2015年からヤングマガジンで連載されている三田紀房による、日本海軍の造船技術をテーマにした同名の漫画を、2019年7月菅田将暉主演で実写映画化。監督は、『ALWAYS 三丁目の夕日』『永遠の0』『STAND BY ME ドラえもん』など、数々の話題作を世に送り出した山崎貴。
映画『アルキメデスの大戦』の作品情報
- タイトル
- アルキメデスの大戦
- 原題
- なし
- 製作年
- 2019年
- 日本公開日
- 2019年7月26日(金)
- 上映時間
- 130分
- ジャンル
- ヒューマンドラマ
- 監督
- 山崎貴
- 脚本
- 山崎貴
- 製作
- 佐藤善宏
守屋圭一郎 - 製作総指揮
- 阿部秀司
山内章弘 - キャスト
- 菅田将暉
柄本佑
浜辺美波
笑福亭鶴瓶
小林克也
小日向文世
國村隼
橋爪功 - 製作国
- 日本
- 配給
- 東宝
映画『アルキメデスの大戦』の作品概要
戦争の主体が戦艦から航空機に切り替わろうとしている昭和初期の日本を背景に、『ドラゴン桜』などで知られている漫画家・三田紀房が当時の造船やその技術、戦争における造船技術戦略を描いていく。2009年公開の『仮面ライダー×仮面ライダーW&ディケイド MOVIE大戦2010』で映画初主演を飾り、その後目覚ましい活躍を見せている菅田将暉が、天才的な頭脳を持ち、山本五十六の助けとなる青年・櫂 直を演じる。脇には、笑福亭鶴瓶や浜辺美波、小日向文世などの面々が揃い、映画の要にもなっている山本五十六には舘ひろしが名を上げる。
映画『アルキメデスの大戦』の予告動画
映画『アルキメデスの大戦』の登場人物(キャスト)
- 櫂直(菅田将暉)
- 数学に関して天才的な頭脳を持ち、また、英語やドイツ語などの複数言語も堪能な期待多き青年。アメリカに留学する直前、山本五十六から政治的支援要請を受け、海軍に入省する。
- 田中正二郎(柄本佑)
- 櫂直の直属の部下として働く、海軍省経理局特別会計監査官。櫂よりも年上だが、物腰が柔らかく、上官である櫂に絶対の信頼を置いている。
- 山本五十六(舘ひろし)
- 海軍少将で、第一航空戦隊司令官。時代の流れを誰よりも早く敏感に察知しながらも、政府との折衝のために優秀な人材である櫂直を海軍に勧誘する。当時からしたらとても先進的な考え方を持つ切れ者である。
- 尾崎鏡子(浜辺美波)
- 櫂直が家庭教師をしていた、尾崎財閥の令嬢。父親は尾崎留吉。櫂に密かな思いを寄せていたが、鏡子の狂言が原因で、櫂はスキャンダルを疑われて帝国大学を退学させられてしまう。
映画『アルキメデスの大戦』のあらすじ(ネタバレなし)
日本と欧米諸国の戦争が激化する昭和8年頃の日本。戦争が激しくなるに比例して、日本政府は新たな軍拡路線を打ち出していた。それは、世界最大の巨大戦艦を建造する計画。秘密裏に進められるこの計画に、政府省内からも反発の声が上がっていた。
その1人が、海軍少将の山本五十六であった。五十六は、今後の戦争が戦艦主体ではなく航空機に打って変られることを予見していた。そして、今になっての戦艦の製造は、国家予算の無駄遣いであることを危惧していたのだった。
これを政府にわからせるために、秘密裏に進められている戦艦製造計画の細かな製造技術や見積もりを把握する必要があった。五十六は、政府の息がかかっていない外部からの協力を得るために、協力してくれる人間を探し始める。
一方で、100年に1人の天才と呼ばれた帝国大学の青年櫂直は、アメリカに留学しようとしていたところであった。数学を愛しているというよりは、執着にも似た偏愛を見せる櫂に五十六は接触し、自分を助けてくれないかと持ちかける。だが、大の軍隊嫌いで有名な櫂は頑なにその申し出を拒絶する。
しかし、五十六の必死の説得に事の重大性を察知した櫂は、戦争を止めるべく海軍に入省し、権力の中枢に飛び込んでいく。天才的数学者の頭脳を駆使して、戦艦大和の建造を巡り机の上の大戦が始まろうとしていた。
映画『アルキメデスの大戦』の感想・評価
四冠王の男が、天才数学者に挑む
『アルキメデスの大戦』に登場する、天才的な頭脳を持つ数学者の青年・櫂直を演じるのは、2009年に『仮面ライダーシリーズ』で主演を演じて以降、メディアに引っ張りだこの菅田将暉である。
2013年度に、『共喰い』で第37回日本カデミー賞新人俳優賞の受賞を皮切りに、2014年度や2016年度も数々の賞に輝き、2017年度では『あゝ、荒野 前篇』でついに第41回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞する。更にこの年は、『あゝ、荒野 前篇』で、日刊スポーツ映画大賞・キネマ旬報ベスト・テン・毎日映画コンクールでも主演男優賞に輝くなど、4冠を達成している。
デビュー直後はアイドル的な扱いをされてきた菅田将暉であったが、文芸作品などにも多数出演し、アイドルと俳優の二面性を持つ希少な存在として自分の地位を確立させている。菅田将暉の俳優の特徴として、キャラクター像を感性で受け取り、違和感なく自然と役に入り込んでいく技術を持っている。なりきっていると言うよりも、役そのものなのでアドリブにも強く、逆に感性に頼って演じているため同じ演技が二度とできない欠点も持つ。
映画のコメントでは、誰もがその名を知っている戦艦「大和」にロマンを感じ、スケール感の大きい映画だと実感していると語る。夢と現実の狭間でもがく現代人にとっては、この映画は鋭く突き刺さってくるもので、使命感や緊張感に駆り立てられるとのこと。戦争を題材にした映画は、どんな作品にも現代人に向けた重要なメッセージが込められている。菅田将暉がそれを、観客にどのように伝えてくれるのかが楽しみな映画である。
日本を支える政府・軍人・造船技術者たちの思い
この映画に登場するのは、菅田将暉演じる櫂直の所属している海軍に、そのトップである山本五十六が折衝しようとしている政府役人、そして、戦艦そのものを生み出す造船技師たち。それだけでなく、戦争中のため歴所の教科書でその名を勉強するアドルフ・ヒトラーや、フランクリン・D・ルーズベルトなど、そうそうたる人間が関わってくる。
映画に名が挙がっている俳優たちは、その名前を見てもそうそうたる顔ぶれである。落語家でタレント・俳優の笑福亭鶴瓶は造船会社の社長役。もともと原作では鶴瓶造船を取り仕切る社長で、名前も鶴瓶清であった。今回は、映画に合わせて大里清となっている。海軍大将・大角岑生には小林克也が、同じく海軍大将の永野修身には國村隼。戦艦の中でも特に人気のある長門の第15代館長には小日向文世が務める。
そして、この映画の要として事態に目を光らせる山本五十六には、舘ひろしの名が上がる。このメンバーを見ただけでも、平均年齢は60歳を超えている。そんな映画界でも大物の俳優たちが演じる海軍本部を前に、3分の1も生きていないまだまだひよっ子の青年・櫂直が異議を申し立てる。彼らは突然現れた自分の子供よりも幼い青年を、鼻であしらう。だが、そこから天才数学者と海軍中枢との「大和」を巡った机上の戦争が始まるのだ。
山崎貴が仕掛ける男たちの戦い
今回の作品では、男たちの意地と誇りが静かに繰り広げられる。テーブルに向かい合って座り、澄ました顔でお互いの腹の内を探り合うやり取りは、はらはらとさせられる。
史上最大の排水量に、史上最大の主砲を3基9門備えた軍艦「大和」は、最高機密事項であるために製造や建設に関わるそれらの全てが秘匿であった。設計図はおろか、大和に関わる資料のほとんどは焼却処分されたために、大和の存在はより一層現代人にとって神聖で神秘的なものになり得たのだ。
だが実際には、大和の建設には多くの疑惑が遺されており、大和建設の裏に潜む不正は揺るぎのないものであった。大和は歴史上確かに存在し、悲劇の最後を迎えた大和建設に一体どんなことがあったのか。現存する資料がほとんど残っていない以上、この話はフィクションであるし、ロマンそのものである。それでも、とてもそうは見えない俳優たちの切迫した思いや、やり取りは、銃撃戦の迫力に勝るものがある。
『永遠の0』や『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズなど、昭和や戦争時代の物語を多く手掛ける山崎貴の感じた「大和」建設について、ついに真実が明らかになる。
映画『アルキメデスの大戦』の公開前に見ておきたい映画
ALWAYS 三丁目の夕日 シリーズ
漫画家・西岸良平が手掛けた『三丁目の夕日』を原作にして、2005年に第1作品目の『ALWAYS 三丁目の夕日』が公開される。山崎貴が監督と脚本を手掛け、吉岡秀隆が主演を務めた1作品目は、第29回日本アカデミー賞の作品賞・監督賞・脚本賞・手段男優賞など14部門を受賞する快挙を遂げる。
出演した俳優陣も、吉岡秀隆をはじめ、堤真一・薬師丸ひろ子・堀北真希・小雪・須賀健太・三浦友和・小日向文世など多岐に渡る。内容は、第二次世界大戦が終結を迎えた後の1958年の日本。東京の下町である夕日町三丁目に暮らす人々に焦点を当てた物語。当時の街並みを忠実に再現するとともに、人々の記憶の中に存在しているイメージ的な「昭和の町」も再現に重要視されて作り上げられた。
夕日町三丁目で細々と駄菓子屋を経営する茶川竜之介(吉岡秀隆)。小説家を希望し、芥川賞の受賞を目指している売れない作家である。ある日、竜之介は居酒屋を経営している美人女将のヒロミから、見ず知らずの子供淳之助を預かることになってしまう。子供の世話などしたことのない竜之介と、竜之介の冒険小説の大ファンである淳之助の2人暮らしが始まった。
詳細 ALWAYS 三丁目の夕日
詳細 ALWAYS 続・三丁目の夕日
詳細 ALWAYS 三丁目の夕日’64
永遠の0
小説家・百田尚樹が執筆した原作をもとに、山崎貴が監督・脚本を手がけ実写映画化。V6の岡田准一を主演に迎えたこの作品は、第38回日本アカデミー賞の最優秀作品賞を受賞した。映画公開後、8週関連続で興行成績1位を獲得した話題作で、公開から1年後の2014年にはイタリアウディネ・ファーイースト映画祭でグランプリを受賞している。
大学生の佐伯健太郎(岡田准一)と、姉の慶子は、祖父の賢一郎から実の祖父ではないことを知らされ、実祖父は、第二次世界大戦の終戦間際に特攻で戦死した海軍航空兵だということが判明する。その後、健太郎と慶子は終戦60周年記念プロジェクトで、神風特攻隊について調べる機会を得る。特殊な状況下で、自らの命を擲ってでも国ために戦った隊員たち。彼らの実態は、調べれば調べるうちに謎が深まるばかり。気持ちが折れてしまいかねない中で、終戦から60年を経て、これまで封じられてきた生き方の全貌がようやく姿を現し始める。
平成初期の時代、身内や近しい人から戦時中の話を聞くといった小学校の宿題が出されていた生徒もいる。それだけ、戦争体験者が身近にいた時代であった。だが、元号が変わった現代では、戦争体験者はほとんどが亡くなられている。これまで平和に暮らしてきた健太郎は、戦争について考えたこともなかっただろう。だが、調べれば調べるうちに、彼らの壮絶な過去は健太郎の価値観をことごとくぶち壊していく。「過去の声を受け止める」ということがどういうことなのか、そっと投げかけられ、問いかけられているかのような映画である。
詳細 永遠の0
あゝ、荒野
菅田将暉が2017年に日本アカデミー賞で主演男優賞を受賞した、プロボクサーを目指す青年の物語。菅田将暉は、この映画のために肉体改造を試み、実に15Kgの増量と筋肉強化に成功している。菅田将暉の役者魂を見せつけられた、渾身の作品と言っても過言ではない。
原作とは大きく設定が変わっており、舞台は2021年の近未来に想定している。原作では二木健二にウェイトが置かれた作品であったが、映画では沢村新次(菅田将暉)に重点が置かれている。また、健二役を演じたヤン・イクチュンに合わせて、健二も韓国人のハーフの設定に変更されている。
健二は吃音症と対人赤面症に悩む青年で、DVの父親から逃げ出し住み込みで働くようになる。新次は父親が自殺し、母親に捨てられたことで野性的に育った20歳の青年。健二と新次は生い立ちが似ており、どちらも親に頼れず信じられるのは自分だけ、生きるために必死になっている点で共通しており、意気投合する。
人生を諦めていた青年たちが、自分の力で這い上がっていくことの大切さや、他人から受ける愛情により、自分を見つめ直す青春ドラマに仕上がった。
詳細 あゝ、荒野
映画『アルキメデスの大戦』の評判・口コミ・レビュー
元の期待値が低かったっていうのもあるんだろうけど『アルキメデスの大戦』本当に面白かった。いつもの山崎貴のうるさい音楽やわざとらしい演技、クドい感動演出等のダメな点がほぼ出てこないし、予告編のイメージとはかなり違う。
山崎貴作品苦手な人も一見の価値はある映画だと思います。オススメ! pic.twitter.com/swZY23FbFk— マッツン。 (@destruction_ma) 2019年7月26日
#アルキメデスの大戦
“大和魂vs数学の力”
東京五輪の問題と重ねて今の日本を批判的に描く。
「何故大和を作ったのか」
その答えに、山崎貴監督の強い思いが込められている。
菅田将暉の最後の言葉、貴方はどう受け取りますか?山崎貴監督のこれだけ分かりやすい、直球のメッセージに、度肝を抜かれた pic.twitter.com/sqINGos5qX
— Tom@映画垢 (@movie_watcjer) 2019年7月27日
菅田将暉さん扮する櫂直が天才と称される理由は高い計算能力ではなく、柔軟な発想力にあります。土壇場での演繹から帰納への転換。仮定を立てて汎用性の高い数式・定理を自ら導く。ルール(公式)を使う側から作る側へ。このクリエィティブさは現代人にも必要な力だと思います。 pic.twitter.com/Tgk2M5zej0
— シネマン(映画好き) (@cineman_0727) 2019年7月27日
#アルキメデスの大戦
素晴らしいエンタメ作!
巨大戦艦建造の謎。天才数学者に迫るタイムリミット。
大和が作られた理由に啞然。何ともやるせない悲しみに包まれた。
菅田将暉さんの演技は情熱に溢れ、抜群の存在感!
バディの柄本佑さんも実直な役柄が見事にハマっていた。
脚本が凄く良い! 脱帽です。 pic.twitter.com/yA4vUy1qBY— マウンテンボート (@9ilHACAQWfhHCmJ) 2019年7月27日
劇場にて。原作未読。日本を捨てようとしていた天才数学者が、数学の力で国を救おうと獅子奮迅する。最も大切な決断を、数字ではなく心で決める菅田将暉さんに心打たれる。庶民の貧困や国防の問題、○○興業の”冗談”問題まで思い起こさせる。現代に通ずる作品に昇華した傑作。 pic.twitter.com/Y864rgvhmI
— シネマン(映画好き) (@cineman_0727) 2019年7月27日
映画『アルキメデスの大戦』のまとめ
天才と呼ばれる人間は、いつの時代も他の人と思考や考察の手法が違い、しばしば「変人」と銘打たれる。若き才能に溢れる櫂直もまた、そうした歴史上の偉人たちと遜色なく「変人」と呼ばれる部類の人間である。対して、山本五十六は昭和の人間を代表するかのような厳格で規律を守り、正義を愛する人間である。だが、頭の固い頑固おやじというわけではなく、常に日本の将来を見据えた先見の目を持っていた。そうして揃った2人が、回文本部の陰謀を、数学という武器を手に挑んでいく。「数学には世界を変える力がある」と、昔の哲学者が言うようなセリフを吐きながら、曇りなき眼で真実を見極める櫂直と、彼に日本の未来を託す山本五十六の姿には、グッと痺れるものがある。
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