監督・脚本・主演、共に長編映画初デビューを飾る作品が登場する。「サタデー・チャーチ」、土曜日の夜の教会に集まるLGBTの若者の実話を描いた、国籍も肌の色もセクシュアリティも、何もかもを越えた、誰もが共感できる普遍的ミュージカル・ドラマ映画。
映画『サタデーナイト・チャーチ 夢を歌う場所』の作品情報
- タイトル
- サタデーナイト・チャーチ 夢を歌う場所
- 原題
- Saturday Church
- 製作年
- 2017年
- 日本公開日
- 2019年2月22日(金)
- 上映時間
- 82分
- ジャンル
- ヒューマンドラマ
ミュージカル - 監督
- デイモン・カーダシス
- 脚本
- デイモン・カーダシス
- 製作
- マンディ・タガー・ブロッキー
アディ・エズロニ
デイモン・カーダシス
レベッカ・ミラー - 製作総指揮
- シャロン・チャン
- キャスト
- ルカ・カイン
マーゴット・ビンガム
レジーナ・テイラー
マークイス・ロドリゲス
MJ・ロドリゲス
インドゥヤ・ムーア
アレクシア・ガルシア
ケイト・ボーンスタイン - 製作国
- アメリカ
- 配給
- キノフィルムズ
映画『サタデーナイト・チャーチ 夢を歌う場所』の作品概要
土曜日の夜の教会「サタデーナイト・チャーチ」では、LGBTの人々のための支援プログラムとして、教会を開放して、広く人々を受け入れている。長編映画デビューを飾るデイモン・カーダシス監督自身が、ボランティアを務めていた教会での実体験を基にした、国籍も肌の色もセクシュアリティも越える物語。LGBTの人々が直面する差別などの現実や、法制度などの社会問題に焦点を当て、ミュージカル調にして人々に訴えかける。主演には、今作が映画デビューにして初主演を飾るルカ・カイン。
映画『サタデーナイト・チャーチ 夢を歌う場所』の予告動画
映画『サタデーナイト・チャーチ 夢を歌う場所』の登場人物(キャスト)
- ユリシーズ(ルカ・カイン)
- ニューヨーク在住のティーンエージャー。父親は亡くなっており、それがきっかけで「美」について目覚める。
- アマラ(マーゴット・ビンガム)
- ユリシーズの母親で、夫が亡くなってからシングルマザーとして働きながら1人息子を育てている。
- ローズ(レジーナ・テイラー)
- ユリシーズの叔母で、アマラの妹。世間体を気にし、ユリシーズの考えには真っ向から否定する理解のない人。
- レイモンド(マークイス・ロドリゲス)
- 学校や家に居場所のないユリシーズにとっての、唯一の理解者。ユリシーズをサタデーナイト・チャーチに誘う。
映画『サタデーナイト・チャーチ 夢を歌う場所』のあらすじ(ネタバレなし)
アメリカ・東海岸に位置する活気ある街・ニューヨーク。黒人のユリシーズは、このニューヨークで暮らすティーンエージャーである。普通に朝起きて、昼間学校へ行き、夜には家に帰って夕食を取り眠る。そんな普通の生活をユリシーズも送ってはいるが、彼の胸の内には秘められた思いがあった。
きっかけはユリシーズの父親の死であった。父が亡くなったとき、ユリシーズの胸の内に「美しくありたい」という願いにも似た思いがこみ上げ、収まることなく日々強くなっていく。しかし、シングルマザーとなり仕事に没頭して忙しい母親や、偏見の塊のような叔母には、どうしても話せないことであることも同時に理解していた。
自分の気持ちを閉じ込めるように、「普通」の生活を送っていたユリシーズは、ある日、夜のストリートで出会った男女のグループに「サタデーナイト・チャーチ」に誘われる。土曜日の夜に教会へ足を運んだことのないユリシーズにとって、その場所は全く未知の世界であった。
昼間の厳かで格式高い教会とは180度違う姿が、そこにはあったのだ。ユリシーズは、初めて自分を受け入れてもらえる場所を発見する。それは、本来の自分の姿を開放する、新たな世界であった。
映画『サタデーナイト・チャーチ 夢を歌う場所』の感想・評価
無名監督が世に送る、LGBT映画注目の1作
『サタデーナイト・チャーチ 夢を歌う場所』の監督、デイモン・カーダシス氏は、この映画が長編映画監督デビュー作品となる。だが、全くの無名の監督であるにもかかわらず、世界最大の映画批評サイトRotten Tomatoesでは、驚愕の92%を叩き出した。
カーシダス監督自身が、教会でサタデーナイト・チャーチのボランティア活動をしていた実体験を元に脚本し、綿密な下調べが行われ、映像化された。世に知られ、認められつつあるLGBTの人々の真実の姿を描き出そうと、様々な問題にも焦点を当て、社会問題へ鋭く切り込んだ作品。
それが、人々に伝わりやすいように、また、表現者の思いをストレートに届けるためにミュージカル調で語られ、言葉では伝わりきらない厚い感情が歌に乗って観客たちの心にダイレクトに浸み込んでいく。人々の中に巣食っている多くの境界線を取り払う、勇気と感動が籠った魂のエンターテインメント。
昨今のLGBT映画に改めて注目が集まる
第89回アカデミー賞で、作品賞の栄冠に輝いた『ムーンライト』を始め、第90回アカデミー賞で脚本賞などの4部門にノミネートされ、世界中にファンを作り、日本でもブームを巻き起こした『君の名前で僕を呼んで』、日本での上映はたったの5回という貴重な作品『ゴッズ・オウン・カントリー』。これらはすべて、あるきっかけで出会った2人の青年が、衝突や葛藤を繰り返しながらも段々と惹かれ合い、自分の気持ちと何度も向き合いながら成長していく物語である。
日本でも、テレビドラマ『おっさんずラブ』が大ヒットとなるなど、以前よりも同性同士の恋愛やLGBTについての理解や認知度が増してきている。世界中がその流れの中にあり、現在LGBT映画は人々にとても注目されているテーマの1つとなっている。
この映画でも、これまで上映されてきた数々のLGBT映画と同様、あるきっかけで出会った2人が、多くの葛藤と衝突を経て、また、自分たち以外との問題にも向き合い、共に成長してく姿を描いている。そして、この映画が他の数あるセクシャル・マイノリティー映画と違っている点は、美しく、初々しい2人の愛に満ちたデュエットシーンやきらびやかな映像に合わせた音楽にある。
セクシャル・マイノリティー映画が見直され、ミュージカル映画がヒット作品を叩き出している現代に、ぴったりのブレンド映画が登場し、新たなブームを巻き起こす。
映画最大の元となっている「実話」が、感動を呼ぶ
この映画を作るにあたって、デイモン・カーダシス監督は、綿密な下調べを行っている。そのため、映画に登場する虐待・子供のストリート暮らしなどは全て実話に基づいて制作されている。
これらは、日本でも一般社会の中に紛れ込んでいる社会の闇である。こうした問題は、日々日常の中に潜んでおり、それまで自分とは無縁だったはずなのに、いつの間にか近寄り自分をその闇の中へ掻っ攫っていく。
実際にそうした現実の闇の中に貶められた若者たちも出演していることで、より映画にリアリティを生み出している。若者たちには、そうせざるを得なかった理由や事情があり、それは本人のせいでは決してない。
ほとんどの人は、恋も孤独も人生の生き辛さも体験するが、それはストリートチルドレンやLGBTの人々も同じことである。国籍も肌の色もセクシュアリティも関係なく、誰もが体験することであって、誰もが共感できること。それを映画にすることで、隣にいる人も自分と同じ気持ちを抱え、同じ苦しみを持っているのだと理解することができ、共感しあうことができる。
共感は、人間に与えられたとても尊い行いであり、それが相互理解の第一歩となる。結果として、誰もがこの映画に共感し、誰もが分かり合える映画に仕上がったのだ。
映画『サタデーナイト・チャーチ 夢を歌う場所』の公開前に見ておきたい映画
ムーンライト
2016年に公開され、あの一大ブームを巻き起こしたミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』を抑えてアカデミー賞作品賞に輝いた、バリー・ジェンキンス監督作品。1人の青年の幼少期・ティーンエージャー期・成人期と3部構成になっており、麻薬・虐待・いじめ・犯罪・同性愛などについて言及している。
壮絶な幼少期やティーンエージャー期を生き、罪を犯して少年院に入り、自分が毛嫌いしていたはずの麻薬の売人になりながらも、どこか人の温かさを探し求めている主人公のシャロン。そして、シャロンの唯一の理解者であったはずなのに、自分可愛さにシャロンをいじめる立場になってしまったケヴィン。
大人になることで疎遠になりながらも、ずっとお互いを憎み合っていた彼らが、あるきっかけで自分たちの気持ちを理解し、受け入れ、笑い合う最後のシーンの感動は、言葉では言い尽くせない。
自分たちは生きていく中で、必ず大なり小なり過ちを犯してしまう。そして、その過ちによって大切な人を傷つけることもある。しかし、悔いる心があるのなら、時間がかかってもきっとまた理解し合えると、そう勇気づけられる映画である。
詳細 ムーンライト
君の名前で僕を呼んで
イタリアの映画監督・ルカ・グァダニーノ氏が手掛け、イタリア・フランス・ブラジル・アメリカ合衆国総出で制作された青春映画。時は1983年、夏のイタリアを舞台に、17歳のティーンエージャー・エリオと、少し年上の大学生オリヴァーの初恋を描いた物語。
アカデミックな考古学教授の母親の元で育った17歳のエリオは、文学や芸術や音楽に長けてはいたが、同世代との人間関係をうまく構築できないでいた。そんなエリオを連れて、毎年訪れている北イタリアの別荘に、手伝いとしてやって来たのが母親の教えている大学の学生、オリヴァー。
自身と知性に満ち溢れた、自分よりも少し年上の男性に、同じ男として嫉妬や敵対心を抱きながらも、徐々にそれらとは違う別の感情がこみ上げ抑えられなくなっていく。
白人青年が織りなす、美しく微笑ましく初々しい恋模様は、『サタデーナイト・チャーチ 夢を歌う場所』とは違った楽しみがあり、しかし、2作とも青年たちの心のあり方に目が離せなくなる。
詳細 君の名前で僕を呼んで
ゴッズ・オウン・カントリー
2018年11月3日から、シネマート新宿やシネマート心斎橋などの特集でたった5回だけ上映された奇跡の映画。2017年サンダンス映画祭や、第67回ベルリン国際映画祭で上映され、数々の賞を受賞した作品である。ただ、日本では配給がつかず、上映が危ぶまれていた中、両劇場でたった5回だけ特別自主上映される。
そして、その5回上映全てあっという間に満席になると、日本での配給が決定し、2019年2月2日に全国上映されることが決まった異例の映画でもある。
この奇跡の5回を体験した人は既にご存知であると思うが、主演のジョシュ・オコナーが演じる青年ジョニーの素朴でどこか儚気でありながらも美しい姿に、世界中の人々が魅了され、ファンがファンを呼ぶ事態にまでなった。
寂れた牧場を切り盛りし、動物たちを相手に孤独で過酷な労働を酒とセックスで癒す何の生産性もないジョニーの日々が、ルーマニアから移民としてやって来た季節労働者のゲオルグの存在によって一変する。国の違いや考え方・価値観の違いから衝突する2人だが、動物たちに優しく触れ、接するゲオルグにジョニーも心を開き、これまでの虚無しかなかった心の隙間が温かさで溢れていく、そんなハートフルなラブストーリー。
映画『サタデーナイト・チャーチ 夢を歌う場所』の評判・口コミ・レビュー
デイモン・カーダシス監督・脚本「サタデーナイト・チャーチ 夢を歌う場所」@新宿ピカデリー。ルカ・カイン主演のLGBT映画。ミュージカル仕立て。心を打たれた。無駄のない82分だが、物語が予定調和か。脚本の問題だが、新しい境地に切り込む野心が欲しかった。もう少し尺はあっていい。必見。 pic.twitter.com/dxAoS4DPRZ
— shinichi A BE-AR (@purissima_bear) 2019年2月23日
サタデーナイト・チャーチ -夢を歌う場所-。とてもいい映画だった。誰も他人が他人に「こうあるべき」と決めつけることは出来ない。指導者が「正しい」道を説くことは良いが、強制してはいけない。この多様化された社会で「正しさ」は人によって違うのだから。迷える子供を救うのはやはり母の愛だ。
— babu (@yoshiz_k) 2019年2月24日
「サタデーナイト・チャーチ 夢を歌う場所」
ミュージカル映画としてはちょっと…?な感じもあったけど物語としては良かった。本当の自分を見つける彼(彼女)の物語。主人公のユリシーズ、綺麗な顔立ちをしていて線が細く何処か放っておけない感があったのが印象的だった。良いキャスティングだと思う。 pic.twitter.com/PgO2IuY8Ko— よもぎ蒸しパン (@moviemgmg) 2019年2月24日
『サタデーナイト・チャーチ -夢を歌う場所-』観賞📽️
性に悩む少年ユリシーズが自らに目覚めるまで。ミュージカルなんだけど肝心のミュージカルシーンが短いしパフォーマンスの出来もイマイチ。話自体はLGBTQを取り巻くシビアな現実が見えて良かった。ミュージカルにする必要あった? #LGBTQ— ザンポンアキナリ (@i9vswge2r4npeb1) 2019年2月24日
『サタデーナイト・チャーチ -夢を歌う場所-』
主演の子がべらぼうに可愛い。どっから見つけてきたんだ!と思うほど可愛い!!この映画は彼の容姿なくして成り立たなかったと思うわ。
自分らしく生きていく姿にジーンとしたけど、いろいろ描ききれていない中途半端な感じがしてちょっと残念。 pic.twitter.com/O0cAk5co63— ぐたーん (@neko_nyanko_02) 2019年2月24日
映画『サタデーナイト・チャーチ 夢を歌う場所』のまとめ
ティーンエージャー期は、日本で言うところの思春期にあたるが、この時期は自己のアイデンティティが確立され、親との衝突や抑えきれない感情に苛まれる時期でもある。こんなとき、彼らに必要なのは自分を認めてくれる場所や人々に出会うことである。デイモン・カーダシス監督が「結果的に誰もが共感できる普遍的な映画になっている」と語る通り、この映画は誰もが体験する日常を切り取っている。自己を見失いがちな青年たちにも、そんな子供を持つ親にも、きっと何かのきっかけになってくれる映画である。
みんなの感想・レビュー