森下典子のロングセラー・エッセイ『日日是好日 「お茶」が教えてくれた15のしあわせ』が、黒木華主演で映画化された。茶道を通して人生の喜びと自由を学び、長い時間をかけて成長していく主人公の姿をしみじみと綴る。
映画『日日是好日』の作品情報
- タイトル
- 日日是好日
- 原題
- なし
- 製作年
- 2018年
- 日本公開日
- 2018年10月13日(土)
- 上映時間
- 100分
- ジャンル
- ヒューマンドラマ
- 監督
- 大森立嗣
- 脚本
- 大森立嗣
- 製作
- 吉村知己
金井隆治
近藤貴彦 - 製作総指揮
- なし
- キャスト
- 黒木華
樹木希林
多部未華子
鶴田真由
鶴見辰吾
原田麻由
川村紗也
滝沢恵 - 製作国
- 日本
- 配給
- 東京テアトル
ヨアケ
映画『日日是好日』の作品概要
人気エッセイスト・森下典子が25年も通い続けた茶道教室での日々を綴った自伝エッセイ『日日是好日 「お茶」が教えてくれた15のしあわせ』を原作としたヒューマンドラマ。茶道を通して人生のあり方を学び、少しずつ成長していく主人公の姿を長い時間経過で描く。監督・脚本は『さよなら渓谷』(13)の大森立嗣。主人公の典子を演じるのは、『小さいおうち』(14)でベルリン国際映画祭銀熊賞(最優秀女優賞)を受賞した黒木華。お茶の先生には樹木希林、典子の従姉妹に多部未華子がキャスティングされている。
映画『日日是好日』の予告動画
映画『日日是好日』の登場人物(キャスト)
- 典子(黒木華)
- 大学に通う20歳の女性。自分のやりたいことが見つからず、焦りを感じている。母親の勧めで、従姉妹の美智子と一緒に武田先生の茶道教室に通い始める。真面目で理屈っぽい性格だが、おっちょこちょい。
- 武田先生(樹木希林)
- 自宅で茶道教室を開いている初老の女性。茶道を通して、典子に様々なことを気づかせてくれる。
- 美智子(多部未華子)
- 典子と同い年の従姉妹。活発な性格で見た目も派手。「一緒にやろうよ!」と典子を茶道教室に誘う。
映画『日日是好日』のあらすじ(ネタバレなし)
大学生の典子は、自分が何をやりたいのかわからないまま、悶々とした日々を過ごしていた。そんなある日、母親から唐突にお茶を習うことを勧められる。その場にいた従姉妹の美智子も「一緒に習おうよ!」と誘うので、典子は美智子と共に、母が勧める武田先生の茶道教室へ通うことにする。
「タダモノじゃない」と評判の武田先生は、稽古初日から典子と美智子にお茶の所作を教え、お茶は形から入ることが大事なのだと語る。理屈っぽい典子は形式主義だと反論するが、武田先生は穏やかに笑っていた。
その日から、典子は毎週土曜日、茶道の稽古を続ける。典子は大学卒業後も出版社でアルバイトをしながらお茶を続けるが、美智子は就職してお茶をやめてしまった。その頃から、典子はお茶の面白さに目覚め、今まで気づかなかった季節の移ろいや小さな変化に気づき始める。そして、10年の時が流れるが、典子は未だに宙ぶらりんな状況から抜け出せずにいた。しかし、ある出来事がきっかけとなり、典子は人生の転機を迎える。
映画『日日是好日』の感想・評価
日日是好日
「日日是好日(にちにちこれこうじつ)」とは、中国唐時代の雲門禅師が残した禅語で、主人公が通う茶道教室の日本間に、この書が飾られている。単純に「毎日が平和なよい日である」という意味で捉えている人も多いようだが、実はそうではなくて、「晴れの日も雨の日も、悪いことが起きた日でさえも、どんな日もかけがえのない1日なのだから、今という瞬間を大事にして生きなさい、そうすれば自ずと日日是好日の境地に至る」と解釈するのが正しいようだ。
しばらく雨が続くと、スカッと晴れた日が恋しくなる。しかし、晴ればかり続くと、今度はしっとりとした雨の日が恋しくなる。雨上がりの晴れ間を見て、何となく幸せな気持ちになれるのは、雨の日があるからなのだ。そして、雨の日にも晴れの日にも、それぞれの味わいがある。それを感じ取れる心があるかどうかで、人生は大きく変化する。これが「日日是好日」の真意であり、典子は茶道を通して、そのことを学んでいく。
「お茶」の世界を知る
「お茶」の世界というのは、何となく敷居が高い。自分のように無作法な人間がうっかり迷い込んでしまったら、大恥をかくに決まっている。堅苦しい作法やしきたりに縛られてお茶を飲んでも、おいしいと思えるはずがない。茶道にそんなイメージを持っている人にこそ、この作品をオススメしたい。
本作の主人公である典子も、20歳でお茶の世界に飛び込んだ時、全くの初心者だった。しかも、典子は真面目で理屈っぽい性格なので、理由もわからないまま形だけを覚えさせられることに抵抗を感じる。しかし、茶道教室の武田先生は「なぜそうするのか」と聞きたがる典子に、「理由なんて知らなくていい」としか言ってくれない。武田先生は「お茶はね、まず『形』なのよ、先に『形』を作っておいて、その入れ物に、後から『心』が入るものなの」と語る。典子は長い時間をかけて、その言葉の本質を体感していく。細かい作法の向こう側には、どこまでも自由な世界が広がっていて、そこに「お茶」の魅力があるらしいのだが…その意味を知りたい方は、劇場へ行こう。
落ち着いた映画
森下典子の原作『日日是好日 お茶が教えてくれた15のしあわせ』は、とても気持ちの落ち着くエッセイだ。筆者が「お茶」を通して経験したことや、その時々に感じたことを素直に綴っている。映画でも、その空気感は大事にされている。
まず、黒木華、樹木希林、多部未華子という主要キャストの顔ぶれがいい。黒木華は、ナチュラルな雰囲気が魅力の女優で、いつもその演技に無理がない。それはつまり、自然な演技ができる実力派だということ。多部未華子も何色にでも染まれる柔軟な女優であり、存在自体に安定感がある。この2人の先生役が樹木希林とは、考えただけで落ち着く。さらに、主人公の父親役で登場する鶴見辰吾も、年齢を重ねた男の渋みと余裕が出てきて、いてくれるだけでホッとするような温もりを感じさせてくれる。
最近はやたらとセリフが多くて、ガチャガチャとうるさいタイプの映画が多いが、本作はその対極にある。この作品を見て落ち着いた時間を過ごせば、穏やかな気持ちで自分を見つめ直すことができるだろう。
映画『日日是好日』の公開前に見ておきたい映画
道(1954)
知能は低いが純粋な心を持つジェルソミーナ(ジュリエッタ・マシーナ)は、死んだ妹の代役で旅芸人のザンパノ(アンソニー・クイン)に二束三文で買われ、彼とドサ回りの旅に出る。ザンパノは粗暴でひどい男だったが、ジェルソミーナはどんな仕打ちをされても彼を見捨てず、旅を続ける。しかし、ザンパノが芸人仲間を殺してしまい、それを見てしまったジェルソミーナは精神を病んでしまう。
フェデリコ・フェリーニ監督が作り上げたヒューマンドラマの名作であり、純粋なジェルソミーナと粗野なザンパノの悲しいラブストーリーにもなっている。森下典子はエッセイの中で、この『道』を見た感想を綴っている。初めて見たのは小学5年生の時。その時はさっぱり意味がわからず、どこが名作なのかと思っていた。それから10年後、大学生の時に再びこの作品を見て、映画館でボロボロ泣いたそうだ。30代半ばで改めて『道』を見た時には、この作品で描かれている人間の悲しさに気づき、涙が止まらなくなったらしい。森下は“すぐにはわからないもの”の例として、この『道』という作品をあげ、「お茶」もそういうものだと説明している。名作と言われている作品は、見る側の成長に伴い、別の作品のように変化する。それが長年愛され続けるものの共通点であり、深みなのだ。
詳細 道(1954)
人生フルーツ
晩年を迎えた建築家の津端修一さんと妻の英子さんは、愛知県春日井市の高蔵寺ニュータウンにある平屋の一軒家で、夫婦2人の静かな生活を送っている。敷地内にある果樹園と畑には四季折々の作物が実り、英子さんは手間暇かけてそれらを料理して、修一さんを喜ばせる。そんな老夫婦の仲睦まじい日常を収めた珠玉のドキュメンタリー映画。
「風が吹けば枯葉が落ちる、枯葉が落ちれば土が肥える、土が肥えれば果実が実る、こつこつ、ゆっくり、人生、フルーツ」。作品内では、ナレーションの樹木希林によって、この言葉が何度も語られる。修一さんと英子さんは、実生活の中で「日日是好日」の境地を実践しているようなご夫婦で、自然の摂理に逆らわず、四季の変化を楽しみながら、土と共に生きている。修一さんが設計した2人の住まいも実に居心地が良さそうで、家や日々の暮らしは、手間暇かけて作り上げていくからこそ、愛しいものになるのだなあと実感する。人生は「こつこつ、ゆっくり」時間をかけて、育てていけばいいのだ。
詳細 人生フルーツ
歩いても 歩いても
夏のある日。良太(阿部寛)は15年前に亡くなった兄の墓参りをするため、妻のゆかり(夏川結衣)とゆかりの連れ子のあつし(田中祥平)と共に、実家へ帰省する。久しぶりに実家で一泊した良太は、頑固な父(原田芳雄)と衝突したり、母(樹木希林)の思いがけない一面を垣間見たりするが、翌日には何事もなかったように帰っていく。
2008年に公開された是枝裕和監督作品で、国内外で高い評価を得たヒューマンドラマの名作。長男の命日に集まった家族の1日を通して、夫婦や親子の問題をさりげなく暴いていく。ただ、秘密が暴かれても家族に大きな変化があるわけではなく、それぞれが当たり前のように日常へ戻っていく。この辺りの描き方も非常にリアルで、自然に自分の家族と重ねてしまう。この作品で特に注目して欲しいのが、日常描写のうまさと樹木希林の演技だ。樹木希林の演じる母親は、どこまでも人間臭くて図太くて、ちょっとだけ悲しい。目の前にうるさい母親がいたらイライラするのに、別れた途端、何となく母親という存在が切なくなる。もう少し優しく接してあげれば良かったと胸がチクリと痛む。しかし、やっぱり面と向かって会うと憎たらしい。樹木希林は、そんなどこにでもいそうな母親像を完璧に再現し、私たちをモヤモヤさせる。このリアルさは見事としか言いようがない。
詳細 歩いても 歩いても
映画『日日是好日』の評判・口コミ・レビュー
#日日是好日 #イオンシネマ豊川
樹木希林さんの遺作となった本作。茶道を通じ、和の心について静かに、でも力強く語られていた様に思う。
茶道が一つ一つの作法や所作を重んじる様に、作中の自然音をとても表情豊かに表現していた。一期一会
大変結構な御点前でした。
— YUI (@tyumitter) 2018年10月14日
映画「日日是好日」キネカ大森(8日)にて鑑賞。黒木華は上手いが、物語そのものが「時間の重み」「時の移ろい」に重点を置いているところがあるので、二十余年の移り変わりを見せ切れた、とまでは届かない。樹木希林の演技は原作の先生より少し柔らか。地が出るところを隠さない感じが晩年らしい。
— 佐々木穣 (@batabata) 2018年10月14日
#日日是好日
観ました🎦毎日、毎年
同じことが繰り返しできること自体
実はすごく幸せなことなんだと
教えてくれた映画でした✨四季折々の映像や、
四季を感じる和菓子にも
心癒されました✨見終わったら、
毎日を
ていねいに生きたくなりました✨お茶、お華、着付けとか
習ってみたいな🍵 https://t.co/QQaeRboiSP— maki (@maki_maki0610) 2018年10月14日
『日日是好日』、いい映画でした。黒木華&樹木希林&多部未華子というキャスティング、そして監督は大森立嗣。うん好きに決まってる。音も楽しめる映画なので、ポップコーンとか食べる人が少ない映画館がよいですよ。
— 木村美津穂 (@5rpUYKUTQbpArvA) 2018年10月14日
日日是好日
まるで茶室に免れたような温かみ、柔らかさを持った作品
ただこれから起きる事を一々台詞で説明するから汲み取りをさせてくれない
台詞で知った事を映像で見せられるから長く退屈に感じる
物語もとってつけたような話で工夫が欲しかった
全体のルックなどはすごい好みだっただけに残念っ! pic.twitter.com/XPAVImedu8— nok (@nja656) 2018年10月14日
映画『日日是好日』のまとめ
原作者の森下典子は、「世の中には“すぐわかるもの”と、“すぐにはわからないもの”の2種類がある」とエッセイの中で語っている。インターネットが普及して、世の中は劇的に便利になった。ネットで検索すれば、ほとんどの情報が簡単に得られる。しかし、その情報はあくまで表面的なもので、そこに深さはない。それでも、私たちは“すぐわかるもの”に振り回され、自分を見失いそうになる。そんな時代だからこそ、自分のペースで向き合い、何年もかけてゆっくりとわかっていくようなものは、人生の大きな喜びになるだろう。この作品は、「お茶」という“すぐにはわからないもの”を通して、私たちに人生の醍醐味を教えてくれるはずだ。
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