アカデミー賞最有力候補の一作が、2019年3月日本上陸。人種差別が色濃く残る1960年代のアメリカ南部で、黒人ジャズピアニストとイタリア系白人のドライバーが、人種の垣根を超えて友情を育む感動の人間ドラマ。
映画『グリーンブック』の作品情報
- タイトル
- グリーンブック
- 原題
- Green Book
- 製作年
- 2018年
- 日本公開日
- 2019年3月1日(金)
- 上映時間
- 130分
- ジャンル
- ヒューマンドラマ
コメディ - 監督
- ピーター・ファレリー
- 脚本
- ニック・バレロンガ
ブライアン・カリー
ピーター・ファレリー - 製作
- ジム・バーク
チャールズ・B・ウェスラー
ブライアン・カリー
ピーター・ファレリー
ニック・バレロンガ - 製作総指揮
- ジェフ・スコール
ジョナサン・キング
オクタビア・スペンサー
クワミ・L・パーカー
ジョン・スロス
スティーブン・ファーネス - キャスト
- ヴィゴ・モーテンセン
マハーシャラ・アリ
リンダ・カーデリニ
ディミテル・D・マリノフ
マイク・ハットン
P・J・バーン - 製作国
- アメリカ
- 配給
- ギャガ
映画『グリーンブック』の作品概要
第76回ゴールデン・グローブ賞最多3部門受賞、本年度アカデミー賞最有力候補の1つとして挙げられ、全世界で映画賞50受賞134ノミネートの快挙を成し遂げた『グリーンブック』。主演はもちろん、アカデミー賞ノミネート俳優のヴィゴ・モーテンセンと、オスカー俳優のマハーシャラ・アリの2人。監督は『メリーに首ったけ』などのコメディ映画を多く世に送り出したピーター・ファレリー。笑いあり、涙あり、感動ありの極上エンターテインメントに、観客はスタンディングオベーション間違いなし。
映画『グリーンブック』の予告動画
映画『グリーンブック』の登場人物(キャスト)
- トニー・“リップ”・バレロンガ(ヴィゴ・モーテンセン)
- ニューヨークの一流ナイトクラブ・コパカバーナの腕利き用心棒として働いていたが、店舗改装により無職となる。
- ドクター・ドナルド・シャーリー(マハーシャラ・アリ)
- 有名な黒人ピアニストで、アメリカ南部で行われる演奏会へ参加するためにトニーを運転手として雇う。
映画『グリーンブック』のあらすじ(ネタバレなし)
時は1962年、ニューヨーク。夜になると町は昼間の活気とは別の熱気に溢れ、ナイトクラブは眠ることを知らない。トニー・“リップ”・バレロンガは、その中でも一流と言われているナイトクラブ・コパカバーナで、頼りになる用心棒として働いている。
がさつで学はないが、腕っぷしは確かで周囲からは信頼されている用心棒である。しかし、店舗改装の話が持ち上がり、お店は閉店。トニーは中年には痛手の無職となってしまった。
一方、天才的な黒人ピアニストとして活躍しているドクター・ドナルド・シャーリーは、ある事情から運転手を探していた。ホワイトハウスで、大統領を前に腕前を披露したこともあるドナルドの運転手に、無職のトニーが抜擢される。
アメリカ南部の、それも黒人差別が色濃く残っている地域に向かうと告げられるトニー。天才ピアニストが、わざわざ自分から向かうような場所ではなく、トニーは運転手を務めることに難色を示す。だが、背に腹は代えられないトニーは覚悟を決め、ドナルドの運転手を引き受けることに。
こうして、黒人用旅行ガイドブック「グリーンブック」を頼りに、出自も性格も価値観も全く異なる2人の男のアメリカ縦断の旅が始まった。
映画『グリーンブック』の感想・評価
黒人ドライバーのためのグリーン・ブック
1936年から1966年まで発行された、ヴィクター・H・グリーン氏による黒人のための自動車旅行ガイドブックが、グリーン・ブックである。当時、黒人の貧困は著しく、自動車を所有している家庭は限られていたが、徐々に中産階級にも黒人が現れ始め、自動車を持つようになりつつあった時代である。
黒人は、移動手段に自動車を好んでいたが、それは公共交通機関で不当な扱いを受けていたことにもよる。肩身の狭い思いをしながらバスや地下鉄に乗るよりも、自動車が買えるなら車を買って、不愉快・差別・隔離・侮蔑のいずれからも逃れ、自由を得ようとしていた。
黒人が自動車を所有したからと言って、白人からの差別がなくなったわけではなく、白人が経営するガソリンスタンドでは、入店拒否や給油拒否などの扱いを受けていた人もいる。また、旅先では宿泊や食事の提供を拒まれたり、自動車整備工場での修理を拒まれたりと、問題は他にもあった。
こうした内容は、同じ人間同士であってはならないことであり、ニューヨーク市の郵便配達人であったヴィクターが心を痛めてグリーン・ブックの発行に情熱を注いだのも無理はない。映画内で、主演のマハーシャラ・アリが手に持っているグリーン・ブックを眺めている表情を、グリーン・ブックの出自を知りながら、鑑賞して欲しい。
アカデミー賞常連俳優が織りなす大人コメディ
主演のヴィゴ・モーテンセンは、2007年の『イースタン・プロミス』でアカデミー賞、ゴールデン・グローブ賞、イギリスアカデミー賞にノミネートされ、それを皮切りに度々アカデミー賞やゴールデン・グローブ賞にノミネートされている人気俳優である。
一方の、マハーシャラ・アリも、2016年公開のバリー・ジェンキンス監督作品『ムーンライト』でアカデミー賞を受賞したことで脚光を浴び、ハリウッドでも一目置かれる俳優となる。
2人とも、数々の有名作品に出演し、個性的で確固とした地位を確立してきた人物らである。その2人が共演し、差別意識が残るアメリカを舞台に、白人と黒人の心通じ合うハートフルで、お茶目なコメディ映画を熱演する。差別と闘いながら、ピアノを弾き続けるドナルドと、その姿に感銘を受けてドナルドを支える決意をするトニー。2人の軌跡の物語は、観客の心を温め幸福感で満たしてくれるだろう。
監督、ピーター・ファレリー氏の手掛けてきた、これまでのコメディを中心としたラブストーリーや、感動する人間ドラマの中でも、傑作と言える作品となっている。
実在した2人の男
今回、映画に出演している2人の男は、歴史上にその名を残している実在した人物である。トニー・“リップ”・バレロンガ、本名トニー・バレロンガは、ニューヨーク州出身のイタリア系アメリカ人である。
彼が働いていたナイトクラブ・コパカバーナも実在した店舗で、トニーは12年もの長い間、コパカバーナで用心棒として働いていた。トニーは、そのお店で培った人脈を生かして、その後は俳優活動に力を注いでいる。有名な『ゴッドファーザー』で俳優デビューし、数年ごとに映画に出演しテレビシリーズにも登場している。
マハーシャラ・アリが演じるドクター・ドナルド・シャーリーは、本名をドナルド・ウォルブリッジ・シャーリーと言い、2歳からピアノを始め18歳でコンサートデビューを飾ったピアニストである。音楽の他にも、多数の言語を話し、心理学、典礼芸術などに通じた博学多才の人物でもある。
ニックもドナルドも、2013年に立て続けに亡くなるまで、自身の人生を謳歌されていた様子。ちなみに、今回の映画の監督ピーター・ファレリーと共同脚本に名を連ねているニック・バレロンガは、主人公トニーの息子に当たる人物である。彼もまた、脚本家や監督、俳優などを生業として、人々を楽しませているエンターテイナーの1人。息子が語る、父の姿がどんなものなのか、なおのこと楽しみである。
映画『グリーンブック』の公開前に見ておきたい映画
ジム・キャリーはMr.ダマー
ハリウッド映画のコメディ部門で、ジム・キャリーの名は絶対的な地位を築き上げている。『グリーンブック』の監督ピーター・ファレリーとジム・キャリーは、このファレリーの映画デビュー作以降、何度も映画制作を共にしている。
この映画は、1994年に制作されたコメディ映画で、全米興行収入は制作費のおよそ10倍の2億5千ドルという好成績を残し、現在もコメディ映画ファンにはカルト的な人気を誇る。
アメリカの東北に位置するロードアイランド州の州都、プロヴィデンスでリムジンの運転手をしている主人公・ロイド・クリスマス(ジム・キャリー)は、空港まで送り届けた美女に一目惚れする。その美女が忘れたスーツケースを届けるために、同居人を引き連れてワゴンに乗り込み、プロヴィデンスからおよそ3000マイル離れたロッキー山中にある高級リゾート地アスペンを目指す。
この映画でジム・キャリーはゴールデンラズベリー賞にノミネートされ、MTVムービー・アワードでは最優秀コメディパフォーマンス賞を受賞する。作品は、ヒットをきっかけにアニメシリーズにもなり、2003年に前日譚が製作され、2014年には続編が製作・公開されている人気映画である。
ムーンライト
マハーシャラ・アリを語るにあたって、彼がアカデミー賞主演男優賞を受賞した作品『ムーンライト』を外さない手はない。『ムーンライト』は、2016年大ヒットした『ラ・ラ・ランド』を抑えて、作品賞も受賞した。マハーシャラ・アリを始めとした役者たち、監督バリー・ジェンキンス氏と制作陣らの才能が溢れんばかりの作品である。
いじめられっ子で母親はドラッグ中毒、全く居場所のないシャロンに1人だけケヴィンという理解者がいたが、ティーンエージャー期にシャロンが暴力沙汰を起こしたことで絶縁。その後、少年院から出所してもお互いに連絡を取らなかったものの、2人が大人になりお互いの人生を歩んでいたところで再開する。
大人になり、好きでもない仕事をして、それなりに裕福で生活には困らなくても、どこかに孤独を感じて常に寂しさが付きまとうシャロン。そんなシャロンを理解できるのは、やはり世界中を探しても幼少期からの自分を知っているケヴィンだけ。
ずっとお互いのことを忘れず思い続けながらも、心の箱に仕舞い込み、その箱のふたを開けないようにしていた2人。あるきっかけで再開してからの2人のやり取りに、これまでシャロンが歩んできた人生の総てがあるようで、とても気の毒に思え、しかし胸を打つストーリーとなっている。
詳細 ムーンライト
イースタン・プロミス
『グリーンブック』のもう1人の主人公トニー・“リップ”・バレロンガを演じているヴィゴ・モーテンセンが出演し、アカデミー賞・ゴールデン・グローブ賞・イギリスアカデミー賞にノミネートされた映画が、ロシアの人身売買映画『イースタン・プロミス』である。
モーテンセンが演じているのは、ロシアンマフィア「法の泥棒」の若旦那の運転手ニコライ役。ヒロインのアンナをナオミ・ワッツが演じ、助産師をしていたアンナの元にやって来た妊婦が生んだ少女を助けるために奔走する。
子供を出産後、命を落としてしまった妊婦が持っていた日記には、ロシア語で人身売買についての事実が明確に記載されていた。マフィアと日記を交換する代わりに、少女の身元を教えてもらい、少女を送り届けようとするが、アンナの身を案じるニコライに図らずも惹かれ始めてしまうアンナ。
クリスマスのロンドンで起きる、怖くても惹かれてしまうギャング映画。恐怖や狂乱の中に垣間見える優しさや、危険だけれども魅力溢れるセクシーさでぞくぞくしてしまう。日本ではR-18指定になっているので、鑑賞には聊かの注意が必要である。
詳細 イースタン・プロミス
映画『グリーンブック』の評判・口コミ・レビュー
#グリーンブック
近年のアカデミー作品賞とは違って直球勝負の見やすい映画。気を衒った展開もなく言わばベタな作風だけどユーモアをふんだんに盛り込み、根底の重いテーマを照らし出す。仕事の白人好みの音楽、自己表現のショパン、ルーツに繋がるジャス…音楽とドラマで心に響く。いい映画でした。 pic.twitter.com/1XBG7tNCvC— センタ (@UdonsukiMimiu) 2019年3月3日
『グリーン・ブック』
オーソドックスな演出、良い意味で期待を裏切らない物語。
斬新な部分が微塵も無いのに、しっかりと泣けるところで泣けて笑えるところで笑えるのは脚本が秀逸であること以上に主演二人の高品質のパフォーマンスが大きい。
ちょっと口当たりが良すぎる気がするが満足度は高い。 pic.twitter.com/LuYM8Li6bs— メトロポリタン (@redsoil3) 2019年3月3日
「グリーンブック」
旅の途中何度も体験する差別に胸を痛めたけど、辛ければ辛いだけ彼らの友情が際立って見えてとても心温まる作品でした
性格が全く違う存在だったけど段々お互いに似てくる二人。美しい言葉で手紙を書くトニーと、汚い言葉でケンカをするシャーリーの姿に嬉しくなってしまった pic.twitter.com/HogSdQKhTs— 柚子 (@Yuzu_s) 2019年3月2日
『#グリーンブック』
最強のふたり、セントオブウーマンに通ずる、「関わるはずのなかった二人」の友情を描いた作品。
トニーとドクは、人種、差別に対する意識、考え方、家庭環境の何もかもが違っている凸凹コンビ。
そんなふたりが衝突や和解によって互いに研磨し合う姿は、感動的。すてき pic.twitter.com/piI2l27ckx— あんず (@anzurickman) 2019年3月3日
『グリーンブック』鑑賞
ヴィゴ・モーテンセンとマハーシャラ・アリをキャスティング出来たことがこの作品を確固たる物にしている。
最高のバディ。二人の掛け合いはユーモアや笑い、時には激しく熱く観る者の心に響いてくる。差別が色濃く残る南部に行くことに意味がありそこには大きな信念がある。 pic.twitter.com/sP5XAFA2QT
— Aki (@Akihiro68668084) 2019年3月2日
映画『グリーンブック』のまとめ
映画の予告では、その当時の黒人の意思を反映しているかのような美しくも切ないドナルドのピアノ演奏が鳴り響く。しかし、本来であれば肌の色や宗教の違いや育った環境の違いから、価値観や考え方が違っても、差別や非難される謂れはない。ましてや、片方は腕っぷしばかり強いピザ大好きな白人男性、片方はアカデミー育ちの裕福な黒人ピアニスト。出会うことすら奇跡に近い彼らが、お互いに歩み寄り、ケンカし、認め合い、理解し合う姿は、絆と呼ばずにいられない感動の友情劇である。
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