ヒューマンドラマ映画のおすすめランキング10選 | MIHOシネマ

ヒューマンドラマ映画のおすすめランキング10選

一口にヒューマンドラマといっても、その間口は広い。考え出すときりがないので、今回は実力派俳優たちの名演技が堪能できるヒューマンドラマを選んでみた。本物の役者というのは、観客を映画の世界に引きずり込んでしまう魔力を持っている。だから役者の演技が際立つ作品には、メジャーな名作が多い。必然だ。

ヒューマンドラマ映画のおすすめランキング10選

第1位 カッコーの巣の上で


刑務所行きを避けるため、狂人のふりをして精神病院に入ってきたマクマーフィーは、病棟を支配する婦長に反発し、彼女の怒りを買う。しかしマクマーフィーは反抗することをやめず、他の患者まで巻き込んで病院の規律を乱していく。2人の対立はある悲劇を招き、彼自身をも破滅させていく。

1975年に公開されたこの作品は、アメリカン・ニューシネマの名作として、現在でも高い人気を誇っている。患者を徹底的に管理することが何よりも大切だと考えている婦長と、人間である以上、誰でも自由に生きる権利があると考えるマクマーフィーは、真っ向から対立する。それはマクマーフィーを演じたジャック・ニコルソンと婦長を演じたルイーズ・フレッチャーの戦いでもあり、この2人の演技には本気で憎しみ合っているような迫力がある。2人はこの作品で、仲良くオスカー(主演男優賞、主演女優賞)を受賞した。

ジャック・ニコルソンは器用な役者だ。この作品の内容は、はっきり言って重苦しい。しかし彼がマクマーフィーを演じることで、作品から余分な力が抜ける。彼の演技は緊張と緩和のバランスがとてもいいので、観客は必要以上に疲れない。その流れがあって、あの壮絶なクライマックスと衝撃的なラストシーンが生きてくる。もしジャック・ニコルソン以外がマクマーフィーを演じていたら、私はこの作品が嫌いだったかもしれない。

詳細 カッコーの巣の上で

第2位 キング・オブ・コメディ


人気コメディアンのジェリーに憧れるルパート・パプキンは、些細な会話を本気にして、ジェリーにつきまとい始める。パプキンは妄想の中でスターとなり、現実との境目が見えなくなっていく。

妄想に支配されていく危ない男を演じているのがロバート・デ・ニーロで、監督はマーティン・スコセッシ。この黄金コンビは、「タクシー・ドライバー」(76)、「レイジング・ブル」(80)、「グッドフェローズ」(90)といった数々の傑作を生み出している。どの作品にもそれぞれの魅力があるのだが、この「キング・オブ・コメディ」(83)のデ・ニーロは、その中でも圧巻の演技を見せている。

パプキンはコメディアン志望なので、本作のデ・ニーロはとにかくよく喋る。彼は現実世界でも妄想の中でも喋り続けており、コメディアンらしく微笑みを絶やさない。その笑顔がなんとも不気味で狂気的。そんなデ・ニーロが一瞬だけ怒りをあらわにするシーンがあるのだが、その瞬間の表情が異様に怖い。大声で怒鳴ったりしないのに、“あ…マジギレした…”ということが瞬時にわかる。静かな狂人を演じさせたら、デ・ニーロの右に出る者はいない。

かなりシュールなブラック・コメディなので、屈託なく笑えるような明るい作品ではない。コメディに見せかけたドロドロのヒューマンドラマと言っていいだろう。だからこの作品は傑作なのだが。

詳細 キング・オブ・コメディ

第3位 セント・オブ・ウーマン 夢の香り


ボストンの名門高校に通うまじめな青年と気難しい盲目の元軍人が数日間のニューヨーク旅行へ出かけ、年齢差を超えた友情を深めていく。

この作品で盲目の元軍人を演じているのがアル・パチーノ。彼は言わずと知れた名優であり、この「セント・オブ・ウーマン 夢の香り」(92)以前に、「ゴッドファーザー」(72)、「セルピコ」(73)、「ゴッドファーザー パート2」(74)、「狼たちの午後」(75)、「ジャスティス」(79)、「ディック・トレイシー」(90)、「摩天楼を夢みて」(92)の7作品でアカデミー賞主演男優賞4回、助演男優賞3回のノミネート経験がある。しかしながら、主演と助演を含めて受賞経験は1度もなかった。そして、8回目にノミネートされたこ作品で、悲願だったオスカー(主演男優賞)を手にした。アル・パチーノは、“(オスカーを受賞して)一種の興奮状態が2週間ほど続いた”と語っているので、よほど嬉しかったのだろう。確かに、この作品でのアル・パチーノの演技には、鬼気迫るものがある。これが彼の代表作とは思わないが、やりがいのある役だったことは確かだろう。

最初の登場シーンからずっと、アル・パチーノは目を見開いたままほとんど瞬きをしない。盲目という設定ではあっても、実際のアル・パチーノは全て見えているわけだし、目も乾くだろう。しかし彼から“見えている人”の空気を全く感じない。アル・パチーノは、生きることに絶望した全盲の孤独な男を完璧に演じている。まずはそこにやられてしまう。

詳細 セント・オブ・ウーマン 夢の香り

第4位 愛すれど心さびしく


自分のことよりも他人を思いやることのできる聾唖者のシンガー。彼の優しさは多くの人を救っていくが、彼の絶望的な孤独には誰も気づかない。

1968年に公開されたこの作品はあまりメジャーではないが、かなりの名作だ。登場人物はそれぞれに貧困や人種差別といった問題を抱えている。シンガーはそんな人たちの悲しみや苦悩を察知し、自分の方から彼らに歩み寄る。人々はその優しさに甘え、彼を頼る。シンガーは自分ができることを探し、実際に行動する。しかし問題が解決した途端、人々はシンガーの存在を忘れていく。それを察知した時のシンガーの表情が、なんともやるせない。

主人公のシンガーを演じているアラン・アーキンにセリフはない。アラン・アーキンは、表情の変化やジェスチャーで、シンガーの感情を表現していく。その演技は実に巧みで、シンガーの心の声がはっきりと聞こえてくるような気がする。むしろセリフがないことで、彼の痛みが切実に伝わってくる。アラン・アーキンの役者としての力量を知るには、この作品を見るのが1番いいのではないだろうか。

“愛されたい”と願っているシンガーの寂しげな表情が忘れられない。ズシンと胸に重たいものが残る。

詳細 愛すれど心さびしく

第5位 復讐するは我にあり


冷酷な連続殺人犯・西口彰をモデルにした佐木隆三の同名小説を、1979年に今村昌平監督が映画化した作品。

骨太な邦画を探しているなら、まずこの作品を見て欲しい。この作品で描かれているのは残忍な事件の顛末というより、「人間」そのもの。画面に登場する人物はみんな生臭い。体温や体臭を感じる映画といえば、その生々しさが伝わるだろうか。

主人公の榎津巌を演じた緒形拳もいいのだが、その脇を固める役者の顔ぶれと鬼気迫る演技がすごい。榎津の父親を演じた三國連太郎の偽善的な薄汚さや、そんな義父を愛する倍賞美津子のそこはかとない恐ろしさと色気。ミヤコ蝶々は、殺人鬼の息子を溺愛する弱々しい母親を好演しているし、清川虹子は、娘を不幸にしてでも生き残ろうとする人間臭い母親を非常にリアルに演じている。そして、榎津を愛し、彼の子供を望んだ薄幸の女・ハルには小川真由美がキャスティングされ、ハルの可愛らしさと悲しさを見事に演じきっている。この作品の小川真由美は絶品だ。

こういう作品を見てしまうと、近年量産されている子供騙しの邦画を見るのがきつくなる。多少人生のあれこれを知った大人ならば、この映画の成熟ぶりが理解できるはず。とにかくいろいろと凄まじい傑作。

詳細 復讐するは我にあり

第6位 レナードの朝


11歳の時に“眠り病”と呼ばれる難病にかかり、それ以来全身硬直状態でほぼ寝たきりの生活を強いられてきたレナードは、セイヤー医師の処方した薬の効果で30年ぶりに体の自由を取り戻す。レナードとセイヤー医師は、患者と医者という立場を超えて友情を深めていくのだが、病気の進行は、再びレナードを眠りの世界に引きずり戻していく。

オリバー・サックス医師の経験した実話を基にしたフィクションで、ロバート・デ・ニーロとロビン・ウィリアムズという名優2人の共演が話題となった。難病を患うレナードを好演したデ・ニーロの演技に注目が集まりがちだが、不器用なセイヤー医師を演じたロビン・ウィリアムズの抑えた演技も光っている。

いまを生きる」(89)や「グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち」(97)でも、ロビン・ウィリアムズは先生役を演じており、いずれも甲乙つけがたい名作だ。ただ、この2作品は青春映画の印象が強いので、今回は「レナードの朝」をピックアップした。個人的には3作品とも大好きだ。

ロビン・ウィリアムズには、いてくれるだけでホッとするような雰囲気がある。一方で、猟奇殺人鬼などの悪役もこなせる実力を持ち合わせており、その懐は深い。彼は“味がある”という言葉がぴったりの役者で、人間臭い魅力がある。本作でも、セイヤー医師の滲み出るような優しさや、内に秘めた情熱、そして苦悩を繊細に演じている。彼の優しい眼差しには、作り物とは思えない説得力がある。

ロビン・ウィリアムズが自ら命を絶ったというニュースには、かなりの衝撃を受けた。これからもっと味のある演技を見せてくれるだろうと楽しみにしていたのに。ただただ悲しい。

詳細 レナードの朝

第7位 レインマン


長年交流のなかったサヴァン症候群の兄を、父親の遺産目当てで施設から連れ出した弟は、2人旅を続けるうちに兄の才能や繊細な心に気づいていく。

かなりメジャーな作品なので、すでに鑑賞済みの人も多いだろう。ダスティ・ホフマンが演じる兄のレイモンドは一種の天才で、超人的な特殊能力を持っている。彼にとって分厚い電話帳の中身を記憶するのはたやすいことだが、一般的に見て“普通のこと”をするのが難しい。そのため、彼は社会に溶け込むのが難しく、ずっと施設で暮らしている。その生活に彼は満足しているし、それで幸せなのだ。しかし、トム・クルーズの演じる弟のチャーリーは、レイモンドの事情を理解しないまま、嫌がる兄を外へ連れ出す。そこから2人の物語が始まる。

ダスティ・ホフマンは、入念な役作りをしてレイモンド役に挑み、見事オスカーを手にした。物語の中に、ある種の障害を持つ人物が登場する場合、役者の演技が過剰だと観客は不快感を感じる。下手な役者は妙にデフォルメした演技で、そのキャラクターの異質さを強調しようとするが、それはたいてい逆効果になる。本作でのダスティ・ホフマンは、ほとんど無表情(サヴァン症候群の人の特徴)なのだが、レイモンドの不安や喜び、そして悲しみを、実に自然に表現している。

私は最初から、レイモンド役にダスティ・ホフマンを感じなかった。というより、役者が演じているのだということをいつの間にか忘れていた。それほどダスティ・ホフマンはレイモンドそのものになりきっている。間抜けな感想になるが、すごいとしか言いようがない。

詳細 レインマン

第8位 カポーティ


作家のトルーマン・カポーティが、実際に起きた殺人事件の取材を重ね、ノンフィクション小説「冷血」を書き上げていく様子を描いた作品。

カポーティの代表作は「冷血」で、フィリップ・シーモア・ホフマンの代表作は、この「カポーティ」ということになるだろう。彼はどちらかといえば、“名脇役”と呼ばれるタイプの役者で、助演男優のイメージが強い。しかしこの作品では堂々と主人公のカポーティを演じ、その存在感と実力を世界中に見せつけた。私はこの作品を見て、“フィリップ・シーモア・ホフマンは、ここまでやれる人だったのか!”と正直驚いた。映画の始まりから終わりまで、彼の演じるカポーティに釘付けだったからだ。

全体に雰囲気のある良作なのだが、とにかく印象に残るのは、フィリップ・シーモア・ホフマンの演じたカポーティの存在感。実在する人物ということで、おそらく念密にその人物像を掘り下げて役作りをしたのだろう。フィリップ・シーモア・ホフマンの演じるカポーティは、外見はもとより、喋り方や仕草のひとつひとつまで緻密に計算されており、じわじわと観客を魅了していく。フィリップ・シーモア・ホフマンが、この役でオスカーを受賞したのは当然だと思える圧巻の演技力だ。

フィリップ・シーモア・ホフマンは、売れっ子俳優のまま2014年にこの世を去った。まだ46歳という若さだった。生きていれば、彼はこの「カポーティ」を超える代表作を必ず作っただろう。それを見られないのが、寂しくて仕方ない。

詳細 カポーティ

第9位 摩天楼を夢みて


不動産会社のセールスマンたちが、生き残りをかけて戦うシリアスな人間ドラマ。原作は、ピューリッツァー文学賞を受賞したデヴィット・マメットの戯曲。

この作品の見所は、実力派俳優たちの緊迫感溢れる演技合戦のみといっても過言ではない。派手な展開を好む人には退屈かもしれないが、役者の演技を堪能したいという人にはたまらない作品だ。

キャスティングされているのは、アル・パチーノ、ジャック・レモン、アレック・ボールドウィン、エド・ハリス、アラン・アーキン、ケヴィン・スペイシー、ジョナサン・プライスといった錚々たるメンバーで、豪華すぎて目眩がする。

後半部分は、殺伐としたオフィス内での密室劇が続く。このオフィスで物語はクライマックスを迎え、終息する。一応主人公はアル・パチーノの演じるやり手セールスマンなのだが、クライマックスで圧巻の演技を見せるのは、超ベテラン俳優のジャック・レモンだ。ジャック・レモンといえばビリー・ワイルダー監督作品を思い出す人が多いだろう。「お熱いのがお好き」(59)や「アパートの鍵貸します」(60)は、色褪せない名作として今でも映画ファンに愛されている。そしてこの作品では、そんなジャック・レモンの職人技とも言えるセリフ回しをたっぷりと味わえる。さらに彼は、表情も実に豊か。さすがのアル・パチーノも、ジャック・レモンには食われ気味だった。必見です。

詳細 摩天楼を夢みて

第10位 欲望という名の電車


意図したわけではないのだが、男性俳優が主演を務める映画ばかりになってしまったので、最後は名女優ヴィヴィアン・リーの真骨頂が見られるこの「欲望という名の電車」を紹介したい。

ヴィヴィアン・リーといえば、「風と共に去りぬ」(39)でのスカーレット・オハラ役があまりにも有名だ。しかしこの「欲望という名の電車」(51)で演じたブランチ・デュポン役もヴィヴィアン・リーの当たり役で、彼女の女優としてのプライドをかけた渾身の演技が見られる。私は、この作品を見てからヴィヴィアン・リーに対する印象がまるで変わった。

ブランチはもともと情緒不安定な女性で、その内面は複雑だ。物語が進むにつれ、彼女は精神を病んでいき、最終的には完全な廃人になってしまう。正気を失い、異様な雰囲気になっていくヴィヴィアン・リーには、ゾッとするような怖さがある。私たちは、彼女の虚ろな目に、人間のリアルな崩壊を見る。

ブランチを追いつめていく男スタンリーには、若かりし頃のマーロン・ブランドがキャスティングされている。危ない雰囲気をプンプンと漂わせているマーロン・ブランドも、暴力的で残酷なスタンリー役にぴったりだ。ヴィヴィアン・リーとマーロン・ブランドが激しくぶつかり合うクライマックスは、両者の殺気がすごすぎてこっちはフリーズ状態。見応えがあるなんてものではない。

詳細 欲望という名の電車