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映画『斬、』のあらすじ・感想・評判・口コミ(ネタバレなし)

「なぜ人は人を斬るのか」。鬼才・塚本晋也監督が、人を斬ることに疑問を持つ若き侍と彼を取り巻く人々の姿を通して、人間の生と死、さらには暴力にまつわる問題を暴き出していく。第75回ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門正式出品。

映画『斬、』の作品情報

斬、

タイトル
斬、
原題
なし
製作年
2018年
日本公開日
2018年11月24日(土)
上映時間
80分
ジャンル
時代劇
監督
塚本晋也
脚本
塚本晋也
製作
塚本晋也
製作総指揮
なし
キャスト
池松壮亮
蒼井優
中村達也
前田隆成
塚本晋也
製作国
日本
配給
新日本映画社

映画『斬、』の作品概要

鉄男 TETSUO』(89)や『野火』(14)で知られる塚本晋也監督が、初めて挑んだ時代劇。人を斬ることに疑問を持つ侍と彼に関わる人々の姿を通して、生と死、そして暴力にまつわる問題を描き出す。塚本は従来の自主制作スタイルで、監督・脚本・製作・撮影(共同)・編集・出演を務めている。主人公の侍には池松壮亮、ヒロインとなる農家の娘には蒼井優がキャスティングされている。第75回ヴェネツィア国際映画祭の公式上映では、約1000人の観客から5分間に及ぶスタンディングオーベーションが起こった。

映画『斬、』の予告動画

映画『斬、』の登場人物(キャスト)

杢之進(池松壮亮)
江戸近郊の農村で暮らす浪人。文武両道で、才気溢れる若者。
ゆう(蒼井優)
杢之進の隣人の農家の娘。
市助(前田隆成)
ゆうの弟。
澤村(塚本晋也)
剣の達人。杢之進の腕を見込んで、京都へ誘う。
無頼者(中村達也)
杢之進の暮らす村へ流れてきた無頼者。

映画『斬、』のあらすじ(ネタバレなし)

長らく泰平の世が続いた江戸末期、国内は開国派と攘夷派が対立して、不安定な状態が続いていた。そんな時代の江戸近郊にある農村。

藩では飯が食えなくなり、浪人となった杢之進は、この村で農家の手伝いをしながら暮らしている。杢之進は、隣人の農家の娘・ゆうと彼女の弟・市助とも親しくなり、穏やかな日々を送っていた。

そんなある日、杢之進の暮らす村に剣の達人である澤村がやって来る。澤村は、杢之進の人柄と剣の腕を見込んで、京都での戦いに参戦しないかと持ちかけてくる。時代の変化を感じていた杢之進は、澤村と旅立つことを決意する。しかし、村を離れる前に無頼者たちが流れてきて、杢之進の運命を変えていく。

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映画『斬、』のネタバレあらすじ結末と感想
映画『斬、』のネタバレあらすじと感想。ストーリーを結末まで起承転結で分かりやすく簡単に解説しています。映画ライターや読者による映画感想も数多く掲載。

映画『斬、』の感想・評価

塚本晋也監督が時代劇に初挑戦

1989年、塚本晋也監督が発表した田口トモロヲ主演の『鉄男』が、ローマ国際ファンタスティック映画祭でグランプリを受賞する。制作費1000万円、監督・脚本・美術・照明・特撮・編集・出演を塚本が務めるという自主制作スタイルの『鉄男』がグランプリを受賞したことで、塚本晋也は世界中の映画人から注目を集める存在となった。『パルプ・フィクション』(94)のクエンティン・タランティーノ監督や、『シェイプ・オブ・ウォーター』(17)、『パンズ・ラビリンス』(06)で知られるギレルモ・デル・トロ監督も、塚本監督に影響を受けたと公言している。

『鉄男』以降も、塚本監督は自主制作スタイルで独自の路線を突き進んできた。黒沢あすかを主演に迎えた『六月の蛇』(02)では、ヴェネツィア国際映画祭コントロコレンテ部門審査員特別賞を、シンガーソングライター・Cocco主演の『KOTOKO』(11)では、ヴェネツィア国際映画祭オリゾンティ部門でオリゾンティ賞(最高賞)をそれぞれ受賞している。そんな塚本監督が、今回は時代劇に初挑戦して、「人間の生と死」という難しいテーマに挑む。前作となる『野火』(15)では、どこまでもリアルな戦場を描くことで、戦争の恐怖や残酷性を観客に追体験させた。目を背けたくなるような暴力描写の連続に、「戦争映画に美談や娯楽性を求めてはいけない」という塚本監督の強い信念が現れていた。最新作の『斬、』も、刀で人を斬ることに娯楽性を求めてきたこれまでの時代劇とは一線を画す内容になっている模様。塚本監督の感性で侍を描くとどうなるのか、ぜひ劇場で見届けたい。

音楽家・石川忠の功績

メタルパーカッショニストであり音楽家の石川忠は、『鉄男』で初めて映画音楽を担当し、その後もほとんどの塚本晋也監督作品の音楽を手がけてきた。江戸川乱歩の短編小説を原作とした塚本晋也監督・脚本・編集の『双生児』(99)では、シッチェス・カタロニア国際映画祭音楽賞を受賞している。塚本監督の石川に対する信頼度は絶大で、今回の『斬、』の音楽も石川が手がける予定になっていた。しかし、石川は2017年12月21日、病気のため51歳という若さで亡くなってしまう。塚本監督はその現実がどうしても受け入れられず、石川の部屋に残されていた未発表の曲を全部聴いて、『斬、』の映像に貼っていった。塚本監督は、その時のことを「天国の石川さんと話しながら決めていった感じ」と語っている。そんな塚本監督と石川忠の想いがこもった『斬、』の映画音楽は、第51回シッチェス・カタロニア国際映画祭の最優秀音楽賞を受賞した。天国の石川さんも、きっと喜んでいることだろう。

池松壮亮と蒼井優、そして中村達也

自主制作スタイルの塚本監督作品では、少数精鋭のキャストが素晴らしい力を発揮する。本作でもメインキャストとなるのは塚本本人を含めた5名のみ。主人公の杢之進を演じる池松壮亮は、自分から塚本監督にアプローチして、この作品に参加した。塚本監督は池松のことを「今の時代の感覚を非常にリアルに表現できる人」と評価しており、池松もその期待に応える演技を見せている。蒼井優も塚本監督には尊敬の念を抱いており、今回の出演依頼には女優として大きな喜びを感じたようだ。規模の小さな自主制作映画に、池松や蒼井クラスの大物が喜んで出演するのは、塚本監督作品ならでは。

さらに注目したいのが、無頼者として登場する中村達也の存在。ロックバンド“BLANKY JET CITY”(2000年に解散)のドラマーとして知られる中村は、塚本監督の『バレット・バレエ』(99)で俳優デビューを果たし、豊田利晃監督の『蘇りの血』(09)では主演も務めている。『野火』での伍長役もかなりのインパクトがあった。中村の放つ殺気は只事ではないので、本作でも彼の存在感には大いに期待したい。

映画『斬、』の公開前に見ておきたい映画

映画『斬、』の公開前に見ておきたい映画をピックアップして解説しています。映画『斬、』をより楽しむために、事前に見ておくことをおすすめします。

鉄男 TETSUO

肉体改造のため太ももに鉄パイプを埋め込んだ“やつ”(塚本晋也)を轢き逃げしてしまった男(田口トモロヲ)は、やつの特殊能力により、体がどんどん金属化していく。事故の時に男と一緒だった恋人の女(藤原京)も、やつの復讐劇に巻き込まれ、金属化した男と共に破滅していくのだった…。

ローマ国際ファンタスティック映画祭でグランプリを受賞した塚本晋也監督の出世作。とにかく「こんな映画見たことない!」としか言いようのない、唯一無二の個性を放つサイキック・ホラーで、何が何だかわからないうちに血みどろの塚本ワールドに引きずり込まれていく。異様に疾走感のある狂気の世界は、めちゃくちゃなパンクロックのようであり、変な酔い方をする。それが気持ちいいと思う人もいれば、吐きそうになる人もいるだろう。「絶対に万人受けはしない!」と言い切ることができる、見事なまでのカルト映画。それが『鉄男』だ。

詳細 鉄男 TETSUO

野火(2014)

日本の敗戦が色濃くなった第二次世界大戦末期のフィリピン・レイテ島。結核を患っている田村一等兵(塚本晋也)は、部隊から追い出され、野戦病院からも入院を拒否され、たった1人でレイテ島の山野を彷徨い歩くことになる。そこで田村が見た光景は、まさに“地獄”そのものであった…。

原作は大岡昇平が自身の戦争体験を基にして執筆した同名小説で、1959年には市川崑監督が映画化している。レイテ島に取り残された日本兵たちは、すでに敵と戦う術もなく、一方的に撃ち殺されるか、飢餓や病気で死んでいくかの極限状態に置かれている。本作は、島を彷徨う田村一等兵の視点を通して、戦場の現実をどこまでもリアルに伝えていく。その暴力描写と残酷性は凄まじく、腐乱した死体に蛆が湧く様子や、爆撃で飛び散る肉片など、直視し難いシーンが続く。塚本監督は、市川監督があえて避けた人肉を食べるシーンも真っ向から描いている。美談や娯楽性を一切排除した塚本流の戦争映画は、映像も音も演出も嫌というほどリアルにすることで、戦争という究極の暴力を完全否定し、人間の持つ生存本能を全面肯定している。「生きる」ということは、凄まじいことなのだと改めて感じさせられる、いい意味での問題作。一見の価値あり。

詳細 野火(2014)

沈黙 サイレンス

1640年、ポルトガルのイエズス会に属するロドリゴ神父(アンドリュー・ガーフィールド)とガルペ神父(アダム・ドライヴァー)は、消息不明となっているフェレイラ神父(リーアム・ニーソン)を探すため、キリスト教を弾圧している日本にやってくる。長崎の寒村で暮らす貧しい隠れキリシタンたちは、命の危険を冒してロドリゴ神父たちを匿ってくれるが、長崎奉行所のキリシタン弾圧は想像以上に過酷なものだった…。

遠藤周作の小説『沈黙』を巨匠・マーティン・スコセッシ監督が映画化した2016年公開の骨太な歴史大作。スコセッシ監督を敬愛する塚本監督は、俳優としてこの作品のオーディションを受け、命懸けでロドリゴ神父を守るモキチという重要な役を勝ち取っている。他にも窪塚洋介、浅野忠信、イッセー尾形、小松菜奈、加瀬亮、笈田ヨシといった面々がキャスティングされており、同じ日本人として何となく誇らしい気持ちになる。キリシタンに対する拷問や処刑のシーンは非常にリアルで、それでも信仰を捨てない人々の姿を見ていると、人間や信仰について深く考えさせられる。塚本監督は、岩場で磔にされ、荒波に打たれながら息絶えていくモキチを演じるため、40キロ台まで減量したと語っている。その鬼気迫る演技に、塚本監督の映画愛を感じずにはいられない。

詳細 沈黙 サイレンス

映画『斬、』の評判・口コミ・レビュー

映画『斬、』のまとめ

塚本監督の作品を見ると、かなりぶっ飛んだ人物を想像してしまう。しかし、素の状態の塚本監督は温厚そうな風貌をしており、その発言もとても謙虚で誠実だ。よく考えてみると、塚本監督ほど額に汗して映画を作っている監督もなかなかいないわけで、彼が誠実であることは当然なのだが。塚本監督は、自分が作りたいものを作るために苦労を惜しまず、どこまでも真面目に映画と向き合っている稀有な存在だ。そんな塚本監督の作品をタイムリーに見られることは、とても幸せなことではないだろうか。

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みんなの感想・レビュー

  1. 素人批評家 より:

    本作は塚本信也の時代劇初挑戦作品。「KOTOKO]、「野火」に続き人間極限の非情、恐怖を描いた作品。池松壮亮は「散り椿」では武家言葉がつかえぬと評したが、お城に使える藩士ではなく、末端の下級武士から浪々の身となり百姓を手伝う腕の立つ浪人としてはむしろ台詞のトーンがこの役柄にあっている。相手役が百戦錬磨の蒼井優、格の違いを見せつけられて年下のひ弱さを感じさせるが剣の素質力量があっても「人が斬れない」ひ弱さからいうとこの取り合わせは格好の役柄である。蒼井優はスクリーンに登場した瞬間から百姓女になりきっている。表情に勝気な働き者、貧しいながらも小ざっぱりした野良着姿、何の役もこなしてしまう「化け物」である。清純な女性、不倫を重ねる素人女、ナイトクラブの女から芸子、女郎、花魁という玄人女まで役柄の線引きがない。今回は大声を出すのに声が割れるのが難点。塚本晋也の次郎左衛門、正眼の構えの立ち姿が隙がなく美しい。

    坂本監督の演出の際立った点を2点。
    一つは杢之進の旅立つ夜住家をゆうが訪ねる。入口の引き戸越しに障子を破ってゆうの顔を撫でる。その指をゆうは口にくわえ思わず噛む、このシーンは下手な本番シーンより遥かにエロティックで美しい。
    もう一つは鋭く凄まじく激しい殺陣。市助との野稽古、鎮守の境内での立会、瀬左衛門との決闘等々、すべての殺陣が迫真の演技。「斬」がタイトルである以上「殺陣」は必要十分条件。殺陣師辻井啓伺力なくしてはこの映画は完遂されない。
    惜しむらくは幕末の鎖国か開国か、とあるがその世相はまるで押し出されてこない。平安末期にも、戦国時代にもこの様相はあったはず。その意味に限っては失敗作である。