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映画『判決、ふたつの希望』のあらすじ・感想・評判・口コミ(ネタバレなし)

些細な口論から始まったキリスト教徒のレバノン人男性とパレスチナ人男性の裁判は、国中を巻き込んだ大騒動へと発展していく。本国のレバノンで大ヒットを記録した社会派のヒューマンドラマで、レバノン史上初となるアカデミー外国語映画賞ノミネート作品となった。

映画『判決、ふたつの希望』の作品情報

判決、ふたつの希望

タイトル
判決、ふたつの希望
原題
L`insulte
製作年
2017年
日本公開日
2018年8月31日(金)
上映時間
113分
ジャンル
ヒューマンドラマ
監督
ジアド・ドゥエイリ
脚本
ジアド・ドゥエイリ
ジョエル・トゥーマ
製作
不明
製作総指揮
不明
キャスト
アデル・カラム
カメル・エル・バシャ
リタ・ハーエク
クリスティーン・シュウェイリー
カミール・サラーメ
ディアマンド・アブ・アブード
製作国
レバノン
フランス
配給
ロングライド

映画『判決、ふたつの希望』の作品概要

クエンティン・タランティーノ監督のもとでアシスタント・カメラマンをしていたレバノン出身のジアド・ドゥエイリ監督が作り上げた情熱的なヒューマンドラマ。些細な口論を裁く裁判が国中を巻き込んだ法廷劇へと発展していく物語は、レバノン本国でも大ヒットを記録し、第90回アカデミー賞でレバノン史上初となる外国語映画賞にノミネートされた。
レバノンで活躍する実力派俳優たちが顔を揃え、劇中でヤーセルを演じたカメル・エル=バシャは、パレスチナ人俳優で初めてベネチア国際映画祭最優秀男優賞を受賞している。

映画『判決、ふたつの希望』の予告動画

映画『判決、ふたつの希望』の登場人物(キャスト)

トニー・ハンナ(アデル・カラム)
キリスト教徒のレバノン人。ベイルートで自動車修理工場を営んでいる。妻は妊娠中。
ヤーセル・サラーメ(カメル・エル=バシャ)
住宅補修の現場監督をしているパレスチナ人。

映画『判決、ふたつの希望』のあらすじ(ネタバレなし)

レバノンの首都ベイルートで自動車修理工場を営んでいるトニーは、近所で住宅の補修作業を行なっていた現場監督のヤーセルと些細なことを巡って口論となる。トニーはキリスト教徒のレバノン人であり、ヤーセルはパレスチナ人だったことから、怒りに任せて口から出た何気ない悪態が互いの尊厳を深く傷つけてしまい、トニーは裁判で決着をつけることにする。

法廷でトニーはヤーセルからの謝罪を求め、両者の弁護士は白熱の議論を繰り広げる。マスコミはこの裁判に注目し、トニーとヤーセルの対立を大々的に報道する。これにより、2人の揉め事は大きな政治問題となり、両者の尊厳を争う裁判はレバノン全土を揺るがす法廷劇へと発展していく。

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映画『判決、ふたつの希望』のネタバレあらすじ結末と感想
映画『判決、ふたつの希望』のネタバレあらすじと感想。ストーリーを結末まで起承転結で分かりやすく簡単に解説しています。映画ライターや読者による映画感想も数多く掲載。

映画『判決、ふたつの希望』の感想・評価

レバノンが抱える傷跡

本作の舞台となるレバノンでは、1975年から1990年にかけて大規模な内戦(レバノン内戦)があった。レバノンは中東では珍しくキリスト教徒の多い国だったが、1970年に起きたヨルダン内戦の影響で多くのパレスチナ難民がレバノンに流入し、国内でのイスラム教徒数が増加する。これにより政治面でのバランスが崩れ、最終的にキリスト教マロン派とイスラム教徒・パレスチナ難民による内戦が勃発してしまう。その後、泥沼化した内戦は15年も続き、レバノンという国にも人々の心にも大きな傷跡を残した。

トニーとヤーセルが喧嘩を始めたきっかけは、アパートのバルコニーからの水漏れという本当に些細なことだった。しかし、頭に血が上って思わず口から出てしまった一言が、絶対に許せない言葉だったため、トニーはヤーセルを訴える。ヤーセルもまたトニーの言葉に傷ついており、自分から謝罪することを拒む。2人がそこまで対立したのも、この裁判が国を揺るがす大問題に発展したのも、この国に複雑な過去があるからだ。本作を鑑賞する前に、少しでもレバノンについて勉強しておくと、2人の怒りの理由がわかりやすくなるだろう。

レバノン出身のジアド・ドゥエイリ監督作品

本作でアカデミー外国語映画賞にノミネートされて、レバノンの映画史に新しい歴史を刻んだのは、レバノンの首都ベイルート生まれのジアド・ドゥエイリ監督だ。ドゥエイリ監督は20歳でアメリカに留学して大学で映画作りを学び、卒業後はクエンティン・タランティーノ監督のカメラアシスタントをしていた。タランティーノ監督作品の中でも熱狂的なファンの多い『レザボア・ドッグス』(91)や『パルプ・フィクション』(94)の現場を見てきたのだから、なかなか頼もしい。その後、レバノン映画の『西ベイルート』(98)で長編映画監督デビューを果たし、着実にキャリアを重ねてきた。

ドゥエイリ監督は少年時代にレバノン内戦を経験しており、本作の脚本も実体験を基にして書いている。本作がレバノン本国で爆発的にヒットしたのは、その内容に説得力があるからだろう。ドゥエイリ監督は、生まれ故郷が抱える問題を人間味溢れる物語にして、人々の心を動かした。そして、未来への希望をこの映画に託している。

アカデミー外国語映画賞はノミネートされるだけでも難しい

アカデミー外国語映画賞というのは、アメリカ以外で製作され、基本的に英語以外の言語が使われた長編映画に与えられる賞であり、受賞はもとより、ノミネートされるだけでも名誉なことだと言われている。邦画では黒澤明監督の『羅生門』(50)、衣笠貞之助監督の『地獄門』(53)、稲垣浩監督の『宮本武蔵』(54)が外国語映画賞の前身となる名誉賞を受賞しているが、1956年にアカデミー外国語映画賞が正式にできてからの61年間で、ノミネートに至った邦画はわずか12本。日本からは毎年1本の邦画が出品されているので、49本は選考の段階で落選したということになる。さらに、ノミネートされた12作品の邦画で見事にアカデミー外国語映画賞を受賞したのは滝田洋二郎監督の『おくりびと』(08)のみ。1975年に黒澤明監督が『デルス・ウザーラ』(75)で同賞を受賞しているが、こちらは選出国がソ連になっているので邦画の受賞には数えられていない。

過去のアカデミー外国語映画賞ノミネート作、受賞作を見ていくと、錚々たる名作の数々が名を連ねている。本作もそうだが、これは映画を選ぶ時の信用できる目安になるので、「アカデミー外国語映画賞はノミネートされるだけでも難しい」ということは覚えておいて欲しい。

映画『判決、ふたつの希望』の公開前に見ておきたい映画

映画『判決、ふたつの希望』の公開前に見ておきたい映画をピックアップして解説しています。映画『判決、ふたつの希望』をより楽しむために、事前に見ておくことをおすすめします。

ノー・マンズ・ランド

ボスニア紛争時の戦場で、ボスニア軍のチキ(ブランコ・ジュリッチ)と地雷の上に寝かされたツェラ(フィリップ・ジョヴァゴヴィッチ)は、セルビア軍のニノ(レネ・ビトラヤツ)と中間地点の塹壕内に取り残され、国連防護軍に助けを求める。しかし、国連防護軍は体裁を取り繕うことしか考えておらず、本気で3人を救おうとはしてくれない。

ユーゴスラビア(現在のボスニア・ヘルツェゴビナ)出身のダニス・タノヴィッチ監督が2001年に発表した作品で、第74回アカデミー外国語映画賞を初めとして、世界中で数多くの映画賞を受賞した。塹壕という狭い空間の中に敵対する3人の兵士が取り残され、緊迫の時間を過ごす。地雷の上で身動きが取れなくなったツェラを挟んで、敵同士のチキとニノが睨み合う。タノヴィッチ監督はこの3人を使って、民族間で対立するボスニア紛争の構図を見事に描き出していく。それと同時に、国連防護軍やマスコミが3人に対してどんな対応をするかを描き、傍観者の無責任さを暴いていく。映画としては小規模な作品だが、鑑賞後に受ける衝撃は計り知れない名作。

詳細 ノー・マンズ・ランド

十二人の怒れる男

父親を刺し殺した容疑で逮捕されたスラム育ちの少年を裁く裁判で、陪審員に選出された12人の男たちは、全員一致の評決が出るまで審議を続ける。法廷では圧倒的に少年が不利であり、すぐに全員一致で有罪が確定すると思われたが、1人の陪審員が無罪を主張したことで、審議は二転三転していく。

1957年に公開されたシドニー・ルメット監督による異色の法廷劇であり、12人の陪審員がひたすら密室で議論を繰り広げるという斬新な脚本と演出が絶賛された。12人それぞれにしっかりとした見せ場と役割があり、議論が白熱すればするほど、陪審員たちの背景にあるものまで見えてくる。彼らの議論に耳を傾けているうちに、事件の詳細から法廷での様子、さらには彼らがどんな人間なのかまで伝わってくるのだから、面白くないわけがない。『判決、ふたつの希望』もメインとなる舞台は法廷であり、そこでの議論から主人公たちの背負ってきたものが見えてくる。秀悦な法廷劇は、自然と秀悦なヒューマンドラマになっているものなのだ。

詳細 十二人の怒れる男

あの日の声を探して

1999年、チェチェン共和国の小さな村で暮らしていた9歳のハジ(アブドゥル・カリム・ママツイエフ)は、侵攻してきたロシア軍兵士に両親を殺され、恐怖で声を失ってしまう。ハジは、まだ赤ん坊の弟を抱いて村を逃げ出し、EU人権委員会職員のキャロル(ペレニス・ベジョ)に保護される。その頃、ロシア兵から解放されたハジの姉は、戦火の中で幼い2人の弟を探していた。

アーティスト』(11)でアカデミー作品賞と監督賞を受賞したミシェル・アザナヴィシウス監督が第二次チェチェン紛争を描いた作品。アザナヴィシウス監督は、ずっとこの映画の企画を温めていたが、興行的な成功が見込めないため、なかなか製作することができなかった。しかし、『アーティスト』の成功で製作が可能になり、この魂のこもった作品を完成させた。アザナヴィシウス監督は、この作品で戦争の残酷さと人間の尊さを同時に描いている。鑑賞中はとても苦しいが、見て良かったと思える作品なので、多くの人にオススメしたい。

詳細 あの日の声を探して

映画『判決、ふたつの希望』の評判・口コミ・レビュー

映画『判決、ふたつの希望』のまとめ

日本でレバノン製作の映画が劇場公開されることは滅多にない。レバノンに限らず、中東方面で製作された映画を鑑賞できる機会も少ない。それでも、何本か見た作品は今でも心に残っていて、その国への親しみを感じたものだ。そんな映画は、宗教や文化や民族は違っていても、人間はどこかでわかりあえるものなのだという希望を与えてくれる。『判決、ふたつの希望』も、きっとそんな作品だから、はるばる海を越えて日本にやってきたのだろう。今のところ全国で5館のみの公開なので、公開予定の劇場に移動可能な方は、この貴重な機会を逃さないようにして欲しい。

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