アメリカ政府から麻薬カルテル同士の戦争を誘発するよう命じられたCIAのマットと相棒の暗殺者アレハンドロは、メキシコの麻薬王の娘を誘拐するのだが、事態は思わぬ方向へ動き始める。ダイナミックな演出が話題となった『ボーダーライン』(15)の続編。
映画『ボーダーライン ソルジャーズ・デイ』の作品情報
- タイトル
- ボーダーライン ソルジャーズ・デイ
- 原題
- Sicario: Day of the Soldado
- 製作年
- 2018年
- 日本公開日
- 2018年11月16日(金)
- 上映時間
- 122分
- ジャンル
- サスペンス
アクション
フイルム・ノアール - 監督
- ステファノ・ソッリマ
- 脚本
- テイラー・シェリダン
- 製作
- ベイジル・イバニク
エドワード・L・マクドネル
モリー・スミス
サッド・ラッキンビル
トレント・ラッキンビル - 製作総指揮
- エレン・H・シュワルツ
リチャード・ミドルトン
エリカ・リー - キャスト
- ベニチオ・デル・トロ
ジョシュ・ブローリン
イザベラ・モナー
マシュー・モディーン
キャサリン・キーナー
ジェフリー・ドノバン
イライジャ・ロドリゲス
マヌエル・ガルシア=ルルフォ - 製作国
- アメリカ
- 配給
- KADOKAWA
映画『ボーダーライン ソルジャーズ・デイ』の作品概要
アメリカとメキシコの国境付近で起きている麻薬戦争の実情と、カルテルに家族を殺されたシカリオ(暗殺者)の復讐劇を描き、世界的に大ヒットした前作から3年。ベネチオ・デル・トロが演じる寡黙な暗殺者アレハンドロとジョシュ・ブローリンの演じる相棒のマットが、恐ろしい無法地帯へと帰ってきた。初監督作品『ウインド・リバー』(17)も大好評だったテイラー・シェリダンが前作に引き続き脚本を手がけ、テレビドラマ版『ゴモラ』や『暗黒街』(15)で高い評価を得たイタリア出身のステファノ・ソッリマ監督が、前作のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督からバトンを引き継いでいる。
映画『ボーダーライン ソルジャーズ・デイ』の予告動画
映画『ボーダーライン ソルジャーズ・デイ』の登場人物(キャスト)
- アレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)
- コロンビア人の元検事。カルテルに愛する妻と娘を殺された過去がある。カルテルへの復讐を誓い、組織に属さない一匹狼の暗殺者となったようだが、その正体は謎に包まれている。
- マット・グレイヴァー(ジョシュ・ブローリン)
- CIAの特別捜査官。アレハンドロとは旧知の仲で、カルテル撲滅のための任務で協力を依頼する。
- イサベル・レイエス(イザベラ・モナー)
- 巨大カルテルの大ボスであるカルロス・レイエスの16歳になる末娘。
映画『ボーダーライン ソルジャーズ・デイ』のあらすじ(ネタバレなし)
アメリカの商業施設で多くの一般市民を巻き込んだ自爆テロ事件が発生する。アメリカ政府は、犯人たちが麻薬カルテルの助けを借りて、メキシコ経由で不法入国したと推測。政府の命令により、CIA特別捜査官のマットは、国境地帯で密入国ビジネスを仕切っている麻薬カルテルを混乱させる任務に就く。
マットは、最も信頼している暗殺者のアレハンドロに協力を要請し、国境地帯へ向かう。マットの考えた極秘作戦は、巨大カルテルの支配者カルロス・レイエスの末娘イサベルを誘拐して、カルテル同士の戦争を誘発するというものだった。アレハンドロはイサベル誘拐を実行するが、思いがけないアクシデントが次々と発生し、任務の遂行は困難を極める。しかも、アメリカ政府は急に方針を変更して、作戦の中止を命じてくる。メキシコに取り残されたアレハンドロは、極秘作戦について知りすぎたイサベルを殺すよう命じられるのだが…。
映画『ボーダーライン ソルジャーズ・デイ』の感想・評価
謎多き暗殺者アレハンドロ
本作の原題になっている『Sicario(シカリオ)』とは、メキシコでは「殺し屋」を意味する。もともとは、故郷エルサレムを征服しにきたローマ人を襲った狂信的な暗殺者に起源する言葉らしく、本作では主人公アレハンドロが、まさに“シカリオ”なのだ。
アレハンドロはコロンビア人で、元検事だったということはわかっている。おそらく、検事時代にカルテルから恨みを買い、報復として最愛の妻と娘を殺されたのだろう。アレハンドロ自身が「妻は首を切られ、娘は酸に放り込まれた」と語っていたので、遺体の状態もひどかったはずだ。妻子の遺体を発見した時のアレハンドロの気持ちを想像するだけで吐きそうになる。彼が復讐の鬼と化し、冷酷な暗殺者になったのもわかるのだが…。
前作で、アレハンドロの目的は、妻子を殺した麻薬王ファウストを始末することだった。巨大カルテルの大ボスであるファウストは、厳重な警備で守られており、居場所さえわからない。しかし、アレハンドロは執念深く自宅を突き止め、ファウスト一家の夕食の席に現れる。美しい妻と2人の息子(10代前半くらい)と共に夕食を楽しんでいたファウストは、妻子だけは助けて欲しいと懇願する。しかし、アレハンドロはためらうことなく、ファウストの目の前で妻子を撃ち殺す。もちろん、その後でファウストも殺す。カルテルも残虐だが、アレハンドロの鬼畜ぶりもすごい。前作を見た人は、このシーンに相当な衝撃を受けたのではないだろうか。
アレハンドロは人間性を取り戻せるのか?
妻子の直接的な仇は始末したが、アレハンドロの復讐劇は終わらない。彼は麻薬カルテルを一掃するまで、暗殺者を続けるつもりなのだろう。最新作でも、CIAのマットの要請を受けて、アレハンドロは再び国境地帯へ向かう。
前作は、ある意味でとてもわかりやすい復讐劇だったが、どうやら今回の事情は複雑だ。アメリカ政府は、テロ組織とカルテルが繋がっていると見て、カルテル同士の戦争を誘発する作戦に出る。マットに協力を要請されたアレハンドロは、敵対するカルテルの仕業と見せかけて、麻薬王の娘イサベルを誘拐する。ところが、アメリカ政府はテロ事件とカルテルが無関係であったことを知り、作戦を中止してしまう。しかも、何ともひどい話だが、事情を知りすぎたイサベルは始末するよう、アレハンドロに命じるのだ。確かにイサベルは麻薬王の娘だが、彼女には何の罪もない。今回の一件も、完全なる被害者だ。
予告編では、イサベル殺害を命じられたアレハンドロが「それはできない」と答えているのが確認できる。ここが前作との大きな違いだ。アレハンドロが人間の心を失った暗殺者であれば、イサベルのことも躊躇なく殺しているだろう。しかし、彼は明らかに少女を殺すことをためらっている。前回は、あれほどあっさり2人の子供を殺したのに。このアレハンドロの変化と葛藤は、本作のドラマの重要ポイントなので、注意深く見守りたい。
スケールアップした壮大なアクション
前作もかなりショッキングな暴力描写とアクションシーンが話題となったが、最新作ではさらにスケールアップした壮大なアクションが期待できそうだ。予告編では、広大な大地を走っている車列が爆撃され、大爆発を起こしている。まるで戦争映画のようなアクションシーンで、その規模の大きさに圧倒される。このシーンの爆発はすべて本物で、銃撃戦も含めた撮影には、1週間以上の時間をかけたそうだ。
本作で鮮烈なハリウッドデビューを果たしたステファノ・ソッリマ監督の父親は、西部劇『復讐のガンマン』(68)やチャールズ・ブロンソン主演の『狼の挽歌』(70)で知られるセルジオ・ソリーマ監督。父親の影響なのかどうかは不明だが、ステファノ監督もハードボイルドなノアール作品に定評があり、イタリアの政治家とマフィアの抗争を描いた『暗黒街』(15)は、国内外で高い評価を得ている。前作があれほど話題になったので、ヴィルヌーヴ監督からのバトンは重かったと思うが、ステファノ監督は前作に敬意を払いつつ、自分らしい作品を完成させている。その演出のうまさには、脚本のテイラー・シェリダンも大満足しているようなので、大いに期待していて欲しい。
映画『ボーダーライン ソルジャーズ・デイ』の公開前に見ておきたい映画
ボーダーライン
FBIで誘拐事件専門の捜査官をしているケイト(エミリー・ブラント)は、アリゾナ州チャンドラーで起きた誘拐事件の現場に踏み込み、壁の中に隠された無数の死体を発見する。この事件の黒幕は麻薬カルテルの大ボス・マニュエル・ディアスで、ケイトはCIA特別捜査官マット(ジョシュ・ブローリン)と彼の相棒である謎のコロンビア人、アレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)と共に、国境地帯へ向かうよう命じられる。しかし、マットとアレハンドロの真の狙いは、もっと大物を仕留めることにあった…。
最新作『ボーダーライン ソルジャーズ・デイ』の前作となる作品で、脚本は最新作と同じテイラー・シェリダンで、監督はドゥニ・ヴィルヌーヴが務めている。エミリー・ブラントの演じるケイトは、誘拐事件専門のFBI捜査官なので、麻薬カルテルの残忍さや国境付近の現実を何も知らない。しかも、今回の任務の本当の目的を知らされないままなので、マットとアレハンドロに不信感を抱いている。一方、アレハンドロはカルテルに妻と娘を惨殺された過去があり、カルテルに対して凄まじい復讐心を持っている。この2人の中間地点にいるのがCIAのマットで、彼は冷静に状況を判断して、極秘任務の遂行に努める。カルテルとの戦いもさることながら、この3人の関係性にかなりの緊張感があり、画面から目が離せない。フィクションではあるが、メキシコ麻薬戦争の恐ろしさもひしひしと伝わってくる。
詳細 ボーダーライン
エスコバル 楽園の掟
カナダ人のサーファー、ニック(ジョシュ・ハッチャーソン)は、兄夫婦と共にコロンビアの海岸沿いの町へ渡り、この地で暮らし始める。そこで知り合ったマリア(クラウディア・トレイザック)という現地女性と恋に落ちたニックは、やがて彼女と結婚して、彼女のファミリーの一員になる。ファミリーの長であるマリアの叔父エスコバル(ベニチオ・デル・トロ)は、慈善活動に勤しむ有名な政治家で、貧しい人々から絶大に支持されていた。しかし、その裏の顔は麻薬ビジネスで大富豪となった恐ろしい麻薬王だった。
コロンビアの麻薬王、パブロ・エスコバルの真実を暴いた犯罪映画で、エスコバルを演じたベニチオ・デル・トロが、製作総指揮(共同)も務めている。『ボーダーライン』では、麻薬カルテルを憎む寡黙な暗殺者を演じているベニチオが、強烈な二面性を持つ麻薬王を饒舌に演じているのが何とも興味深い。表向きは慈善活動に熱心な国会議員であり、妻や子供を心から愛している優しい父親。しかし、裏では多くの部下を使って邪魔者を殺し、麻薬ビジネスで巨万の富を得ている冷酷無比な麻薬王。彼の指示で400人以上の人が殺されたと言われているが、没後も地元民はエスコバルを英雄視し、広大な邸宅は有料テーマパークになっている模様。エスコバルの罪は重いが、映画にするには面白い、スケールの大きな人生ではある。
詳細 エスコバル 楽園の掟
スカーフェイス
1980年、反カストロ主義者だったため、キューバを追放されたトニー・モンタナ(アル・パチーノ)は、難民としてアメリカに入国。依頼された殺人を実行して、親友のマニー・リベラ(スティーブン・バウアー)と収容施設を出たトニーは、マイアミの麻薬王フランク・ロペス(ロバート・ロッジア)の部下となり、麻薬ビジネスの世界でのし上がっていく。その後、トニーはフランクを殺害し、フランクの妻エルビラ(ミシェル・ファイファー)も奪って新たな麻薬王となるのだが…。
1932年公開の『暗黒街の顔役』をブライアン・デ・パルマ監督がリメイクした犯罪映画で、アル・パチーノの演じた麻薬王トニー・モンタナの壮絶な生き様は、退廃的な若者たちから熱狂的な支持を得た。イタリア・ナポリの犯罪組織カモッラの実情を暴いた『ゴモラ』(08)にも、トニー・モンタナに憧れている不良少年が登場する。確かに、アル・パチーノの演じるトニーはカリスマ性があり、死に方までかっこいいのだが、それはあくまで作り物の娯楽映画の中の話。実生活でトニーのような生き方をしたら、『ゴモラ』の不良少年のように悲惨な末路を迎えるのがオチだ。裏切りと死がつきまとう麻薬ビジネスの世界は、絶対に足を踏み入れてはいけないこの世の地獄なのだ。
詳細 スカーフェイス
映画『ボーダーライン ソルジャーズ・デイ』の評判・口コミ・レビュー
「ボーダーライン ソルジャーズ・デイ」No.383
善悪の境界を超えた愛と情け
前作より(極僅かに)エンタメ性は高くなったけど極度の緊張感に包まれる事は全く変わりなく
内容が内容だけに手放しで勧められる作品ではないけれどこの緊張感を是非とも味わって欲しいジレンマ和やかな空気なぞ存在しない pic.twitter.com/mhijEUwgfM
— カッパンダ(カニ🦀) Panda di granchio (@kanipanda523) 2018年11月16日
『ボーダーライン: ソルジャーズ・デイ』前作よりもドロッとした味わいの冥府魔道暗黒映画。メインキャスト全員の目が死んでます。ベニチオ・デル・トロの佇まいはもはや死神と言っていいほど虚無&ダークネス。腹にズシンと来る傑作でした。いやー面白かった!! pic.twitter.com/Dck8WtEPMa
— アンザイ (@anzaioden) 2018年11月16日
『ボーダーライン ソルジャーズ・デイ』鑑賞。アメリカとメキシコの国境地帯を舞台にしたステファノ・ソッリマ監督作品。タランティーノ以上に深作欣二への愛を感じさせる一本。主演二人を菅原文太と松方弘樹に置き換えてもしっくりきそうな雰囲気さえ漂う世界観が最高。前作を上回る面白さに痺れた。 pic.twitter.com/LOPHpVZfSf
— だよしぃ (@purity_hair) 2018年11月16日
『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』鑑賞。
前回、あれだけ女(とその正義感)を利用しまくって、子供にも容赦なく鉛玉をぶち込むような奴が、今回はどうにも人間くさい。
女子供に同情する姿なんて別に求めていない。
好みもあるだろうけど、ドゥニなんとか(覚えられない)の前作の方が好きかな。 pic.twitter.com/6bH4KKyn9Q— CHOCOMONKEY (@_chocomonkey) 2018年11月16日
「ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ」を観た。これは全労働者必見の、文字通りのデスマーチ映画の傑作だ。劣悪すぎる現場(麻薬戦争)で、ころころ立場を変える上司(アメリカ大統領)の命令で、ひたすら戦い、精神を削られる男たちを描いた物語。その結末に震えた。続編を今すぐ作って欲しい
— 加藤よしき (@DAITOTETSUGEN) 2018年11月17日
映画『ボーダーライン ソルジャーズ・デイ』のまとめ
前作『ボーダーライン』の印象が強烈だっただけに、その続編となる本作への期待は大きい。アレハンドロとマットは麻薬カルテル撲滅のためなら手段を選ばない男たちで、常にグレーゾーンにいる。それは政府や国家も同じで、正義の名の下に戦争を始めて、罪のない子供たちまで殺してしまうことは、麻薬カルテルの残虐さとどんな違いがあるのか、疑問が残る。本作は、そんな世の中のグレーゾーンを深く掘り下げた社会派のエンターテイメントなので、ハラハラドキドキの展開を楽しみつつも、社会の矛盾について考えるきっかけを与えてくれるだろう。
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