鈴木家の長男が突然亡くなり、母親はショックのあまり記憶を失ってしまう。父親と長女は母親を守りたい一心で、優しい嘘をつく。ある一家の混乱と再生を、ユーモラスに描き出した心温まるホームドラマ。
映画『鈴木家の嘘』の作品情報
- タイトル
- 鈴木家の嘘
- 原題
- なし
- 製作年
- 2018年
- 日本公開日
- 2018年11月16日(金)
- 上映時間
- 133分
- ジャンル
- ヒューマンドラマ
コメディ - 監督
- 野尻克己
- 脚本
- 野尻克己
- 製作
- 井田寛
小野仁史
近藤貴彦 - 製作総指揮
- 深田誠剛
- キャスト
- 岸部一徳
原日出子
木竜麻生
加瀬亮
吉本菜穂子
宇野祥平
岸本加世子
大森南朋 - 製作国
- 日本
- 配給
- 松竹ブロードキャスティング
ビターズ・エンド
映画『鈴木家の嘘』の作品概要
沖田修一監督・脚本の『滝を見にいく』(14)や橋口亮輔監督・脚本の『恋人たち』(15)など、“作家主義”を唱えて監督自身のオリジナル脚本を映画化してきた松竹ブロードキャスティングオリジナル映画製作プロジェクト第6弾となる作品。今回、オリジナル脚本で商業映画監督デビューを果たすのは、石井裕也監督の『舟を編む』(13)や大森立嗣監督の『セトウツミ』(16)など、多くの作品で助監督を務めてきた野尻克己。期待の新星・木竜麻生が、岸部一徳、原日出子、加瀬亮らのベテラン勢に支えられ、フレッシュな演技を見せている。
映画『鈴木家の嘘』の予告動画
映画『鈴木家の嘘』の登場人物(キャスト)
- 鈴木幸男(岸部一徳)
- 鈴木家の父親。おっとりしていて頼りないが、気持ちは優しい。
- 鈴木悠子(原日出子)
- 幸男の妻。浩一が突然亡くなってしまったショックで記憶を失う。
- 鈴木富美(木竜麻生)
- 鈴木家の長女で浩一の妹。母を守るため、とんでもない嘘をついてしまう。
- 鈴木浩一(加瀬亮)
- 鈴木家の長男。ひきこもり生活の末、自殺を図る。
- 鈴木君子(岸本加世子)
- 幸男の妹。
映画『鈴木家の嘘』のあらすじ(ネタバレなし)
ひきこもり生活を続けていた鈴木家の長男・浩一が、自ら命を絶ってしまう。母親の悠子はショックのあまり倒れてしまい、そのまま眠り続ける。それから49日後、病院のベッドで目を覚ました悠子は、心配そうに見守る家族に向かって「浩一は?」と意外なことを聞く。驚いたことに、悠子は浩一が死んだという記憶を失っていた。それを察した浩一の妹・富美は、母を守りたい一心で「お兄ちゃん、ひきこもりやめたの、アルゼンチンで働いてる」と、とんでもない嘘をついてしまう。嬉しそうに涙ぐむ悠子を見て、鈴木家の父親・幸男も本当のことが言えなくなり、富美の優しい嘘に加担する。
その日から、幸男たちは悠子を傷つけまいとして、必死で嘘を重ねていく。努力の甲斐あって、悠子は明るい笑顔を取り戻してくれるが、浩一が生きているという嘘をつき続けることには限界があった。やがて、鈴木家が浩一の死と向き合わざるを得ない時がやってくる。果たして、鈴木家は長男の死を乗り越え、再生することができるのだろうか。
映画『鈴木家の嘘』の感想・評価
ひきこもりの息子を抱えた家族の苦悩
“家族”という言葉を辞書で引くと「同じ家にすむ夫婦・親子・兄弟など、近い血縁の人々」とある。様々な形態はあるにせよ、私たちにとって家族というのはやはり特別な存在で、安らぎでもあり、悩みの種でもある。
恋人や友人であれば、別れて関係を断つことも可能だが、家族の場合はそうはいかない。特に血縁のある親子や兄弟の問題は、「あなたが嫌だから、この関係を解消します」というわけにもいかず、深刻な事態に陥りやすい。日本で起きる殺人事件の半分以上が親族間で起きていることからも、家族問題の根深さが伺える。
本作で描かれる鈴木家は、人の良さそうな父親・幸男と母親・悠子、長男・浩一と妹・富美の4人家族で、浩一のひきこもりという問題を抱えている。加瀬亮が演じていることからもわかる通り、浩一はとっくに成人した大人であり、自立していて当然の年齢だ。どんな事情があってそうなってしまったのかはわからないが、成人した子供が実家でひきこもり生活をしているというのは、家族にとって非常に憂鬱なことだろう。親はひきこもりを続ける子供への接し方に悩み、子供は子供で苦悩を深めていく。その結果、浩一は自殺という最悪の方法を選択した。残された家族にとって、これほどショックなことはない。そこから、この物語は始まっていく。
すべては母親の笑顔を守るため
人はあまりにショックな出来事に遭遇すると、無意識のうちに自己防衛本能を作動させ、その出来事を記憶から抹消してしまうことがある。息子の死に接した悠子も、この種の記憶障害を起こし、浩一が死んだという記憶に蓋をする。そんな悠子の気持ちを察した富美と幸男が、とっさに「浩一は元気に生きている」と嘘をついてしまったとしても、誰も彼らを責められない。嘘をつかれた悠子よりも、嘘をつき続ける幸男たちの方がつらいのだから。
物語の発端だけ聞くと、何だか重たい気分になるが、予告編を見る限り、本作はそんな暗い作品ではない。ここからは、鈴木家の面々が長男の死を受け入れ、再生していく姿がユーモアを交えた演出で描かれる。「お兄ちゃんはアルゼンチンで働いている」という富美の嘘を信じてもらうため、幸男は「浩一から送ってきたよ」と偽って、なぜかキューバの英雄“チェ・ゲバラ”のTシャツを買ってくる。おそらく鈴木家の誰かに依頼され、浩一の友達を名乗ってビデオレターを送ってきた外国人は、明らかに不自然なメキシカンハットを被っている。悠子の笑顔を守ろうとする幸男たちの的外れな奮闘ぶりが、おかしくもあり、切なくもある。幸男と富美の優しい嘘は、浅はかな嘘かもしれないが、不器用な家族の愛の象徴なのだ。
松竹ブロードキャスティングオリジナル映画製作プロジェクト第6弾
本作は松竹ブロードキャスティングが進める「松竹ブロードキャスティングオリジナル映画製作プロジェクト」によって製作された、野尻監督オリジナル脚本の作品である。このプロジェクトは「力のある監督が撮りたい映画を自由に撮る」「新しい俳優を発掘する」という2つのテーマを掲げている。最近の邦画は、人気漫画や小説を原作とした映画作りが主流になっており、若手の作家がオリジナルの商業映画を発表するチャンスはほぼない。そんな現状に一石を投じたのがこのプロジェクトであり、新たな才能の発掘に大きく貢献している。野尻監督のような志を持った作家の作品が世に出ることは、映画ファンにとっても喜ばしい。ちなみに、同プロジェクトの第7弾となる作品は、『カメラを止めるな!』(17)の上田信一郎監督が手がける予定だ。
さらに、このプロジェクトのワークショップを経て、400人の候補者の中から富美役を勝ち取った木竜麻生にも注目したい。木竜は2018年7月に公開された瀬々敬久監督の『菊とギロチン』でも主演を務めた期待の若手女優。本作でも、岸部一徳、原日出子、加瀬亮、岸本加世子、大森南朋といった錚々たるメンバーを相手に、堂々とした演技を見せている。
映画『鈴木家の嘘』の公開前に見ておきたい映画
オール・アバウト・マイ・マザー
シングルマザーのマヌエラ(セシリア・ロス)は、スペインのマドリードで移植コーディネーターをしながら、最愛の息子エステバン(エロイ・アソリン)を育ててきた。エステバンの17歳の誕生日、有名女優ウマ・ロッホ(マリサ・パレデス)の舞台を見た後、エステバンはサイン欲しさにウマのタクシーを追いかけ、マヌエラの目の前で車にはねられて死亡する。傷心のマヌエラは、別れた夫に息子の死を知らせるためバルセロナへ向かい、そこで新しい生活を始める。
アカデミー外国語映画賞を受賞した1999年公開のスペイン映画。スペインの巨匠、ペドロ・アルモドバルが監督・脚本を務めており、一筋縄ではいかないストーリー展開に引き込まれる。最愛の息子を亡くしたマヌエラは、バルセロナで旧友のアグラード(アントニア・サン・ファン)と再会する。彼は豊胸手術を施した性同一性障害の娼婦。マヌエラの元夫もアグラードと同様に女装しているのだが、彼はバイ・セクシャルで、純なシスター・ロサ(ペネロペ・クルス)を妊娠させ、姿をくらましている。女優のウマはレズビアンで、ドラッグ中毒の若手女優と恋人同士。このように複雑な性を抱えた登場人物の中で、マヌエラの母性愛の深さとそれぞれの再生が見事に描かれており、胸を打たれる。セシリア・ロス、マリサ・パレデス、ペネロペ・クルスといった女優陣の演技も素晴らしい名作なので、生涯に一度は見ておきたい。
ギルバート・グレイプ
青年ギルバート(ジョニー・デップ)は、小さな食料品店で働きながら、一家の家計を支えている。グレイプ家の父親は7年前に自殺して、母親のボニー(ダーレン・ケイツ)はストレスによる過食症で超肥満体となり、家から一歩も出ない。ギルバートは、そんな母親と2人の妹、そして重度の知的障害がある弟のアーニー(レオナルド・ディカプリオ)を養っていた。仕事とアーニーの世話に追われ、ギルバートはいつの間にか若者らしい夢や希望を失っていく。そんなある日、ギルバートは、自由な価値観を持ったベッキー(ジュリエット・ルイス)という女の子と知り合い、徐々に惹かれ合っていく。
ジョニー・デップの演じるギルバートは、家族のために自分を殺して生きている。しかし、それを表に出してイラつくようなことはなく、ひきこもりの母親や手のかかる弟に対しても、常に優しく接する。ただ、何かを諦めた人間特有の冷めた雰囲気があり、いつも何となく暗い。そこへ自由な心を持つベッキーが登場し、ギルバートは改めて自分という人間を見つめ直す。この物語の重要な鍵となるのは、レオナルド・ディカプリオが演じるアーニーで、彼の行動が起爆剤となって、グレイプ家は新たな局面を迎えることになる。閉鎖的な田舎町で、身を寄せあうようにして暮らしている家族の苦悩と再生が描かれたドラマは、深く心に残る。若かりし頃のジョニー・デップとレオナルド・ディカプリオの演技も絶品。
詳細 ギルバート・グレイプ
団地
夫婦で漢方薬局を営んできた山下清治(岸部一徳)と妻のヒナ子(藤山直美)は、大事なひとり息子を事故で亡くしたことがきっかけで、店を閉めて団地へ引っ越す。ヒナ子は噂好きな団地の奥様連中とは距離を置き、淡々と生きていた。一方、まだ漢方に未練のある清治は、団地の裏手にある林へ通い、植物観察を続けていた。そんなある日、団地の自治会長選挙で落選した清治は、「自分は死んだことにしてくれ」と宣言して、人前に出なくなる。団地内で、ヒナ子が清治を殺したのではないかという噂が立ち始めた頃、店の常連客だった真城(斎藤工)が訪ねてきて、夫婦にとんでもない量の生薬を注文するのだが…。
2016年に公開された阪本順治監督作品で、B級感満載のSFと人情喜劇が混じり合う自由奔放なストーリーになっている。『団地』というタイトルで藤山直美と岸部一徳が夫婦役を演じると聞けば、笑いあり、涙ありのストレートな人情喜劇を想像してしまうのだが、本作には、なんと宇宙船が登場する。しかし、ストーリーの主軸は、あくまで団地の人間模様と息子を亡くした夫婦の悲しみと再生を描いた人情喜劇。設定はかなり破天荒だが、藤山直美と岸部一徳の安定感は抜群だし、脇を固める役者陣(石橋蓮司、大楠道代、濱田マリなど)も芸達者なメンバーが揃っていて、デタラメな展開がむしろ面白くなる。それにしても、何でもないセリフで観客を泣かせてしまう藤山直美の底力には圧倒される。
詳細 団地
映画『鈴木家の嘘』の評判・口コミ・レビュー
「鈴木家の嘘」
嘘も方便。
母の息子への思い。
父の息子への思い。
妹の兄への思い。行き場のない思いは、どこに向かえばいいのだろうか?
家族であること。
驚き笑い苦しみ泣きそして、、
笑いにもシリアスにも振り切らない微妙なバランスが意外な心地良さに着地する!#1日1本オススメ映画 pic.twitter.com/YNiO6r2cBk
— まさなつ (@miyu0902mh) 2018年11月16日
鈴木家の嘘(感想)
最初の3分間が見られなかった→旅猫リポートと終了時間が重なっていたため。そのためいきなり席に座った瞬間、かなり重いシーンから映画が始まった。タイトルから少しコメディタッチの嘘の映画だと思っていて予想外でした。所々、ユーモアを挟んだストーリーですがテーマは重い
— 豪腕大雑把YUI (@YUI93977678) 2018年11月17日
今日は新宿ピカデリーで「鈴木家の嘘」舞台挨拶付き。岸部一徳さん「これまでの出演作でベスト」のコメントに見る方としても深く共感。妻とパンフレットを見ながら一日中語り合ってます。映画で自分に「革命」が起きたのは「この世界の片隅に」以来はじめて。次いつ行けるか計画中です。
— sci sci スカラ座 (@hanahanaONEone) 2018年11月17日
映画「鈴木家の嘘」シネスイッチ銀座。監督と出演者の舞台挨拶の回にあたる幸運があった。予告編では何かユーモラスな映画と思われたけど「ひきこもり」という難しくてデリケートな社会問題に正面から真面目に取り組んだ稀有な映画です。 pic.twitter.com/R3KEZA4iOs
— Suzuki Seiichiro (@SuzukiSeiichiro) 2018年11月17日
鈴木家の嘘
久々に鼻水出るくらい泣いた
このキャストだし、間違いないって勝手に思ってたけど、脚本凄い。だから、このキャストで尚更良かった。
監督・脚本:野尻克己
出演:岸部一徳、原日出子、木竜麻生、加瀬亮、岸本加世子、大森南朋 pic.twitter.com/CIY3jLJswe— なな (@na2_0722) 2018年11月17日
朝一で鈴木家の嘘の舞台挨拶🤝ついに生の加瀬亮に逢えた。感極まって号泣。大森南朋さんもイメージ通りのキャラで好きだ。暗い話なはずなのにユーモアがあって、とっても泣けて、とってもいい映画でした。 #鈴木家の嘘 pic.twitter.com/wXvaxwd61h
— おかま (@okama444) 2018年11月17日
映画『鈴木家の嘘』のまとめ
家族をテーマにした映画というのは無数にある。小津安二郎監督の『東京物語』(53)やフェデリコ・フェリーニ監督の『フェリーニのアマルコルド』(73)、山田洋次監督の『男はつらいよ』シリーズも、家族の姿を描いた名作だ。家族という小集団の中では、それだけ多くのドラマが生まれやすいということなのだろう。野尻監督は、“家族”という普遍的なテーマを通して、人間の強さや弱さ、そして、深い後悔や悲しみの先にある小さな希望を描いている。「行き場のない人間に一筋の光を指す映画にしたい」という野尻監督の想いを、ぜひ劇場で受け止めて欲しい。
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