2011年7月22日、ノルウェーのウトヤ島で実際に起きた無差別乱射事件を、生存者の証言から映画化。テロと戦った人々の姿が、リアリズム溢れる様子で描かれ、2018年第68回ベルリン国際映画祭コンペティション部門に出品された衝撃の作品が日本上陸。
映画『ウトヤ島、7月22日』の作品情報
- タイトル
- ウトヤ島、7月22日
- 原題
- Utoya 22.juli
- 製作年
- 2018年
- 日本公開日
- 2019年3月8日(金)
- 上映時間
- 97分
- ジャンル
- ヒューマンドラマ
- 監督
- エリック・ポッペ
- 脚本
- シブ・ラジェンドラム・エリアセン
アンナ・バッヘ=ビーク - 製作
- フィン・イェンドルム
スタイン・B・クワエ - 製作総指揮
- スタイン・B・クワエ
フィン・イェンドルム
エリック・ポッペ - キャスト
- アンドレア・バーンツェン
エリ・リアノン・ミュラー・オズボーン
ジェニ・スベネビク
アレクサンデル・ホルメン
インゲボルグ・エネス
ソロシュ・サダット
ブレーデ・フリスタット
アーダ・アイド - 製作国
- ノルウェー
- 配給
- 東京テアトル
映画『ウトヤ島、7月22日』の作品概要
世界中で起きているテロ事件の中で、単独犯としては史上最多の犠牲者が出た最悪の銃乱射事件が、2011年7月22日にノルウェーウトヤ島で起きる。97分間の本編公開時間の中で、事件が起きてから収束までのおよそ72分間をワンカットで描く。第68回ベルリン国際映画祭ではエキュメニカル審査員賞、第31回ヨーロッパ映画賞では撮影監督賞を受賞した。監督は、『ヒトラーに屈しなかった王国』でアカデミー賞外国語映画賞ノルウェー代表作に選ばれたエリック・ポッペ。
映画『ウトヤ島、7月22日』の予告動画
映画『ウトヤ島、7月22日』の登場人物(キャスト)
- カヤ(アンドレア・バーンツェン)
- ウトヤ島で開催していたノルウェー労働党青年部のサマーキャンプに参加していた少女。
- エミリア(エリ・リアノン・ミュラー・オズボーン)
- カヤの妹で、カヤと一緒にウトヤ島のサマーキャンプに参加する。突然の銃乱射事件で姉のカヤと離れ離れになってしまう。
映画『ウトヤ島、7月22日』のあらすじ(ネタバレなし)
北ヨーロッパに位置する北欧の一国で、人生幸福満足度がスイスに次いで2位とされている国、ノルウェー。社会的に進んだ国で、男女の平等は世界で最も高く、夫婦別姓や同性同士の婚姻なども積極的に取り入れ、女性の徴兵が進んでいる国でもある。
諸外国から見たら、安心して暮らすことができ、高い克服度を抱きながら人生を全うできると思われていたノルウェーで、2011年7月22日衝撃的な事件が起きる。
ノルウェーの首都であるオスロにある政府庁舎で、車に仕掛けられた爆弾が突如として爆発する。多くの人が突然のことにうろたえパニックに陥り、世間はあっという間に混乱に貶められた。
一方で、オスロから40キロ離れた湖にあるウトヤ島で、カヤは友人たちと一緒にノルウェーの労働党青年部が開催しているサマーキャンプに参加していた。キャンプには10代から20代の若者たちで賑わい、交流を深めながら政治について学ぶ大切な機会である。
しかし、ここでも平和な時間は突如として切り裂かれる。楽園のような場所で突然銃声が鳴り響き、人々の叫び声が島中を包む。一体何が起きているのか、事態を把握できないままカヤは死に物狂いで森の中へ逃げる。
ところが、森の中に逃げ込んで初めて、妹のエミリアの姿がどこにも見当たらないことに気付いてしまう。
映画『ウトヤ島、7月22日』の感想・評価
平和な北欧で起きた凄惨な事件
日本人のイメージからすれば、北欧諸国は社会的にとても整備された国で、消費税は高いものの働けなくなっても、高齢になっても、病気になっても、子供が生まれても、何も困らず一生を楽しく暮らせる。そんな夢のような国だと思われている。
実際に、北欧諸国では消費税が日本と比べて倍以上高いので、1,000円の物を買おうとしても200円でも300円でも消費税を払っている。そんな高い消費税を払っているので、税の使い道に対しても国民はとてもシビアである。政府が汚職をしていようものなら、容赦なくバッシングが浴びせられ、使い道の分からない政策に対しても厳しい意見が飛び交い、政治家にとっては耳が痛いこともあるだろう。
国民がそうした政治に対して高い興味を抱いているのは、消費税が高いからだけではない。若いうちから、多くの機会を設けて政治について子供たちを学ばせているからである。主人公カヤが参加したサマーキャンプも、ノルウェーの労働党が開催したキャンプであった。
ノルウェーでは各党に青年部があり、若者たちを集めてキャンプやイベントを開き、政治にもっと興味を持ってもらおうと活動している。そんな、次世代を担う若者たちが狙われた凄惨な事件は、世界中に衝撃を与えた。犯人がどういう理由で銃を手に取り、子供たちの命を奪ったのか。日本の次世代を担う若い人たちにこそ、込められたメッセージを読み解いてほしい。
事件後7年が経った現在、語られる真実
2011年7月22日、結果として何が起きたのかノルウェーに住む人たちなら知らない人はいないだろう。午後3時17分、政府庁舎前に止められたワゴンが爆発したことで8人が死亡し、午後5時過ぎ、ウトヤ島で銃乱射によりサマーキャンプに参加していた69人の若い命が奪われた。
犯人のノルウェー人、アンネシュ・ベーリング・ブレイビクは、所謂右翼的な思考の持ち主で、愛国心が強い余り政府が進めている移民政策に不満を抱き、事件を画策し実行に移したという。
歴史に残る大惨事であるにも関わらず、日本ではなぜこの事件を知っている人が極端に少ないのかと言えば、余りにも過激で暴力的な内容であるからという理由と、もう一つは極めて政治的な内容であるからである。日本では、若い世代に対しての政治の教育が極端に遅れている。そして、政治の話をすること自体をタブーとしている節もある。
ノルウェーのように、若い世代と政治党が交流する機会はとても少なく、新興宗教と同じような扱いまでされることがある。しかし、時代は変わり世代は変わっていく。事件から7年後の2018年、ノルウェーでは連続テロ事件をモチーフにした作品が2作品制作されたことで、世界的に高い関心が集まっている。
グローバルな社会を目指している日本で、今後起きないとも限らない悲惨な事件の真実を、その目にしっかりと焼き付けたい映画である。
犯人のノルウェー人、アンネシュ・ベーリング・ブレイビク
この映画の見どころは、ウトヤ島での事件発生から収束までの72分間をワンカットで映像化するという珍しい手法を用いていることである。そして、もう1つ極めて珍しいのは、犯人のノルウェー人、アンネシュ・ベーリング・ブレイビクがほとんど画面に映らないという点である。
ハリウッド映画でもどんな映画でも、こうした事件には犯人と被害者がいて、カメラはどちらの視点も捉えているし、時には客観的に離れた位置から事態を捉えている。今回の映画では、突如自身の身に降りかかった恐怖を実際の生存者からの証言に基づき描かれているため、こうした珍しい手法が用いられている。
この映画で、観客が注目すべき点は、もちろん地獄絵図のような島で妹を探すカヤの姿であろう。しかし、それだけではなく、画面に映らない犯人のアンネシュ・ベーリング・ブレイビクという人物にも意識を向けてみて欲しい。どんな理由があって、どんな不満があって若者たちを絶望的な状況へ追い込もうと思ったのか。腹いせの対象が、政治家ではなくこれからを担う若い世代だったのか。
たった1人で、誰かを死に追いやるための計画を練り、実際に実行したその心境を、画面に映る被害者である登場人物たちの姿を見ながら、考えてみたい。犯人を庇護することも同情する必要も全くないが、政治に興味を持つことや国を愛することがどういうことなのか、これまで考えたこともなかったような真実が、目に見えるかもしれない。
映画『ウトヤ島、7月22日』の公開前に見ておきたい映画
7月22日
今回の『ウトヤ島、7月22日』と同じく、2018年に制作・公開されたポール・グリーングラス監督の映画『7月22日』。2011年7月22日にウトヤ島で起きた事件を描き、テロによって傷ついた少年のその後や、犯人のアンネシュ・ベーリング・ブレイビクの裁判の様子、ノルウェーのその後を描いた作品である。
少年が事件によってどんなトラウマを負い、どんな気持ちでトラウマと戦いながら日々を過ごしているのか、ブレイブクの裁判での言動や、国の安全保障の見直し、首相の責任問題などの姿を映し出している。
この映画は、劇場公開ではなくNetflixオリジナル配信映画で、『ボーン・アイデンティティー』の続編である『ボーン・スプレマシー』や『ボーン・アルティメイタム』、『ジェイソン・ボーン』などの監督を担当しているポール・グリーングラス監督が脚本・製作まで手掛けている。
手持ちのカメラでの撮影が多く、リアリティのある映画を撮ることで定評のあるグリーングラス監督が描くウトヤ島の銃乱射事件は、配信と同時に世界中で話題となり、人々が再びテロに対しての安全性の見直しや、政治について考えるきっかけとなった映画である。
詳細 7月22日
ヒトラーに屈しなかった国王
2016年のアカデミー賞外国語映画賞ノルウェー代表作となった、エリック・ポッペ監督の代表作である。他にも、ノルウェーのアカデミー賞では作品賞や助演男優賞を含む史上最多の8部門受賞。多くの国際映画祭で観客賞や脚本賞を受賞した。本国ノルウェーでは、公開3週間連続1を記録するなど、国民の7人に1人が鑑賞する空前の大ヒットともなった。
映画は、実在したノルウェーの礎となった国ホーコン国王をモデルにした映画で、『007』シリーズに登場するミスター・ホワイト役で知られているイェスパー・クリステンセンが主演を張った。
時は1940年4月、ノルウェーはナチス・ドイツに進軍され、圧倒的な軍事力で次々と主要部が占領されてしまう。ついに首都オスロが侵攻されると、ヒトラーはノルウェーに対して降伏を迫ってくる。ドイツの軍門に下るか、愛する国民・家族と共に国の運命を背負い戦うか。究極の選択を迫られるホーコン7世の、極限の3日間が描かれた物語は、ノルウェー人の強さと誇りを見せつけてくれた究極の一作である。
輝く夜明けに向かって
1980年代の南アフリカ共和国で起きた、黒人と白人を分断したアパルトヘイト体制下の出来事。アパルトヘイトとは、黒人・黄色人種・その他アジア人など肌に色のついた人と白人を分けて、諸関係を規定する政策である。
主人公の黒人であるパトリックは、そんなことに興味もなく家族のために石油製油所でコツコツとまじめに働く男であった。しかし、ある事情で仕事を休んだ日、その製油所がアパルトヘイトに反対するアフリカ民族会議・通称ANCによるテロで爆破されてしまう。
パトリックは、犯人の1人として逮捕され拘留、白人からの激しい拷問にも似た尋問を受ける。家族にまで尋問の火種が及んだことで、嘘の自白をして釈放されると、ANCの一員としてアパルトヘイト撤廃のため、戦いに身を投じることとなる。
この映画のポイントは、これまで輪の外で静観していた人物が、とあるきっかけでテロリストにもなることがある、という点である。『ウトヤ島、7月22日』の犯人であるブレイビクもまた、過激な極右思想の持ち主ではあったものの、そうなるにはきっかけがあっただろうということが伺える。
人が武器を手に取るのは、自身もしくは大切な人に危害が及んだときがほとんどである。パトリックが戦いに身を投じるに至った経緯を、『ウトヤ島、7月22日』と照らし合わせて鑑賞していただきたい。
詳細 輝く夜明けに向かって
映画『ウトヤ島、7月22日』の評判・口コミ・レビュー
『ウトヤ島、7月22日』
放り込まれ想像する永遠にも思える72分。映画を観てる自分の様に明日を生きれない事を想像もしなかった若者達を突如襲う惨劇。これは訓練なのか?犯人の数は?と把握困難な極限下で錯綜する情報と感情、鳴り止まない銃声と悲鳴。そんな錯乱の中でも人は寄り添い人を想う。 pic.twitter.com/OOUkWOaij1— コーディー (@_co_dy) 2019年3月9日
『ウトヤ島、7月22日』
あまりにも長く感じた72分間の追体験。立て続けの銃声が途絶えた時間の方が、実行犯との距離感や方向が掴めず生きた心地がしない。現実にはこれに臭いや触感(寒さ)が加わる。
遠いノルウェーで起きたテロ事件の被害者達の想像を絶する心理が、観る前より想像出来るようになった pic.twitter.com/yI5riTXq3N— エンバ (@enba_mitsuyoshi) 2019年3月10日
ウトヤ島、7月22日
銃声が響き始めてからの緊迫感が終盤まで徐々に増して行きウトヤ島に実際にいるような感覚に陥った。
沢山の若い未来の芽が1人の銃によって奪われたおぞましき事件が実際に起こっていたとは。。。
カヤとエミリアの再会は衝撃的でカヤが海辺で口ずさんだあの歌が切ない。 pic.twitter.com/CRMU5fQUkI— ディーン・フクヤマ (@masuyou1005) 2019年3月10日
『ウトヤ島、7月22日』鑑賞。突如始まる銃乱射、吠える銃声逃げまどう人々呻く悲鳴、どうすれば。
妹とはぐれた少女の視点で体感する恐怖。事件のあらましは知っていたけど予想以上に抉られ放心。多くの犠牲の痛ましさもさることながら、生きのびた人々の心の傷が思いやられてなんとも言えぬ気持ちに。 pic.twitter.com/u7g3TXykPA— suzupo (@suzupoppo) 2019年3月10日
映画「#ウトヤ島、7月22日」鑑賞
72分間ワンカット、BGMや説明は無し
少女カヤの傍らの(存在しない)第三者の主観視点で、彼女と同じ視界内の状況と、遠近で轟く銃声・人々の悲鳴から事態を想像するしかない。
その緊張・恐怖・臨場感は凄まじい。単独犯、死者77人。判決は禁錮最低10〜最高21年 pic.twitter.com/Zx3L1HB1YM
— Asturias(アストリアス)棒人間 (@Ast_Istvan) 2019年3月9日
2019年映画記録17
「ウトヤ島、7月22日」監督目当てで見ましたが、
もう二度と見たくないと思った。
だけどこの映画に関しては、そう観客に思わせたら成功なんだと思う。公開劇場は少ないですが、ひとりでも多くの人に見て欲しい。
— ZIN (@Zin_Zaki_M) 2019年3月9日
映画『ウトヤ島、7月22日』のまとめ
「シューエ・アンドレ・ユーリ」という言葉は、ノルウェー語で「7/22」を意味している。ノルウェーに住む人たちにとって、2011年7月22日の出来事が、どれだけ精神的に影響を及ぼしたのか想像に難くない。ノルウェーに存在する若い世代を代表する「声」そのものの青年部は、ノルウェーの政治には欠かせない存在であり、次世代を担う希望の光でもある。その彼らが、テロの標的にされたこの事件は、絶望に他ならない。それでも、「憎しみに、憎しみで答えない」と答える若きノルウェー人の強さに、感服するばかりである。
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