フランスアニメーション界から、新たな名作がやってくる。巨匠・ミッシェル・オスロ監督が、19世紀末のベル・エポック期のフランス・パリを舞台に、美しい情景を描き出す。第44回セザール賞で最優秀アニメ作品賞を受賞した心温まる長編アニメーション映画。
映画『ディリリとパリの時間旅行』の作品情報
- タイトル
- ディリリとパリの時間旅行
- 原題
- Dilili a Paris
- 製作年
- 2018年
- 日本公開日
- 2019年8月24日(土)
- 上映時間
- 94分
- ジャンル
- アニメ、アドベンチャー、ミステリー
- 監督
- ミッシェル・オスロ
- 脚本
- ミッシェル・オスロ
- 製作
- 不明
- 製作総指揮
- 不明
- キャスト
- プリュネル・シャルル=アンブロン
エンゾ・ラツィト
ナタリー・デセイ - 製作国
- フランス
ベルギー
ドイツ - 配給
- チャイルド・フィルム
映画『ディリリとパリの時間旅行』の作品概要
一人ぼっちのディリリが、憧れの地・パリで出会ったたくさんの宝物。それらを、アニメーション映画界の巨匠・ミッシェル・オスロ監督が美しいアニメーションにして仕上げる。舞台は、ベル・エポック期と呼ばれる、新たな芸術や科学技術が華々しく開花し始めた19世紀後半から20世紀初頭のフランス。この頃に話題となったピカソやキュリー夫人などの科学者から、エッフェル塔や凱旋門と言ったフランスを象徴する建物や作品などが数多く登場する。映画を彩る音楽を担当するのは、1997年の『イングリッシュ・ペイシェント』でアカデミー賞最優秀作況賞を受賞したガブリエル・ヤレド。
映画『ディリリとパリの時間旅行』の予告動画
映画『ディリリとパリの時間旅行』の登場人物(キャスト)
- ディリリ(プリュネル・シャルル=アンブロン)
- ニューカレドニアに住んでいる好奇心旺盛な少女。フランスのパリに憧れやってくる。
- オレル(エンゾ・ラツィト)
- 心優しい青年。配達人をしていて、パリの街を隅から隅まで知り尽くしている。知り合いも多い。
- エマ・カルヴェ(ナタリー・デセイ)
- ベル・エポック時代のパリで活躍していた実在のオペラ歌手。担当はソプラノで、フランス以外ではニューヨークやロンドンなどのオペラハウスで公演を行っていた。
映画『ディリリとパリの時間旅行』のあらすじ(ネタバレなし)
黄金時代だと言われていた19世紀後半から20世紀初頭のフランス・パリ。この頃のパリでは、多くの芸術や科学技術が目まぐるしい進化を見せ、人々は輝きに満ちた日々を謳歌していた。
そんな花の都・パリとは反対の位置にある国、ニューカレドニア。好奇心旺盛な小さな少女ディリリは、パリに憧れを抱いていた。そしてついに、どうしてもパリへ行ってみたくてディリリはある日こっそりと船に乗り、パリの地を訪れる。
初めて見た景色は、想像していた以上であった。ディリリはパリの街を歩き、偶然出会った心優しき三輪車乗りの青年・オレルに、パリの街を案内してもらいバカンスを楽しむ。
ところが、そんな美しきパリでは博覧会が開催されている最中だというのに、人々の話題は専ら連続少女誘拐事件であった。男性支配団と名乗る犯罪組織が絡んでおり、これまで幾人もの少女が不可解に姿を消していた。ディリリは、オレルが次々と紹介してくれるパリの有名人たちに会い、事件について質問を始める。
やがて、ディリリとオレルは男性支配団のアジトに近づいていくことになる。ニューカレドニアからやってきた幼い少女は、果たして無事に事件を解決し誘拐された少女たちを救えるのか。
映画『ディリリとパリの時間旅行』の感想・評価
1時間半で堪能する、至福の時間旅行
もう、映画の予告動画はご覧になられただろうか。美しく独特なアニメーションを作り出す鬼才・ミッシェル・オスロ監督が、今回仕掛けてくるのは美しい時代のパリをそのまま宝石箱に閉じ込めたかのような作品。
19世紀末から20世紀初頭の自由で華やかなパリは、多くの人々の心を豊かにし、また世界中から多くの才能溢れる人々を惹きつけて止まなかった。予告動画に出てくる有名人は8人。エッフェル、パブロ・ピカソ、アンリ・マティス、アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック、クロード・ドビュッシー、マリ・キュリー、マルセル・プルースト、サラ・ベルナール。どれも聞いたことや見たことのある人たちばかり。その他にも、映画では実に100人にも及ぶ有名人たちが登場する。
街の至る所に貼られているポスターには、ミュシャの絵が描かれており、エドワード皇太子が美しい宝石を求めて街を練り歩く。映画の制作では、実際にオルセー美術館やマルモッタン美術館などの協力の元、オスロ監督の美的センスによって選ばれた調度品を活用している。厳選された品々から醸し出される、優雅で唯一無二の自由なフランスの雰囲気は、まるで当時にタイムトリップしたかのような夢心地を味わわせてくれる。
アニメーション監督のミッシェル・オスロ
ミッシェル・オスロという人物は、これまでの映画製作人生の中で一貫して性別・肌の色・国・宗教・年齢などで人を区別することなく様々な人種が登場するように心がけていた。
今回の映画を製作するにあたって、テーマとなっているものの1つが「女性」の存在である。大女優ベルナールや、科学者のマリ・キュリーなど、この頃から女性の活躍が目覚ましく、多くの女性たちが歴史に名を刻んできた。しかし、男性優位にあった時代の人々にとっては、それは決して喜ばしいものではなく受け入れがたいものでもあった。少女を誘拐した男性支配団は、そういった思想を持つ人たちの集まりである。
監督は、「人間を半分に分けたどちらかが、どちらかを虐げる社会は、閉じられている」と語る。今もなお、世界のどこかでは宗教や自分たちの住む場所や思想や価値観などで争っている。「どちらか」ではなく、「どちらも」受け入れられ、自由で平等な世の中になり、多くの人たちが多様な価値観や文化を享受できる世界。そうした文化を生み出し、共有し、享受することのできる世界を作ることはとても重要であり、オスロ監督はその重要性について作品で強く訴えている。
映画を引き立てる美しき旋律の数々
1997年に公開され、アカデミー賞最優秀作曲賞を受賞した『イングリッシュ・ペイシェント』。この映画の音楽を担当したのがガブリエル・ヤレドである。ヤレドは、映画製作段階からメンバーとして参加しており、劇中で何度も流れる「太陽と雨」の他、映画を魅力的にする楽曲や旋律を多く手掛けている。
フランスで音楽を学んだ後、シャンソン作曲家としても活躍をし、フランスを代表する歌手たちのレコーディングにも携わっていたなど、豊富な経験を持つ。1979年に『勝手に逃げろ/人生』で初めて映画の楽曲を担当してからは、1986年に話題となった『ベティ・ブルー』を皮切りに、1999年の『リプリー』、2003年の『コールドマウンテン』などでアカデミー賞にノミネートされている。ヤレドとオスロ監督は、2006年の『アズールとアスマール』でも共作しており、前作同様期待が高まる。
また、劇中に登場するかの有名なオペラ歌手だったエマ・カルヴェの声には、現代において世界最高と称されているオペラ歌手のナタリー・デセイが務める。美しい旋律に乗せられる最高峰の歌声。映画の魅力が存分に引き出されていることは、言うまでもない。
映画『ディリリとパリの時間旅行』の公開前に見ておきたい映画
キリクと魔女
1998年にミッシェル・オスロ監督が手掛けた大ヒットアニメーション作品。フランス国内では動員数130万人を突破し、興行収入も650万ドルという成果を見せた。多くの国際映画祭で賞を受賞し、アニメーション映画としてフランスの歴史を塗り替えることになった作品である。
アフリカのとある村では、魔女のカラバによって泉が枯れ果て、男たちは貪り食われ、困窮に追い込まれていた。そんな村に、キリクという赤ん坊が自分の意思で生まれてくる。キリクは、貧しい村を助けるために赤ん坊でありながら超人的な動きで村人を救っていく。そして、母に助けられながらも魔女を退治するための知恵を授かり、魔女のいる地へ向かう。
小さな体をしたキリクの体内にある大きな好奇心が、やがて世界を変えていく愛と赦しと喜びがテーマの物語。この映画の醍醐味は、ただの少年の冒険で終わらない点である。そして、よくある「正義と悪」が明確に分かれていない。
愛・勇気・冒険、どんな国でもアニメ・漫画・小説に限らず多くの作品が作られている。この映画にもそうした要素がたくさん盛り込まれている。だが、その他に加えられているのが「赦し」である。誰が誰を赦すのか、そもそも赦しとは何か。心の内を解き明かすような物語に、感動を禁じ得ない。
詳細 キリクと魔女
アズールとアスマール
『キリクと魔女』同様、ミッシェル・オスロ監督が手掛けた長編アニメーション映画である。映画は2007年に公開され、公開にあたっては『火垂るの墓』や『平成狸合戦ぽんぽこ』などを手掛けた高畑勲が翻訳の監修を務めた。
主人公のアズールは、ヨーロッパの国に生まれた金髪と碧眼の少年。裕福な家庭に生まれ、アラビア人の乳母ジェナヌにジェナヌの息子アスマールとまるで兄弟かのように育てられた。だが、アズールの父はジェナヌを解雇してしまい、ジェナヌとアスマールは祖国へ戻ることに。やがて青年となったアズールは、ジェナヌの子守唄が忘れられず、1人家を出て船に乗り、まだ見ぬジェナヌとアスマールの住む国へ向かう。
この映画では、立場によって人の価値が顕著に変わる様をリアルに描き出している。ヨーロッパでは当たり前であったアズールの金髪と碧眼は、はるか遠いアフリカの地では忌み嫌われるものであった。そして、アズールは国では裕福な家庭の生まれで、ジェナヌとアスマールはその使用人という貧しい立場。だが、アズールがひとたび足を踏み入れた地では、アズールとジェナヌの立場は逆転していた。ジェナヌは祖国で財を築き大富豪となっており、アスマールは大富豪の子息。一方で、異国人のアズールは、その忌み嫌われる青い瞳を隠すために盲目のふりをした浮浪者。
人工的に作り上げられた迷信や、いわれのない誤解から生まれる争いの数々。場所によって人の価値が変わるおかしな社会構造。そうした現実問題を、アニメーションにすることでオスロ監督は人々の心に優しく語りかけている。
詳細 アズールとアスマール
イングリッシュ・ペイシェント
『ディリリとパリの時間旅行』で音楽を担当しているカブリエル・ヤレドが、初めてアカデミー賞の最優秀作曲賞を受賞した作品。1996年に公開されたアメリカの恋愛映画で、監督はこの作品で一躍脚光を浴びたアンソニー・ミンゲラ、主演は『ハリー・ポッター』シリーズの欠かせないキャラクター・ヴォルデモート役のレイフ・ファインズ。
マイケル・オンダーチェが執筆した小説『イギリス人の愚者』が原作となっており、物語の舞台は第二次世界大戦時代の北アフリカである。戦争で傷を負った男、ラズロ・アルマシー(レイフ・ファインズ)は記憶を失いイタリアの修道院で修道女の世話になっている。
アルマシーは話している間に徐々に記憶を取り戻し、自分がどうして大けがをして修道院にいるのか、これまでに何があったのかを思い出していく。そして、全てを思い出し修道女に自分が体験した過去を話し終えると、静かに目を閉じる。
アカデミー賞では作曲賞だけでなく作品賞にも輝き、最多9部門を受賞した。第54回ゴールデングローブ賞でもドラマ部門作品賞と作曲賞に輝いている。戦争の凄まじさや、そこで見つけた大切な人たちとのやり取り、命の儚さとどの場面でも心揺さぶられる音楽が際立ち、惹きつける名作である。
映画『ディリリとパリの時間旅行』の評判・口コミ・レビュー
ディリリとパリの時間旅行、大傑作。南の島の少女が、キュリー夫人やロートレックら偉人との出会いを通じ、怪事件に挑む。ベル・エポックが舞台だが、現代社会への痛烈な眼差しも。少女には無限の可能性がある。彼女たちにはどこまでも遠くへ羽ばたいてほしい。そういう願いが込められていると思った。 pic.twitter.com/RFMWgWd7ef
— じゅぺ (@silverlinings63) 2019年8月24日
『ディリリとパリの時間旅行』
連続少女誘拐事件の解決に挑む少女と、彼女が出会うパリの人々の物語。
主人公:ディリリのキャラクター設定の妙から、あまりにも醜い犯行動機など、オリジナリティの高さが光る。
舞台は19世紀末前後だけど、十分に今日の社会を見据えた内容になっている点も良い。— lp (@lp_eiga) 2019年8月24日
#ディリリとパリの時間旅行
フランスが誇る巨匠達と主人公ディリリが美しいパリの街中で人種や世代を超えて助け合い事件を解決していく話。ピカソやモネ、アンリ・ルソー達が次々と出てくるので心踊る。まさにパリに時間旅行している幸福感を味わえる映画。色彩美で映像美。#days1242 #ニッポン放送 pic.twitter.com/L0kXX62HHZ— 菊地由美 (@Kikuchi__Yumi) 2019年8月22日
「ディリリとパリの時間旅行」を鑑賞。遠い場所から実在の大都市へやってきて冒険、都市のディテール描写、空が出てくること、先週観たアニメとの共通点結構あるのに、圧倒的な美しさ、抑圧されるものへの眼差し、ヒロインのチャーミングなこと…観終わった後、感動で涙が。これこそまた観に行く。
— Tomoko Noguchi (@nogu_ruche) 2019年8月24日
映画『ディリリとパリの時間旅行』のまとめ
『ディリリとパリの時間旅行』で、日本語吹き替えを担当するのは人気子役の新津ちせちゃんと、俳優の斎藤工である。斎藤は以前からオスロ監督作品の大ファンであり、吹き替えのアフレコには監督が来日され指導に当たったことに喜びを見せていた。パリに住んだ経験もある斎藤は、パリの華やかさだけでなく、“裏側”への作りこみも見事だと絶賛。オスロ監督が描く世界観に、すっかり魅了されている様子であった。また、監督はちせちゃんに対して、自身が思い描くディリリそのものだと太鼓判を押した。日本語版に対して監督自身も期待を寄せているため、その仕上がりは納得のいくものだったのだろう。
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