北欧・デンマークから送る、新鋭グスタフ・モーラー監督・脚本のスリラー映画『THE GUILTY ギルティ』。アメリカの映画レビューサイト「ロッテントマト」では、満足度100%という驚異の数字を叩き出した誰も体験したことのない新感覚映画。
映画『THE GUILTY ギルティ』の作品情報
- タイトル
- THE GUILTY ギルティ
- 原題
- Den skyldige
- 製作年
- 2018年
- 日本公開日
- 2019年2月22日(金)
- 上映時間
- 88分
- ジャンル
- サスペンス
- 監督
- グスタフ・モーラー
- 脚本
- グスタフ・モーラー
エミール・ナイガード・アルベルトセン - 製作
- リナ・フリント
- 製作総指揮
- ヘンリク・ツェイン
- キャスト
- ヤコブ・セーダーグレン
イェシカ・ディナウエ
ヨハン・オルセン
オマール・シャガウィー - 製作国
- デンマーク
- 配給
- ファントム・フィルム
映画『THE GUILTY ギルティ』の作品概要
凶悪な誘拐事件が勃発したデンマークで、電話の声だけを頼りに犯人を特定する驚異のサスペンス・スリラー映画。脚本・監督を今作が長編映画デビューのデンマークのグスタフ・モーラーが担当し、映画の固定概念を吹き飛ばす圧倒的な想像力で、観客を釘付けにする。第91回アカデミー賞外国語映画賞にデンマーク代表として選ばれ、『セッション』、『search/サーチ』に続く新たな映画として話題を呼ぶ。アメリカのハリウッドでは、既にリメイクの話題も出ており、今後が期待される映画である。
映画『THE GUILTY ギルティ』の予告動画
映画『THE GUILTY ギルティ』の登場人物(キャスト)
- アスガー・ホルム(ヤコブ・セーダーグレン)
- 元デンマークの警察官で、現在は警察を退職し交通事故の搬送を遠隔手配する緊急通報指令室のオペレーターとして働く。
映画『THE GUILTY ギルティ』のあらすじ(ネタバレなし)
デンマークの緊急通報指令室で働く、オペレーターのアスガー・ホルムは、デンマーク警察官の職を辞職し、現在は交通事故による緊急搬送に必要な手配を遠隔で行う仕事をしていた。与えられたデスクに座り、パソコンの画面を見ながら交通事故に遭った人に労いの言葉を掛け、淡々と事故処理を行っていく。
過去に起きたある事件から一線を退き、こうして変わらない日常を送る仕事に就いたアスガー・ホルムは、どこか空虚な気持ちを抱きながらもまじめに業務に取り組む。
しかし、ホルムの日常はある一本の電話によって一変する。ある日、ホルムの元にかかって来た電話は、今まさに誘拐犯によって誘拐されているという女性からの連絡であった。驚き、戸惑うホルムだが、女性を救うために電話からの情報に耳を傾ける。
車の発車音、女性の怯える声、犯人の息遣いなど、電話越しに聞こえる様々な音から、ホルムは犯人の特定に全集中力を耳に集め、聴覚を研ぎ澄ます。果たして、事件は無事解決し、女性を誘拐犯から救うことはできるのか。
映画『THE GUILTY ギルティ』の感想・評価
人間の聴覚から得られる僅かな情報を頼りに辿る、犯人の行方
人間は視力が発達しているため、ほとんどの情報を視覚に頼っている。脳が処理する情報量のうち、目から入ってくる情報は実に8割を超える。そして、その他の五感から得られる情報のうち、聴覚はわずか10%ほど。更に付け加えるならば、人間は同じ音を聞いても決して同じ「イメージ」を抱くことはない。
そうした限られた条件の中、女性からの電話だけで犯人を特定するなど、通常は無理な話である。しかし、元警察官という特殊な職業で培われたホルムのキャリアが、それを可能にする。
「電話から聞こえた音と声だけで、犯人を特定し事件を解決に導く」という単純な設定なだけに、映画の進行に期待が寄せられる。観客は、声の主がどんな人物でどんな顔をしていてなぜ女性を誘拐しようとして、現在どんな気持ちでいるのか、音声だけで判断しなければならない。ホルムと同じ環境下に置かれた観客は、果たして犯人を特定できるだろうか。
数々の賞を総なめにした期待の話題作
第34回サンダンス映画祭では、2018年公開の『search/サーチ』と並び、ワールド・シネマ・ドラマ部門の観客賞を受賞する。第47回ロッテルダム国際映画祭でも観客賞・ユース審査員賞、第44回シアトル国際映画祭の監督賞など、受賞した賞は数知れない。また、第91回アカデミー賞では外国語映画賞のデンマーク代表作品として選出され、最終選考9作品にまで選ばれる功績を残す。
映像技術が飛躍的に進化した映画界で、こうした聴覚に訴える映画は、これまで誰も体験したことのない類を見ない映画である。美しい映像に見慣れ、目の肥えた観客や審査員には、さぞかし刺激になったことだろう。
アメリカの映画レビューでは満足度100%という驚愕の数字を叩き出し、世界中を熱狂させた。聴覚に頼る映画は、誰もが思いつきそうで思いつかなかった手法であり、誰もが「この手があったかと」呆然とせずにはいられない。
想像力を掻き立てる強烈で力強い映像
この作品が長編映画デビューとなる監督・脚本担当のグスタフ・モーラー氏は、公式サイトのインタビューに「映画の中で最も力強い映像は、目に見えない部分だ」と話している。彼が語るように、今回の映画において最も観客が驚かされたのは、映像がほとんど緊急指令室から動かないという点ではないだろうか。
これは、監督自身がインスピレーションを得たという『search/サーチ』にも似ている。音と映像だけでデンマーク各地を旅した気分を得られ、デンマークの町々を想像させる。オペレーター室にある電話のヘッドホンを掛ければ、電話の相手と親密になり、相手がパニックであればあるほど冷静に対処できる。
交通事故現場にいる相手は、トラウマになりそうなほどの暴力的な現場におり、オペレーターはその相手の心に寄り添い、優しく語りかける。オペレーターは安全な場所から一歩も動かずに、相手の状況を考え、言葉を選び状況に対処するのだ。モーラー監督自身も話している通り、相手と親密でありながら状況はとても暴力的で、その危険な場所からオペレーターは遠く離れた場所にいるという対照性が、今回の映画の注目すべき点でもあるという。
元警察官というキャリアを生かしながら、遠く離れた危険な状況に陥っている人を救うオペレーターはどんな人物であるのが良いのか。主人公・ホルムが緊急指令室で繰り広げる女性とのやり取りを、観客はホルムの心境と女性の心境を察しながら映像の1つ1つに目を凝らすべきである。
映画『THE GUILTY ギルティ』の公開前に見ておきたい映画
search/サーチ
100%パソコン上の画面で展開される、全く新しい新感覚サスペンス・スリラー映画として突如登場し、一大旋風を巻き起こした『search/サーチ』は、映画界に革新的なスタイルを提案した。『THE GUILTY ギルティ』の監督・グスタフ・モーラー氏は、『search/サーチ』からインスピレーションを得たとインタビューで語っている。
この映画は、行方不明になった娘を探すため父親が娘のパソコンからSNSを使って、追及するというもの。映画は2018年のサンダンス映画祭で上映され、好評を得たのち瞬く間に話題に上った。
『search/サーチ』と『THE GUILTY ギルティ』を結ぶもう1つの接点は、『search/サーチ』の監督も、この作品で長編映画デビューを飾ったというところだろう。映画界の技術革新が進む中、こうした新進気鋭の映画監督が映画界に新たな旋風を巻き起こし、話題作りの1つとなるのは映画ファンにはたまらない。
常に新しい刺激を求める観客は、『search/サーチ』の監督・アニーシュ・チャガンディ氏や『THE GUILTY ギルティ』の監督・グスタフ・モーラー氏の活躍にも期待するに違いない。
詳細 search/サーチ
タクシードライバー
1976年に公開された、ロバート・デ・ニーロ主演のスピリチュアル映画。元海兵隊であったデ・ニーロは、腐敗した現代社会に絶望し憤慨し、拭い切れない虚無感を抱えながら当てもなく夜の街を走り続ける。そして、精神的に追い込まれたデ・ニーロが取った行動は、自身の存在を世間に知らしめるために過激で危険な運転をすることであった。
この映画を、長きに渡ってグスタフ・モーラー監督は研究し、話し合い、『THE GUILTY ギルティ』の世界に活かしているという。デ・ニーロの目を通して描かれるニューヨークの街並みは、今回の主人公・ホルムの耳を通して描かれたデンマークの街並みそのものである。
『THE GUILTY ギルティ』の制作に当たって、「音」はとても重要な意味を持ち、観客は映画館内で与えられる1つ1つの音に耳を凝らさなければならないが、『タクシードライバー』では、スピード感溢れる映像の中から、デ・ニーロが絶望するニューヨークの街並みを感じなければならない。視覚を通して訴えるデ・ニーロの心境と、聴覚を通して訴えるホルムや女性の心境を照らし合わせながら、鑑賞するのがおススメである。
詳細 タクシードライバー
狼たちの午後
アメリカのシドニー・ルメット監督が手掛けた、1975年製の銀行強盗をテーマにしたクライム映画である。1972年8月にニューヨークで起きた銀行強盗が元になっており、同年のアカデミー賞では6部門ノミネート、脚本賞を受賞という好成績を収めている。また、イギリスのアカデミー賞では主演のアル・パチーノが主演男優賞を受賞した。
この映画のどこにグスタフ・モーラー監督が感銘を受けたのかと言うと、インタビューで語られていたのは、「リアルタイムで感じる精神的ストレスの表現方法」だという。それもそのはず、『狼たちの午後』に出演した役者たちは、賞を受賞するほどの脚本がありながら、ほとんどをアドリブで演じている。
ニューヨークのブルックリンにあるチェイスマンハッタン銀行で起きた3人の男による銀行強盗は、1人が強盗前に怖気づき逃げ出したことを皮切りに多くのトラブルに見舞われながら行うことになる。計画通りにいかない銀行強盗犯たちは、苛立ちを隠しきれず手荒な真似をしないはずだったが結局行員を10時間以上も拘束する羽目になる。
予期せぬ事態に見舞われた人々の、息遣いや表情や言葉遣いなどが、アドリブということもあって緊迫した映像を作り出した映画である。モーラー監督が追い求めた、「元警察官のキャリアを持ちながらオペレーターの仕事をする人物像」のヒントが、この映画のどこかに隠されているかもしれない。
詳細 狼たちの午後
映画『THE GUILTY ギルティ』の評判・口コミ・レビュー
『THE GUILTY/ギルティ』鑑賞。
何言ってもネタバレになりそうなんだけど、想像してたのと違った。サスペンスじゃないな、これ。
もっと手に汗握る展開があるかと思いきや、結構淡々と話が進む。
映像化したことによるインパクトは確かに大きいけど、ぶっちゃけ小説でも充分なような。 pic.twitter.com/t17Vtj3Q6a— CHOCOMONKEY (@_chocomonkey) 2019年2月24日
『THE GUILTY ギルティ』鑑賞。緊急通報指令室のオペレーターを描いたグスタフ・モーラー監督作品。デンマーク映画をシネコンで観られる環境は有難いとはいえ、言うほど「音」が重要ではないシナリオに拍子抜け。この手のシチュエーション・スリラーはあえて長編映画にしなくていいのでは。 pic.twitter.com/IVyDPCR4X7
— だよしぃ (@purity_hair) 2019年2月23日
映画館での今年17本目の映画として『THE GUILTY ギルティ』鑑賞。
脚本・演出・演技の完成度が非常に高く緊迫感が途切れません。
ほぼ主人公の顔演技と通話による会話での構成なのに、通話先の出来事が脳内に映像で浮かんできましたよ。
真相は途中で気づきましたが、それでも凄いと思いましたね。 pic.twitter.com/c5QcL1NpKV— tetu (@tetutetu1962) 2019年2月23日
『THE GUILTY ギルティ』傑作。
人間は聴覚では1割も把握できず、8割は視覚に頼っている。この映画は8割を脳の勝手な補完に頼らせる事で巧みに誘導していく展開が素晴らしかった。後味の悪さもアメリカ映画ではあり得ないので、そこもデンマーク、外国映画の良さなのかな。 pic.twitter.com/tYM6xo7SpT
— ひろくん@ブログ始めました(おーつ) (@movie456456) 2019年2月24日
『THE GUILTY/ギルティ』
ハァ〜〜〜〜!最っっっ高でした!!耳を研ぎ澄まし頭を働かせて、電話の向こう側の事件や人間を“見る”。頼りは音だけという状況だからこその緊迫感。事件の真相が見えてきた時小さく息を吐いてしまった。タイトルが素晴らしい。人間を、主人公を、“見る”映画でした。 pic.twitter.com/5n4hKNadkR— (@___itami) 2019年2月24日
映画『THE GUILTY ギルティ』のまとめ
誰もが驚くような映画を作りだしたということは、今後作られるであろう作品の幅が広がったことと同義である。それだけ偉大なことを成し遂げたモーラー監督は、今後も新しいアングルを探し求め、チャレンジングな映画の制作に意欲を燃やしている。ファンタジックで、夢物語に溢れている映画も良いが、こうした考えさせられる映画もまた、映画の醍醐味の1つである。観客の数だけ答えがあるような映画は、多くの解釈や選択肢があり、見るたびに自分の中で答えを探す工程が病みつきになってしまう。
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