今月は注目の話題作が目白押し。ドイツの青春ロードムービー『50年後のボクたちは』や、あのダニエル・ラドクリフが死体役を演じて話題となった『スイス・アーミー・マン』がいよいよ日本に上陸。そして邦画でも、是枝裕和監督の法廷心理サスペンス『三度目の殺人』や『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』など、話題作が続々と公開される。
2017年9月公開のおすすめ注目映画
ギミー・デンジャー
公開日:2017/9/2(土)
期待度:85%
1967年から74年まで活動していた『THE STOOGES(ザ・ストゥージス)』というバンドをご存知だろうか?イギー・ポップというロック界のレジェンドが結成したバンドで、ロックをある程度聞き込んでいくと、必ず耳にする伝説のバンドである。後世のロックシーンに多大な影響を与えたそのサウンドは、どこまでも攻撃的で新しい。そしてイギー・ポップの破滅的なライブ・パフォーマンスが、これまた最高に痺れる。ザ・ストゥージスを知らない人でも、作品内のライブ映像を見ると、彼らの発するすごい熱量に圧倒されるだろう。
そんなザ・ストゥージスの熱狂的なファンであり、自身の監督作品『デッドマン』(95)と『コーヒー&シガレッツ』(03)でイギーをキャスティングしたジム・ジャームッシュが、この作品の監督・脚本を手掛けている。ジム・ジャームッシュとイギーはプライベートでも親交があり、「ストゥージスの映画を作ってくれ」と監督に依頼したのは、他でもないイギー自身。この話から、いかにイギーがジム・ジャームッシュのセンスを信頼しているかがうかがえる。ザ・ストゥージスという唯一無二のカリスマバンドのドキュメンタリー映画というだけでも大いに興味をそそられるのに、監督がジム・ジャームッシュとなると、ファンの期待はさらに高まる。
9月2日、新宿シネマカリテでの公開を皮切りに、全国の劇場で順次公開される予定なので、しっかりとホームページをチェックして、愛すべきストゥージス(愚か者)の世界を堪能してほしい。
セザンヌと過ごした時間
物語の主人公は、偉大な画家として美術の教科書にも必ず登場するポール・セザンヌ。そのセザンヌと少年時代から親交を深め、芸術家になるという夢を語り合ってきた小説家のエミール・ゾラ。この2人の40年にわたる友情物語を描いたのがこの作品だ。
今では「近代絵画の父」とまで言われているセザンヌだが、作品が高値で売れるようになったのは、彼が亡くなってからだ。一方、ゾラは早くに小説家として成功している。成功後も、ゾラは様々な形でセザンヌを支えていたが、画家を主人公にした著作がきっかけで、2人の友情は壊れてしまったと言われている。ダニエル・トンプソン監督は、15年という歳月をかけて2人のことを調べ上げ、それから後の2人の関係も描いている。
物語そのものも非常に気になるが、本作の注目ポイントは、セザール役のギヨーム・ガリエンヌとゾラ役のギヨーム・ガネの演技だ。ギヨーム・ガリエンヌは、自身の特異な生い立ちを描いた『不機嫌なママにメルシィ!』(08)で、自分と母親の一人二役を演じている。彼の演劇人としての才能は素晴らしく、その実力は世界中で絶賛された。俳優だけでなく、監督としても活躍中のギヨーム・ガネも、多くの作品でその才能を見せつけている。この2人が共演するのだから、見ごたえは十分だろう。
三度目の殺人
『誰も知らない』(04)や『そして父になる』(13)などのヒット作で知られる是枝裕和監督の13作目となる長編映画は、やり手の弁護士が、ある殺人犯の心の闇に迫っていく法廷心理サスペンス。脚本は是枝監督のオリジナルで、人物描写のうまい是枝監督が、弁護士と殺人犯の心理的な駆け引きを、サスペンスフルに描いている。
弁護士役には、『そして父になる』で父親役を好演した福山雅治が起用されている。そして何と言っても本作の目玉は、是枝監督作品に初参加する役所広司の存在だろう。役所広司といえば、コメディからシリアスまで変幻自在に演じ分ける日本屈指の実力派俳優であり、彼の出演作というだけで、ひとまず興味をそそられる。本作でも、心に闇を抱えた殺人犯を挑戦的に演じており、このサスペンス映画を盛り上げている。
美術監督には超売れっ子の種田陽平、音楽にはイタリア人作曲家のルドヴィコ・エイナウディという豪華な布陣が顔を揃えている。一流のスタッフとともに、是枝監督が作り上げた心理サスペンス映画は、どこまで観客の心を揺さぶることができるだろうか。
奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール
奥田民生を人生に師と仰ぐ雑誌編集者の主人公が、どんな男も虜にしてしまう小悪魔系美女に翻弄されるラブコメディ。人気コラムニスト・渋谷直角のコミックを、大ヒット映画『モテキ』(11)や『バクマン』(15)を手がけた大根仁監督が映画化した。
まずは、「奥田民生になりたいボーイ」という渋谷直角の視点が非常に面白い。奥田民生をユニコーンの時代から知っている世代には「奥田民生になりたい」という感覚がよくわかるはずだ。彼はバンドブーム時代から、ずっと第一線で活躍している稀有な存在で、すごく男前というわけでもないのに、なぜかかっこいいと言われるし、本人が無理をしてそんな自分を作っているとも思えない。日本のミュージシャンにありがちな暑苦しさもなく、かといって冷たさも感じない。奥田民生ほど、自然体で成功を手にしている人も珍しい。そんな奥田民生の生き方に憧れ、「奥田民生になりたい!」と思う男性が多いのも頷ける。しかし、そう思う時点で、多分その人は奥田民生にはなれないのだけれど。
その辺の矛盾とおかしさを描いているのがこの作品。奥田民生になりたいボーイを演じているのは妻夫木聡、そして彼を翻弄する狂わせガールには水原希子がキャスティングされている。「この手のラブコメには自信あり!」と自ら豪語する大根仁監督のことなので、笑いどころ満載のポップなラブコメに仕上がっているはずだ。脇を固めるキャストの顔ぶれも豪華なので、その辺も合わせて楽しんでほしい。
50年後のボクたちは
学校で変人扱いされている14歳のマイクと、風変わりな転校生のチックが、盗難車で無謀な旅に出るというロードムービー。原作は大ベストセラーとなったヴォルフガング・ヘルンドルフの児童文学『14歳、ぼくらの疾走』で、監督は『愛より強く』(04)で世界中の注目を浴び、その後の作品でも数多くの映画賞を受賞している名匠ファティ・アキン。
14歳といえば、日本ではちょうど中学2年生。「中2病」という言葉が生まれるほど、あらゆる意味で多感な時期だ。例外はあるだろうが、ほとんどの人がこの時期の自分を振り返ると、なんとなく苦笑いをしてしまうのではないだろうか。それと同時に、あの年頃の自分にしかなかったようなエネルギーや繊細さを思い出し、メランコリックな気持ちにもさせられる。バカバカしくてどこか切ない青春の始まりが、きっとこの時期なのだろう。
私たちはマイクとチックの無謀な疾走を見て笑い、時に涙する。「50年後、またここで会おう」という彼らの純粋な言葉にぐっとくる。この作品を見ることで、私たちはほんの一瞬、14歳の夏に戻れるのかもしれない。
笑う故郷
ノーベル賞文学賞を受賞したスペイン在住の作家が、40年ぶりに故郷のアルゼンチンへ帰り、田舎町特有の悲喜劇に巻き込まれていく。2016年のヴェネチア映画祭で観客の絶大な支持を受けたアルゼンチンとスペインの合作映画。監督は、共にアルゼンチン出身のガストン・ドゥプラットとマリアノ・コーン。
アルゼンチンの小さな田舎町からノーベル文学賞受賞作家が出たというのは大変に名誉なことで、主人公のダニエルは、故郷で暖かい歓迎を受ける。青春時代を共に過ごした旧友や初恋の女性との感動的な再会を果たし、絵に描いたような美しい物語が展開されるのかと思いきや。しばらくすると、ダニエルは故郷の人々の嫉妬や無理解や侮蔑の目に晒され、散々な目にあってしまう。
田舎から都会に出てきて働いている人なら、この感じがなんとなく理解できるのではないだろうか?1日2日はいいのだが、一定期間田舎に滞在していると、妙に窮屈だったり、自分が浮いた存在であることを感じたりするものだ。そういう田舎特有の人間関係を、ブラックなコメディにしたのがこの作品。主人公のダニエルを演じたオスカル・マルティネスの演技も絶賛されているので、コアな映画ファンにおすすめしたい1本だ。
スイス・アーミー・マン
『ハリー・ポッター』シリーズでおなじみのダニエル・ラドクリフが死体の役を演じていると言われても、意味がよくわからないだろう。ダニエルほどのスターが死体役とはどういうことかというと、ダニエルが演じる死体のメニーは、わかりやすくいえばゾンビのように動き出すのだ。その死体を相棒にするのが人生に絶望した男ハンク。この作品は、死体のメニーと冴えない男ハンクが繰り広げる、異色のサバイバル・アドベンチャーなのだ。
それにしても、無人島に取り残されて絶望していた男が、海岸に流れ着いた死体を見つけ、死体のガスを利用して海を渡ってしまうという設定がすごい。ダニエルが死体型ジェットスキーになって、海を疾走するという絵面は、ある意味ショッキング。さらに死体のメニーには、様々な機能があるという設定になっており、面白いような気持ち悪いような映像が続く。監督・脚本を務めているダニエル・シャイナートとダニエル・クワンの発想の豊かさには、ただただ驚かされるばかり。あちこちの映画祭で数多くの賞を受賞したというのも頷ける。
そして、青白い死体メイクで、見事に死体のメニーを演じきっているダニエル・ラドクリフの役者魂も素晴らしい。彼の代表作が、『ハリー・ポッター』シリーズから別の作品に上書きされる日も、そう遠くないだろう。
パーフェクト・レボリューション
出生時の脳性麻痺が原因で手足に麻痺が残り、ずっと車椅子生活をしている熊篠慶彦が、自身をモデルにした映画の企画を松本准平監督に持ち込んだのがこの映画のはじまりだ。主人公のクマを演じるのは、熊篠の友人であるリリー・フランキー。そしてクマの恋人になる風俗嬢のミツには、2014年に園子温監督の『TOKYO TRIBE』で映画女優としてデビューを果たし、その後も活躍の幅を広げている清野菜名がキャスティングされている。
物語は、手足に障害があって車椅子生活をしているクマと精神障害を抱える風俗嬢のミツのラブストーリー。クマは「セックスが大好き」と公言しており、障害者の性への理解を求める活動を続けている。ミツはそんなクマに惹かれ、自ら彼に猛アタックする。そして2人は恋に落ちるのだが…。
予告編を見てもらえばわかるが、この作品のトーンはとても明るい。リリー・フランキーと清野菜名の雰囲気もポップで可愛い。障害者の恋愛や性の問題は、なぜか特別視されがちだが、この作品から特に異質なものは感じない。熱烈に愛し合う男女のごく自然なラブストーリーとして、明るい気持ちで楽しめるはずだ。
2017年9月公開映画一覧
公開日 | 作品タイトル |
---|---|
2017/9/1(金) | 新感染 ファイナル・エクスプレス |
2017/9/1(金) | トリガール! |
2017/9/1(金) | スキップ・トレース |
2017/9/1(金) | 二度めの夏、二度と会えない君 |
2017/9/1(金) | ザ・ウォール |
2017/9/1(金) | ルパン三世 ルパンVS複製人間(クローン) |
2017/9/1(金) | 英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2016/17 ロイヤル・バレエ「真夏の夜の夢/シンフォニック・ヴァリエーションズ/マルグリットとアルマン」 |
2017/9/2(土) | 機動戦士ガンダム THE ORIGIN 激突 ルウム会戦 |
2017/9/2(土) | 君の瞳に花束を |
2017/9/2(土) | ギミー・デンジャー 注目! |
2017/9/2(土) | 処刑遊戯 DEAD OR ALIVE |
2017/9/2(土) | じんじん 其の二 |
2017/9/2(土) | スラッカー |
2017/9/2(土) | セザンヌと過ごした時間 注目! |
2017/9/2(土) | 禅と骨 |
2017/9/2(土) | 脱脱脱脱17 |
2017/9/2(土) | DARK STAR H・R・ギーガーの世界 |
2017/9/2(土) | トモダチゲーム 劇場版FINAL |
2017/9/2(土) | 人情噺の福団治 |
2017/9/2(土) | ひいくんのあるく町 |
2017/9/2(土) | 僕らのライブ大事件 |
2017/9/2(土) | ミスムーンライト |
2017/9/2(土) | 闇金ドッグス7 |
2017/9/4(月) | 親不孝役者 |
2017/9/8(金) | 英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2016/17 ロイヤル・オペラ「オテロ」 |
2017/9/8(金) | 西遊記2 妖怪の逆襲 |
2017/9/9(土) | ダンケルク |
2017/9/9(土) | 三度目の殺人 注目! |
2017/9/9(土) | 散歩する侵略者 |
2017/9/9(土) | あしたは最高のはじまり |
2017/9/9(土) | アメイジング・ジャーニー 神の小屋より |
2017/9/9(土) | おクジラさま ふたつの正義の物語 |
2017/9/9(土) | さよならも出来ない |
2017/9/9(土) | 三里塚のイカロス |
2017/9/9(土) | セブンティーン、北杜 夏 |
2017/9/9(土) | 旅する写真家 レイモン・ドゥパルドンの愛したフランス |
2017/9/9(土) | 追想 |
2017/9/9(土) | ナインイレヴン 運命を分けた日 |
2017/9/9(土) | HER MOTHER 娘を殺した死刑囚との対話 |
2017/9/9(土) | 星降る夜のペット |
2017/9/9(土) | 桃とキジ |
2017/9/15(金) | エイリアン コヴェナント |
2017/9/15(金) | オン・ザ・ミルキー・ロード |
2017/9/15(金) | ハイキュー!! 才能とセンス |
2017/9/16(土) | 奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール 注目! |
2017/9/16(土) | あさがくるまえに |
2017/9/16(土) | アフターマス |
2017/9/16(土) | 交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション1 |
2017/9/16(土) | 50年後のボクたちは 注目! |
2017/9/16(土) | サーミの血 |
2017/9/16(土) | 茅ヶ崎物語 MY LITTLE HOMETOWN |
2017/9/16(土) | ひかりのたび |
2017/9/16(土) | ヴィヴィアン武装ジェット |
2017/9/16(土) | 望郷 |
2017/9/16(土) | 三つの光 |
2017/9/16(土) | 汚れたダイヤモンド |
2017/9/16(土) | 笑う故郷 注目! |
2017/9/22(金) | あさひなぐ |
2017/9/22(金) | スクランブル |
2017/9/22(金) | スイス・アーミー・マン 注目! |
2017/9/22(金) | ナショナル・シアター・ライヴ 2017 「誰もいない国」 |
2017/9/23(土) | ナミヤ雑貨店の奇蹟 |
2017/9/23(土) | 渦 UZU |
2017/9/23(土) | 男が帰ってきた |
2017/9/23(土) | オペレーション・クロマイト |
2017/9/23(土) | シット・アンド・ウォッチ |
2017/9/23(土) | ジュリーと恋と靴工場 |
2017/9/23(土) | スティールパンの惑星 |
2017/9/23(土) | チェイサー |
2017/9/23(土) | 七日 |
2017/9/23(土) | 仁光の受難 |
2017/9/23(土) | プラネタリウム |
2017/9/23(土) | ユリゴコロ |
2017/9/23(土) | レジェンダリー |
2017/9/23(土) | わたしたち |
2017/9/24(日) | ハットンガーデン・ジョブ |
2017/9/25(月) | ラスト・クライム 華麗なる復讐 |
2017/9/29(金) | 僕のワンダフル・ライフ |
2017/9/29(金) | ドリーム |
2017/9/29(金) | ハイキュー!! コンセプトの戦い |
2017/9/29(金) | パーフェクト・レボリューション 注目! |
2017/9/30(土) | 亜人 |
2017/9/30(土) | AMY SAID エイミーセッド |
2017/9/30(土) | エタニティ 永遠の花たちへ |
2017/9/30(土) | 劇場版 響け!ユーフォニアム 届けたいメロディ |
2017/9/30(土) | ゴーストロード |
2017/9/30(土) | ZAN ジュゴンが姿を見せるとき |
2017/9/30(土) | ソウル・ステーション パンデミック |
2017/9/30(土) | デジモンアドベンチャー tri. 第5章「共生」 |
2017/9/30(土) | NEWシネマ歌舞伎 四谷怪談 |
2017/9/30(土) | ブラッド・スローン |
2017/9/30(土) | ブルーム・オブ・イエスタディ |
2017/9/30(土) | プールサイドマン |
2017/9/30(土) | ヴェンジェンス |
2017/9/30(土) | ポルト |
2017/9/30(土) | マイ・ヒーロー |
2017/9/30(土) | 夜間もやってる保育園 |
2017/9/30(土) | レゴ ニンジャゴー ザ・ムービー |
2017/9/30(土) | LOCO DD 日本全国どこでもアイドル |
みんなの感想・レビュー