第1次世界大戦後のフランスで起きた、2人の帰還兵による大規模詐欺事件を描くクライムドラマ。日本でも『その女アレックス』などで名が知られたフランスの小説家ピエール・ルメートルが初の映画脚本を手掛け、2018年高評価を得た映画が日本でも2019年春上映。
映画『天国でまた会おう』の作品情報
- タイトル
- 天国でまた会おう
- 原題
- Au revoir la-haut
- 製作年
- 2017年
- 日本公開日
- 2019年3月1日(金)
- 上映時間
- 117分
- ジャンル
- フィルムノワール
- 監督
- アルベール・デュポンテル
- 脚本
- アルベール・デュポンテル
ピエール・ルメートル - 製作
- 不明
- 製作総指揮
- 不明
- キャスト
- ナウエル・ペレーズ・ビスカヤート
アルベール・デュポンテル
ローラン・ラフィット
ニエル・アレストリュプ
エミリー・ドゥケンヌ
メラニー・ティエリー - 製作国
- フランス
- 配給
- キノフィルムズ
映画『天国でまた会おう』の作品概要
1918年、第一次世界大戦も終結が見え、兵士たちが次々と自国へと帰還していき始める時代。戦没者を称え、帰還兵を虐げる風潮にあったフランスで、戦場から市に掛けながらも帰還した2人の男が、何もかも奪った国を相手に大儲けしようと企てる。2018年セザール賞で13部門ノミネート・脚色賞や監督賞を含む5部門を受賞した話題の1作。日本にも熱烈なファンが多いピエール・ルメートルが映画初脚本を手掛け、アルベール・デュポンテルが監督・俳優としても活躍する衝撃のクライム映画。
映画『天国でまた会おう』の予告動画
映画『天国でまた会おう』の登場人物(キャスト)
- アルベール・マイヤール(アルベール・デュポンテル)
- 第一次世界大戦において、西部戦線に簿記係として参戦する。戦場で、生き埋めにされ死にかけていたところをエドゥアールに助けられる。
- エドゥアール(ナウエル・ペレーズ・ビスカヤート)
- 資産家の息子で、画家になるのを夢見ている。アルベールと同じく、西部戦線で戦っていた兵士。戦争で顔の下半分に重傷を負い声も失う。
- プラデル(ローラン・ラフィット)
- アルベールとエドゥアールの元上司。戦争が終結すると、地位を得て財を築く。
- マルセル(ニエル・アレストリュプ)
- エドゥアールの父親で大変な資産家。戦死した息子を嘆くが、仮面の画家の噂を聞いていきり立つ。
映画『天国でまた会おう』のあらすじ(ネタバレなし)
時は1918年秋、第一次世界大戦も終わりが見え始めていたフランス西部の第一線で戦争に参加していたアルベールは、戦時中不運にも生き埋めにされてしまう。そんなアルベールを助けたのが若い兵士のエドゥアールであった。エドゥアールは、倒れていたアルベールに声をかけ、無事に帰ろうと励ますが、その際に敵側から飛んできた爆弾に巻き込まれ、重傷を負う。
声を無くし、生きる希望さえも失っていたエドゥアールをアルベールは懸命に励まし、2人は固く抱き合いながら故郷へ帰る決意をする。しかし、故郷に戻ってみれば戦没者たちを称える記念碑が建てられ、嘆き称えられる一方で、帰還兵には冷たい世間が待っていた。アルベールは恋人も仕事も失い、エドゥアールは資産家の御曹司であったが、家族には生還をひた隠しにしていた。
2人はパリで、隠れるように貧乏な同居生活を送ることとなる。エドゥアールは自身の夢であった画家を目指すために様々な作品を作り上げ、いつしか、同居にはエドゥアールの心の声を代弁する不思議な少女も加わり、3人の奇妙な生活が続く。
そんなある日、2人は自分たちの戦時中のかつての上司プラデルが、パリで財を築いていることを知る。そして、エドゥアールから信じられないような提案をアルベールは受けることとなった。
映画『天国でまた会おう』の感想・評価
美しくも恐ろしいクライム・エンターテインメント
『天国でまた会おう』の作者、ピエール・ルメートルと言えば、「このミステリーがすごい!」大賞、週間文集ミステリーベスト10などの名だたるブックランキングで7冠を達成した『その女アレックス』が代表的である。ミステリー史を塗り替える新たな扉を開いたと高く評価を得ている小説家で、作品が発表されるたびに全世界でベストセラーの旋風を巻き起こす。
日本にも数えきれないファンを抱えるルメートルの著書、『天国でまた会おう』は、ルメートルの作品の中でも異色作に分類されており、フランスの最も権威のあるゴングール賞に輝いた傑作である。
今回の『天国でまた会おう』が、ルメートル自身初の映画化となり、その意欲はセザール賞の脚色賞を受賞したことで、うかがい知ることができる。ミステリー作家であり、カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズが大人気のルメートルだが、今回は大戦中のクライム作品のため、ミステリー要素よりも犯罪心理の方が強くなっている。しかし、それがまた美しい絵画のような映像と相まって、ゾクゾクと背筋凍るような物語となっている。
映画内に登場する、恐ろしい「美」の数々
映画の予告編を見た人なら、この映画の素晴らしさが物語だけではないことを既にご存知だろう。戦時中の爆発に巻き込まれ、顔の鼻から下半分を喪ったエドゥアールが、その才能溢れるアーティスティックなセンスで、自身の顔を覆う仮面を次々と作り出し、身に着ける様は、怪しげで恐ろしく、しかしとても美しく儚げである。
劇中に登場するパーティーでも、個性溢れる仮面の数々で、観客をドキッとさせる演出が事あるごとになされている。その造形美は天才的とも言え、20世紀初頭のパリの美しい建物と見事にマッチングされている。
まるで絵画のような出来の仮面を被り、素顔を隠して獲物に近づいていく。きっと、戦争に兵役しなければ、エドゥアールの才能は世間に評価されていたことだろう。父親のマルセルが反対しようがしまいが、才能は隠すことができないのだ。
画家になりたくて、アートに熱心だったエドゥアール。繊細な造形が施されたエドゥアールの作品が、エドゥアールの姿を隠してしまう隠れ蓑になるとは、聊か皮肉でもあるがむしろ解き放たれた自由さを感じ、作品には彼らしさが存分に表れているようにも感じる。彼のアーティスティックな一面も、この映画においては見逃させない重要なポイントの1つである。
クライム映画の中に潜むファンタジー
この映画の見どころは、声を失くした悲劇の青年エドゥアールが作り出す美しき仮面の数々であることをお伝えしたが、もう一度物語の見どころに戻りたい。この映画の公式HPでは、『天国でまた会おう』に対して「ティム・バートン監督やテリー・ギリアム監督、ジャン=ピエール・ジュネ監督を彷彿とさせる」というコメントが添えられている。
ティム・バートン監督は、語るまでもなくディズニー映画『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』や、『アリス・イン・ワンダーランド』などを手掛け、『チャーリーとチョコレート工場』『バットマン』シリーズでも知られているとても有名なハリウッド映画の監督である。
ジャン=ピエール・ジュネ監督は、『エイリアン4』を手掛けた監督で、この映画の他にはブラックユーモア溢れる作品が多い。テリー・ギリアム監督も同じくブラックユーモア溢れるコメディ映画を多く世に送り出している。
つまり、このコメントが示す内容は、『天国でまた会おう』も第一次世界大戦をテーマにしたクライム映画でありながらも、ユーモアに溢れた魔法のようなファンタジー映画なのだ。一体何を言っているのかと思う人もいるだろう、だが、予告編を見ただけでもまるで魔法に掛けられたかのような美しい映像の数々に、ゾッとしながらも心が躍る。圧倒される美と恐怖はそれだけで人々を畏怖させる。怖い物見たさという言葉がぴったりの、新感覚クライムファンタジー映画である。
映画『天国でまた会おう』の公開前に見ておきたい映画
ベルニー
1996年フランスで製作された、アルベール・デュポンテル監督のブラック・コメディ映画。この映画には、『天国でまた会おう』同様デュポンテル監督自身が主演として出演している。また、脚本も担当しており、過激なブラック・コメディに仕上がりながらもその功績は世間から高評価を得て、初監督作品でありながらセザール賞で監督賞にノミネートされた。
30年という長い間、施設で過ごしてきた主人公ベルニー・ノエル(アルベール・デュポンテル)は、両親が自分を捨てたのは致し方ない事情からで、今では自身を必要としているのだと思い込む。しかし、ベルニーの父親は酒癖の悪い男で、母親はそんな父親とさっさと離婚して富豪と再婚していた。父親の行方を突き止めたベルニーは、元妻に復讐心を抱く父親と共に、母親の元へと向かう。
監督・脚本・俳優としても非凡な才能を持つデュポンテルの作品は、日本で公開されこそすれ、DVDやBlu-rayなどのメディア化までされることなく、見られる機会はごく僅かとなっている。そうした希少性もあり、ブラックユーモア溢れるこの作品は、デュポンテル監督の人となりを理解する上でとても貴重な資料となりうる。
詳細 ベルニー
シザーハンズ
2019年には、普及の名作と言われているディズニーの『ダンボ』を実写映画化するティム・バートン監督。これまでいくつもの名作を世に送り出してきた監督の、1990年に手掛けた『シザーハンズ』は、美しく奇妙で、しかし心を震わせる物語である。
主演は『パイレーツ・オブ・カリビアン』などで有名なジョニー・デップ。とある発明家によって作り出された人造人間エドワード(ジョニー・デップ)は、人間の少女に恋をする。しかし、少女キムの優しさに触れながらも人間の嫉妬や恐れや侮蔑などの負の感情にも触れ、結局は理解されることなく山奥で1人愛するキムのために氷の彫刻を掘り続ける。
『天国でまた会おう』の主人公エドゥアールも、戦争によって顔と声を失い、他人によって運命を捻じ曲げられてしまった人物の1人。しかし、彼の作り出す仮面は美しく、まるでエドワードの氷の彫刻のように、エドゥアールの心を忠実に再現している。喜怒哀楽と、愛憎の全てが美にまつわる要素の1つであり、アーティストであるエドゥアールはそれらを繊細な手つきで表現していく。映画を見ていると、エドワードの生み出す氷の彫刻に、エドゥアールの様々な心がこもった作品が重なってくる瞬間がある。
詳細 シザーハンズ
まぼろしの市街戦
第一次世界大戦をテーマにしたクライム映画、などという紹介では、『天国でまた会おう』がとても暗くて暗鬱とする内容なのではないかと思われてしまうだろう。しかし、映画のポスターを見ていただくと分かる通り、そんな要素は少しも出していない。もちろん、そういう内容が映画内で全くないわけではない。映画の序盤では、鉄砲や砲弾でドンパチと激しい戦いを繰り広げているし、顔を失くしたエドゥアールの初期の場面はおどろおどろしい。
しかし、映画が進むにつれデュポンテル監督の持ち味が生かされ始め、コメディ的な要素がちらほら見られるようになる。これは本当に戦争をテーマにした映画なのか、と思う場面も出てくるだろう。
戦争をテーマにしながらも、ユーモア溢れる作品に仕上がった映画はかつてにもあった。それが、1966年に制作されたフランス映画『まぼろしの市街戦』である。第一次世界大戦の末期、配送するドイツ軍兵士の主人公はとある田舎町に迷い込み、閉鎖された街に取り残された精神病患者たちと出会う。彼らは、隔離された精神病棟で戦時中にもかかわらずトランプにふけり、思い思いの時を過ごしていた。
そして、サーカス団が残していった衣装や道具を使って、日々面白おかしく役を演じる。更に、建物の見晴らし台からイギリス軍とドイツ軍の白兵戦を、サーカス団の衣装を着ながら眺める始末。彼らの狂気の沙汰のような日常は、戦争を鼻で笑い、全世界でカルト的なファンを集めた。現在に至るまでも、唯一無二の作品として、映画ファンに根強く愛されているブラックユーモア映画である。
詳細 まぼろしの市街戦
映画『天国でまた会おう』の評判・口コミ・レビュー
「天国でまた会おう」を観た。戦争で顔を半分失くした男と、戦争で全てを失った男は協力して詐欺を企てる。しかしそれはあらゆる方向に進んでいき…というお話。ファンタジーもコメディもスリラーも入り混じったような不思議な感覚の作品。半分しかない顔を隠す為のマスクの造形美が凄まじかった pic.twitter.com/EuyaO89SEo
— ニニコ (@225_nini) 2019年3月3日
「天国でまた会おう」
美しく壊れ物のような日々と寂しさと哀しさを愛に溶かして飲み込んだような映画。夢と現実は時に取り違えるもの。乖離していく自分と自分、自分と友。劇場で見ることができて本当に良かった。 pic.twitter.com/O6GH6uLubo— 相川 (@_aikawa_a) 2019年3月3日
「天国でまた会おう」鑑賞
ちょっと残酷なおとぎ話、という感じでとても好きでした。仮面や美術が美しいし、なにかを作り出さずにいられない人の衝動、的なものが写し出されていた気がする。
そして「君の存在は厄災だ!」といいながら支え続ける関係がすごい😢 pic.twitter.com/wj24KVr6kW— Teatro dell’asino (@robasuke2015) 2019年3月3日
『天国でまた会おう』鑑賞。全然話題になってないし東京も有楽町シャンテでしか上映してないんだけど、この作品ちょっと相当な良作でございました。戦争で怪我をした兵士の物語なんだけど戦争の残虐な部分とファンタジーの要素が上手く融合していて本当、素晴らしい。音楽もとても良いし、もう全て好き pic.twitter.com/fmbikOZMqy
— ダグさん (@max_hardy_xxx) 2019年3月2日
日比谷で『天国でまた会おう』を鑑賞。戦争で顔の半分を負傷してしまった男とその友の物語。全体的にテーマは重いけれど負傷した顔を隠す為に創り上げられた数々の仮面がやはり印象的で美しくもあり時には滑稽でもあり仮面の向こう側に在る彼の心境と共に変化していた。決して悲しいだけでは無い映画 pic.twitter.com/zk6WDwNOsZ
— m a i _ (@EVIL0229) 2019年3月2日
映画『天国でまた会おう』のまとめ
世界最大のアメリカ映画批評サイト「Rotten Tomatoes」では、『天国でまた会おう』の評価が93%と高評価を得ている。ベートーヴェンの交響曲第9番ニ短調の壮大な音楽をバックに、美しく怪しげに光る仮面を被るエドゥアールと、仮面の余りの冠絶さに言葉を失くすアルベール。悲劇を共にした2人が運命共同体となるのは、当然の理だったのかもしれない。ピエール・ルメートルの人々を魅了する言葉の1つ1つが、映像となったことでより不思議さが増し、全く先が読めない怖くも興奮するエンターテインメントが完成した。
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