいる。
マイルズは、マヤに真剣なあまりジャックの結婚話をバラしてしまい、自分の新しい恋も台無しにしてしまう所は、実りかけた恋を数か月で潰す男性にとっていい反省材料になるだろう。
マイルズはジャックの結婚披露宴に参列する時に、元妻と記念のワインを一緒に飲もうとしたものの、元妻が再婚相手を連れてきて、ヤケクソになり、ファーストフード店で、飲んでしまうシーンも判る。
ラストは、マヤとマイルズの恋が実るかどうか、判らないような展開になっているが、そこを見るものの判断に委ねている所がいい。
まだそれほどアクの強いキャラクターでもなかったジアマッティが、恋愛に対して頭隠して尻隠さずなキャラクターを演じている所が面白い。
詳細 サイドウェイ
バーニーズ・バージョン ローマと共に
注目ポイント&見所
3度結婚して2度失敗し、老いていく、どうしようもない男の恋愛勘違い人生の話。
民放で、漫然とした昼メロを30年以上制作しているジアマッティ演じるバーニーは、3番目に結婚して三下り半を下された元妻ミリアムのストーカーに成り下がっていた。
元々はバーニーの些細な浮気が原因で、判れた2人であり、ミリアムには職場の上司ブレアという旦那が既に居るというのに。
映画がミリアムに醜いまでに固執する原因は、ここから回想で描かれている所がポイント。
そこからバーニーが、ろくでもない恋愛遍歴しか歩まなかった事が判明する。
かわいそうだという理由だけで無職の時に若気の至りで結婚した画家のクララとの間に生まれた子供が、友人の子供だった事から離婚。
ムカっ腹をたてたバーニーは、クララを追い込みすぎ自殺させてしまう。
次はあからさまに金目当ての結婚をたくらむのだが、あろうがことに結婚式会場で出会ったのがミリアムだった。
ミリアムに離婚したら、付き合ってあげてもいいと言われたのを真に受けたバーニーは、二番目の妻が親友と浮気した現場を突き止め、親友に罪をひっかぶせて、離婚。
念願のミリアムとの結婚も、子供が大きくなると倦怠期になり、そして別れてしまう。
恋愛と結婚に夢を見過ぎな、バーニーの周囲の友人や父親が、将来の事を全く考えないお気楽ものという所が、バーニーがこうなった要因だと判る。
昼ドラの制作現場だというのに、昼ドラの監督としてカメオ出演しているのが、サイコホラーサスペンスの監督というのが笑える。
バーニーが、認知症になってミリアムと結婚していた事も愛していた事も忘れているのに、嫌がらせだけはしぶとくしている辺りは、振られた事だけは許せなかったという事なのだと思う。
まとめ
お金を払ってまで観たい様な、観たくないような『男のどうしようもない性』を演じきるジアマッティ。
演じきっても、彼自身がシーモア・ホフマンの様に、自分の人生を壊さずに済んだのは、自分の身の程が判っていた事、そして芯の強さがあったのではないだろうかと思う。
かつてジアマティは、試練から逃げる男ばかりを演じていた。現在は狡猾な男を演じている。
そして次は誰を演じるのか、これからが期待される俳優である。
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