コメディ映画のおすすめランキング10選(邦画) | MIHOシネマ

コメディ映画のおすすめランキング10選(邦画)

人を笑わせる映画を作るのは、泣かせる映画を作るより100倍難しい。対面で人と話していて、自分がとても面白いと思ったこと的確に伝え、なおかつ相手を爆笑させるのが難しいのと同じことだ。そんな難題をクリアーした上質なコメディ映画に出会えた時は、無条件に幸せを感じる。

コメディ映画のおすすめランキング10選(邦画)

第1位 ラヂオの時間


平凡な主婦の脚本がラジオ局主催のコンクールで優勝し、ラジオドラマとして生放送されることになる。しかし、地味なメロドラマだったはずの脚本は、主演女優のわがままによって徐々に書き換えられ、つじつま合わせをしているうちに、原型をとどめない壮大なスケールの物語へと変貌していく。

舞台劇やテレビドラマなどで脚本家としてのキャリアを積んできた三谷幸喜が、映画監督デビューを果たした記念すべき作品。脚本には三谷監督の実体験が反映されており、脚本が直される過程や業界人の人物描写が妙にリアルで笑いを誘う。

三谷幸喜は“どこかで見たことあるような人”の特徴をつかみ、その個性をデフォルメして笑いに転化するのが非常にうまい。番組プロデューサーの牛島は、あちこちに気を使う典型的な中間管理職型のサラリーマンであり、曖昧な対応を続けて結局は自分の首を締めていく。牛島の上司の堀ノ内は、いかにも業界人といった人物で、落ち目とはいえ番組内で唯一の有名人である千本のっこの機嫌をとることしか考えていない。そして、基本的に人の話を聞いていない。どんな話にも首を突っ込んできて、周囲の人間をイラつかせる千本のっこのマネージャーも、“いるいる!こういう人”と思える人物だ。

その他のキャラクターも、その人独特のクセを持ち、話をややこしくする一端を担っている。そのキャラクター設定と配置は見事なもので、三谷幸喜が脚本という名の設計図を細部まで入念に書き込んでいることがわかる。だから余計に、その設計図を勝手にいじられるような真似をされると、無性に腹が立つわけだ。

もうひとつ、この作品の際立った長所は、キャスティングにある。主要キャストはもちろんだが、堀ノ内を演じた布施明、千本のっこと対立する浜村を演じた細川俊之、ベテランDJの広瀬を演じた井上順、さらに守衛のおじさんには藤村俊二がキャスティングされており、それぞれにいい味を出しまくっている。千本のっこに対する堀ノ内の想いを綴ったエンディング曲「no problem」を、布施明が抜群の歌唱力で歌い上げるところまで笑えてしまうのだから、すごいとしか言いようがない。

詳細 ラヂオの時間

第2位 タンポポ


トラック運転手のゴローはなかなかの食通で、潰れかけたラーメン屋の店主タンポポから、“弟子にしてください!”と懇願される。ゴローはタンポポを救うため、仲間を集めて究極のラーメン作りと店の再建に乗り出す。

お葬式」(84)の大ヒットを受け、1985年に公開された伊丹十三監督作品第2弾は、「ラーメンウエスタン」と銘打たれた、またもや斬新な発想のコメディ映画で、物語も映画の作りも自由そのもの。

「ラーメンウエスタン」というだけあって、主人公のゴローと相棒のガンは、カウボーイスタイルをしており、ゴローは常にカウボーイハットを被っている。ヒロインのタンポポは亭主に死なれ、店には土建屋ピスケンの一味が居座るようになり、息子のターボーを抱えて途方に暮れている。ゴローはそんなタンポポを救う救世主であり、これは西部劇の名作「シェーン」(53)を彷彿とさせる。ラーメンはまずいが料理はうまいタンポポや、喧嘩の強いゴローに憧れるターボーのキャラクターも、「シェーン」のヒロインであるマリアンや息子のジョーイと重なる。

「ウエスタン」という舞台の中央に、日本独自の食文化「ラーメン」を持ってくるというのが伊丹監督の突出した才能であり、この映画はアメリカを中心とした海外での評価が非常に高い。2016年には、ニューヨークの老舗劇場で「タンポポ」がリバイバル上映され、アメリカ人の熱心な伊丹ファンが大勢詰め掛けた。舞台挨拶に招かれた宮本信子は、この映画を心底楽しんでいるお客さんの反応を見て、感動の涙を流している。

この作品のもうひとつの大きな特徴は、主軸の物語と特に関係のない食に関するエピソードが次々と挟み込まれる自由な構成だ。これらのエピソードも、それぞれにインパクトを持つ短編作品になっており、この部分がたまらなく好きだというファンも多い。

ちなみに、伊丹監督はいち早く三谷幸喜の才能を見抜き、自身の映画の脚本作りに参加してもらっている。この時に伊丹監督から映画の脚本作りを学んだことが、「ラヂオの時間」を監督してみようと思った大きなきっかけになったと三谷は語っている。「ラヂオの時間」に登場する長距離トラックの運転手(渡辺謙)の存在は、三谷の伊丹監督に対するオマージュである。

これほどの才能を持った映画監督が早世してしまったことは、日本文化の大きな損失であり、早すぎる死が悔やまれてならない。せめて彼が残してくれた作品を、多くの日本人に愛して欲しいものである。

詳細 タンポポ

第3位 男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け


1969年に始まった「男はつらいよ」シリーズは、1995年までに48作もの作品が作られ、映画シリーズの作品数世界最多記録としてギネスブックにも認定されている。

渥美清の演じる車寅次郎が、マドンナに恋をして失恋するという愛すべきワンパターンの物語は、誰が見ても理解できる人情喜劇になっており、ワンパターンでありながら飽きがこない。

主人公の寅さんを始め、さくらやとらやのおいちゃん、おばちゃんといった定番のキャラクターが守る安定した舞台に、毎回違ったゲストが招かれるようにしてマドンナが登場する。旅暮らしをする寅さんは、日本各地で新しいマドンナと出会い、その後柴又へ帰ってくる。逆のパターンもあるが、物語には常に「柴又」と「日本のどこか」という2つのステージが用意されている。2つ目のステージは、日本各地を転々と移動するので、各都道府県にそれぞれの特徴があるように、作品にもそれぞれの味わいがある。それが、このシリーズが末永く愛され続ける大きな理由のひとつになっている。

その中でナンバーワンを選ぶのは非常に難しいのだが、今回は1976年公開のシリーズ17作目「男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け」を紹介したい。

48作の中で、イチオシ作品としてこの作品を紹介するのには主に3つの理由がある。まずは、太地喜和子が演じた芸者のぼたんがあまりにも魅力的であること。次に、高名な日本画家を演じた宇野重吉とかつての恋人役として登場する岡田嘉子の重厚な存在感が、作品に深みを与えていること。最後は、ストーリーがシリーズの中でも群を抜いて面白く、結末も最高に粋で清々しいこと。

この作品と、浅丘ルリ子が売れない歌手のリリーに扮する第11作目「男はつらいよ 寅次郎忘れな草」、第15作目「男はつらいよ 寅次郎相合い傘」、第25作目「男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花」のリリー3部作は、このシリーズの代表作として押さえておきたい。

詳細 男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け

第4位 鍵泥棒のメソッド


失恋し、人生に絶望した売れない役者の桜井は、銭湯で派手に転倒して記憶喪失になってしまった凄腕の殺し屋コンドウの荷物一式を盗んでしまい、思いがけない事件に巻き込まれていく。一方、桜井として生き始めたコンドウは、計画魔の雑誌編集長・水嶋香苗と知り合い、恋に落ちる。

監督・脚本を務める内田けんじは、サンフランシスコ州立大学芸術学部映画科で映画作りを学び、第14回PFFスカラシップ作品の権利を獲得して製作した「運命じゃない人」(05)で、同年カンヌ映画祭において、フランス作家協会賞、最優秀独批評家賞、鉄道省、最優秀ヤング批評家賞の4冠を受賞してしまったという経歴の持ち主。その後2008年に「アフタースクール」を製作し、2012年にこの「鍵泥棒のメソッド」を作るに至った。

この作品の突出した部分は、テンポのいい脚本と演出にある。話はなかなか入り組んでいて、殺し屋コンドウの設定も複雑だ。ネタバレしたくないので詳細は省くが、コンドウは単純な殺し屋ではない。頭の中に面白いアイディアが浮かんでも、それをまとめる腕がなければ、この手の物語を成立させるのは難しい。しかし内田けんじ監督は、気持ちのいいテンポで物語を進行させ、後半部分でもこんがらがりそうな糸をすっきりと整理してまとめあげている。そのおかげで、観客の集中力は持続し、最初から最後まで退屈することなく楽しめる作品に仕上がっている。

キャラクターの個性の見せ方もうまい。几帳面な計画魔の香苗の分厚いスケジュール帳や、真面目な努力家で何事も緻密に計算していくコンドウのきちんと整理されたノートを見れば、その性格が一目瞭然だ。2人とは正反対の性格をしている桜井は、大事な計画を立てるときでも、汚らしいメモしか残さない。こういう細かいところで、内田監督が、かなり深くまでキャラクターの性格設定をしていることがわかる。

こういうことができる監督は、必ずと言っていいほど笑いのセンスがある。なぜなら、意図的に人を笑わせるということは、かなりの計算と心配りが必要だからだ。そういうわけで、この作品もやはり面白い。

詳細 鍵泥棒のメソッド

第5位 下妻物語


茨城県下妻市の田舎町で暮らす高校生の桃子は、ロリータ・ファッションに心酔し、空想世界で生きているかなり個性的な女の子。桃子は、地元のレディースチームに属するヤンキーのイチゴと知り合い、なぜか気に入られてしまう。桃子とイチゴは衝突しながらも、奇妙な友情で結ばれていく。

嶽本野ばらの同名小説を中島哲也監督が2004年に映像化し、瞬く間に話題となって最終的に大ヒットしたこの作品。どこまでもデフォルメされたキャラクターと、アニメーションを盛り込んだ斬新な映像は、日本のみならず、海外でも高く評価された。

深田恭子が演じる竜ヶ崎桃子のナレーションを多用し、主人公の生い立ちをテンポよく観客に見せていくような手法は、マーティン.スコセッシ監督の「グッドフェローズ」(90)を彷彿とさせ、あっという間にこの作品世界に引きずり込まれてしまう。

原付バイクで疾走中に軽トラックと衝突し、宙を舞った桃子がこれまでの人生を回想していく冒頭から、この作品はスピード感に溢れており、爆笑しているうちに、場面が次から次へと切り替わる。桃子は少女時代から非常に面白い感性をしており、宮迫博之が演じるチンピラの親父も、篠原涼子が演じる奔放な母親も超個性的。宮迫の兄貴分を本田博太郎が演じているのも、なぜかツボにはまる。

深田恭子と土屋アンナがダブル主演を務めており、2人のバランスも絶妙だ。深田恭子は、ロリータ・ファッションがとてもよく似合っているし、土屋アンナはちょっと頭の弱い田舎のヤンキー少女にぴったり。現在でも田舎に行けば、イチゴや阿部サダヲの演じた一角獣の龍二のようなヤンキーが存在するのだろうか…。

いろいろとイタイ人が集結した異色の青春コメディは、不思議なエネルギーで観客を元気にしてくれる。

詳細 下妻物語

第6位 ザ・マジックアワー


今のところ(2017年現在)三谷幸喜監督は、全部で7作の映画を製作しており、この「ザ・マジックアワー」は、ちょうど中間地点の4作目に当たる作品。徐々に撮影の規模も大きくなり、本作では、「守加護(スカゴ)」という架空の街をセットで作ってしまったというなかなか贅沢な作品だ。

物語の概要は、売れない役者が映画の撮影だと思い込んで凄腕の殺し屋を演じるのだが、実はギャングのボスも銃も全て本物で、一体どうなるの?というシチュエーション・コメディ。いわゆる勘違い系のコメディであり、ビル・マーレーが主演を務めた「知らなすぎた男」(97)が、この作品とよく似た設定になっている。こちらも非常に面白い作品なので、興味がある方はぜひ見て欲しい。

本作の笑いの大部分は、やたらと熱い三流役者の村田大樹を演じた佐藤浩市の大熱演に支えられていると言っても過言ではない。三谷監督は、当て書き(先にキャスティングを決め、その役者が演じるという前提で脚本を書くこと)をすることで有名だが、この村田大樹も佐藤浩市が演じるという前提でキャラクターが作られている。そのため、佐藤浩市の全てが村田大樹にハマりすぎていて、そこがとにかくおかしい。ペーパーナイフを舐める佐藤浩市、トランポリンで跳ねる佐藤浩市、本物の銃弾の中で暴れまわる佐藤浩市と、もう「佐藤浩市劇場」を見ているようだ。そこがいいのだが。

さらにマニアックな見方を紹介すると、三谷監督はかなりの映画好きなので、細かいところに映画ファンだけが気づくパロディ設定がちりばめられている。例えば、架空の街「守加護」の名前は、当然ながら犯罪都市のシカゴからきており、シカゴを舞台にしたギャング映画には「暗黒街の顔役」(32)や有名どころとして「アンタッチャブル」(87)がある。そして、村田大樹がしつこいほど見ていた映画は「暗黒街の用心棒」。デラ冨樫が中華料理屋で醤油をこぼすシーンは、「アンタッチャブル」でロバート・デ・ニーロが部下をバットで撲殺するシーンのパロディであろう。

西田敏行が演じるボスの名前「天塩」はテシオと読むのだが、これは「ゴッドファーザー」(72)でドンと苦楽を共にしてきたマフィアのテッシオからきているに違いない。西田敏行のルックスは、どちらかといえばもう一人の側近クレメンザの方に似ているのだが、日本名にしにくかったのではないかと推測する。西田敏行のいる薄暗い部屋も、ドンの部屋の雰囲気にどことなく似ている。

すでに鑑賞済みの人も、そういう細かい点に注意してもう一度見ると、また違った楽しみ方ができるのではないだろうか。

詳細 ザ・マジックアワー

第7位 デトロイト・メタル・シティ


若杉公徳の同名人気コミックを、2008年に李闘士男監督が映像化した作品。

素顔は渋谷系のおしゃれなポップスを愛する気弱な青年なのに、レコード会社の鬼社長の陰謀によって「デトロイト・メタル・シティ」というデスメタルバンドのボーカル「ヨハネ・クラウザーⅡ世」としてデビューしてしまった根岸宗一は、自分のやりたいことと現実のギャップに悩む。

こんな過激な設定のギャグ漫画を実写化して成功するのだろうかと心配した原作ファンも多かったと思うが、この映画ははっきり言って面白い。

成功のカギを握るのは、主人公の根岸宗一を演じた松山ケンイチの存在だ。普段はなよなよと内股気味で歩く中性的な根岸が、ひとたびクラウザー様のメイクをすると、かなりイケてる俺様キャラのカリスマボーカルへと変貌する。そして、松山ケンイチのステージングはかっこいい。長身でスタイルがいいので、クラーザー様のコスプレがよく似合っており、普通にデビューしても人気が出そうなボーカリストだ。根岸の時の柔らかい声と、クラウザー様になった時の野太い声も非常にうまく使い分けており、松山ケンイチの芸達者ぶりには脱帽する。

もちろん作品全体としても笑いどころが満載で、話のテンポもいい。個人的にかなり好きだったのは、クラウザー様に心酔するファンAを演じた大倉孝二の弾けぶり。大倉が登場するシーンは、もれなく爆笑させてもらった。

根岸の深い憎しみが生み出した「恨みはらさでおくべきか」をフルコーラスで聴きたいがために、思わずコンプリート・アルバムを買ってしまいそうになるほど、この映画には勢いがある。ジーン・シモンズが、あの恐ろしいメタル・バッファローを、どんな気持ちで見つめていたのかも気になるところ。

詳細 デトロイト・メタル・シティ

第8位 家族ゲーム


高校受験を控えた落ちこぼれの息子の成績を上げるため、沼田茂之の父親は三流大学の7回生である吉本を家庭教師に雇う。吉本は一風変わった暴力的な男で、茂之は殴られるのが嫌で勉強を始めるのだが…。

本間洋平の同名小説を、1983年に森田芳光監督が映像化した作品。脚本も森田芳光。

植物図鑑を常に持ち歩いている奇妙な家庭教師を松田優作が演じており、彼が登場すると画面に独特の緊張感を漂う。茂之の父親には伊丹十三がキャスティングされ、目玉焼きの黄身をチュウチュウ吸う、風呂では必ず豆乳を飲むという、これまた奇妙な癖のある父親を不気味に演じており、松田優作と伊丹十三の一触即発の雰囲気が、さらに作品に殺気を漂わせる。そこが妙におかしい。

森田芳光監督は、最初から最後まで音楽を一切使わず(エンドロールでも音楽は流れない)咀嚼音や生活音を強調するという演出に挑んでいる。この作品は、食事のシーンが多いのだが、沼田家の食卓は家族4人が横並びで座るというシステムになっており、そこに家庭教師役の松田優作が加わると、5人がぎゅうぎゅうで横一列に座って黙々とご飯を食べるというシュールな絵面が展開される。この絵面には強烈なインパクトがあり、作品のタイトルを忘れた場合でも“家族が横一列でご飯を食べるやつ”と言えば、“ああ、家族ゲームでしょう”と即答してもらえることが多い。

鑑賞済みの人がみんな同じシーンを覚えているというのは、ありそうであまりない。役者名や使用された音楽、さらにストーリーの一部分を説明することでタイトル名を思い出してもらえることがほとんどで、“男の人が銃で撃ち殺されるやつ”とか“男の人と女の人が駅で泣きながら別れるやつ”などと特定のシーンを説明しても、そんな映画は腐るほどあるのでタイトル名を導き出すのは難しい。しかしこの作品は、一度見ただけで記憶に焼きつくシーンが非常に多く、話の内容は忘れても、あの場面だけは絶対に忘れられないという人が多いのだ。

森田芳光監督も亡くなってしまい、この作品が“知る人ぞ知る傑作”になってしまうのはあまりにも惜しい。日本を代表するシュール系のコメディとして、これからも多くの人に見てもらいたい。

詳細 家族ゲーム

第9位 キツツキと雨


頑固な木こりの岸克彦は、ロケのために村へやってきた映画の撮影隊と知り合い、自分に自信が持てない若手監督の田辺と交流を続けるうちに、スタッフと同化して撮影に協力し始める。

現在も精力的に活動している沖田修一監督の2012年の作品で、脚本も沖田監督自身が手がけている。最新作の「モヒカン故郷に帰る」(16)でも、沖田監督はオリジナル脚本を映画化しているが、彼はいつも温かい視点で普通に生きる人々の日常を見つめており、目の付け所がとてもいい。

本作では、かなり田舎の山村で生きてきた職人気質の木こりを主人公にして、彼の人生の小さな変化を丁寧に描いていく。

木こりを演じるのは、日本を代表する実力派俳優の役所広司であり、コメディからシリアスまで幅広く対応できる役所広司の懐の深さが、作品の根幹をしっかりと支えている。役所広司のうまいところは、不器用な男を演じても鼻につかないところで、わざとらしくないから観客は岸克彦という男が自然と好きになる。克彦がゾンビ役のエキストラを頼まれて何気にワクワクしていたり、いつの間にか映画の撮影にのめり込んで必死になっている様が可愛らしく、優しい笑いを誘う。そこにはもちろん、沖田監督のキャラクター作りのうまさもあるのだが。

全体を通して、大爆笑するようなシーンはないが、所々でクスッとくるソフトタッチのコメディになっており、それはそれで好感が持てる。この作品には、いちいち登場人物の感情をセリフで喋らせるような下品さがなく、その点でも見ていて心地いい。最近は、映画とテレビドラマは全く別物だということが、はっきりとわかる邦画が意外と少ないので、沖田修一監督には、これからもこの路線でいい作品を作り続けて欲しい。

突出した個性はないが、そのぶん万人に好まれる作品になっているので、ほっこりしたい人におすすめだ。

詳細 キツツキと雨

第10位 蒲田行進曲


人気役者の銀四郎は、妊娠した恋人の小夏を大部屋役者のヤスに押し付け、若い女と付き合い始める。心優しいヤスは、お腹の子供ごと小夏を引き受ける。2人は夫婦となり、もうすぐ子供が生まれるという時になって、ヤスは落ち目の銀四郎を救うため、危険な階段落ちのスタントをすることになる。

1982年公開の大ヒット映画「蒲田行進曲」は、同名戯曲の原作者であるつかこうへいが自ら脚本を手がけ、深作欣二監督がメガホンを取った。舞台は、時代劇を製作する古き良き時代の京都撮影所であり、映画人や役者の熱気でムンムンしている。

ヒロインの小夏を演じた松坂慶子は、この当時すでにトップ女優だったが、銀ちゃんを演じた風間杜夫や、ヤスを演じた平田満は、この作品に出演したことで一気に認知度が高まり、役者としての地位を確立していった。本作はこの年の映画賞をほぼ総なめにしており、同年日本アカデミー賞では、最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀脚本賞、最優秀主演男優賞(風間杜夫)、最優秀主演女優賞(松坂慶子)、最優秀助演男優賞(平田満)、最優秀音楽賞の7部門を受賞するという快挙を成し遂げた。

コメディというよりは、“笑って、泣ける”という言葉がぴったりの、大人のための人情喜劇として見て欲しい。今ではふっくらとした上品なお母さん役が板についた松坂慶子が、まさにトップ女優という名にふさわしい美しさと色気を放っており、昔の彼女を知らない若い世代の人が見たら、きっと驚くはずだ。風間杜夫も平田満も、その他のキャスト陣も、みんなどこかギラギラしており、そのエネルギーに圧倒される。

今見ると、脚本も演出も役者の演技も、あまりに大げさで泥臭くて、作品全体の持つアクの強さに驚かされるが、どうしようもなく引き込まれてしまう熱量がこの映画にはある。もし、今これほどの毒気と色気を併せ持つエネルギッシュな人情喜劇が日本で作られたなら…それは見たいでしょう。

詳細 蒲田行進曲